第257話 農民、家作りに動き出す
「と言っても、その『手順表』を起動させる前にやることがあるでしょうから、その後、ってことになるわね」
コッコ種の『家』作りってことはね、とフローラさんが微笑む。
その言葉に、ケイゾウさんとヒナコさんも頷いているな。
「コケッ!」
「ピヨコ!」
『そうみたいっすね。家を建てる前に、その土地を最適化するための儀式みたいなものがあるみたいっすよ?』
コッコ種オリジナルってやつっすね、と通訳しつつベニマルくんが笑う。
へえ?
『家』を建てるためにも儀式があるんだな?
いや、向こうでも地鎮祭とかそういうのがあるから、そっち系の話なのかも知れないけど。
あー、そうそう。
この『手順表』について。
フローラさんやアルルちゃんたちの協力の元、内容を吟味した結果。
これって、やっぱり、魔法の『巻物』の一種ってことで間違いないようだな。
条件として、『精霊眼』を持っていることで内容が読めるようになって、それぞれの紙一枚ごとに、家を建てる工程が刻まれていて、それを起動させることでひとつひとつ、家を建てる手順を進められるようになっているのだとか。
ただし、『巻物』である以上は、当然使い捨ての代物とのこと。
工程をひとつ進めるたびに、手順表が一枚ずつ消費されていって、全部なくなるのと同時に家が一軒建つ、って感じらしいな。
いや、説明を聞いてもちょっとわかりづらかったんだが。
要は土木魔法が仕込まれた『巻物』って認識でいいそうだ。
起動させるために、魔力及び精霊力の消費が必要なため、それで、属性魔法と種族適性が条件にされていたってことらしい。
土属性に長けていて、精霊術が使える種族。
かつ、発動条件を読むために『精霊眼』が必要、と。
うん。
どう考えても、精霊種限定の使用アイテムだよな。
明らかに、他種族では使えない代物に仕上がっているというか。
『まさかこれ、サティ婆さんが作ったんじゃないでしょうね?』
『おそらくだけど、それはないわね。セレスタさんって、土属性はあまり得意じゃなかったはずだもの。小精霊の増幅作用の術式はまだしも、土系の形状変化とか、その場に集めた素材を加えることで土以外の素材でも家を建てられるようにできる応用性とかは、その範疇を明らかに超えているもの』
サティ婆さんの正体が元『ナンバース』だって聞いたので、俺も少し疑って、フローラさんに聞いてみたんだが、さすがにそれはない、と言われてしまった。
というか。
この『手順表』、俺が想像していた以上に優れものだったようだ。
フローラさんによると、一切素材がない状態でも、その場にある地面などを用いて、それだけで家を建てることもできるらしい。
その場合は、土造りだったり、石造りだったりの家って感じだな。
地面に金属質が含まれていた場合は、そっちの材質の家が建ったりとか。
いや、それだけでもすごいんだが、もっとすごいのがその後だ。
素材――――例えば、木材などをこちらで確保した上で『巻物』を発動させると、それらの素材を組み込んだ形で家ができあがるんだと。
『図面とか、間取りってどうなるんですか? そもそも、必要な敷地の広さとか、決まってたりするんですか?』
『逆ね。建てたい範囲を定めることで、それに合わせて、家が構築されるようになってるみたいね。もちろん、広くなればなるほど、発動のための魔力消費とかも大きくなるでしょうけど』
ということらしい。
うん。
なんかすごいな、こっちの世界の土木魔法って。
いや、そもそも、この『手順表』を作った人が謎なんだが。
『自動的に構築される分、細かいところは勝手に決まるみたい』
『そうね。アルルも無理に術式をいじらないようにね。これ、かなり緻密に術式が組み込まれているわ』
下手にいじると術式自体が壊れてしまう、とはフローラさんの談だ。
そもそも、この手の魔法系のアイテムで、魔術と精霊術を同時に組み込むようなものが存在するのがおかしい、って。
フローラさんも魔道具技師とかではないので、詳しくはわからないみたいだけど、これ、作った人は力量がちょっと常軌を逸しているらしい。
