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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第8章 家を建てよう編
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第288話 農民、試食会に巻き込まれる

「ちなみに、お酒はどうなんですか? 料理に使えそうですか?」


 さっき、テツロウさんが奉納していた『アルガス芋のエール』。

 あれは料理酒としてはどうなのか。


「そうですね、日本酒などと比べますと癖が強いですが、たぶん、大丈夫だと思います。お肉の臭みなども取ってくれそうです」

「僕も()り酒にできないか試してみましたが……さすがに『アルガス芋のエール』で作った煎り酒ですと、そのまま付けて食べるのはちょっと厳しそうです」

「まあ、それは仕方ないだろう。もう少し飲み口が洗練されてすっきりした酒じゃないと、煎り酒には向かないぞ? この『エール』だと、何というかな……どぶろくを薄めて、酸味を加えたようなもんだ。のんべえには喜ばれるだろうが、料理に使いやすい酒とは言い難いぜ?」


 へえ、そういうものか?

 というか、さすがはトーマスさん、お酒が得意分野の人だな。

 テツロウさんの説明より、何となくイメージしやすいぞ?


 ちなみに、『煎り酒』っていうのは、江戸時代以前に使われていた調味料で、醤油に取って代わられるまでは、ポピュラーな味だったそうだ。

 味の濃い豆腐なんかには、よく合うのだとか。

 塩分控えめな流行と共に、また最近使われ始めた調味料、とか何とか。


「トーマスさん、新しいお酒とか仕込めませんか?」

「ああ、それは俺も考えていたんだがな。問題は原料だな。芋単体でちゃんとした酒を造っているのは大したもんだが、さすがに穀物のたぐいがないとなあ……他の国なら麦が採れるところもあるんだろ?」

「うんー。アーガス以南だったら、麦が採れるところもあるかなー。でもね、お酒が造れたり、主食たり得たりする作物だったら、どうしても国同士の国交が必要になるよ? パワーバランスとかの問題もあるみたいだし」

「まあ、そうだろうな。国の生命線になってるのもあるだろう」


 ジェムニーさんの言葉に、わかっているらしくトーマスさんも頷く。

 やっぱり簡単には行かないらしいな。

 それも仕方ないか。

 向こうでも、新品種のことで国を跨いで問題になったこととかもあるしな。

 とある農家で開発した特別なイチゴの苗を、勉強のためにやってきた他国の農家がこっそり持ち帰って、自分のとこで作ったとか言い張って、その国で広めてしまった、ってやつ。

 確か、親父どのも怒ってたけど、海外輸出もしていたブランド品種でそういうことをされると商売あがったりになるからなあ。

 仁義も礼節もあったもんじゃないと、そういう揉め事に発展するってお話だ。


 やるなら、正々堂々許可取ってやらないとな。

 うん?

 みかんと『レランジュの樹』の件?

 そっちは、『精霊の森』の許可をもらってるし。

 もちろん、下手なことをするとまずいことになるので、注意は必要だろうけどな。


 少なくとも、この『オレストの町』の場合、こと農業に関しては、特殊な環境なのは間違いない。

 例えば、ちょこっとだけ麦などの種や苗を分けてもらえたとする。

 でも、だ。

 倍々ゲームで、あっという間に元の国よりも収穫量が肥大化するぞ?

 なにせ、アルガス芋が一日二日で収穫できるぐらいだし。

 その結果、待っているのは揉め事の嵐、と。


 まあ、言ってもゲームの世界だから、そこまで考えなくてもいいのかも知れないけどな。

 というか、俺たちテスターなんだから、少しぐらい無茶をするぐらいでちょうどいいのかも、だし。


「ま、俺も近いうちに西の方にある村ってのを目指す予定さ」

「ああ、『ウェストリーフ』に酒造りをやってるところがあるんですよね?」

「そういうことだ。大将から紹介状も書いてもらえたしな。ま、期待しないで待っててくれよな」


 そう言って、満面の笑みを浮かべるトーマスさん。

 何でも、今日の料理班に参加したのも、料理人側からのお酒に関する情報が知りたかったからだそうだ。

 

 ――――と。


「はいはい、あんまり話を逸らさないようにね。まあ、逃げたいのはわかるけど」

「誰か、料理関連の『鑑定眼』を持っている人は?」

「いないいない。それって、『料理人』か、『料理』系のスキルを持ってないと、そもそも選べないってやつじゃない。やっぱり、毒見不要なだけあって、必要なスキルポイントも高かったもの」

