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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第7章 精霊の森と……編
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第235話 農民、騎士とリンクする

「『精霊の森』の側か」


 『鎧』との間合い詰めながら、ユウが口元に笑みを浮かべる。

 セージュも頑張ってクエストを進めているんだな、って。


「ああ。ここからずっと西の方に行くと、俺たちのスタート地点でもある『オレストの町』にたどり着けるな」

「なるほど。なら、そっちでテツロウとかクラウドさんたちとも会えるってことか」

「あれ? ユウ、そのふたりのことは?」

「向こうで直接会ってる。同じ東京の『施設』だからな」


 あー、なるほど。

 そうなんだよな。

 この『PUO』の場合、連絡手段がゲームの中だけじゃないからな。

 ログアウトしている状態だったら、同じ『施設』の人と会って、直接情報交換とか世間話とかできるもんな。

 俺もラウラとか、十兵衛さんとかとはそんな感じだし。

 てか、『精霊の森』だと、『けいじばん』やメール機能が封じられていたから、昨日今日にかけての話に関しては、俺もほぼクローズド状態だったからな。


 あっ!?

 今なら、メール機能が復活してるか?

 いや、さすがにだらだらとメールチェックしてる場合でもないんだが。


 俺とユウも話しながらも、『鎧』との距離を詰めているし。

 軽く情報交換をしたあと、久々にユウとゲームで一緒に戦うことにもなったしな。


 お互いの手札を簡単に確認して。

 俺が知っている『流血王』の話について伝えて。

 ここまでの経緯なども一通り教えて。

 それを聞いたユウが頷く。


「それじゃあ、その『マーキング』を解呪するのはうまく行かなかったんだな?」

「みたいだな。そうだろ? ビーナス」

「だからそうだってば! 何度も言わせないでよ、マスター!」


 あんまり、こっちに恥かかせない! とビーナスがぷりぷりと怒る。

 まあ、怒るというよりも、失敗したことを申し訳なく思ってるみたいだけど。

 さすがに、ビーナスのそれと『鎧』のそれだと条件が違ったらしい。


 そもそも、ビーナスって、別に解呪が得意なわけじゃないみたいだしな。


 ちなみに、俺がマスターって呼ばれていることに関しては、ユウも聞くなり、ちょっとびっくりしたり、吹き出したりしていた。

 俺の性格的に、あんまりそういう感じの関係を結ぶとは思っていなかったらしい。

 いや、笑いながら、『セージュらしいな』とは言われたが。


「エディ! 次のタイミングでスイッチ! 俺とセージュが受けと攻めに移るから、後方から援護してくれ!」

「いいけど、そっちのセージュ君? って、誰さ!?」

「俺と同じく迷い人(プレイヤー)で友人だよ! 信頼できる! だから、例のやつ、広げてもらってもいいか!?」

「了解! ユウの言葉だから信じるけど! でも、詳細は伝えないでよ!?」


 そこまで俺はセージュ君の人となりを知らないから、とエディウスさんが遠くから叫ぶ。


「何のことだ、ユウ?」

「エディの今展開してる能力と、ここからの戦闘に関する話だ。セージュなら、ついて来れるだろ。ちょっと前に一緒にやってた『戦争系』のゲーム。あれと似たような感じで攻めるぞ」


 いいか? とユウが言葉を続けて。


「あれ、無線のインカムが使えただろ? 今の俺たちも似たようなことをやってるんだ。もっとも距離が離れすぎるとだめだから、無線とはちょっと違うんだが」

「へえ、そうなのか?」


 そんなことをやってたのか?