そのうえ、使用条件がかなり限定されるので、本当に何でこんなものが存在するのかが不思議だって。
何せ、普通の精霊種なら、家を建てるということ自体にあまり興味を持たないものなのだとか。
『精霊の森』の『村』の場合、外部からやってきた人たちを受け入れたり、そもそもがシモーヌちゃんの存在があったりとか、そういう理由があったから、わざわざ『外』の家を参考にして、それっぽい建物にしたみたいだしな。
だから、理由もないのに、砦っぽい感じになっていたんだよな。
魔道具としてはすごいけど、まず買い手が付かない品だ、と。
中身をきっちり精査した上で、フローラさんが肩をすくめるのもよくわかる。
それにしても、広さに合わせて、自動生成かあ。
まあ、素人に設計とかやれって言われても困ってしまうから、ある意味で手軽って言えば手軽だけどな。
何というか、ものすごく魔力とか消費しそうだ。
ちなみに、魔力の供給に関しては、発動するアルルちゃんだけじゃなくて、他の者も手伝うことができるので、当然俺も頑張る予定だ。
下手をすると、一工程で一日かかるかもな。
いや、それでも十分に早いんだけどさ。
さておき。
『手順表』の方の作業もそうなんだが、それより前にコッコさんたちのために、何やら儀式をやらないといけないようだな。
儀式って、どんな感じなんだろうな、と俺が思っていると。
例のぽーんという音が頭の中に響いた。
『クエスト【土木系クエスト:鳥モンスターの家作り】よりクエストが派生します』
『コッコ種が儀式を手伝って貰いたそうにこちらを見ています』
『クエスト【土木系クエスト:コッコダンシング】が発生しました』
『注意:こちらのクエストは盛り上がり型のクエストとなります。なお、クエストが長引くことがありますので、単独での参加はおすすめしません』
『参加者を募ることで、より楽しくなり、成功率が上昇します』
『交代要員?』
『この場合、参加者への情報制限が一部解除になります』
うわっ!?
何だこれ? 新しいクエストが発生したぞ?
えーと……派生の『土木系』のクエストか?
「いや、ちょっと待て、何だこれ?」
何だよ、クエストタイトルの『コッコダンシング』って。
しかも、盛り上がり型のクエストって。
ダンシングってことは踊りだよな?
つまり、コッコさんたちの『家』を建てるための必要な儀式って……。
「ケイゾウさん、ヒナコさん、もしかして、儀式ってみんなで踊るってことですか?」
「コケッ♪」
「ピヨコ♪」
『そうっすね。ケイゾウさんたちの『家』を作るために、その土地を清める必要があるみたいっすよ? 別にそう難しいことじゃないっす。要はみんなで集まって、踊り明かせばいいんすよ』
「踊るのー!? 何だか、面白そうだねーっ!」
「きゅい――――♪」
「円舞によって、その土地に陣を構築するやり方ね。『精霊陣』と同じようなものかしら」
「コケッ!」
あ、なるほど。
ただ単に踊り明かすってだけじゃなくて、それによって魔法陣みたいなものを構築するってことか。
ベニマルくんにケイゾウさんたちの話を通訳してもらったところによると、コッコ種だけでも、陣を描くことはできるらしいんだけど、それ以外にもたくさんの人や獣が集まることで、参加者の魔力とかも少しずつ作用されることができるらしくて。
そういうわけなので、盛り上がれば盛り上がるほど、『家』の力が強くなるそうだ。
ふむ。
どうやら、今度のクエストは人を集めるのが重要っぽいな。
ステータスの注意によると、秘密系の制約がちょっと緩くなるみたいだし、ちょっと知り合いとかにも声をかけてみようか。
ファン君とか踊り子だし。
あ、そうだ。
「ケイゾウさん、その儀式について詳しく教えてもらってもいいですか?」
「コケッ!」
どのぐらい時間がかかるのか、とかもな。
とりあえず、『けいじばん』案件なのはよくわかったので、ベニマルくん翻訳で、色々とその儀式について、ケイゾウさんたちから話を聞いて。
このクエスト攻略に取り掛かる俺たちなのだった。




