第258話 農民、他のテスターとやり取りする
「いや、ちょっと待って。思った以上に大事になってないか? これって」
『てか、セージュさん、僕にも『けいじばん』に吹き込んでくれ、って言っといて、それはないっすよ?』
当然じゃないっすか、と前にいるベニマルくんから突っ込みが入る。
いや、それはそうなんだけどさ。
実際、参加者が増えれば増えるほど良いことがあるようだし、だったら、顔見知りのテスターさんたちにも声をかけようと考えただけなんだけど。
あれ……?
もしかして、俺と面識がある人はほとんど参加か?
今ちょっと、『けいじばん』に情報を流しながら、昨日からほぼ放置状態になっていたメールの方もチェックしているんだけどさ。
とりあえず、ついでで送った【土木系クエスト:コッコダンシング】――――『コッコさんたちと踊ろう』のイベントに関しては、ほとんど全員から良い返事が返って来たのだ。
今、『迷いの森』にいる十兵衛さんからも『そういうことなら、ちょいと顔を出すぜ』って返信が来たし。
どうやら、別ルートか何かでラルさんからの伝達も入ったらしく、一緒にいる『森の熊さん』もちょっと遊びに来てくれるそうなのだ。
いや、確かその人って、『迷いの森』の管理人のひとりじゃなかったのか?
ちょっととはいえ、森から離れていいのかね?
まあ、ラルさんが一応は責任者代行みたいな感じだから、そっちが許せば問題ないのか。
「というか、ベニマルくん、いつの間にラルフリーダさんのところまで話が行ったのさ?」
『いや、ケイゾウさんとセージュさんで話が盛り上がっている間に、三号が走って伝えに行ったっすよ?』
ここからなら、数分で行けるっすから、とベニマルくんが笑う。
しかもカールクン三号さんとは別に、『迷いの森』の同胞宛てにも空を飛べる鳥モンさんたちが伝達に向かったらしいし。
やっぱり、空が飛べるってすごいな。
鳥モンさんたちの『一群』って伝達速度が半端ないもんな。
まあ、とりあえず、十兵衛さんともこっちで久しぶりに会えそうだな。
ゆるキャラっぽい『森の熊さん』にも興味あるし。
あと、テツロウさんからのメールでは、最近やっていたことに関する報告とかがあった。
『迷いの森』の西側の方で、『きのこの妖精』に出会ったそうだ。
食材として、きのこを数種類ゲットできたらしいけど、どれが食べられてどれが毒キノコなのかの判別ができないらしい。
で、今のところは料理に使えない、と。
そっち系の『鑑定眼』を持っている人を募集中ってことらしい。
きのこって、植物の『鑑定眼』じゃダメなのかね?
一応、会った時にでも、俺のも試してみる旨、返信しておいた。
あと、食べ物系だったら、リディアさんが手伝ってくれそうだから、ダメ元で頼んでみてはどうかも書いておいた。
テツロウさんもリディアさんと会った時に、フレンドコードを交換してたはずだから、そういうこともできるだろう、って。
で、そのリディアさんも同行しているファン君たちの方。
ファン君とヨシノさんは、覚えたばかりの『鍛冶』スキルを使うために、俺が留守にしていた数日は、例の『採掘所』とペルーラさんの工房を行ったり来たりしていたらしい。
あ、そうそう。
ファン君は『ドワーフ鍛冶』を取得できたみたいだけど、それとは別にヨシノさんと十兵衛さんも無事に『品質:1』の鉄製品を完成させて、めでたく『鍛冶』スキルを得ることができたらしい。
ということは、今十兵衛さんは、自分で打った刀を使ってるってことか?
日本刀なのか、剣なのかは知らないけど、大分侍っぽくなってきたよな。
会った時にでも見せてもらおう。
さておき。
ファン君たちにも『コッコさんたちと踊ろう』の話をしたところ、やっぱり、興味があるから参加させてほしい、って返事が返って来た。
ファン君、『舞踊系』のスキルも持ってるから、ぜひ参加して欲しかっただけにこれはかなりありがたいよな。
もうすでに、ログアウトはしてたみたいだけど、『けいじばん』と俺のメールを確認して返事をくれたらしい。
あ、そうだ。
ユミナさんとかからの料理の件は伝え忘れたな。
まあ、『けいじばん』の方も目を通してくれていたみたいだし、そっちの話に関しても問題ないとは思うけど。
前に、手料理をごちそうしてくれるって話になって以来、そのままになっていたし、その辺もちょっと興味があるんだよな。
向こうの現実を考えると、小学生の男の子の手料理ってどんなだ? ってところもあるんだけど、教えてくれているお母さんがプロって話だし、何か日本料理のすごそうなのとかが出てきそうだ。
いや、こっちの世界だと調味料が足りないから難しいか。
醤油の使えない日本料理って中々難易度が高そうだし。
ヨシノさんはヨシノさんで、リディアさんから教わって、暗殺術っぽい技とかも特訓中なのだとか。
いや、リディアさん、そっち系の話も詳しかったのか?
