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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第7章 精霊の森と……編
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第243話 農民、周囲を振り返る

「何が起こった……?」


 その場で呆気にとられているのは俺だけではなかった。

 最後の破片を回避した後、後ろを振り返ると、ルーガが倒れているのが見えた。

 それを周囲にいたみんなが慌てて介抱している。


 逆に言えば、最前線で戦っていた俺やユウ、それにエディは最後の方で何がどうしてどうなったのかが、まったくわからなかったのだ。


 いや……はっきりしていることはひとつ。


「どうやら、破片は動きを止めたようだな」

「そうだね、ユウ。一応はこれで倒したってことになるみたい」


 ユウとエディがそう言って、お互いの顔を見て頷いている。

 改めて、俺も『鎧』が立っていた場所に目を遣ると、さっきまで『鎧』がいた地点を中心として、粉々に砕け散った破片が周囲に散乱している光景だった。

 あと、さっきの謎の光が破片の一部を彼方へと飛ばしてしまったので、これで全部ではないだろうけど。


 まあ、『鎧』の検分は後回しだ。

 少なくとも、すでに沈黙しているようだし、それに、だ。


 頭の中に、例のぽーんという音が響いた。



『クエスト【試練系クエスト:『流血王の鎧』の暴走を止めろ】を達成しました』



 クエスト達成のアナウンスが流れた。

 これなら、『鎧』は倒したということで間違いないだろう。

 なので、そっちはユウたちに任せて、俺はすぐに倒れているルーガの元へと向かう。

 ユウたちにも、『討伐系』のクエスト達成のメッセージが流れたみたいだしな。


「大丈夫なのか? ルーガは?」

「そうね、マスター。気を失ってるだけみたいよ?」

『いきなり倒れるからびっくりしたよー』

『いきなりじゃないでしょ、ウルル。その前の光の槍みたいなのも、そうでしょ?』

「あ、そうだったのか?」


 さっきの最後に放たれた光は、ルーガが発したものだったらしい。

 というか、横で見ていたビーナスやなっちゃんもびっくりしたらしく。


「驚いたわよ。ルーガって、てっきり弓での攻撃が得意だと思ってたんだもの。もしかして、さっきのも弓の技なのかしら?」

「――――きゅいきゅい!」

「マスターは知ってたの?」

「いや……俺も今まで見たことがなかったぞ?」


 ビーナスに尋ねられたけど、俺もルーガに関しては魔法とかは使えないって思ってたからな。

 何せ、『スキルなし』だし。

 もっとも、この『スキルなし』も曲者で、スキルとして存在しないものでも、ある程度はルーガもこなせていたことは知っている。

 弓に関しては言うまでもないよな。

 たぶん、スキルに換算すれば、『弓技』レベルのことはできていたはずだ。

 何せ、鳥モンさんたちとの戦闘で、かなり離れた距離を飛ぶ鳥モンにも命中させていたからな。

 正直、『PUO(こっち)』の世界の狩人(ハンター)ってすごいんだな、って思ってたし。

 後は、『鍛冶』修行での成功までの早さとか。

 あれで、俺は『鍛冶』スキルを覚えることができたから、ルーガも今の俺と同程度の技術はあるはずだし。


 だから、ルーガに関しては、この『スキルなし』って、ステータスに表示されないだけで、能力自体は持ってるんじゃないか、って俺も疑っていたのは事実だ。


 ただ、魔法に関してルーガが使ったことはなかったので、何となく、魔法は無理なんだろうぐらいに考えていたんだが。

 さっきの光って、速度といい、威力といい、かなりのものだったよな?

 何せ、あっという間に『鎧』に着弾して、そのまま、彼方まで飛んで行ってしまったわけで、少なくとも、かなりの遠距離攻撃が可能であることは間違いないだろう。


 結局何なんだろうな、と思っても、当のルーガはと言えば、気を失ったままで、グリードさんの介抱を受けている状態だし。


 と、そのグリードさんが頷いて。


「どうやら、魔力枯渇が原因のようだな。自分の限界以上の力を使い果たしてしまったのだろう。まあ、危ないところではあったが、命に別状はなさそうだ」

「本当ですか!? グリードさん!?」

「ああ。『枯渇酔い』の症状がひどいがな。下手をすると一日は目を覚まさないだろうが、時間経過と共に徐々に回復していくはずだ」


 そっか、良かった。

 ルーガも無事ってことか。


 というか、さっきの状況を振り返ると、このルーガの攻撃がなかったら、少なくとも、俺は『死に戻っ』ていた可能性が高いよな。

 いち早く、『鎧』の動きに反応していたユウや、少し離れた場所にいたエディウスなら、致命傷は避けられたかもしれないけど、俺はどうやっても無理だったし。


「ありがとな、ルーガ」


 未だ意識は戻っていないけど、ルーガに向かってお礼を言う。

 どういう能力を使ったのかは知らないけど、ルーガが無理してくれたおかげで助かった、って。


「それにしても『光の槍』か……一応、それに関してはオットーからの報告でもあったぞ? 『一区』のトラップゾーンで使用された形跡があるようだな」

「えっ!? そうなんですか!?」


 グリードさんの言葉に驚く俺。

 どうやら、俺たちとはぐれた時の出来事みたいだな。

 となると、その時にルーガと一緒にいたのはカミュか。


 ……って、相変わらずカミュの姿はないんだが。

 どこ行ったんだ? あの不良シスターは。


「魔法か、武技か、どういう能力かまでは特定できなかったようだがな。まあ、何にせよ、助かった。結果的にあの『鎧』を倒してくれたわけだしな。俺たち、精霊種からも礼を言おう。もっとも、それはルーガが目を覚ました後で改めてだがな」

