第233話 農民、騎士と出会う
「うわあ……石飛ばしてるなあ、『鎧』のやつ」
「元々、この辺りは穏やかな平原なのだがな。見事におあつらえ向きの石が近くにあるから仕方ない」
『えー? 岩山ごと飛ばしたのは、グリードおじさんたちだよねー?』
戦場に近づくにつれて、わかったことは、だ。
例の『岩山』な。
あれ、『鎧』と一緒に飛ばしたおかげで、それを『鎧』が粉々に砕いたらしく。
元々は『精霊の森』側の山中にある、なだらかな高原地帯であったはずのその場所の辺り一面に、大小さまざまな石や岩が散らばってしまったというわけだ。
それを『鎧』のやつが近くにいる『騎士』たちに向かって、手当たり次第に飛ばしまくっているわけで。
変な方向目がけて飛んできた礫に関しては、俺たちの方にも飛んでくる始末だ。
……結局、シューティングゲームは続行かよ。
ただ、それでも、だ。
俺たちの目の前で『鎧』と戦っているふたりの『騎士』。
少なくとも、俺が見た感じだと、かなり強いとは思った。
何せ、至近距離にも関わらず、あの弾幕を避け続けているからだ。
銀色の鎧を身にまとったふたりの『騎士』。
ひとりは最前線で『弾』を回避しつつ、剣による攻撃を繰り返して。
もうひとりは、その後方から、『鎧』の死角を位置取りしつつ、長い槍を使って、その攻撃の重みで『鎧』の体勢を崩している。
それにしても、驚きなのはその動きの速さだ。
全身鎧のようなもの着ているにもかかわらず、石礫の弾幕をかわす時の動きの機敏なことと言ったら、ちょっと遠目に見ていても感動するぞ。
……というか、だ。
やっぱり、そうだよな?
「ふうん? あれが騎士? 初めて見たよ?」
「きゅい――――♪」
「それにしても、思ったよりも重装備なんですね? 騎士というからには、何かに乗るものだと思っておりましたが」
「少し離れた場所に軍馬が二頭いるな。おそらく、あれが連中の騎獣なのだろう」
『あっ!? 本当だー! お馬さんがいるねー』
『この辺りだとめずらしいわね。『森』の中にはグリードおじさんが連れてきた子たちがいるけど』
お!? 馬だ!
グリードさんたちが示した方角の遠く離れたところに二頭の馬がそろって控えていた。
遠目だからわかりにくいけど、黒い馬と白い馬で二頭だ。
というか、あれも普通の馬じゃなさそうだぞ?
どっちの馬にも角が生えているのだ。
二本? 三本?
どっちにせよ、ユニコーンではないみたいだけど。
「『軍馬』系統のモンスターは、ここよりもずっと南に生息しているな。レジーナ王国には、馬を産業にしている領地もあるぞ」
「随分と角が鋭いのですね?」
「まあな、アスカ。馬系のモンスターにも色々な種類がいるが、あの二頭はどちらも荒っぽい系統の種族だな。それだけに、その馬を従えている連中の力量もうかがえるな」
興味深い能力を持っているようだな、とグリードさんが付け加える。
「え? 興味深い能力ですか?」
「ああ、そうだ、セージュ。そうだな……ウルル、お前ならわかるか? あの槍を持ったやつの周辺の『小精霊』をよく見てみろ」
『えーと……? あっ!? すごーい! これって雷だねーっ!』
「えっ!? 雷!?」
『うんー、そうだよー。セージュには見えない? あの、槍の人の周辺からけっこうな広範囲で、うすーく、『雷』の魔法が張り巡らされているのー。周辺の『小精霊』もちょっとざわざわしてるみたいだし』
そうなのか?