何か、カミュと同様に底が知れないNPCさんだよなあ。
それとなく、メールで聞いてみたら、『ん、ちょっと昔、山賊やってたことがある』とか返事が返って来たんだが。
えーと……冒険者じゃなかったっけ?
あんなきれいな人が山賊って、大分イメージが違うよなあ。
後は、個別の案件についてもどんどんメールを返していく。
ペルーラさんには、お湯を沸かす魔道具の改造に関する件と、今日の『鎧』との戦闘で鎌に穴が開いてしまった件について。
改造については、明日中に仕上げておくってことなので、コッコさんとのイベントが終わったら受け取れそうだな。
鎌についても、実物を見てからってことになった。
もし、俺でも直せるようだったら、鍛冶修行ついでに修復作業をやってみろ、って。
もちろん、新米では手に余るレベルなら、お金を払えばやってくれるみたいだけど。
あっ!
カミュとアスカさんからも連絡があったぞ。
どうやら、今日の目的地の修道院には無事たどり着くことができたそうだ。
その修道院って、どうやら孤児院も併設されているらしく、こっちの世界の子供たちと初めて触れ合ったって、アスカさんのメールに書かれていた。
もう教会のシスターって扱いで、色々と仕事をさせられているみたいだな。
それにしても、子供かあ。
このオレストの町だとあんまり見かけないんだよな。
ほとんどの子供が町の外に出かけているんだっけ?
何となく、そろそろ帰ってきそうだって話はちらほら聞くけど。
今のところは、子供と言えば、俺と一緒にいるウルルちゃんたちとか、ファン君とかそっちだよな。
あとはカミュとか。
年齢的には子供じゃないのも混じってるけど。
あ、そういえば。
「ねえ、ベニマルくんたちって、この町の『自警団』の人たちとは顔見知りだったりするの?」
前にフィルさんが『森守』って言ってたもんな。
たぶん、『自警団』の人たちもベニマルくんたち鳥モンさんと同じ所属だと思うので、それについて聞いてみたんだけど。
『そうっすねえ……僕らの管轄までやってこない人はよくわからないっすけど、エルフの人とか、ドリアードの人とかだったら知ってる人もいるっすよ。フィロソフィアさんとかも知ってるっす』
「コケッ!」
「あ、フィルさんは知ってるんだ?」
『そうっす。あの方は『森』の全域を定期的に巡るタイプの人っすから。一応、南の所属みたいっすけど、結構あっちこっちに行ったりしてるみたいっす』
なるほど。
ベニマルくんとケイゾウさんの話だと、『最近どう?』って感じで、定期的にフィルさんが管轄の森に訪れてくれたりしたのだとか。
『一応、アリエッタさんもそうっすよ。まあ、あの人の場合、素材集めの方が主みたい感じっすけど、レーゼ様もそれで良いって笑ってたっすから、それで黙認って感じっすね。まあ、能力的にも優秀みたいっすよ?』
僕もよくは知らないっすけど、とベニマルくんが苦笑する。
アリエッタさんもエルフではあるので、『森』の移動に関しては得手の部類に入るらしいのだ。
ただ、その行動パターンが読みにくいので、それでみんな困ってるそうだ。
何せ、上司の言うことそっちのけで研究に没頭したりするらしい。
「今のアリエッタさんの居場所はわかる?」
『あー、ちょっと待ってください――――確認するっすね?』
そう言って、その場にいた鳥モンさんたちに『鳥言語』で問いかけるベニマルくん。
――――と、少し驚いた表情になって。
『えっ!? 見たんすか? ――――あ、セージュさん、どうやら、アリエッタさん、『ウェストリーフ』寄りの森のところにいるみたいっすよ? こいつが見たそうっす』
「KYU――――♪」
「え!? そうなの?」
おっ! それはすごい。
有力情報が得られたのって、初めてじゃないか?
一応、俺の未達成のクエストにも『探し人、アリエッタ』があるから、その情報には興味があるぞ。
それに、まだ直接は会ったことがないけど、『けいじばん』でもメイアさんって人が探していたはずだ。
「KYUKYUKYUっ!」
『ふむふむ……なんでも、他の人間っぽい人も連れてたみたいっす。それで移動がゆっくりだったので、上空から偶然見つけられたみたいっすね』
「え? 同行者がいるのか?」
それも初めての情報だな?
もしかして、テスターの誰かか?
意外と『けいじばん』とかに興味がない人もいるみたいだし、初日からほとんどソロで動いている人もいるのかもな。
もし本当だったら、ちょっと興味深いよな。
とりあえず、今得た情報も『けいじばん』に吹き込みつつ。
引き続き、メールチェックを続ける俺なのだった。




