第227話 農民、援護する
「不用意に近づくな! 斬られるだけだぞ!」
『うん、あと、僕のフォローも難しくなるから、そこ注意ね』
勢いよく、こちらへ向かって来る『鎧』を遠距離攻撃でいなしつつ、時折、オットーさんの結界で距離を飛ばすのを繰り返していく。
ほとんどの攻撃は通らないが、多少は『鎧』に傷を負わせることはできているようだ。
俺も『土魔法』で手伝おうと、『アースバインド』を使ってみたら、離れた場所に発動するための、その飛距離が大分伸びていた。
みかんとの戦闘などで少しはレベルアップしていたからな。
名前:セージュ・ブルーフォレスト
年齢:16
種族:土の民(土竜種)
職業:農民/鍛冶師見習い
レベル:25
スキル:『土の基礎魔法Lv.28』『土の初級魔法Lv.10』『農具Lv.8』『爪技Lv.15』『解体Lv.9』『身体強化Lv.15』『土中呼吸(加護)』『鑑定眼(植物)Lv.11』『鑑定眼(モンスター)Lv.13』『緑の手(微)Lv.5』『暗視Lv.7』『鍛冶Lv.1』『土属性成長補正』『自動翻訳』
『土の基礎魔法Lv.28』――魔技『アースバインド』
『土の初級魔法Lv.10』 魔技『岩砕き』
魔技『土壁』
魔技『土盾』
魔技『土耕』
魔技『石礫』
みかん戦では身体のレベルはほとんどあがっていないな。
けっこう長い間戦ってたんだけど。
やっぱり、そっちに関する経験値は敵を倒さないとあまり入らないようだ。
その分、スキルの方はそれなりにレベルアップしているけどな。
やっぱり、俺の場合は『土魔法』のレベルアップに補正がかかっているらしく、他の能力と比べると上昇しやすくなっているようだ。
既に初級魔法もレベル10まで到達しているし。
あと、直接攻撃がそれなりなのに、『農具』と『爪技』が上昇しているのもその効果が強いのだろう。
加えて、今、アルルちゃんが使っていた魔技の『石礫』。
あれも使い方と理屈がわかったら、普通に使えるようになっていた。
飛距離は『アースバインド』の使用距離に準じているらしく、たぶん、あっさり覚えられたのも、元々ある程度の下地があったらからだろう。
習得可能なだけのスキルレベルとそのきっかけ。
両方がそろえば、魔技に関しては習得できるというシステムで間違いなさそうだ。
今回も『アルルちゃんに教わったから』というのがあるようだしな。
スキルの補助のシステム的にそうなっているのか?
創意工夫だけだと、新技にたどり着きにくいので、何となくそんな気がする。
魔法に関しては、今の俺たち迷い人だと、スキルの補助がないと自力ではコントロールできていない状態みたいだしな。
ただ、そのおかげで何とか俺も攻撃に参加できていた。
今の今まで、遠距離への攻撃手段がほとんどなかったからな。
敵に近づくな、となると本当に俺って役立たずになってたし。
いっそ穴でも掘ろうかと思ったけど、あの『鎧』、『小精霊』が元になっているから、落とし穴があんまり意味ないみたいなんだよな。
というか、俺が試す前にグリードさんが『アースバインド』を仕掛けてはいたんだが、穴に落ちて一瞬動きは止まるものの、次の瞬間には『鎧』の部位がばらけて、わずかな間ではあるが、部位全部が宙を舞って、罠から逃れてしまうのだ。
いや、バラバラって。
思わず突っ込んじゃったっての。
確かに、元から上半身部分のところは浮いたようになってるのもあるけど、それができるなら、全部の鎧が散らばって攻撃できちゃうだろ。
「どうやら、あいつの能力にも発動条件があるようだな」
「ああ。バラバラの時の攻撃を受けても『切断系』のスキルが発動しなかった」
「だから、不便でも人型を保っている、ってことかしら」
「わざわざ地面に立っているのもそのためだろうな」
敵が飛ばされている間の隙に、色々と推測する俺たち。
少なくとも、絶望的な相手ってわけではないようだ。
倒すための勝ち筋がゼロってわけではなさそうだし。
もっとも、『死に戻り』のリスクが滅茶苦茶高い相手だってことは間違いないけど。
『また来たよっ! 接近までもうちょっと!』
「おい、アルル、ウルル、シモーヌ、行けるか?」
「ええ、狙うわよ!」
「大丈夫ー!」
「標的は合ったままです!」
「よし! 来たぞ! 今だ!」
『鎧』の再接近に合わせて、ウルルちゃんたちが動く。
グリードさんの後方のそこそこ近い場所まで移動して。
シモーヌちゃんを中央に。
アルルちゃんとウルルちゃんがそれぞれ、シモーヌちゃんの左右の肩に手をやる。
――――と。
「あれは!?」
俺たちの目の前で、ふたりの身体が光り出したかと思うと、蒼と茶色の光がそれぞれの全身を包み込んで。
次の瞬間、ウルルちゃんたちが裸になったかと思うと、すぐに二個の球状の光へと変化して、これまたすぐにゆらゆらと揺れる形状の人型へと戻った。
――――『精霊化』だ。
つまり、あれがふたりの本体の姿なのだろう。
人型をとったふたりは、その形に関しては『人化』している時とそれほど変わらないようにも見える。
だが、その実体はゆらゆらと揺らめていて、身体の色も属性の色に帯びているようだ。
シモーヌちゃんを左右から抱きかかえるような形で、ふたりの精霊が顕現して。
それらの意識がシンクロする。
『いっくよー! ウルルとアルルとシモーヌの連携攻撃ーっ!』
「今度こそ動きを止めます!」
『わたしたちの全力、喰らいなさいよっ!』
狙うのは、『鎧』。
用いるのは、大地と水。
『『『泥の龍』――――っ!』』
勢いよくこちらへと近づいて来た『鎧』へ目がけて。
地面から泥状の滝がうねりをあげて吹きあがったかと思うと、その先端が空中で龍のあぎとへと姿を変える。
まるで、咆哮を伴ったかのような形相を浮かべた泥の龍は。
そのまま、上から食らいつくかのように『鎧』を丸飲みした。




