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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第8章 家を建てよう編
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第296話 農民、魔女見習いたちと話をする

「まあいいわ。ようやくだけど、足跡みたいなものが見え始めてきたし」

「そうですね。次は『森』の西側……『ウェストリーフ』が鍵っぽいですし」


 気を取り直して、またアリエッタさんを追いかけると燃えているメイアさんに俺も同意する。

 今さっきのカガチさんからの『商業系』クエストも目的地がそこだしな。

 塩、お酒、何となく『ウェストリーフ』って、そっちの生産とかに力を入れている感じがするし。


「後は、『ノースリーフ』も、かな」

「あ、そういえば、ヤマゾエさんたちはそっちから戻って来たんですものね」

「あら? クラウドさんもそっちに行ってたって聞いたわよ?」

「そうだね。俺も今だから話せるけど、機動力を生かして、この町と『遠征班』との仲介みたいなクエストをしていたんだよ。『伝達(メッセンジャー)』クエストだね。そちらのカガチさんはご存知だけど」

「ええ。そちらも商業ギルドが関わっておりますから」


 お疲れ様でした、と笑みを浮かべて労うカガチさん。

 へえ、やっぱり、商業ギルドって、色々とやってるんだなあ。

 というか、クラウドさんがやっていた『秘密系』のクエストって、そういうものだったのか。

 初めて知ったよ。

 何でも、『遠征班』が無事帰還したのに加えて、ラルフリーダさんの存在が表に出たことで、情報に関する制限が解除されたそうだ。


 そっかそっか。

 あー、となるとまだ俺のはごめんなさいだな。

 できれば、お返しで『精霊の森』に関する情報とか伝えたかったんだけど、こっちの情報って、まだまだデリケートなんだよなあ。

 たまに、遠目だけど、ウルルちゃんたちが踊っているのに付き添っているフローラさんと目が合うことがあるし。

 サティ婆さんのことも追加されたせいで、どこまで話してもいいかがさっぱりだし。


 なので、それについては詫びておく。

 今の俺の立場は、今日の『催し』の企画者のひとりってことでご勘弁だ。


 それにしても、『ノースリーフ』か。

 北の『森』を迂回していくので、ちょっと遠回りになるみたいだけど、まあ、さすがに『精霊の森』よりも離れているってことはないだろうから、次に進むべき選択肢のひとつではあるよな。


 西に行くか、北に行くか、ラルさんのクエスト通りに中央を目指すか。

 ひとまず、『魔境』がらみとしては、この辺りが選択肢としてあげられそうだ。


「クラウドさんも色々とやられているんですね」

「いやいや、セージュ君こそ。ほら――――」

「えっ?」


 クラウドさんが示した方を見ると、少し離れた場所で、ルーガやビーナス、なっちゃんにみかんたちが他の迷い人(プレイヤー)さんたちから質問攻めにあっていた。

 ありゃ、いつの間に?


 というか、ヴェルフェンさんやハヤベルさんが同居人ということもあって、ちょっとフォローに入ってくれてもいるようだな。


「というわけで、ルーガにゃんは迷子なのにゃ」

「その『山』ってのは? どの辺にあるの?」

「うーん……わたしもわからないよ」

「とりあえず、特徴だけ聞いて、他の場所にいるテスターにも聞いてみたらどうだ?」

「ビーナスちゃんって、この足の先はどうなってるの?」

「どうも何も、樹の根っこみたいなものよ。地面に下りたら、自由に伸ばしたりできるようになるわ」

「へえ、それって、触手っぽ――――ぐはっ!?」

「誰の足が触手よっ!? 失礼なことを言うと殴るわよっ!」

「にゃにゃ、ビーナスにゃん、もう殴ってるのにゃ」

「……すげえ、大の男が数メートル吹っ飛んだぞ?」

「ふふ、その鞭みたいなのも束ねるとすごい威力になるのねぇ」

「うわあ、ふかふか~。みかんちゃん抱き心地いい~」

「ぽよっ♪」

「ほんとだ、見た目はみかんなのに、ぽよんぽよんしてるんだね。何となく、ジェムニーさんの肌っぽいよ」

「てか、お前、ジェムニーさんの肌触ったのかよ?」

「そりゃ、人間型とはいえ、スライムだから興味があるもん。ああ、インスピレーションが刺激される――――!」

「写る楽って、やっぱ、ちょっと変わってるよな……」


 うーん。

 まあ、当然といっちゃあ当然の光景か?