『うんうんー! ちょっと怖かったもんねー、あれ』


 全然魔法が通じなかったもんねー、とウルルちゃんが笑う。

 グリードさんも『精霊の森』の管理者のひとりとして後でお礼するって。

 それに、そもそもの原因でもあったクレハさんたちも、申し訳なさそうに謝っていたけどな。

 そっちも、ルーガが目を覚ました後に、改めてって形になるだろうけど。


 一方で、そのウルルちゃんなんだけど、シモーヌちゃんの肩のところに浮いているのはいいとして、今、見た目はほとんど裸の状態なんだよな。

 それが精霊種の本体の姿なんだろうけど、緊張が解けた今の状態だと、ちょっと目のやり場に困ると言うか。

 まあ、横のアルルちゃんもそうなんだけど。

 そう、俺が言うと。


『あー、ちょっと待ってね、セージュ。今戻るからー』

『別に自然の姿なんだから、恥ずかしいとかないと思うんだけどね』

「いや、ふたりとも、『森』の『外』に行きたいなら、もうちょっと恥じらいを持った方がいいぞ」

「ふふ、そうね。セージュ君みたいな男の子ばっかりじゃないわよ?」


 だから気を付けなさい、ってアスカさんも言ってくれた。

 てか、俺はアスカさんの中では純情って評価らしい。

 うん……?

 どっちかって言えば、ヘタレか?

 ええ、悪うございましたね。

 まだ経験不足で免疫がないんですってば。


『ふーん? 別にセージュなら見てもいいよー?』

『恩人でもあるしね』

「だから、見せんでええっての!」


 怒った俺に対して、どこかからかうような感じでふたりが羽衣を着た『人化』状態へと戻る。

 屈託なく笑っているウルルちゃんたちだ。

 うん。

 精霊種って、どこかそういうところがあるよな。


 そうこうしていると、ユウとエディウスもこっちの方へと近づいて来た。


「どうやら、そっちも落ち着いたみたいだな?」

「ああ。何とか死人がでなくて良かったよ」


 一歩間違えれば、誰か死んでもおかしくなかったもんな。

 いや、一番危なかったのが俺なんだけどさ。

 そういうと、ユウたちも笑って。


「おかげで助かったよ、セージュ。ユウと連携が取れる相手って実は貴重だからさ。おかげで、俺もちょっと楽できたし」

「少なくとも、俺とエディだけだったら、もっと苦戦していただろうな」

「そうか? そういう感じにも見えなかったけどな」


 何だかんだ言っても、あの『鎧』にダメージを与えてくれたのって、ユウの『剣術』まがいの攻撃だったしな。

 うちの仲間たちだと、みかんが一番頑張ってくれたけど、それでも、功労賞ってことになれば、ユウとエディウスだろう。

 そもそも、エディウスの『雷』がなければ、至近距離での攻撃回避とかも難しかっただろうし、いざとなれば、そっちは『剣術』も使えたんだろ?

 うん。

 やっぱり、強いな、正騎士になったふたりは。


「それで、な。悪いんだが、あっちに散らばっている『鎧』の破片なんだが、俺たちが回収して行ってもいいか? 次のクエストが発生して、必要なんだ」


 ユウがそう尋ねてきたので、俺も他の同行者に確認を取る。


「俺たちはいらないぞ。というか、『戦闘狂』どもの遺品を『森』には持ち込みたくないというのが本音だな」


 グリードさんたちには不要なものらしいな。

 というか、呪われそうだ、って。


 あと、アスカさんもほとんど役に立ってないからいいって言ってるし、クレハさんたちも迷惑をかけたからという理由で辞退してくれた。

 俺たちのパーティ内でも似たような感じかな。

 俺は、ちょっと破片の素材に関して興味があったけど、ユウたちに新たに発生したクエストで必要ってことらしいので、それならいいやってことになった。


 ちなみに、ユウたちに発生したクエストはというと。



『クエスト【収集系クエスト:『流血王の鎧の欠片』】が発生しました』

『注意:こちらのクエストは強制クエストとなります』

『引き続き、【連鎖(チェーン)クエスト:王妃の寵愛シリーズ】のひとつでもあります』

『そのため、今までのクエスト同様、成功失敗に関わらず物語が次へと進みます』

『あなたの思うがままの行動してください』



 『討伐系』のクエストが終わったと思ったら、すぐ次のクエスト発生か。

 しかもこれも『連鎖系(チェーンクエスト)』らしいし。


「たぶん、回収が終わるまで、例の魔道具も使えないって仕様みたいだしな」

「そうだね。なので、これ、終わらせないと国に帰れないんだよ、俺たち」

「本来なら、協力者全員で分けないといけないんだろうがな、申し訳ないが、これに関しては貸しにしておいてもらえると助かる」

「わかった。それでいいよ」


 帰れないってなると可哀想だもんな。

 別に貸しにしなくてもいいけど、その辺はユウたちの気が済まないってことなので、そういうことで落ち着いた。

 後は、このまま、この辺の欠片を回収した後で、飛んで行った分を探しに行くとのこと。


「それじゃあ、ここでお別れだな」

「あー、そっか。ちょっと残念だな」

「はは。まあ、また会う機会もあるだろうさ。それに『けいじばん』が使えない情報に関しては、別ルートでセージュにも回すようにしておくよ」

「わかった」


 ちょっとの間だけだけど、ユウと一緒に戦えて楽しかったしな。

 今度は俺がレジーナの王都に行ってもいいだろうし。

 まあ、まずは、『オレストの町』の家づくりの続きからだけどな。


 そんなこんなで、軍馬に乗って去っていくユウたちを見送る俺たちなのだった。

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