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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第8章 家を建てよう編
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第282話 農民、十兵衛さんから話を聞く

「それでは引き続き、お祭りを楽しんでくださいね」


 簡単に、という割りには少し長めのあいさつを終えて。

 ラルさんもまた、しばらくの間はこの辺りでお祭りの雰囲気を楽しむことになったようだ。


 というか、登場からあいさつまでを終えた途端に、ラルさんの周りに人が集まって来たんだよな。

 ほとんどが護衛の人やら、『森』の関係者の人っぽいけど。

 いつの間にか、ノーヴェルさんの姿も見えるし。


 さすがに、ラルさんとかクリシュナさんを初めて見た迷い人(プレイヤー)さんの多くは、近づこうとはしないで、遠巻きに姿を眺めているだけみたいだな。

 何だかんだで、クリシュナさんも本気で護衛モードだと迫力があるもんな。

 ラルさんの家だと、いっつも眠そうにしてる分だけ、ギャップがすごいというか。


 さておき。


 ラルさんの話も終わったので、先程から棚上げされていた十兵衛さんの話に戻ろう。

 俺だけじゃなくて、ビリーさんやヤマゾエさんも興味があるみたいだしな。


 というか、あれ?

 ルーガやビーナスはどこ行った? と思っていたら、俺たちから少し離れた場所で、コッコさんや鳥モンさんたちに交じって、一緒に踊っているのが見えた。

 カールクン三号さんに乗ったまま、身体を振るわせているビーナスに、その横で身体をふりふりさせながら飛んでいるみかんとなっちゃん。

 そして、なぜかルーガもビーナスに引っ張られる形で、参加する羽目になっていたようだ。

 まあ、あのふたりも仲が良いからなあ。

 最初は殺し合ってたとは思えないよ、うん。


 そんなこんなで、少しほっこりしたところで、ちょっと真面目な話へと戻る。

 どっちみち、向こうの世界の話だから、ルーガたちにはあんまり関係ないしな。


「十兵衛さん、『死神衆』と会ったことがあるんですか?」

「まあな。って言っても、俺も最初は何も聞かされてなかったからな。俺の不肖のくそ弟子が『(せんせい)、立ち会ってくれませんか?』って話を持ち掛けてきやがったのが、最初の話だぜ?」

「ちょっと待ってもらってもいいか? セージュ、もしかして、こちらは見た目の年齢とは違うかたか?」

「うん、俺もちょっと気になってた。初めて会う人だしな。十兵衛さん、というのがそのお名前で間違いない?」

「はい、そうですよ。十兵衛さん、実は八十四歳です。たぶん、種族がエルフの人はご高齢のテスターさんが多いはずですよ?」


 そういえば、十兵衛さんって、割と『オレストの町』から離れていることが多かったみたいだし、知らない人もけっこういるんだろうな。

 そもそも、『けいじばん』にも顔を出さないし。

 なので、ビリーさんたちにも、十兵衛さんについて簡単に説明を加えておく。

 うん。

 やっぱり、例のカミュと死合いして『死に戻り』をした件については、さすがにびっくりされた。


「ああ! くだんのお相手の方だったのか」

「驚いたよ。見た目は可憐なエルフの少年って感じなのにね」

「おい、十兵衛……まさか、あのカミュ嬢に挑んだのか? 随分と無茶をするな」


 というか、横で聞いていたマークさんも驚いているんだが。

 どうやら、『森』の管理者にとっても、カミュの強さに関しては有名らしい。


「はは、いいじゃねぇか。てかよ、あんまり負けた時の話をしてくれるなよ。恥ずかしいじゃねえか。まあ、向こうが許す限りは何度でも挑むぜ? 俺も少しずつ身体動かすのが慣れてきたからな」


 今なら、もう少しはいい勝負ができるぜ? と不敵に笑う十兵衛さん。

 うん、やっぱりこの人、戦闘狂だ。

 まったく懲りる様子がないし。


「てか、十兵衛さん、カミュが本気で嫌がってましたよ?」

「わかってるさ、セージュの坊主。俺も別に無理強いはしねぇよ。だから、俺自身、もっと腕を磨いて、『こいつなら戦いてぇ』って思わせるとこまで行かねぇとな」

「……頑張ってくださいね」


 先は長そうだけどなあ。

 いや、それはそれとして、また話が逸れてるぞ?


