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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第7章 精霊の森と……編
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第230話 農民、攻撃に転じる

「セージュ! 『土魔法』は盾として使おうとするな! 視界が狭くなるだけでほとんど意味をなさないからな! そうではなくて、さっきの俺のように相手の動きを阻害するように、狙うといい!」

「はいっ!」


 グリードさんの少し後方へと、俺たちがたどり着くなり、すぐに『鎧』がこちらへ向かって突進して来た。

 

 ――――速い!


 遠くからでも、『鎧』が左右にステップしたりするような動きが速いように見えてはいたが、近づいたことでその速度がより一層速く感じるのだ。

 そして真っ直ぐ、剣を突き刺すような動きと共に突進してくる動作は、一拍で、瞬時に間合いを詰めてくるような恐怖を伴っていた。


 なので、俺が反射的に『土壁(アースウォール)』を発動させたところ、即座にグリードさんからダメ出しが飛んだのだ。


 強制的に『土壁(アースウォール)』の発動が解除されて。

 『鎧』の下半身部分にかけての、纏わりつくような泥状の枷が発動して、それが『鎧』の突進を無効化する。


 俺は俺で、その忠告に頷きつつ、呼吸を整えながら、『鎧』からの距離を取る。

 やはり、怖いな。

 一撃必殺の攻撃を持っている相手が、一気に踏み込んでくるだけで、頭ではわかっていても恐怖を感じて、一瞬、どうしていいのかわからなくなるのだ。


 ――――落ち着け。


 今見たことからもわかるが、『鎧』はその動きに制約があるな。

 グリードさんの泥による攻撃でも、巻き込まれたのは下半身の、ほとんどが脚の部分だけだったにも関わらず、上半身の装備や兜の部分までもそちらに引きずられるように突進を止めてしまったのだ。

 おそらく、『鎧』を動かしている――――その形状を保っている『小精霊』はある程度の人型を維持する必要があるのだろう。

 さもなければ、『鎧』の腕と手の部分と、持っている剣だけを伸ばして攻撃すればすむ話だし。


 それはできないらしいな。

 まあ、それが可能なら、さっきまでのオットーさんの穴開き結界の内側に、手甲と剣だけで飛び回らせればいいのだから。

 そういうでたらめな攻撃はされていない以上は、まだ大丈夫だろう。


『心配しなくても、ギリギリのタイミングを見て、僕も結界をコントロールするからねっ! 色々やってみて!』


 まあ、その調整だけで手いっぱいになっちゃうから、とオットーさん。

 攻撃に混ざることはできないから、それで頼む、ってことらしい。


「わかりました――――『石礫(ストーンバレット)』!」


 だから、俺も『土魔法』での攻撃に転じる。


 ただし、ちょっとだけアレンジをする。

 同時に、ビーナスに向けて、攻撃するように指示を出して。

 『鎧』に向かって、角度をつけるように右方向へと駆ける。


「『石礫(ストーンバレット)』! もう一丁! 『石礫(ストーンバレット)』!」

「こっちも行くわよっ! 貫け――――! あと、ルーガもこの実を狙って!」

「うん! わかったよっ!」


 さっきまでは牽制のために、ひとつずつとしてのみ発動していた『石礫(ストーンバレット)』を三連で打ち出してみた。

 同時発動ではなく、わずかな時間差を狙って。

 最初の石の散弾は、ゆっくりと発動するように、わずかな時間、停滞したままで留めるようにするイメージで。

 残りの二連は、『鎧』に向かって、円を描くように俺が走りながら、移動砲台として一点を集中砲火するイメージで。


 1、2、3のタイミングでそれぞれの魔法が『鎧』に向かって解き放たれる。


「――――――――!?」


 おっ!?

 最初の礫群はほとんどが打ち消されたか!?

 やっぱり、あの『鎧』、攻撃に対する反応速度が並みじゃないな。

 どう剣と身体を動かしたら、正面から飛んでくる無数の礫を撃ち落せるんだよ?


 だが、そのぐらいはこっちも計算づくだ。


 初手は的になるように。

 そして、残りのふたつは、魔法の並行発動によって、ひとつは直線的な軌跡で、もうひとつは目算が外れるのも覚悟の上で、上から下へとドライブするように弧を描いて。


「―――――――!」

「よしっ! 命中っと!」

『うん! やるね、セージュ君。でも、そのままの位置だと狙われるとまずいから、すぐに移動ね』


 二発目と三発目の礫による散弾が『鎧』に命中して。

 喜んでいる俺に対して、すかさずオットーさんから注意が飛ぶ。

 今、動きながら、魔法を放ったので、グリードさんたちの場所から、九十度ぐらいずれているんだよな。

 そのままだと矢面に立つことになるので、慌てて、定位置まで駆ける。


 ――――と。


 戻っている間にも、ビーナスの『音魔法』とルーガが放った『ビーナスの実弾』がほぼ同時に『鎧』に着弾して。


「――――――!?」


 お、『鎧』が声なき声をあげたな?

 今までの反応よりも大分強い気がするぞ?