 とりあえず、ルーガと目が合った時、助けてって感じじゃなくて、笑顔で『大丈夫』って頷き返されたから、そこまで嫌がってないみたいだけど。

 その奥の方では、ファン君も囲まれて、質問攻めにあってるみたいだし、まあ、こういうのは通過儀礼みたいなもんだよなあ。


「きゅい――――♪」

「あ、なっちゃん」


 俺の頭にちょこんと止まるなっちゃん。

 ちょっと、あっちの空気に疲れたらしい。

 だから一休み、って。

 そんな感じで。


「ほらね。『秘密系』のクエストが多くて、情報が出せないのはわかるけど、折を見て、少しずつでも話を広げた方がいいと思うよ? そうすれば、案外、他の迷い人(プレイヤー)でも助け舟を出せることもあるかもしれないしね」

「そうそう、困った時はお互い様よ?」

「そうですね……はい、わかりました。クラウドさん、メイアさん」

「ふふ、まあ、もしレアクエストだったら、情報を出したくないって気持ちもわかるから、あんまり気にしなくてもいいんじゃない? それもお互い様よ」


 こっそりやるのも楽しいもんね、とメイアさんが笑う。

 へえ。

 何となく、経験則って感じだなあ。

 会った人の中ではゲーム慣れしているもんな、メイアさんも。

 もうすでに『迷いの森』にも単独で踏み込んでいるみたいだしな。


 一応、『魔術師』だとは聞いていたけど、服装的には向こうの世界のパンツルックに、上から(レザー)系の装備を着込んでマントを羽織っている、と。

 見た目、二十代の中性的な感じの女性だ。

 同じ魔法職でも、アスカさんやダークネルさんみたいにスカートタイプのローブを身につけているのとは少し印象が違うというか。

 ちょっと見、魔法職っぽくないもんな。


 俺がそう言うと。


「まあね。魔法職もある程度はソロで動けるようにしないとね。あたし、人の寄生みたいなの嫌いだから、何でも自分でやりたいのね」


 だから、『魔術師』ではあるけれど、近接戦闘系のスキルも鍛えているそうだ。

 『小剣』や『体術』とかそっち系な。

 それと『火魔法』などを組み合わせるのがメイアさんの攻撃スタイルとのこと。


「ああ、そういえば、ユウの相棒みたいな(NPC)もそんな感じでしたね。彼の場合、騎士なので、何となくそれが普通だと思ってましたけど」


 少し前に会ったエディウスのことを思い出す。

 まあ、エディウスの場合は、魔法を牽制に使っていて、メイアさんの場合、物理攻撃を牽制に使うわけだから、ある意味逆ではあるけど。


「えっ!? セージュ君、ユウ君と出会ったのかい?」

「ああ、そういえば、クラウドさんも『施設』で会ってますものね。はい、正確な場所は言えません……そもそも、俺も詳しくはわからないので説明のしようがないんですけど、しばらく、この町を離れていた時のクエスト中に遭遇しました」

「そうだったのか……確か、彼、レジーナ王国の騎士だったね?」

「あ、はい。『第九騎士団』の正騎士になったみたいですよ? そのせいで王妃様にこき使われるって愚痴ってましたけど」

「へえ……その、ユウ君のパートナーの騎士さんとあたしの戦い方が似てるんだ?」

「そうですけど……あれっ? メイアさんもユウのことをご存知なんですか?」

「そりゃあねえ。彼、けっこう有名人だし。あ、同じ意味でテツロウ君もね。ふたりとも、ゲーマーとしてなら、日本国内なら五本の指に入るレベルだよ?」

「えっ!? テツロウさんも!?」


 いや、メイアさんの言葉にびっくりした。

 ユウのことはそれとなく聞いていたし、まあ、あの挙動と反射神経だからなあ。

 かなりの腕前だとは思ってたけど、テツロウさんもなのか。

 普通に会ってる時だと、とてもそんな感じには見えないんだけど。

 冗談好きの気の良いお兄ちゃんだよなあ。


「あんまり、それ本人に言わないようにね。テツロウ君がへこむから」

「というか、何でセージュ君がそのことを知らないのよ? ゲーム好きなんでしょ?」

「いや、まあ、家の手伝いやら何やらで……」


 あと、ゲームのし過ぎで、親父殿からネット環境の使用制限が下ったのだ。

 そうなってしまうと、ちょっとした陸の孤島というか。

 推理小説に出てくる山村みたいな感じになっちゃうからなあ。

 未だに敷地内で携帯とかスマホが使えない場所があるってのも、正直、いつの時代だって思わなくもないし。

 そのせいで、ユウの動画だっけ?

 そっちも未だに見たことがないのだ。

 いや、今なら『施設』から見えるだろうけど、何か、もしその動画が凄すぎたら、今後、ユウのことを『ユウさん』とか呼ぶようになったらどうしよう、とか。

 うん。

 世の中、知らなくてもいいことはあると思うんだ。

 ユウも、その手の色眼鏡で見ないからこそ、俺と仲良くしてくれている部分があると思うし。


「ふふ、面白いですね。迷い人(プレイヤー)さんにも色々な方がいらっしゃるのですね。こうやって、お話を聞いているだけでも楽しいですよ」

「変わり者も多いですけどね」

「そうね。あたしもその自覚はあるわね」


 口元に笑みを浮かべたままのカガチさんの言葉に、俺もメイアさんも苦笑しつつ。

 そんなこんなで。

 気付いた時には日が暮れ始めていて。

 そのまま、『催し』は夜へと突入していくのだった。

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