「要するに、十兵衛さんは、その『死神衆』の人と立ち会ったことがあるんですね?」

「まあな。いや、女だてらに強ぇやつだったぜ? 俺も加減ができなかったからな」

「女性の方だったんですか!?」

「ああ。おまけにかなり小柄でな。動きが速ぇ速ぇ。当てるのが一苦労だったぜ」

「って、当てたんですかい!? 十兵衛さん!?」

「おうよ……おめぇはヤマゾエって言ったか? 覚えとけよ? 武芸者として(まみ)えた以上は、例え女子供であっても手加減無用だぜ。それが俺の信条だからな」

「何を驚いているのか知らぬが、女であろうとも強者は強者だぞ? 我らの『森』とて、どちらかと言えば、女上位の地だからな」


 十兵衛さんの言葉にマークさんも頷く。

 まあ、なあ。

 この『森』の場合、ドリアードさんの方が強そうだものな。

 たぶん、このゲームの世界だと、性別での力の差ってのはあんまりないのだろう。

 『身体強化』系のスキルがあれば、何とでもなりそうだしな。


 それにしても、『死神衆』も女の人かあ。

 確かに、カミュとかの話でもそんな感じだったよな。


「十兵衛さん、その人の名前って、『涼風』さんって人でしたか?」

「いや、知らねえぞ。不肖のくそ弟子から『殺しても死なないので、存分に戦ってください』とは言われたがな。あの野郎、細けぇことについては何も教えねえのな。さすがに胡散臭ぇとは思ったが、まあ、その嬢ちゃんも強かったし、俺としちゃあ、それ以上、別に言うことはねえよ」


 うーん。

 結局のところ、十兵衛さんも『死神衆』以上のことは知らないってことか。

 というか、むしろ、そのお弟子さんの方が気になるんだが。

 一体、何者だ?


「その『死神衆』の女の人を連れてきたお弟子さんって、どういった方なんですか?」

「俺の古い親友(ダチ)のガキだ。それが縁で、簡単な手解きぐらいは教えたが、まあ、筋は悪くねぇが性根が戦いに向いてねえ野郎でな。今は武芸とは関係のないとこで働いてるって話だ。ちっとは偉くなったとは聞いてるが、どうも、親兄妹にも教えられねぇ仕事場らしくてな。そっちもそっちで知らねえぜ?」

「なるほど……ねえ、ビリーさん。もしかしてその人って、公安とかそっち系かな?」

「可能性はあるだろうな。だが、その手の仕事なんて、いくらでもあるぞ?」

「あー、さすがにそれだけで特定は難しいかあ」


 あ、そっか。

 ヤマゾエさんが言ってるのは、警察の公安のことか。

 そういえば、警察官の人って、部署によっては家族にも内緒ってところもあるんだっけな?

 前にテレビでやってた気がするし。

 そうなると、やっぱり、ツクヨミさんが言っていた『国()』っていう言葉を思い出しちゃうよな。

 もしかして、テスターの中にもその手の人が混じってたりして?


 ……うーん。

 少なくとも、俺が出会った中ではツクヨミさんぐらいかなあ?


「少なくとも、十兵衛さんの話を信じるなら、その『死神衆』というのは実在する可能性もある、ということだろうな」

「運営サイドに、その『死神』さんがいるってことか?」

「あん? おい、セージュの坊主。このゲームを作ったやつってのは、エヌってやつじゃなかったのか?」

「ゲームマスターはそのエヌさんらしいですけど、さすがにひとりだけじゃ、このゲームは管理できないと思いますよ、十兵衛さん?」

「エヌ……だと? む……!? もしや、ラル様が仰られたことは……」

「ん? どうした? マーク、鳩が豆鉄砲を食ったような面しやがって」

「何だその『豆鉄砲』とは……いや、我も『違和感』とやらの正体を探る必要がありそうだと思い直したまでよ」


 あれ?

 もしかして、マークさんもエヌさんのことを知っているのか?

 まあ、リディアさんやフローラさんも知ってはいたし、ゲームの中でもそれなりに有名な存在なのかも知れないけどさ。


「マークさん、エヌさんについてご存知なんですか?」

「うむ。我の記憶が確かであれば、『原初の竜』が一牙であるはずだ」

「で? その『原初の竜』ってのは強ぇのか?」

「ああ、強い。無論、強さにも色々あるがな。我らが『森』でも彼等と伍する存在はそれほど多くはないだろう。それほどの力を持っている、と言われているな」


 我も(じか)に会ったことはないので伝聞だが、とマークさんが付け加える。


「そもそも、竜種自体が強き者たちだからな。その中でも別格とされるのが『原初の竜』と呼ばれる存在だ。もっとも、ここしばらくは表舞台に現れたという話は聞かないがな」

「つまり、セージュの話と合わせると、そのGM(ゲームマスター)が『原初の竜』という存在になっているってことだな?」

「はい、そうだと思います」


 その情報については、間違いないと言っていいだろう。

 裏付けとしては、ジェムニーさんからも取れているしな。

 ジェムニーさんたち、いわゆるナビさんは、エヌさんの眷属という話だし。

 部下の人たちか、あるいはAIか、だ。


「にしても、『死神』に『竜』、ねえ。普通に考えるとゲームの中の話に収まるとは思うんだがなあ」

「まあ、そうなんですけどね」


 ヤマゾエさんの言葉に同意もしつつ。

 ではあるけれども、カミュの言葉や今のラルさんの忠告が引っかかるというか。

 少なくとも、単なる『ゲーム』だけでは済まない『何か』が隠されているような。


 その『違和感』については、俺たちも意識していく必要がある、と。

 そう思った。

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