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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第1章 チュートリアル編
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第23話 農民、町長さんの話を聞く

「おい、カミュ……何だか面倒なことになったぞ?」

「はは、さっきのはセージュ、あんたが悪い。嘘つくんだったら、徹底的に笑顔に徹して、『美味しかったです』って作り笑いで済まさないとな。せめて、『お好きな人にはたまらないですね』とか『素材の味が生きてます』とか、上手に誤魔化すぐらいにしておかないと、あれじゃあ、普通にばれるっての」


 『大地の恵み亭』から冒険者ギルドへ戻る帰り道、愚痴る俺に対して、それをカミュがあっさりと笑い飛ばす。

 自業自得だって感じで。

 いや、最初に口に合わない系統で、話を進めてたのは、カミュとジェムニーさんなんだが。

 何というか、ものすごい貰い事故のような気がするぞ?


 というか、だ。


「あれで強制クエストが発生するってことは、俺以外でも迷い人だったら、クエストを受ける羽目になりそうだよな」

「うーん、それはどうだろうな?」

「えっ? どういうことだよ」

「いや、さっきのセージュの場合、何がまずいって、しっかりと一口一口味わった上で、ジャッジを下したことがまずいんだよ。そもそも、素材的に受け付けないとか、匂いでダメだったって感じの相性の問題じゃなくて、『この料理自体はしっかりと食べられます。でも、美味しくはないです』って、ある意味、かなり料理を作った側にはダメージを与える評価だったからなあ」


 うん、あれは落胆するだろ、とカミュが苦笑する。

 えーと。

 別に俺、そんなつもりじゃなかったんだけど……。

 でも、今のカミュの言葉を聞いて、冷静に考えると、かなりひどいことをしてしまったんだな、って後悔がじわじわと込み上げてくるような。


 うわあ……やっちまったかも。


 肩を落とす俺に対して、ものすごく良い笑顔を浮かべて、カミュがポンポンと背中を叩いてきた。


「はは、まあ、ドランの気が済むまで付き合ってやるんだな。いいじゃん、別に。料理の味見をして、一食分の金が浮いたって思えば」

「軽く言ってるよな……あ、そういえば、カミュ、さっきの料理って結局、いくらだったんだ?」


 何だかんだで、支払いの一部をただにされた上に、カミュに支払ってもらったから、よくわからなかったのだ。


「ドランのおすすめと、ジェムニーの魔素料理、それぞれ500Nだ。だから、普通に支払ってたら、全部合わせると2,000Nだな。はは、ちょっとだけ得したよな。てかな、セージュ、店内にはきちんと、メニューとかの料金が貼られてたんだから、しっかりとその辺にも気を配れよ」

「あ、そうだったのか、ごめん」


 というか、ジェムニーさんと出会った衝撃とかで、そういうのが吹っ飛んでたな。

 人型のスライムさんなんて初めてみたし。

 表面が少しぷるぷるしていたから、個人的にはちょっと触ってみたいとか思ったのは内緒だ。

 さすがに相手が女性ってことになるとハラスメントのコードに引っかかるしな。


 あれ?

 そういえば、カミュの食事代も俺が払ってることになるのか?

 さっきのお金って、クエスト報酬の前借りみたいなもんだよな?


「ふふ、そのくらいは勉強料だと思いな。てか、あたしら監督を引き受けた冒険者も、けっこう長い時間付き添うんだから、飯ぐらい奢ってくれよ」


 まあ、カミュの姿で、笑顔でそう言われると何も言えんが。

 どこからどう見ても、俺より年下だし。

 一応、冒険者としては先輩なんだから、とか思っても、こっちの世界だと先輩が飯を奢る文化とかはあんまりないのかも知れないな。

 町の外を普通にモンスターが歩いているような世界だし。


 そんなことを話しながら、また再び冒険者ギルドへと戻って来た。

 そろそろ報酬の計算とかは終わったかな? とか考えていると、ギルドの建物に入るなり、グリゴレさんが笑顔で俺たちのところまでやって来た。


「おう、待ってたぞ。食事の方は済ませてきたんだな? 美味かったか?」

「ええ、まあ」


 さすがに、『ええ、まあ』としか言えないよな。

 もう、同じ失敗は繰り返さないぞ、俺も。


「そうかそうか。それじゃ、ちょっと、一緒に来てもらうぞ。カミュはどうする? 監督の仕事はこれでひと段落ってことで、いそがしいなら他に行ってもらっても構わないが」

「あ、いいよ。あたしもついて行くよ。それって、ラースボアの件も含めてだろ? だったら、あたしも同席した方がいいだろうしな」


 報酬の三分の一はあたしも貰えるしな、とカミュが微笑を浮かべる。


「よし、そういうことなら話が早いな。それじゃあ、行くぞ、セージュ」

「ちなみに、どちらまで行くんですか?」

「町長の家だ。ラースボアの件で報告したりしたんだが、せっかくだから、セージュにも直接会ってみたいんだと」

「町長さんですか?」

「そうだ、この町を含めた、この一帯を管轄している領主さまだな」


 俺の質問に、グリゴレさんがそう答える。

 へえ、領主さまかあ。

 って、ことは貴族とかそういう人ってことか?

