第255話 農民、団らんでほのぼのする
「そういえば、ヴェルフェンさん、畑の方のお手伝いもしてくださったんですね? ありがとうございました」
「にゃはは、こっちも素材がいっぱいもらえたから、お互い様なのにゃ。鳥モンにゃんたちもかわいかったしにゃあ」
畑の話題で思い出したので、改めてヴェルフェンさんにお礼を言う。
話を聞く感じだと、ヴェルフェンさんも楽しんでくれてたみたいだけどな。
ベニマルくんが普通にしゃべってるのを聞いて驚いたりとか、コッコさんたちのなでごこちに癒されたりとか。
一応、報酬も作った作物の一部が支払われたみたいだしな。
これも、クエストとして認められたのだとか。
だから、冒険者ギルドのクエスト達成件数に含まれるとのこと。
「ヴォークス草にゃ? あれって、教会のホルスンだけじゃなくて、東の平原とか、『迷いの森』で現れるモンスターにゃんたちにも食べさせられるのにゃ」
「えっ!? あ、なるほど、そういう風にも使えるんですね?」
「そうにゃ、あれが好物の子なら、モンスターの敵意を減らしたりする効果もあるみたいなのにゃ」
もちろん、草食系じゃないとダメだけどにゃあ、とヴェルフェンさんが笑う。
『イーストリーフ平原』の虫モンとか、『迷いの森』を徘徊している草食の獣系モンスターとかが対象なのだとか。
ふむふむ。
やっぱり、モンスターにとりあえず食べ物を与えてみるのは効果的なんだな?
このゲームだと友好的なモンスターとそうでないモンスターの違いがよくわからないんだよなあ。
なので、遭遇時に敵意を持っていても、好きな食べ物を与えたりすると友好的な感じに変化することもあるのだとか。
「そうだよね。だから、倒してもいいのかな、って迷うこともあるもん」
「私も向こうから襲ってこなければ戦いませんね」
ダークネルさんとハヤベルさんもそう頷く。
だよなあ。
とりあえず、モンスターだから倒しておけ、って単純な話じゃないんだよな。
鳥モンさんとかの例でもそうだけど、うまくやっていくと協力体制へと持って行けたりもするから、ほんと、前にエルフのフィルさんも言ってたけど、闇雲に敵対するのって、あんまりいいやり方じゃないんだよな。
「そうね。はぐれ系のモンスターなら問題ないと思うわよ?」
「はぐれ系、かにゃ? フローラにゃん?」
「ええ。闘争本能が高くて、我が道を行くって感じのモンスターね。その子たちだと、食べ物とかよりも、敵を倒すって欲求に忠実なはずだから」
「へえ、それは確かに普通の怪物っぽいわね」
「ですが、その、はぐれ系かどうかはどう見分ければよいのでしょうか?」
「『眼』を鍛えるしかないわね。見る目を鍛えていけば、そのうち、違いがわかるようになるわよ」
なるほど。
『眼』ってことは『鑑定眼』とかかな?
ウルルちゃんもそうだけど、精霊さんたちって『感知』とかも得意だって話だし、その手の能力は鍛えているのかもな。
もっとも、モンスターに関する話ではウルルちゃん、アルルちゃん、シモーヌちゃんの三人ともよくわからない、って顔をしているのな?
たぶん、『精霊の森』のモンスターのほとんどが精霊と共生関係にあるからだろうけど。
移動中の雑談で、そんな話をウルルちゃんから聞いたし。
うん?
あれ? ちょっと待てよ?
