第256話 農民、畑に赴く
『セージュさん、なっちゃんさん、お帰りなさいっす』
「コケッ!」
「ピヨコっ!」
「クエッ――――!」
夕食を食べた後で、俺たちはそのまま畑へと足を運んだ。
話を聞く限りだと、鳥モンさんたちには留守中にもかなりお世話になったみたいだし、だからこそ、早いうちにお礼が言いたかったのだ。
もちろん、コッコさんたちの『家』の件もあるけどな。
もうすっかり辺りは暗くなって、月明かりしかない状態にもかかわらず、そこにいたベニマルくんやケイゾウさんなど、鳥モンさんたちが歓迎してくれた。
聞くと、夜の間も交代で畑を護ってくれていたんだってさ。
うん。
本当にありがたいよな。
作物によっては、植え付けから収穫まで日を跨ぐものもあるので、夜の間もやってくる虫モンたちに食べられないようにチェックしてくれていたのだとか。
いや、この説明はちょっとおかしいよな。
普通は、一日で野菜とか果物が収穫できる状態まで育たないっての。
何となく、俺の感覚もこの町の異常さに毒されてきている気がするぞ。
ともあれ。
ベニマルくんたちのおかげで、収穫量が跳ね上がっているのも事実のようだ。
虫モンに食べられる量が少ないので、通常の畑の栽培クエストよりも割が良くなっているみたいだしな。
「ただいま戻りました。すみません、顔を出すのが遅れまして」
「コケッ――――!」
『あー、大丈夫っすよ、セージュさん。ケイゾウさんも言ってますけど、詳しい話は三号から聞いたっす。ルーガさんが大変だったみたいっすね?』
「うん、ごめんね、ベニマルくん。ちょっと疲れがたまってるみたいだし、今はサティ婆さんの家で休んでもらっているから、そこまで心配はいらないみたいだけどね」
あ、そういえば、三号さん、ルーガを運んでくれた後でラルさんの家まで戻って行ったんだよな。
その途中で、畑の方にいたベニマルくんたちにも昨日今日の話を報告してくれていたらしい。
やっぱり、言葉が通じないだけで、かなり思考はきちんとしてるよな、カールクンさんたちも。
『で、そちらがお客さんっすね?』
「そうだよ。こっちが家作りを手伝ってくれるアルルちゃん。その隣がアルルちゃんの双子の姉妹のウルルちゃん」
「アルルだよ、よろしくね、鳥さん」
「へえー、すごいねー、鳥さん、共通言語をしゃべれるんだねー? わたしはウルルだよっ」
「コケッ!」
『よろしくっす。僕はベニマルって言うっすよ。で、こっちが僕らの『一群』を束ねている隊長のケイゾウさんっす』
「わー、うんうんー、何となく、隊長さんっ! って感じがするもんね。迫力があるし」
「そうね、かっこいいもんね」
「――――コケッ!」
あ、ふたりに褒められて、ちょっとケイゾウさんが照れてるかな?
ちょっと困ったような感じで、でも嬉しそうな声にも聞こえるし。
それを横でヒナコさんがにこにこしながら見ているというか。
「そして、こちらがふたりの保護者のフローラさん。その後ろに隠れてるのがウルルちゃんたちの妹のシモーヌちゃんだね」
「フローラです、よろしく。『――――――――――』」
「…………シモーヌです」
「コケッ――――!」
『はい、よろしくっす。ご丁寧に鳥言語であいさつしてもらってありがとうっす。おかげで、少し事情もわかったっすよ』
そう言って、ベニマルくんが笑顔を浮かべる。
道理で妹さんだけ、種族が違うと思ったんすよ、って。
横でケイゾウさんたちも頷いているし。
どうやら、フローラさんが『鳥言語』を使って、簡単に自己紹介のようなことを行なったようだな。
というか、普通に『鳥言語』も使えるのが驚きなんだが。
伊達に数百年生きていないよな。
いや、あっさり種族に関する違和感に気づいたベニマルくんたちもすごいんだけどさ。
ちなみに、この場に一緒に来てもらったのは、なっちゃんと『精霊の森』の四名だ。
時間もそれなりに遅かったので、顔合わせは明日にして、俺となっちゃんだけで動こうと思っていたんだけどな。
『家』作りのお手伝いに関しては、細かい話をした上でアルルちゃんの協力も得られたこともあって、だ。