 あれ? でも、カミュが前に教えてくれた話だと、この辺って、国と国の間にある場所ってことになってなかったか?

 俺がそう尋ねると。


「あー、そっか、そこもセージュ、あんたは知らないだろうな。こっちの世界だと、貴族かどうかは別にして、各町には必ず、『領主』って呼ばれる存在がいるんだ。てか、『領主』がいないところは、まともな集落を維持できないんだ」

「えっ!? それはどういうことなんだ?」


 あれ?

 なんだか、物々しい話になってきたな?

 俺がそんなことを考えていると、カミュが真面目な顔で。


「セージュもさっき、討伐系のクエストを済ませてきただろ? さあ、ちょっと考えてみろ。町の外には危険なモンスターが闊歩している。たまには、さっきのラースボアみたいな突然変異のものも現れる。はい、ここまでで何か気付いたことはないか?」

「えーと……気付いたこと?」


 うーん、カミュの言葉から考えるに、こっちの世界は危険がいっぱいってことだよな?

 確かに、冷静に考えると、門から一歩外へ出た場所でも、普通にモンスターが生息しているってことは、もしそのモンスターが好戦的なやつなら、町や村だって襲い掛かってくるだろう。

 うん、そう考えると、よく町や村がこの小さな規模で保ててるよな。

 普通は、もうちょっと、しっかりとした城壁とかで囲って、モンスターへの対策とかも万全じゃないと、危ない気がするんだが。

 この町の門にしたところで、門番が数人いるだけだし、町を囲っている柵にしたところで、さっきのラースボアとかだったら、それよりもずっと高いしな。


 そんなことも加えた上で、気付いたことをカミュに伝える。

 と、カミュが我が意を得たりって感じで、笑顔を浮かべる。


「ああ、そういうことだ。な? おかしいと思ったろ?」

「そうだな。確かに、指摘されるとかなり変だ。さっきの大蛇と会った後だと、この町の門とか柵程度じゃ心もとないとは思うぞ」

「そのために、『領主』がいるんだ」

「どういうことだ?」

「まあ、早い話が、『領主』ってのは、町や村、それらの集落の『結界管理者』ってやつなんだ。その町の安全を護るための術式、それを管理している者を『領主』として、長の役割をやってもらってるってな」


 へえ、そうなのか?

 なるほど、一見普通の町に見えた、このオレストの町にも、しっかりと、町を護るための結界ってやつが存在していたらしい。

 モンスターの襲撃などがあっても、その結界によって護られる。

 そういう風になっているのだそうだ。


「これは、どこの国、どこの都市に行っても変わらない。まあ、モンスターの村とかだとちょっと違うところもあるがな。だからこそ、国によっては、王とか貴族とかの特権階級が存在しているんだよ。王ってのは、結界の管理を任された一族の長ってこった。まあ、それが、個人の能力なのか、魔道具の管理によるかは、それぞれの場所によって異なるがな」

「なるほどな」


 つまり、裏を返せば、結界の無い場所には人は住めない、あるいは住むのがものすごく大変になるってことか。

 で、王国なり帝国なりで、支配階級が存在するのも、『結界管理者』としても立場があるからってことらしい。


 いや、へえ、って思ってたけど、今から、俺もその『領主』に会いに行くんだよな?

 うわ、何だか、緊張するなあ。


「あ、心配しなくてもいいぞ、セージュ。ここの町長は別に、貴族でもなんでもないし、割と人の良い性格をしてるから」

「ああ。どちらかと言えば、周りの護衛とかのがしっかりしてるよな。そっちは町長を護るのが仕事だから、多少睨んでくることもあるが、あんまり気にするな」

「はい、わかりました」


 カミュとグリゴレさんがそれぞれ、そう教えてくれた。

 領主さま、って言ってもとっても気さくな感じの人なのだそうだ。

 と、そこまで聞いて、ふとあることに気付く。


「あれ? そういえば、町長さんの家ってどこにあるんですか?」


 町は一通り見て回ったけど、それらしい家があった記憶がないんだが。

 もしかして、見た目は他の家とあんまり変わらないのか?

 実際、教会が一番立派な建物って感じだったしな。


「ふふ、そりゃそうだ。町長の家の場所は、許可のないものにはわからないようになってるからな。そういう結界が張られているんだよ。な? セージュ、それだけでも、何となく、ここの町長の実力が伝わって来るだろ?」


 そう言いながら、カミュが楽しそうに笑う。

 ここの町長さんは、自分の力で結界を張れる人なのだそうだ。

 ふーん?

 それは凄そうだけど、そのカミュの言い方だと、自力で結界を張れる『領主』って、他の土地だとめずらしいのか?

 そんな風に感じられた。


「だから、町長がギルドまで出向いてくるんじゃなくて、家まで招いてくれるってことは、中々のことなのさ。ふふ、ラースボアの一件は、そういうことだってな」

「じゃあ、そろそろ行くぞ。カミュ、セージュもだ。あんまり、ゆっくりしてると、町長はまだしも、周りの連中に俺がどやされるからな」

「わかったわかった。ほら、セージュ、こっちだ」

「了解」


 そんなこんなで、その、町長さんをあんまり待たせないように。

 俺たちは、その家へと向かった。

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