いや、じっと目を凝らしても、まったくわからないんだが。
というか、俺の『鑑定眼』が反応してしまって、ふたりの能力とかを勝手に読み取ってしまったんだが。
名前:エディウス・オーガスタ
年齢:17
種族:人間種
職業:騎士(レジーナ第九騎士団正隊員)
レベル:◆◆◆
スキル:『身体強化』『部分強化』『感覚強化』『雷魔法』『水魔法』『剣術』『槍技』『小剣技』『剣舞』『馬上槍』『乱騎乗』『捕縛』『暗視』『解体』――――それ以上は情報限界による『鑑定不可』
名前:ユウ・ス
年齢:16
種族:人間種
職業:騎士(レジーナ第九騎士団正隊員)
レベル:◆◆
スキル:『水魔法』『闇魔法』『剣技』『小剣技』『大剣』『槍』『馬上槍』『双剣』『鑑定眼(モンスター)』『暗視』『乱騎乗』『捕縛』『虫の知らせ』『身体強化』『自動翻訳』――――それ以上は情報限界による『鑑定不可』
「やっぱり、ユウじゃないかよ!」
いや、レジーナ王国の騎士団ってところで引っかかっていたんだけどさ。
前方で今も延々と『鎧』の攻撃を紙一重で回避しつつ、次から次へと攻撃を叩きこんでいる騎士。
その動き方に何となく見覚えがあったんだよなあ。
戦争系のゲームで、ユウが銃弾を回避する時によくやっていた回避動作だ。
何がすごいって、ユウのやつ、機関銃とかの乱れ撃ちみたいなのも近距離でかわすなんて芸当もできたからな。
正直、横で見ていても、人間業とは思えなかったし。
やり方についても、一応、一度だけ簡単にレクチャーを受けたことがあるが、そもそも、俺みたいな普通の人間じゃ、向けられた銃口の向きと、相手の指の動きから、着弾までの一瞬で、射線とそのタイミングを見切るなんてことはできなかったから。
ユウに言わせると、慣れや経験で何とかなるらしいけど。
さておき。
とりあえず、許可なく『鑑定』をしてしまったものは仕方ない。
てか、ユウのステータスに関しては、色々と突っ込みどころがあるんだが。
そもそも、名前からして何だよ?
『ユウ・ス』って。
家名が『ス』一文字なのかよ?
ものすごく適当感があるよなあ。
それはまあ、いいとしても、だ。
いつの間にか、『騎士見習い』から『正隊員』になっているのも驚きと言えば驚きだし、何より、そのレベルだ。
俺の『鑑定眼』で読めないってことは、ユウのやつ、もう二桁後半になってるってわけで。
やっぱり、すごいな、ユウは。
俺も十兵衛さんとかには負けるけど、それなりに頑張ってるつもりだったんだけど、ずっと先を行かれてしまった感じだ。
スキルに関しても、かなりの数になってるみたいだしな。
今の俺の『鑑定』では、全部のスキルが読み取れないみたいようだしな。
「セージュ、知り合い?」
「あの騎士の片方はな」
ルーガの問いかけに対して、俺がそう答えると、周りにいた人たちがびっくりしたような表情を浮かべて。
「そうなの、セージュ君?」
「ええ。俺のゲーム友達のユウです。ほら、『けいじばん』の方にもたまに吹き込んでくれてましたよ?」
『けいじばん』では『騎士見習い』としか言っていなかったから、ちょっとびっくりですけど、とだけ付け加える。
少なくとも、アスカさんやクレハさんたちなら、ユウの名前ぐらいは見覚えがあるはずだ。
そう思っていたんだけど。
「そもそも、セージュ君、顔がわからないのに、よく個人を特定できたわね?」
「えっ……? いや、別に普通に『鑑定』で名前が見えましたけど?」
「あら? 『鑑定』が通じましたの? わたくしの『鑑定眼』ですと、『それ以上は情報限界による『鑑定不可』』という表示だけで、あちらの方々のお名前も読み取れませんでしたが?」
「お嬢様の言う通りです。わたくしも『鑑定眼』のスキルはございますが、これと言った情報は読み取れませんでした。『精霊種』への『鑑定失敗』とは異なるようですが」
「そうなんですか?」
あれ?
じゃあ、何で俺は読み取れたんだ?
『鑑定眼』のレベルの差、か?
まあ、たぶん、そんなところだろう。
俺にしても、全部のステータスが読み取れたわけじゃないし、そもそも、他のモンスターのように、個々のスキルのレベルについてはわからないしな。
「確か、あのレジーナの騎士の鎧――――レザーアーマーには鑑定妨害の処置が施されていたはずだ。だからだろうな」
「えっ!? あれ、レザーアーマーなんですか!?」
いや、グリードさんの言った『鑑定妨害』もびっくりだけど、それ以上に驚かされたのは見た目はどうみても金属っぽい銀色の、あの鎧が革鎧だったってことだ。
何の革だよ?
まあ、そうだよな。
馬に乗るってことは、あんまり重量があったら馬が潰れちゃうもんな。
金属製のフルプレートなんて無理があったか。
だからこそ、あれだけ機敏に戦えるんだろうな。
――――と。
俺が感心していると、その騎士と目が合った。
兜で顔が隠れているので、はっきりとはわからないけど。
ほぼ同時に頷く、俺とその鎧の騎士。
今、ちょっとした違和感があったから、向こうも俺のことを『鑑定』したのだろう。
よし。
ようやく、ゲームの中で合流できたよな。
緊迫した戦闘の中にあって。
それでも、ユウと出会うことができたのを喜ぶ俺なのだった。