「あれ……? もしかして、僕も覚えられるんですか?」

「そういえば、ファン君、『料理』スキル持ちだったっけ」

「てか、リディアさんは持ってないんですか?」

「ん、嫌いなものはないから」


 何でも食べる、とぎゅっと拳を握りしめるリディアさん。

 表情は例のごとく、ほとんど変化していないけど、何となくやる気が伝わって来る仕草だなあ。

 目の前にあるのは毒入り料理かも知れないのにさ。

 何となく、毒じゃあ死なない人っぽいし。


 というか。

 何とか、逃れられないか、話をお酒の方へとずらしていたのに、それを不眠猫さんにばっさりとやられてしまった。

 どうも、この人、毒料理を食べるのを楽しみにしている節があるよな。

 一応、さっき俺たちがマークさんから聞いたことについて伝えて、忠告もしたんだけどさ。


『えっ? だからと言って、食べない理由にはならないでしょ?』


 あっさりとそう返されてしまった。

 うーん。

 腹が据わっているというか、何というか。

 あんまり『死に戻り』すぎると、ラルさんから『お説教』じゃないかったっけ?

 知らないよ? あの人、普段は穏やかな分だけ、怒った時怖そうなんだけど。


 ともあれ。

 まあ、仕方ない。

 せっかく、ユミナさんたちが作ってくれたわけだし、試食から逃げるわけにも行かないよなあ。

 ヤマゾエさんから話を聞いた時はリディアさんだけが毒見するって話だったのに、どうしてこうなった。

 今思うと、さっきのヴェルフェンさんってば、巻き添えを増やそうとしてただけだったな。


「そんなことないにゃ。にゃはは、そんなに心配しなくても、セージュにゃん、いざとなったら、お婆ちゃんお手製の毒消しがあるから大丈夫だにゃ」



【薬アイテム:丸薬】毒消し薬 品質:7

 解毒作用のある薬。軽度の毒全般及び、一部の特殊毒を中和させる効果がある。

 ただし、効かない毒もあるので過信は禁物かも。

 基本はそのまま飲む使い方。使用者の状態によっては、意識を失っている場合もあるので、その場合は少し使うのに工夫が必要。



 俺からの疑いの目に、首をぶんぶんと横に振りながら、ヴェルフェンさんが見せてくれたのが、この丸薬だ。

 さすがはサティ婆さんというか、普通に品質の高い毒消し薬とかも作れるのな。

 ただ、これって、薬の『鑑定』がなされてない状態だよな?


 あ、もしかして、人が集まるところだから提供者不明にしておかないとまずいのか?

 さっきもサティ婆さんってば、ラルさんへの奉納の際は、いつの間にか人混みに紛れて姿を消しちゃったしな。

 俺たちもサティ婆さんが薬師ってことはあんまり公言しない方が良さそうだ。

 ……もう、『けいじばん』だと知れ渡ってるんだけどなあ。


「ヴェルフェンさん、この毒消しって、料理にも使ってるんですよね?」

「そうだにゃ。だから、理屈の上では、毒は消えてるってことでいいんじゃないのかにゃ?」

「ん、少しの毒なら、ピリッとして美味しい」

「いや、それ本当に大丈夫ですか、リディアさん?」


 さすがに毒は香辛料とかとは違うだろ?

 あー、でも、辛味って、味覚じゃなくて痛覚なんだっけ?

 そう考えると、ハバネロとかも身体にとっては毒って言えなくもないのか?

 癖になる中毒性、って、中毒って言葉に響きにも毒って文字が含まれるしなあ。


「はいはい、じゃあ、お待ちかねの試食だよ。ふふ、そんなに心配しなくても、毒があるかもしれないのは魚を使った料理だけだって。そう、ユミナも言ってたし。こっちの新メニューの試作は普通に美味しそうじゃない?」

「匂いはどれもみんな美味しそうだにゃあ」

「やっぱり、(おう)ちゃんってば、料理がうまいよねえ。おばさまの教えもあるんでしょうけど、ちょっとずるいなあ」

「大したもんだな。見た目は小学生ぐらいなのにな。言葉遣いとかから察するに、もう少し年上なんだろ? 本当は」

「……あはは、ご想像にお任せします、トーマスさん」

「結構な量の料理が並びましたね」

「わたしも食べていいの?」

「ぽよっ?」

「もちろんです。特にビーナスさんやみかんさんは私たちと味覚が違うかもしれませんので、ぜひご意見を頂きたいですね」

「ん、食べよう」


 組み立て式のテーブルに次々と料理が並べられていく。

 もし、問題がなさそうなら、そのまま、この場で待っているお客さんたちにも振舞っていくことになるのだそうだ。

 だから、毒見役は責任重大、と。


 そんなこんなで。

 不安半分、好奇心半分の状態で、料理へと手を伸ばす俺たちなのだった。

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