第25話 農民、クエスト報酬を受け取る
クエストに関する報告について。
その前に、さっきは、グリゴレさんがラースボアの素材に衝撃を受けていたので、後回しになっていた、収集系のクエストの分も追加で頼んでおいた。
そっちに関しては、基準がはっきりしているので、すぐに対応できるということなので、討伐系のクエストと一緒に、グリゴレさんに再計算してもらった。
「まずは、計算が簡単な方からだな。ぷちラビットの討伐報酬は、今の相場だと、一匹200Nだな」
「なるほど、200Nですか」
これが安いか高いか、どう見るかは微妙な額だな。
確かに、ぷちラビット自体は、それほど強くないので、見つければ狩ることができるだろうけど、意外とそんなに数自体が多いってわけでもないんだよな。
さっきも、最初のうちは連続して遭遇したけど、一度通った帰り道とかでは、それほど出くわさなかったし。
倒してしまうと、すぐにはリポップはしないってことのようだ。
そうなると、実は、数を稼ぐのは難しいのかもしれない。
「勘違いするな、セージュ。これは、討伐報酬だけだ。素材の買取りについては、また別の話になる。ぷちラビットの素材は冒険者ギルドでやってるのは、肉と皮だ。そっちは、状態によって価格が変動したりするが、それはそれで多少は金になるはずだ」
「あ、そうなのか、カミュ?」
あ、なるほど。
討伐報酬と買取り報酬は別ってことか。
基本の討伐報酬ってのがまずあって、そっちは固定なのだそうだ。
ぷちラビットの場合は200N。
それプラス、素材を買い取ってもらえば、その値段が上乗せされると。
「量によって、相場が変わることもあるが、さっきセージュが持ち込んでくれた素材だったら、ぷちラビット一匹あたり、300Nまでは出せるぞ。解体自体もすでに終わっているから、そっちの費用もかからないし、何より、素材の質もいいしな」
「さっき、セージュがスキルを使ってやった解体だと、肉しか残らないからな。そっちの場合は200Nってとこか。で、解体とかの処理をしないで冒険者ギルドに丸投げした場合は、買取が100Nまで落ちると。そんなとこだな」
ふむふむ。
つまり、さっきの俺の場合だと、自力で狩ったぷちラビットが13匹。
うち、自力で解体したのが12匹、『解体』スキルを使ったのが1匹。
なので、単純計算で、6,400Nってとこか。
「セージュが望むなら、全部買い取りしないで、素材として持っていてもいいぞ? 肉とかだったら、後で自分で焼いて食ってもいいしな」
「あー、なるほどな」
食材として持っていてもいいってことか。
もしくは、冒険者ギルドではなく、別の相手に素材を売ってもいいそうだ。
その場合は解体が必要なら、その費用だけが別料金って形になるらしい。
俺の場合は、自分でやるからあんまり関係ないけどな。
ただ、食材って意味で確保しておくのもいいかもな、うん。
ぷちラビットに関しては、キリがいいところで、10匹分までを買い取ってもらうことにした。
これでまず、5,000N。
「ノーマルボアは、討伐報酬が10,000Nだ」
「えっ!? けっこうするんですね?」
ってことは、ぷちラビット50匹分か!?
随分と差があるんだな。
ちなみに、買取額の相場は、きっちり解体でプラス10,000N、スキル解体で6,000N、ギルドにお任せで4,000Nになるそうだ。
「そりゃあ、普通は駆け出しの冒険者が単独で挑むようなモンスターじゃないからな。セージュたちみたいに、『死に戻り』なんて都合のいいものもないし。何人かで協力して倒すような報酬設定になってるのさ」
「セージュの場合は、1匹だから、20,000Nだな。こっちは冒険者ギルドに卸してもらうってことでいいのか?」
「はい、それでお願いします」
これで、ぷちラビットの分と合わせて、25,000N。
てか、ノーマルボアでこの額ってことは、ラースボアの素材っていくらぐらいになるんだ?
「えーと、ラースボアに関してですね? こちらは、通常の討伐クエストとしては発注しておりませんので、私の方で報酬を決めさせていただきますね。危険度等を加味した上での討伐報酬は500,000Nになります」
「今回は、解体まで済ませてくれていたからな。それプラスで、全部ギルドに卸してくれるって言うんだったら、200,000Nまでは出す。まあ、素材の量がかなり倉庫を圧迫しそうなんでな。できれば、半分は引き取ってくれると助かるが」
それだと、上乗せは100,000Nだな、とグリゴレさん。
なるほど。
うーん、そっちの方が良さそうな気がするな。
「わかりました。俺としては、半分買取りがいいと思います。カミュはどう思う? 半分だと、総額が600,000Nになるし、それなら、三等分しやすいと思うんだ」
「ああ、セージュがそれで良ければ、あたしも構わないぞ。ふふ、どうせ、あたしにとっては、今回のは藪からハッピーラビットだからな。それで十分すぎるって」
どうせ、安く使われるだけだと思ってたからな、とカミュが皮肉っぽく笑う。
そんなわけで、十兵衛さんは不在だけど、それでラースボアについては決定ってことになった。
一人頭200,000Nプラス、残った素材を三分の一ずつ、と。
てか、やっぱり、ラースボアってすごいな。
ノーマルボアの50倍の討伐報酬かあ。
ここまででも、俺の分の報酬が合計で225,000Nになったし。
まだ、こっちの貨幣価値がよくわからないが、とりあえず、半月は何もしなくても暮らせる程度は稼げたってことだよな?