その闘争本能が高いモンスターって。
「あー、モンスター用の『鑑定眼』を持ってないときついのにゃ? 何とかして後からでもあのスキルが欲しいのにゃ」
「あの、フローラさん」
「何かしら?」
「そのはぐれ系のモンスターって、『狂化』ってステータスをもってたりしまか?」
「『狂化』?」
何となく、話を聞いている感じだと、その最初からの話の通じなさ具合とかが、例の『狂化』持ちのモンスターたちと被るんだよな。
だから、もしかして、って意味で尋ねてみた。
いや、仮にそうだとしたら、ビーナスみたいな件もあるから、そもそも話が通じないから倒せ、っていう前提が覆るんだけどな。
実際、元『狂化』持ちのモンスターでも味方にできているわけだし。
ただ、俺の問いにフローラさんが少し首を傾げるようにして。
「いいえ、別にはぐれ系モンスターが『狂化』状態であるなんてことはないわよ? もちろん、そういう種もあるかもしれないけど、狂っているわけじゃなくて、そういうものだもの。たぶん、本能に忠実で、相互理解ってこともわからない子たちだもの」
要は、頭がいいか悪いかってことよね、とフローラさん。
「あれ? なっちゃんとかは違うわよね?」
「きゅい――――!」
「そうね、ダークネルちゃん。なっちゃんは友好的だし、頭のいい子よ?」
「ということは……もしかして、なっちゃんと同じナルシスビートルと仲良くしようとしてもダメだった理由って……」
「種の中でも知性に関しては個体差があるってことね。だから、種族だけだと、はぐれかどうかの見極めの基準にはならないのよ」
そう言って、フローラさんが苦笑する。
あ、ダークネルさん、ナルシスビートルのテイムに挑戦したりもしていたのか。
でも、一方的に攻撃されたりとかもして、結局うまくいかなかったようだ。
あ、そういえば。
「なっちゃんは、何となく最初に近づいて来た感じが友好的でしたね」
「えっ!? そうなの、セージュ君!?」
「きゅい――――♪」
「はい。他のモンスターとどう違うかっていうと説明しにくいですけど、何となく、変わってるなあ、って感じましたし」
「そうね。そんな感じでよく見ると何となくわかったりするのよね。たぶん、セージュ君にも『感じる』能力が備わっているからでしょうけど。まだまだ未熟だけど、そのうち、『感知』みたいなことができるようになるかもね」
「ウルルも『感知』は得意だよー」
「じゃあ、ウルルちゃん、わたしに『感知』のコツを教えてもらえない?」
「うん、いいよー」
そう、ダークネルさんの頼みに頷いたが早いか、ウルルちゃんが一瞬で、ダークネルさんの側へと近づいて。
「――――えっ?」
「こんな感じだよー、『精査』!」
「ひゃあっ!?」
「あっ! おばか、ウルルやめなさいよ!」
あれ、これって、前にウルルちゃんがビーナスにやったのと同じだよな?
蒼く光った手で全身をなでまわして、相手について感知するってやつ。
いや、ダークネルさんの嬌声が響きかけたので、慌てて、横のアルルちゃんが止めに入って、ふたりを引き剥がしたんだけど。
「ウルルお姉ちゃん、そういうのはきちんと説明してからじゃないとダメだって、お母……フローラお姉ちゃんも言ってたですよ」
「ふぅ……まあ、ウルルがやりたかったことはわかるけどね」
少しとがめるような、呆れかえっているような口調でシモーヌちゃんとフローラさんがため息をつく。
ウルルちゃんの行動が瞬時だったせいで止めそこなったらしい。
「な、な!? なに!? 何で、わたし……」
一方で、顔を赤らめて軽いパニック状態に陥っているダークネルさん。
ちょっと息があがってるのは、見なかったことにしておく。
目が合ったら怒られそうだ。
それにしても、ウルルちゃんに気軽にお願いするのは危険だな。
「『精査』は触れた箇所や、近距離で目視した場所の状態を読み取る能力よ。別にウルルがやったみたいに力いっぱい撫でまわす必要はないんだけどね」
「――――必要ないの!?」
「でもね、その方が反応を感じやすいってのも事実なのよ。私たちの場合、相手の状態や感情とかは色で見ているのね。あと、まとっている固有魔素の質とかね。今のダークネルちゃんなら、色は暖かい感じの暖色だけど、質の方はウルルの行動への警戒心から、ちょっととげとげした感じになってるわね」
「えっ……とげとげ……?」
「感覚として、ね。私たちにはそう感じるってわけ」
呆気にとられているダークネルさんにフローラさんが苦笑を返して。
「色、質ともに冷たい感じだと、友好的な関係になるのは難しいわ。固有魔素がとげとげしてるだけなら、そっちが落ち着けばまだ見込みがあるから、そういう見分け方ね。ちなみに、今ウルルに触れられた時、何か感じなかった?」
「あ……そういえば」
何かを思い出したようにダークネルさんが頷く。
うまく説明はできないみたいだけど、何らかの感覚はあったようだ。
「ええ。だから、感知のコツを教えるのなら、さっきのウルルの方法は間違いではないのね……問題は、相手の了承を得ずに、そういう行為に及んだことよね」
「そうだったの……ごめんなさい、ウルルちゃん、取り乱したりして」
「いいのいいのー、ふふ、ウルル抱き付くのが好きだから、楽しかったよー」
「抱き付き魔だにゃ」
「ヴェルフェンも触り心地よさそうだねー。抱き付いてもいいー?」
「にゃはは、別に構わないのにゃあ」
「ではではー」
折角だから、にゃあも『感知』の感覚が知りたいから、ってヴェルフェンさんが言い出して。
そのまま、ハヤベルさんとかも巻き込まれて。
その光景をどこか微笑ましそうに、サティ婆さんたちが見つめて。
そんなこんなで団欒の時間は過ぎて行くのであった。




