第239話 農民、レジーナの話に驚く
「そういえば、ユウって、どうやってそんなにたくさんスキルを覚えたんだ?」
ふと、気になったことを尋ねてみた。
ステータスを『鑑定』した時、ユウの持つスキルの数に驚かされたのだ。
レベルアップと違って、新しいスキルを得るのって、かなり難しいように思っていたのだが、そんな俺の問いに対して、ユウの口から驚くべき言葉が返って来た。
「ああ。俺の場合、数値化してるし、スキルに関しても自分で選んでいるからな。強敵を倒すとスキルポイントがもらえたりするから、今やってるクエストと並行する形で、いくつかは追加することができたんだ」
「あ! そっか!」
そういえば、俺も忘れてたけど、『ギフト』を選択しない迷い人もいるんだったよな。
オレストの町で会った知り合いも『ギフト』の比率が高かったし、そもそもステータスやスキル構成に関しては、お互いで詳しく情報交換はしてなかったしな。
案外、『けいじばん』の戦闘系スレッドとかなら載ってたかもしれないけど、その辺はちょっと見落としていたし。
確か、テツロウさんやヨシノさんあたりは、能力を選択したはずだ。
なるほどな。
ユウの場合、連続クエストをこなすことで、自然とスキルポイントを得られたりしたらしく、それでどんどんスキルを追加していったらしい。
「『訓練系』のクエストで覚えたものもあるけどな」
そういうケースもある、って。
一応、騎士として必須の『騎乗系』のスキルとして、『乱騎乗』というスキルに関しては、そっちのやり方で覚えたのだとか。
乱騎乗……要するに『乱騎乗』のスキル。
ただ騎乗するだけじゃなくて、騎乗した状態で武器による攻撃を安定して行えるようなレベルに到達して初めて覚えられるスキルなのだそうだ。
「エディも訓練の時に一緒に覚えたんだ。それまでは『騎乗』のスキルしか持ってなかったみたいだしな」
「別に暴れ馬でもなければ、『騎乗』だけでも簡単な攻撃はできるからね。ただ、騎士団に入った以上は恥ずかしい真似はするなってこと」
「団長、鬼軍曹みたいだったぞ? エディにそう言ってもわかってくれなかったけど」
「うん、『鬼軍曹』は知らないけど、正直、二度と『乱騎乗』の訓練は受けたくないね。だから、日々の訓練は欠かさないようにしないと」
そう言って、ぶるっと震えるエディウス。
というか、ユウも口元の笑みが引きつっているぞ?
相当にハードな訓練だったらしい。
詳しくは、禁則事項にも絡むので教えてもらえなかったけど。
要するに、スキルには使っているうちに新しく覚えるものと、クエストなどがきっかけになって覚えるもの、そして、ユウのようにスキルポイントを集めて、それと交換する形で覚えるものがあるようだな。
てか、何気にスキルポイントって重要な気がするんだが。
俺も最初に数値化を選んでおけば良かったよな。
……って、あれ?
ちょっと待てよ?
何か、今のユウの説明で違和感を覚えたんだが。
あ、そうだ。
ユウって、最初の時点で『騎士見習い』だったんだよな?
それは自分で選んだんじゃないのか?
あれ? でも確か『けいじばん』で勝手にそうされたとか言ってなかったか?
「職業に関しては、俺も後で選ぼうと思ったら、いつの間にかそうなってたんだ。たぶん、チュートリアルの時にそうされたんだろうと、今は思ってるな」
「え? チュートリアルの時にか?」
どういうことだ?
一瞬、ユウの言いたいことがわからずに首を傾げる。
――――と!?
危ねっ!? 今、『鎧』の石礫を避けそこなうとこだったぞ!?
いけないいけない。
話しながらも、戦闘の方にも意識をしないとな。
そんな俺に対して、少し呆れているのか、ただ苦笑しているのか、ユウが頷いて。
「たぶんな。何せ、後で知ったが、俺のチュートリアルの担当が王妃様だったからな……何が『後で会いましょう』、だ。絶対にわかっててやってただろ、あれ」
「は!? 何だそりゃ!? え……? レジーナの王妃様がチュートリアルにも関わっていたのか? あ、もしかして、その王妃様もナビさんだってことか?」
驚きつつも、世界のあっちこっちにナビさんがいるって話だから、そういうケースもないとは言えないだろうとは思う。
だが、ユウは首を横に振って。
「詳しくは俺もわからないぞ。その手の質問は全部はぐらかされたからな。他にも数人は受け持ったとは言ってたぞ? セージュは『オレストの町』で他の迷い人から話は聞いてないか? 王妃様の名前はハイネック・レジーナガーデンだ」
「いや、ユウ、ちゃんと名前の方にも様を付けなよ。どこで聞いてるかわからないよ?」
「今更だろ? さんざん無茶振りされるし、このぐらいは大目に見てくれるだろ」
「いや、王妃様はそうかも知れないけど、他の人の目が怖すぎるんだけど……」
――――何ですと!?
