第235話 農民、騎士とリンクする
「『精霊の森』の側か」
『鎧』との間合い詰めながら、ユウが口元に笑みを浮かべる。
セージュも頑張ってクエストを進めているんだな、って。
「ああ。ここからずっと西の方に行くと、俺たちのスタート地点でもある『オレストの町』にたどり着けるな」
「なるほど。なら、そっちでテツロウとかクラウドさんたちとも会えるってことか」
「あれ? ユウ、そのふたりのことは?」
「向こうで直接会ってる。同じ東京の『施設』だからな」
あー、なるほど。
そうなんだよな。
この『PUO』の場合、連絡手段がゲームの中だけじゃないからな。
ログアウトしている状態だったら、同じ『施設』の人と会って、直接情報交換とか世間話とかできるもんな。
俺もラウラとか、十兵衛さんとかとはそんな感じだし。
てか、『精霊の森』だと、『けいじばん』やメール機能が封じられていたから、昨日今日にかけての話に関しては、俺もほぼクローズド状態だったからな。
あっ!?
今なら、メール機能が復活してるか?
いや、さすがにだらだらとメールチェックしてる場合でもないんだが。
俺とユウも話しながらも、『鎧』との距離を詰めているし。
軽く情報交換をしたあと、久々にユウとゲームで一緒に戦うことにもなったしな。
お互いの手札を簡単に確認して。
俺が知っている『流血王』の話について伝えて。
ここまでの経緯なども一通り教えて。
それを聞いたユウが頷く。
「それじゃあ、その『マーキング』を解呪するのはうまく行かなかったんだな?」
「みたいだな。そうだろ? ビーナス」
「だからそうだってば! 何度も言わせないでよ、マスター!」
あんまり、こっちに恥かかせない! とビーナスがぷりぷりと怒る。
まあ、怒るというよりも、失敗したことを申し訳なく思ってるみたいだけど。
さすがに、ビーナスのそれと『鎧』のそれだと条件が違ったらしい。
そもそも、ビーナスって、別に解呪が得意なわけじゃないみたいだしな。
ちなみに、俺がマスターって呼ばれていることに関しては、ユウも聞くなり、ちょっとびっくりしたり、吹き出したりしていた。
俺の性格的に、あんまりそういう感じの関係を結ぶとは思っていなかったらしい。
いや、笑いながら、『セージュらしいな』とは言われたが。
「エディ! 次のタイミングでスイッチ! 俺とセージュが受けと攻めに移るから、後方から援護してくれ!」
「いいけど、そっちのセージュ君? って、誰さ!?」
「俺と同じく迷い人で友人だよ! 信頼できる! だから、例のやつ、広げてもらってもいいか!?」
「了解! ユウの言葉だから信じるけど! でも、詳細は伝えないでよ!?」
そこまで俺はセージュ君の人となりを知らないから、とエディウスさんが遠くから叫ぶ。
「何のことだ、ユウ?」
「エディの今展開してる能力と、ここからの戦闘に関する話だ。セージュなら、ついて来れるだろ。ちょっと前に一緒にやってた『戦争系』のゲーム。あれと似たような感じで攻めるぞ」
いいか? とユウが言葉を続けて。
「あれ、無線のインカムが使えただろ? 今の俺たちも似たようなことをやってるんだ。もっとも距離が離れすぎるとだめだから、無線とはちょっと違うんだが」
「へえ、そうなのか?」
そんなことをやってたのか?
だから、ユウにしてみれば、俺なら大丈夫ってことらしい。
例の『戦争系』のゲームの時の連携を覚えてるか? って、一応確認されたので、それについてはあっさりと頷く。
さすがにまだ身体が覚えているからな。
何せ、ちょっと前まで普通にプレイしてたし。
「今から、俺がセージュに『同調』の魔法をかける。それを拒絶しなければ、近距離だったら、思考がお互い繋がった状態になれる。簡単に言えば、インカムを使ってやり取りしているような感じで、それよりもラグが短くなるってな」
「あっ!? 『同調』か?」
「知ってるのか?」
「前にカミュにかけられたことがあるぞ」
「へえ……思った以上に侮れないな、その『けいじばん』で噂のシスターさん」
「肝心の本人が、ちょっと前から行方知らずだけどな」
感心したように言うユウに対して、俺は俺で苦笑を浮かべる。
本来だったら、カミュも一緒に戦っているはずなんだが。
残念というか、戦力ダウンというか。
まあ、かなり強めのNPCだからなあ。
もっと、俺たちも頑張れ、って話なのかもしれないよな。
それにしても、『同調』か。
ユウの話だと、誰かとコンビを組んで戦う場合、それを使っているとかなり有効に働く魔法らしい。
『戦争系』のゲームでインカムでやり取りしているような。
即時性の連携が取れるようになる、と。
そうこうしていると、ユウが『同調』とつぶやいて、俺に対して『同調』モードがかかった。
――――と。
「えっ!?」
かかったのと同時に、周囲にあわい黄色の光が漂っているのが見えた。
いや、違う。
見えるようになった、だな。
たぶん、これって。
「びっくりしたか? セージュ、お前にも見えるな?」
「ああ、黄色くて淡い光がな」
「これ、エディが展開している能力なんだ。詳細に関しては言えないが、要は、この空間の中だったら、相手の動きを普通より少し早く感知できるんだ」
攻撃とかかわすのには打ってつけだな、とユウが微笑する。
ただ、俺は少し前のグリードさんとウルルちゃんのことから別のことに気付いていた。
「これが『雷』か?」
「――――えっ!?」
「おい、ユウ!? 詳細はばらすなって言ったろ!?」
「俺も言ってないぞ、エディ!? ……よく気付いたな、セージュ」
「気付いたのは俺じゃないって。あっちのグリードさんたちなら普通に見えるんだと。何せ『精霊種』だからな」
「ああ、素で見えるのか。なるほど、さすがは精霊というべきか」
俺も『同調』しないと見えないんだが、とユウが苦笑して。
向こうで、エディウスさんも戦いながら、少し呆れたような表情を浮かべているぞ?
どうやら、あの人にとっても切り札のひとつだったらしいな。
でも、俺も『鑑定』でエディウスさんが『雷魔法』を持っているのを知ってるし。
さすがに基本属性じゃないから、目につくんだよな、あれ。
「別に、俺の知り合いにも雷の精霊はいるからな。『森』にはほとんど雷系統のやつはいないが、周囲の『小精霊』にも影響を与えているんだ。このぐらい、精霊なら気付いて当たり前のことだ」
『うんうんー、グリードおじさんの言う通りだよー』
『精霊眼』なら普通に見えるもんねー、とウルルちゃんが笑う。
とは言え、何をやっているか、まではウルルちゃんだと難しいみたいだけど。
「要は、微細な電気を張り巡らせているってことだ。だから――――」
言いながら、ユウが『鎧』との距離を詰める。
それに気付いた『鎧』が礫を放つも、その時には既にその射線上にはユウの姿はない。
『相手の挙動がより把握しやすくなるってことだ』
――――っ!?
頭の中にユウの声が響いた。
これが『同調』で繋がっている状態か!?
あー、確かに、インカム付けている状態に近いな。
ただ、それよりも『声』が近いような気がするが。
『せっかくだから、ちょっとやり合ってみようぜ』
『ユウ、お前、楽しそうだな?』
『当たり前だろ? セージュはそうじゃないのか?』
本当に、当然のごとく返って来た言葉に、一瞬俺が考えて。
『――――楽しい!』
そう、笑顔で、頭の中で言葉を返答して。
ちょっとぶりのユウとの共闘へと身を転じた。