 だから、ユウにしてみれば、俺なら大丈夫ってことらしい。

 例の『戦争系』のゲームの時の連携を覚えてるか? って、一応確認されたので、それについてはあっさりと頷く。

 さすがにまだ身体が覚えているからな。

 何せ、ちょっと前まで普通にプレイしてたし。


「今から、俺がセージュに『同調』の魔法をかける。それを拒絶しなければ、近距離だったら、思考がお互い繋がった状態になれる。簡単に言えば、インカムを使ってやり取りしているような感じで、それよりもラグが短くなるってな」

「あっ!? 『同調』か?」

「知ってるのか?」

「前にカミュにかけられたことがあるぞ」

「へえ……思った以上に侮れないな、その『けいじばん』で噂のシスターさん」

「肝心の本人が、ちょっと前から行方知らずだけどな」


 感心したように言うユウに対して、俺は俺で苦笑を浮かべる。

 本来だったら、カミュも一緒に戦っているはずなんだが。

 残念というか、戦力ダウンというか。

 まあ、かなり強めのNPCだからなあ。

 もっと、俺たちも頑張れ、って話なのかもしれないよな。


 それにしても、『同調』か。

 ユウの話だと、誰かとコンビを組んで戦う場合、それを使っているとかなり有効に働く魔法らしい。

 『戦争系』のゲームでインカムでやり取りしているような。

 即時性の連携が取れるようになる、と。


 そうこうしていると、ユウが『同調』とつぶやいて、俺に対して『同調』モードがかかった。


 ――――と。


「えっ!?」


 かかったのと同時に、周囲にあわい黄色の光が漂っているのが見えた。

 いや、違う。

 見えるようになった、だな。


 たぶん、これって。


「びっくりしたか? セージュ、お前にも見えるな?」

「ああ、黄色くて淡い光がな」

「これ、エディが展開している能力なんだ。詳細に関しては言えないが、要は、この空間の中だったら、相手の動きを普通より少し早く感知できるんだ」


 攻撃とかかわすのには打ってつけだな、とユウが微笑する。

 ただ、俺は少し前のグリードさんとウルルちゃんのことから別のことに気付いていた。


「これが『雷』か?」

「――――えっ!?」

「おい、ユウ!? 詳細はばらすなって言ったろ!?」

「俺も言ってないぞ、エディ!? ……よく気付いたな、セージュ」

「気付いたのは俺じゃないって。あっちのグリードさんたちなら普通に見えるんだと。何せ『精霊種』だからな」

「ああ、素で見えるのか。なるほど、さすがは精霊というべきか」


 俺も『同調』しないと見えないんだが、とユウが苦笑して。

 向こうで、エディウスさんも戦いながら、少し呆れたような表情を浮かべているぞ?

 どうやら、あの人にとっても切り札のひとつだったらしいな。


 でも、俺も『鑑定』でエディウスさんが『雷魔法』を持っているのを知ってるし。

 さすがに基本属性じゃないから、目につくんだよな、あれ。


「別に、俺の知り合いにも雷の精霊はいるからな。『森』にはほとんど雷系統のやつはいないが、周囲の『小精霊』にも影響を与えているんだ。このぐらい、精霊なら気付いて当たり前のことだ」

『うんうんー、グリードおじさんの言う通りだよー』


 『精霊眼』なら普通に見えるもんねー、とウルルちゃんが笑う。

 とは言え、何をやっているか、まではウルルちゃんだと難しいみたいだけど。


「要は、微細な電気を張り巡らせているってことだ。だから――――」


 言いながら、ユウが『鎧』との距離を詰める。

 それに気付いた『鎧』が礫を放つも、その時には既にその射線上にはユウの姿はない。


『相手の挙動がより把握しやすくなるってことだ』


 ――――っ!?

 頭の中にユウの声が響いた。

 これが『同調』で繋がっている状態か!?


 あー、確かに、インカム付けている状態に近いな。

 ただ、それよりも『声』が近いような気がするが。


『せっかくだから、ちょっとやり合ってみようぜ』

『ユウ、お前、楽しそうだな?』

『当たり前だろ? セージュはそうじゃないのか?』


 本当に、当然のごとく返って来た言葉に、一瞬俺が考えて。


『――――楽しい!』


 そう、笑顔で、頭の中で言葉を返答して。

 ちょっとぶりのユウとの共闘へと身を転じた。

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