 どうやら、今のビーナスたちの攻撃がそれなりに効果があったらしいな。


「おっ? 少し動きが鈍ったか?」

「ルーガちゃん、今のって何を投石器で投げたの?」

「ビーナスお手製の『実』だよ。前にも、鳥さんたちと戦った時にも投げたやつ」

「すごいですわね? 当たった途端、破裂してましたわよ?」

『へえーへえー、植物系の種族のオリジナル炸裂弾みたいなものかな? うん、そっちは良いけど、ビーナスちゃん、今、魔法で剣を狙ったでしょ? そっちはやめて』

「何で? 声だけの人。そもそも、あなたどこにいるの?」

『うん、その辺はあんまり気にしないで。僕、今、本体は少し離れたとこにいるからさ。それよりも、皆にも言っておくけど、色々攻撃を試すのはいいけど、武器破壊みたいなのを狙うのはやめてね? ぶっちゃけ、剣に頼ってる状態のがマシだから』

「そうなの?」


 オットーさんの言葉に、剣、あるいは剣を持っている手の部分を痺れさせようとしていたビーナスが小首を傾げる。

 いや、実際、『実の弾』は麻痺とかそっち系の効果があるから、それも含めてビーナスは狙ったんだろうな。


 いや、俺も今のオットーさんの言葉には驚いたんだが。

 そもそも、武器による攻撃に注意ってことは、剣を破壊するか奪うかした方が効果がある気がするんだけど、違うのか?

 たぶん、ビーナスも事前情報から考えて、武器破壊を狙ったんだと思うのだけど。


「一応、俺もさっき注意したんだがな。今、あの『鎧』が持っているロングソードだけの方が、俺たちとしては動きが読みやすいんだよ」


 だから、剣を破壊するのはあまり望ましくない、とグリードさん。


『もちろん、確証はないけどね。でも、今の『鎧』の能力がどこまで『武器』と認識するかによって、かなりまずいことになるかも、だよ? 実際、その辺の『木の棒』でも『武器』になる可能性があるし、そうなれば、ね? 怖いよね、って』


 木の棒だと刃がないけど、そもそも、そんなの関係ない能力なのだ、と。

 

「えーと……ちょっと待ってくださいよ? ということは、つまり? あの『鎧』って剣を持っていた方が弱いってことですか?」

「まあ、そうだな」

『うん。少なくとも、元の使い手のプライドみたいなものも残ってるのかもねー。剣による決闘とかにこだわりがあるとか。そうでなければ、さっきの『石礫(ストーンバレット)』ね。あれみたいな感じで打ち出す武器とか使えば、本気で対処不能になるもん。いやあ、良かったよね。そういう使い手じゃなくて』


 すごいな……。

 もし、銃とかがあれば、敵なしの能力じゃないか?

 どうやら魔法には効果を乗せられないみたいだけど。


「そんなことより! どうするのよ!? 今、動きが鈍ってるんだからチャンスじゃないの!」


 感心してないで、倒し方教えなさい! とビーナスが怒る。

 うん。

 そうだよな。

 すごい正論だよなあ。

 そもそも、あの『鎧』ってどうやって倒すのか、俺も聞いてなかったよな?

 さっき生き埋めになったにも関わらず、まだ普通に動いてるし。


『うーん、そうなんだよね。原型がなくなるまで破壊するのが確実だけど、素材的にちょっと難しそうなんだよね』

「だから、俺たちとしては、捨てるって話になったんだよ。ただ、さっきのビーナスの『実』か? あれ、『死の鎧(リビングメイル)』にも効果があるとは驚きだ。今の状態だったら、もう一つの手が使えるだろうな」

「その手、ってのは何?」

「憑いている『小精霊』を喰らいつくすのさ。ちょうど、それが得意なやつもいるしな」

「――――ぽよっ♪」

「えっ!? みかんが!?」


 マジか。

 ビーナスもびっくりしたみたいだけど、俺もびっくりだよ。

 まさか、この空飛ぶ果物モンスターが今回の敵に有効なのかよ。


「マスター経験のあるレランジュボールなら、『小精霊』の奪い合いなんてお手の物だからな。今、少しばかり、周囲に漂っている『小精霊』の濃度が薄くなってきたので、俺たちが同じことをやろうとすれば、この区画そのものが危うくなる可能性もあるしな」


 なので、できない、とグリードさんが肩をすくめる。

 精霊種と比べても、どうやら、このみかんの方が『小精霊』のコントロールには一日の長があるのだとか。

 確かに、延々と大きくなったり、すぐに回復したりしてたもんな、みかんって。

 周囲の『小精霊』を取り込むのは得意ってことか。


「よし! そっちの作戦で動くか。オットーと俺で対応するから、その隙にみかんは『(あいつ)』が持っている『小精霊』を喰らい尽くせ。他のやつらは、自分の身を護りつつ、みかんのフォローな」

『了解ー』

「みかん、あなた大丈夫?」

「――――ぽよっ♪」

「意外とやる気はありそうだな」

『そうね。だったら、わたしたちもみかんを護るように動くわ。これできっちり借りを返すわっ!』

『うんうんー! ウルルたちも頑張るよー。あ、もちろん、シモーヌを護りながらだけどねー。今の状態だと強めの精霊術も使いにくいしー』

「頑張ります!」

「クエッ!」


 うん。

 とりあえず、方針は決まったな。

 ルーガとビーナスは引き続き、『実の弾』で狙う方向で。

 カールクン三号は途中まで、みかんの移動のサポートってことで。

 というわけで、なぜか俺がビーナスを背負うことになって。


「いい? マスター、きびきび動きなさいよ!」

「はいはい」


 作戦がうまくいくように俺も全力を尽くすからな。

 『身体強化』を使っている状態なら、ビーナスぐらいならそんなに重くないし。


 そんなこんなで。

 再び、『鎧』に向かって展開する俺たちなのだった。

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