『鳥さんの家を作るお手伝いね? だったら、わたしも一緒に行く! 鳥さんたちに会ってみたいもの』
『えー、アルルだけずるいよー。ウルルも行きたいー!』
『セージュ君、私も一緒に行くわ。セージュ君とこの子たちだけだと、感情の制御に失敗した時がこわいから。シモーヌも、ね。まあ、嫌なら、サティトさんの家で待っていてもいいけど』
『私も行く! お姉ちゃんたちと一緒がいい!』
というわけで、みんなで来ることになった、と。
俺とアルルちゃんだけだと、ウルルちゃんがふて腐れるし、万が一何かあった時、アルルちゃんが能力を暴走させたりするかも知れないので、結局、フローラさんが付き添うことになった。
やっぱり、上位の精霊が一緒だと、下位の精霊の暴走を抑え込むことができるそうだ。
だから、ウルルちゃんも最初に出会った時以外は、変な天候操作みたいな感じにはならなかったらしいな。
その辺は、グリードさんやフローラさんがいたおかげなのだとか。
いや、出会った時は、アルルちゃんに置いてけぼりを食らったせいで、かなり感情が揺れていたってのもあるみたいだけどさ。
『でも、『外』に出る以上は、自分で抑えられるようにならないとダメよ? いい機会だから、ふたりとももっと努力しなさいよ』
フローラさんに言わせると、まだまだ精進が必要ってことだな。
まあ、同行している間、雨が降ったり霧が出たりって心配するのも大変なので、ウルルちゃんたちには頑張ってもらいたいものだ。
あ、そういえば、アルルちゃんが暴走した時ってどうなるんだろ?
ノームってことは、土属性だよな?
土属性の天候操作って、なんだかおっかないなあ。
土石流とか?
うわ、シャレにならない気がするぞ?
一応、詳しく聞いてみたところ、辺り一面が落とし穴だらけになったりとか、砂嵐とか、そんな感じらしい。
いや、それはそれで嫌だけどさ。
あと、夕食の時に一緒にいたテスターの同居人さんたちの方なんだが、夕食が終わった後で、ダークネルさんから、俺宛てでメールが届いたのだ。
他のみんなに気を遣って、こっそりって感じだったけど、内容は。
『精霊さん?』
これ一言だけな。
うん。
誰がって話じゃなくて、まだその場にいたので、ダークネルさんを見ると口元だけ笑っていたので、何となく言いたいことはわかった。
どうやら、以前の『けいじばん』での俺の相談とか、今回の小旅行の話とかを踏まえた上で、何となく気付いたってことを伝えたかったらしい。
まあ、なあ。
ヴェルフェンさんやハヤベルさんはそういうことを言ってこないので、どこまで気付いているかは知らないけど。
もし、『鑑定』で人間種って出たとしても、状況的にそういう風に推測できる人は当然いるってことだろう。
家作りの件。
土木系のクエスト相談。
精霊種を探しています。
ちょっと出かけてくる。
帰ってきたら、新しいNPCが増えている。
うん。
まあ、普通に疑うわな。
一応、秘密系って何となくわかっているから、あんまり突っ込んでこないってだけだろうしなあ。
さすがに、サティ婆さんまでそうだってところに気付けるかどうかは微妙だけど、ちょっと頭を使えば、それっぽい推測にはたどり着けるだろうしな。
だからこそ、気を遣って、誰もついてこなかったって感じもするし。
またこそこそと動いては、何かしでかすぐらいに思われているのかもなあ。
「それにしても、鳥モンさんって、コッコ種のことだったのね?」
「コケッ♪」
『そうっすね。ケイゾウさんたちの場合、『飛べる』ようになると便利なんすよ。だから、『家』は必須っすね』
「…………なるほどね。そうね、そういうことなら、私も少しお手伝いしましょうか」
あくまでも付き添いのつもりだったんだけど、とフローラさんが微笑む。
おや?
フローラさんも手伝ってくれるのか?
俺としては、アルルちゃんの力が必要だったんだけど、それはそれでありがたい話だ。
気が変わらないうちに協力してもらおう。
そう考える俺なのだった。




