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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第8章 家を建てよう編
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第253話 農民、遅めの食卓を囲む

「へえ、お婆ちゃんの親戚なのかにゃ?」

「ええ、そうなの。もっとも、()たちが生まれる前にサティトさんは村を離れてしまったので、三人にとっては今日が初めての顔合わせなんだけどね」

「うんうんー、もぐもぐ――――これ美味しいねー、不思議な食べ物ー」

「あ、芋もちも量をたくさん作れるようになってきたんですね?」

「そうですよ。ユミナさんたちの頑張りですね。それに、お芋が安くたくさん入手できるようになったからだと聞きましたね」

「というか、それ、セージュ君の畑で作ってる芋じゃないのよ」

「あれっ!? そうだったんですか!?」

「甘くないけど、美味しいわね、これ」

「そうですね、アルルお姉ちゃん。『村』でも食べたことがないです」

「きゅい――――♪」


 うん。

 何となく、会話がごちゃ混ぜになって混沌としてきているけど。

 さっきまでの話の後、『まだ、あんたたちもごはんはまだなんだろう?』というサティ婆さんのご厚意で、そのまま、みんなで夕食を食べることになったのだ。


 ちなみに、今俺たちが食べているのはサティ婆さんのお手製スープと、『大地の恵み亭』で売っていた芋もちを焼き直したものだ。

 冷めた芋もちをそのまま火であぶって食べる、と。

 これはこれで美味いよなあ。

 表面が香ばしく焼きあがって、中はもっちりとしてるし。

 ウルルちゃんとか、精霊さんでもおもちみたいなものを食べれられるかな? と思ったんだけど、その辺は取り越し苦労だったようだ。

 一口食べて、その食感の虜となったウルルちゃんが、他からの話も適当に、芋もちを食べるのに夢中になっているし。

 というか、ハヤベルさんとかダークネルさんによると、この芋もちの販売量が倍以上になったのも、俺の畑が関係していたらしい。


 どうやら、俺の留守中に、ベニマルくんやケイゾウさんたち、鳥モンさんたちがかなり頑張ってくれたみたいだな。

 いや、畑の管理はお願いしたけど、それに加えて、冒険者ギルドや『大地の恵み亭』への直販もやってくれたらしく、そっち経由でアルガス芋が一気にオレストの町中に出回ることになったそうだ。

 さすがに芋もちを作っているのは、『大地の恵み亭』だけだけど、じゃがバターみたいなのは他のお店でも食べられるようになったとか何とか。


 これは、もう夜だけど、早めにお礼を言いに行った方が良さそうだ。

 ルーガを休ませるのを優先したから、この家に直行したけど、本来だったら、アルルちゃんの件も含めて、ケイゾウさんたちと今後の話をしたかったしな。


 あ、そうそう。

 一応、ウルルちゃんやフローラさんたちも、この家に泊まることで問題ない、ってことになった。

 実際、このサティ婆さんの家って、かなり広く作られているのだ。

 平屋建てにもかかわらず、小さな個室だけでも少なくとも十部屋以上あるし。

 それとは別に素材置き場とか、調合がしやすいようになっている部屋とか、本が置いてある部屋とか、広間とか。

 どうも、最初から、大勢が暮らすように建てられた家って感じなんだよなあ。

 さっき俺がそう尋ねたところ。


『まあねえ、あたしが住みついた当初は宿屋にしようって話だったらしいのさ。でも、色々あって空家のままだったので、それでラルさんから話が来て、あたしが住むことになったってわけだよ』


 サティ婆さんの話だと、交換条件として、この町の薬師として、薬に関する流通について手伝って欲しいとも言われたのだとか。

 まあ、サティ婆さんの場合、個人的な事情もあって、本人が精霊種だってことを隠す必要もあったので、店舗は構えずに、冒険者ギルド経由で、裏から支える形になったみたいだけどな。


 とにかく、元が宿屋ということもあって、六畳一間ぐらいの狭い部屋がいっぱいあるという、普通の一軒家としてはちょっと住みにくい作りになっていたみたいだけど。


『でも、おかげでセージュたちも受け入れることができただろう? たぶん、ラルさんもその辺の人口増加を見越して、この家を残しておいたんだろうねえ』


 ということらしい。

 何にせよ、おかげで、俺たち『薬師』修行のテスターや、今日みたいな突然の来客が来ても、こうやって泊めることができるのだ。

 本当、ありがたい話だよな。


 そんなわけで、今はみんなで食卓を囲んでいるわけなのだけど。

 この場にいるのは、俺となっちゃん、テスター同居組のヴェルフェンさん、ハヤベルさん、ダークネルさん、そして『精霊の森』からのお客さんである、ウルルちゃん、アルルちゃん、シモーヌちゃん、フローラさん、最後にこの家の主でもあるサティ婆さん、と。

 ルーガは部屋で休んでいる、というか、ヴェルフェンさんの話だともう寝てしまったそうなので、無理に起こすのもかわいそうだし、そのまま休んでもらっている。


『寝る前に、着替えしたり、汗を拭き拭きしたりとかはお手伝いしたのにゃ』


 ということらしい。

 うん。

 そういうのは同性だからできることだよな。

 ヴェルフェンさんが例の『ヴィーネの泉』の『湧水』でルーガの全身を拭いてから、着替えさせたとか何とか。

 いや、あの、『ルーガにゃん、白くて綺麗な肌してたのにゃ。つやつやで羨ましいのにゃ』とか、そういう細かい話はいりませんでしたけど。


 ……って、あれ?

