第229話 戦闘再開
「……何だったの、今の?」
「あいたたた……」
『すごい揺れだったねー』
「ゲームの中で地震にあったのは初めてですわ」
「皆さん、お怪我はございませんか?」
「一瞬、何が起こったのか、わからなかったよ?」
「……グリードさんが使ったのって、もしかして、地震を起こす魔法?」
すごい横揺れが収まった後。
それぞれが思い思いのことを口にする。
周囲を見ると、今の揺れの影響か、『鎧』が下敷きとなった山の一部が崩れかけていて、それを更に大きな氷の塊が覆っている風になっていた。
他の場所では地面がひび割れているところもあるので、それなりに被害は大きかったようだな。
というか、すごいな、この氷山。
たぶん、オットーさんが使った魔法っぽい何かが原因だろうけど。
『氷結封印』とか言っていたから、『氷魔法』か?
さっきのグリードさんの『地震』ってのは『土魔法』の一種だよな?
名前にそれっぽい響きも入っているし。
そういえば、精霊種って、天候操作とか自然現象を操ったりする能力に長けているんだっけ?
それをはっきりと理解できる威力だよな。
なるほどな。
これが、『精霊の森』の実力者の力か。
さっきのウルルちゃんたちの魔法もすごかったけど、それよりも規模に関しては桁が違うというか。
「おい、グリード。今の地震は自然現象じゃないって言ったな?」
「ああ。そうだ、カミュ。オットーの見立てでは、この地震は『精霊の森』の『二区』よりも内側にはほぼ影響がないそうだ。つまり、範囲を限定されているんだ」
だから、俺もこの周囲に限定して打ち消すことができたんだ、とグリードさん。
揺れの規模とパターンをオットーさんが即座に把握。
その情報を元に、グリードさんが揺れを打ち消せる規模で、最小限の威力の『地震』を発動。
それで被害を最小限に抑えたのだとか。
「今ので最小限……なんですか?」
「まあな、セージュ。もっと威力を高めることもできるが、その分、別のリスクも跳ね上がるんだ。その辺が魔法の難しいところだな」
「前にセージュたちには制御の話をしたよな? 今、グリードたちが使ったみたいな大規模魔法には制限があるんだ。周辺魔素の問題があるからな……って、今、その話は後だ。嫌な予感がするぞ」
『だねっ! ちょっとまずいよっ!? そこにいる全員! すぐに氷山から距離をとって!』
急いでっ! というオットーさんの音声が響く。
その切羽詰った感情を受け取って、俺たちも慌てて動く――――と。
ピシッという小さな音が聞こえて。
それが少しずつ氷山全体へと広がっていって。
『やっぱりダメだっ!? 内側にわずかに空間ができてる!』
「ちっ……封印ごと斬られるな」
グリードさんの呻くような声が聞こえて。
次の瞬間、少し離れた場所から俺たちが振り返ると、氷山の中央が下から上へと放たれた一閃によって真っ二つに分かれて、そこから一気に崩れて行く氷で包まれた岩山の姿があった。
「やはり、あのぐらいでは死なないな」
「とは言え、さすがに無傷ってわけじゃなさそうだぞ? 血塗れの度合いが増している」
グリードさんの言葉に、カミュが頷きながら嘆息する。
分かたれた氷山の根元の部分には、血塗れになった『鎧』が剣を振りかざした状態でたたずんでいた。
禍々しさでは、先程よりも大分ひどい姿になってるよな。
というか。
あれ、剣だけで斬ったのかよ?
さすがにあれだけ巨大な氷山を斬るってのは、実際に目の当たりにしてもあり得ない光景にしか見えないんだが。
「グリード、さっきまでの戦術は使えるか?」
「結界の展開は可能だが、周辺魔素と小精霊濃度の低下を考慮すると、あまり大規模な攻撃はできないぞ――――アルル! ウルル! シモーヌ! 最大規模の精霊術は使うなよ! 制御の度合いが普通の時より難しくなっているからな!」
『わかったわ! グリードおじさん!』
『ということは、ウルルたちは完全にシモーヌに『憑依』した方が良さそうだねー』
「はいっ!」
カミュの問いに答えるのと同時に、グリードさんからの命令がウルルちゃんたちへと示された。
そのまま、精霊状態というか、裸っぽい姿でふわふわと浮いていたウルルちゃんとアルルちゃんの姿がシモーヌちゃんの側で突然消え失せたかと思うと、次の瞬間、シモーヌちゃんの身体が淡い光を発した。
茶色い光と蒼い光。
それらが時に左右で入れ替わりつつも、シモーヌちゃんの身体を薄い膜のような状態で包み込んでいる。
あれが、『憑依』状態のウルルちゃんたちか?
そういえば、炎の鹿みたいなモミジちゃんもクレハさんに憑りついたりしてたもんな。
これもクレハさんの髪が赤くなるのと同じような現象のようだ。
『ここからはシモーヌを護るのに集中するねー』
『この方が精霊の力を使うのに無駄がなくなるわ』
さっきまでのオットーさん同様に、ウルルちゃんとアルルちゃんの声だけが周囲に響く。
そして、そうこうしているうちに『鎧』が再びこっちに向かって突進して来た。
「仕方ない……俺が相手するぞ! オットー! 援護頼む!」
『了解ー! クレハたちはグリードの後方についてねっ! アルルたちはその側っ! シモーヌと一緒に、クレハたちにもサポートしてねっ!』
『わかったわ』『うん、頑張るよー』
「ねえ、声だけの人、わたしとマスターも『マーキング』を試してもいい?」
『あっ、うん、頼めるかな? ちょっと危ないけど、グリードの後方で近づける範囲まで行ってくれる? そこだったら、僕もちょっと小細工ができるから』
「わかったわ! じゃあ、行くわよ、マスター! 三号!」
「クエッ――――!」
「いきなりだな!? わかったわかった!」
ビーナスに促されて、俺もカールクン三号さんの背中へと慌てて飛び乗る。
すでに、グリードさんも接敵してるし、オットーさんの結界も発動されている状態なので、ここでぐだぐだしてる場合じゃないのもわかるしな。
次々と、オットーさんの指示があっちこっちに飛んでいるし。
――――って、あれ?
カミュの姿がないぞ?
次の行動へと移りながら、さっきまで側にいたはずのカミュの姿が見えなくなっていることに気付いて。
「マスター! ぼうっとしてないで! 行くわよっ!」
「あ、ああ!」
そのことが気になったものの、すでに作戦は動いているわけで。
ひとまず、その疑問は棚上げして。
俺とビーナスはカールクン三号に乗ったままで、『鎧』へとの距離を詰めるのだった。