いや、俺の横では器用にも、『鎧』の攻撃をかわしながら、王妃様の扱いについて口論しているふたりがいるんだけどさ。
けっこう、衝撃だったぞ。
「ユウ……」
「何だよ、セージュ?」
「ハイネがレジーナの王妃様なのか?」
「ちょっと、セージュ! だから、王妃様の名前にもきちんと様を付けてよ!」
「いや、エディ。別にいいだろ。セージュの場合、俺たちと違って、うちの国の臣民でもなければ、騎士でもないんだから」
というか、それよりもだ、とユウが話を続けて。
「やっぱり、セージュも名前ぐらいは知ってたか。で、その話は誰から聞いた?」
「いや、誰からも何も、本人から聞いたんだが」
俺のチュートリアル担当もハイネだったし。
そう、ユウに答える。
「そうなのか!? じゃあ、セージュも何か変なことされたか?」
「変なことって言われてもなあ……」
てっきり、最初のチュートリアルなんてみんな一緒だと思ってたから、他の迷い人さんからも詳しい話なんて聞かなかったぞ?
なので、他の人たちとの違いがわからないのだ。
てか、ハイネがレジーナ王国の王妃なのかよ?
俺の記憶の中だと、くすくす笑ってるだけの狐耳女性の姿しか浮かばないんだけど。
ただ、エディウスの反応から見ても、それは間違いなさそうだ。
というか、だ。
「レジーナ王国って、妖怪種の国だったっけ?」
「は? 何言ってるんだよ、セージュ。どっちかと言えば、うちの国、人間主体の国だぞ?」
「うん、王侯貴族は総じて人間種だね」
「いや、ちょっと待て。俺、ハイネ本人の口から妖怪種だって話を聞いたぞ?」
「何だって!?」
いや、それを聞いたユウたちがびっくりしてるけどさ。
ユウもチュートリアルで担当だったんだろ?
だったら、狐耳と尻尾をつけたハイネと会ってるはずだろ?
「いや、そっちもちょっと待てよ、セージュ。俺が会った時は普通にドレスを着て、玉座みたいなところに座ってたぞ?」
獣系の耳や尻尾は付いてなかった、とユウ。
ただ、俺の言葉にも思うところがあったのか、エディウスの方を向いて。
「王妃様が妖怪って可能性はあるか?」
「いや、ないだろ。俺、小さい頃、歴史書を読まされたことがあるし。そもそもそんな話聞いたことがないぞ?――――っと、危なっ!?」
否定しつつも多少は動揺したらしく、危うく石礫をかわしそこなうエディウス。
身につけていた鎧の端をかすって、そこが損傷する。
「少なくとも初耳ってことだろ。エディ、あんまり動揺するな。それより、先に『鎧』を片付けるぞ。今のままだとどんな爆弾発言が飛び出すかわかったもんじゃないし」
そう言って、ユウが剣を構え直す。
「ユウ、『剣術』は?」
「まだスキル化には届いていないが、何度か近い感触があった。その証拠に、さっきよりもあいつの動きが鈍ってる」
『鎧』本体にはダメージが当たらなくても、その周辺にあるものは削れているはずだ、とユウが口元に笑みを浮かべる。
「習得してなくても、『剣術』は使えるのか?」
「進化先のスキルに関してはそうだな。たぶん、『けいじばん』ではすぐに削除される情報だろうが、初期のスキルとは違って、上位スキルは安定して使えるようになって初めて、スキル化するようだ」
俺の『剣技』なんかがそうだった、と。
へえ、そうなのか?
確かに、その他のケースでも、スキルがなくてもその行為自体はできたりするもんな。
『鍛冶』や『調合』なんかもそうだし。
だから、上位スキルは習得が難しいのだとか。
ユウの話だと、魔法の場合、『応用』と『上級』以上がそんな感じなのだそうだ。
『基礎』と『初級』『中級』までは使って行ってレベルをあげることで到達できるけど、そっちの方は補助なしでのコントロールが必須になるらしい。
「『水』の『剣術』だからって、必ずしも水を纏った感じにならないのが見極めが難しいところだな。まあ、何にせよ――――」
もう一度、ユウが水平方向での剣戟を繰り出して。
どこか不敵に笑う。
「――――このまま、押し通すぞ」