 ファン君って、その手の時はどうしてるんだ?

 というか、VRゲームって、他のゲームの場合、基本的に性別切り替えるのってかなり厳しくなかったか?

 R18とかで、かつ、モデリングが審査基準をクリアするぐらい、リアルじゃない場合以外は禁止だとか、そういう話を聞いたような気がするんだが?


 どうでもいいような話のようで、かなり気になるような。

 ただ、チュートリアルの時のハイネの含み笑いを考えると、ドワーフを選んだ時の、性別変換にも何か裏があるような気もするな。

 ハイネが『レジーナ王国』の王妃って話を聞いた後だとなおそう感じる。

 何せ、あのカミュやあのグリードさんが、かなりタチが悪い、って口をそろえて言うくらいだし。


 まあ、機会があったらファン君にも聞いてみよう。


「フローラさんはサティトさんとはどういったご関係なのですか?」

「そうね……確か、大叔母にあたるのかしらね」

「あれー? お母さ……じゃなかった、お姉ちゃん、さっき、お姉さんだって――――」

「はい、ウルル、ちょっと黙ってましょうね」

「私たちにとっては、親戚のお婆ちゃんですよ、ね! ね! ウルルお姉ちゃん!」

「ふふ、そりゃそうだよ。さすがにあたしの歳で姉妹ってのは無理があるさね」


 ハヤベルさんの質問に、フローラさんがもっともらしく答える。

 もっとも、ウルルちゃんが本当のことを言いかけて、色々と台無しにしてるけど。

 こっそり聞いたところによると、世代としては、サティ婆さんの方がひとつ上ぐらいで、フローラさんとはあんまり変わらないらしい。

 正確な歳は不明だけど、少なくとも、数百歳レベルではあるようだな。

 もっと上の可能性もあるけど。


 とは言え、結局のところ、サティ婆さんも含め、四人の……シモーヌちゃんは本当に人間だから、正確には三人だな、その種族については精霊種であることを隠すこととなった。

 さっき、俺と話をしていた時は、随分と不用心だと思っていたんだが、どうやら、あの台所にもサティ婆さんが仕掛け(・・・)を施していたらしい。

 何せ、俺たちの会話が終わった途端に、ヴェルフェンさんとか、奥で『調合』をやっていたハヤベルさんたちが現れたからな。

 一種の結界術のような感じか?

 どういう能力かは不明だったが、サティ婆さんが『精霊の森』と関係のない者を知らず知らずのうちに台所へと来たくなくなるように仕向けたらしい。


 やっぱり、底が知れないよな、サティ婆さんって。

 おまけに、俺が危惧していた点についても、だ。


『でも、隠すのはいいですけど、ウルルちゃんたちに『鑑定眼』を使われれば、明らかにおかしいって、思われますよ?』


 マナー違反って言っても、興味本位で『鑑定』しようとする迷い人(プレイヤー)がいてもおかしくないし。

 その辺は、ゲーム好きの(サガ)のようなもんだし。

 そうすれば、例の注意文が流れて、読み取れないってことになるだろう。

 うん、怪しいことこの上ないよな。

 だが、サティ婆さんは笑って。


『ふふ、セージュ、心配いらないよ。さっきもう手は打ったからね。ほら、試しにウルルに対して『鑑定眼』を使ってごらんよ』

『はい……『鑑定』! えっ!? あれっ!? 鑑定できる……それに、種族が人間種で年齢が12歳?』

『へえー、そういう風になるんだねー?』

『あたしの『種族隠蔽』を『限定付与』したのさ。少なくとも、この町に滞在する間は三人とも人間種で通せるだろうさ』


 そういうわけで、もしウルルちゃんたちが『鑑定』されても、人間種としてのステータスしか読み取れないようになっているのだとか。

 『限定付与』ってのは、一時的な能力の譲渡みたいなものらしい。

 一応、バフやデバフも、その『限定付与』に含まれるのだとか。

 要は、付与魔法(エンチャント)の一種ってことだな。

 ステータスの隠蔽でも、そういうことができるってのはびっくりだけど。


 ともあれ。

 おかげで、俺も抱える秘密がまた増えてしまったわけで。

 今も談笑しつつも、若干、ヴェルフェンさんたちへの後ろめたさを感じつつ、目の前のスープをすするのが精いっぱいというか。


 そんな感じの俺なのだった。

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