ほんと、十兵衛さんのおかげで大分助かってるよ。
後は、収集系のクエストの方の精算も一緒にしてもらうことにした。
パクレト草がひとつあたり、100N。
ミュゲの実がひとつあたり、500N。
収集系のクエストの場合、買取が込みの相場なので、これはそのままの額なのだそうだ。
なので、こっちもキリが良いように精算してもらうことにした。
残っている分については、素材として確保しておきたいしな。
そんなこんなで諸々合わせて、報酬の総額が230,000Nになった。
うん、スタート直後としては、けっこうな小金持ちだな。
『クエスト【討伐系クエスト:ぷちラビット】を達成しました』
『クエスト【討伐系クエスト:ノーマルボア】を達成しました』
『クエスト【収集系クエスト:パクレト草】を達成しました』
『クエスト【収集系クエスト:ミュゲの実】を達成しました』
おお。
いつもの、ぽーんという音と共に、ステータスのアナウンスが頭に響いた。
とりあえず、これで最初に与えられたうちの四つのクエストをクリアしたことになったようだ。
うん、やっぱり、初めてのクエスト成功は嬉しいな。
「じゃあ、こっちがセージュの報酬な。それと、お前の冒険者ギルドカードと、アイテム袋だ。アイテム袋の方は、ギルドからの貸し出しだな。それ、借りてる間は、一定の頻度でクエストの方も手伝ってもらうぞ。そのためのものだからな」
そう言って、グリゴレさんが笑う。
なるほど、そのために、冒険者ギルドが色々と手助けをしてくれるのか。
まあ、お金を出してるのは、教会の方らしいけど。
とにかく、ようやくと言うべきか、俺の身分証を手に入れることができた。
どうやったのかは謎だが、グリゴレさんから、俺の手に渡る際に、カードがピカッと光って、その後で、自分のステータスが、カードにも転写されていたのだ。
何だよ、このとんでもカード。
一応、これも魔道具って扱いになるそうだ。
まあ、魔法が絡んでたら何でもありだよな、とは思うが。
「まだ、セージュの冒険者ランクはFだ。そっちのランクは、功績をあげると少しずつ上がっていくから、そこから頑張ってくれよ」
「ま、無理に上げる必要はないけどな。あたしの知り合いでも、面倒くさいからって、本当はAランクになってもいいのに、Cランクのままのやつもいるし」
その辺は人それぞれだ、とカミュが苦笑する。
一応、冒険者ギルドのランクはFからAまであって、トップランクがAってことらしい。
ちなみに、一定以上のランクがないと、個別のクランとかギルドを立ち上げることはできないので、そっちを目指す場合は、頑張れってことらしい。
俺の場合、βテスターとして、まったりと楽しんでいきたいので、今のところは、クランがどうこうってのはあんまり考えてないかな。
楽しそうなところがあったら入ってもいいとは思うけど。
ともあれ。
ギルドカードとは別に、報酬で初めて、こっちの世界のお金を手にすることができたのは嬉しいな。
全部硬貨ってことだから、けっこうな重さになるかと思ったが、意外と細かく硬貨が分けられているらしく、今の俺だと、100,000N金貨が2枚と10,000N金貨が2枚、それに1,000N銀貨が10枚になった。
このくらいだとそれほどの重さじゃないな。
まあ、いざとなれば、アイテム袋に入れてもいいみたいだし。
「両替とかに関しては、商業ギルドでやってるぞ。手数料込みで、お金を預かったりもしてくれるから、その手の相談があったら行ってみるといい」
「額面によっては、小さな店では使えないものもあるしな。正直、その辺の買い物で、高額の金貨を出したところで、嫌がらせか、って思われるのかオチだしな。ふふ、その辺は、常識の範囲内で選んで使うようにな」
グリゴレさんとカミュの忠告に頷く。
その辺は、向こうの基準と大きくは変わらないようだしな。
そんなことを思いながら、俺はクエスト報酬の重みを喜ぶのだった。




