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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第7章 精霊の森と……編
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第224話 戦闘の狭間で

「いや、ちょっと待てよ、カミュ……」


 あまりと言えば、あまりの能力に、足が止まっちゃったぞ。

 急いでグリードさんたちと合流しなきゃ、と思っていたのに、それに完全に水を差すような話を聞いて。

 思わず、周りのみんなとお互いの顔を見つめ合う。


 カミュが言った、その『流血王』の能力。

 正確なスキル名は不明だが、当時の状況を記した文献や、その頃から生きていた長命種の伝聞などから、教会が推測した結論は。

 『切断特化』のスキルだろう、ということらしい。


 要は、『斬鉄剣』みたいなものか?

 でも、あれ、こんにゃくは斬れなかったよな? ってそれは別のネタか。


 さておき。


「魔法も斬れるのか?」

「もちろん、斬る側にも技量は必要だろうがな。斬ることで威力を散らすことができたってのは間違いないらしいぞ? だから、だな。戦うための心得その一。武器による攻撃は受けるな。そのまま斬られるだけだからな」


 な? だからやばいって言っただろ? とカミュがシニカルな笑みを浮かべる。

 いや、いつもよりも目が笑ってないぞ。

 カミュもかなりまずいと思っているってことだろう。


「逆に言えば、やつの持っている武器での攻撃以外はそこまで危険じゃない。剣だったら剣の軌道をよく見て、とにかくかわすことだな」

「遠距離からの攻撃は?」

「あー、ルーガの弓か。まあ、斬られると思った方がいいな。それよりも高速の魔法にも対応できたって話だ。まあ、そうだな。今の『鎧』の技量がどれほどか、ってのもあるだろう。案外、かつての本人より弱いかもしれないしな。『死霊系』であることがどう作用してるかだな――――てか、エヌが関与しているなら、本気であたしにも読めないぞ」

「あーっ!? 見えたよー! ほら、あそこにいるのがグリードおじさんだよー」

「あれっ……? クレハさんたちも一緒……か?」

「『鎧』はいないみたいね?」

「たぶん、結界の機能を使って、遠くへ飛ばしたんだろ」


 納得したようにカミュが頷く。


「とにかく、詳しい状況が知りたい。あそこまで急ぐぞ」

「わかった」


 その場にいた全員がカミュの言葉に頷いて。

 クレハさんたちのいるところまで急ぐ俺たちなのだった。





「なるほどな。だから、あたしらに助力を求めた、ってことか」

「そうだ。あの『流血王』が相手では、俺たちのような精霊には相性が悪い。だからこそ、だな。そもそも、目を付けられているのは、新入りの三人だからな。ならば、同行者殿にも頼むのは当然のことだろう?」


 そう言って、カミュに対して笑みを浮かべるのがグリードさんだ。

 何だろう。

 見た目はギリシャ神話のヘラクレスみたいな人だよな。

 精霊さんなのに、服だけじゃなくて、装飾品とかも身につけているし。

 シンプルな出で立ちなのに、どこかおしゃれなのだ。

 いや、今はそっちを気にしている場合じゃないよな。

 

 ひとまず、距離を稼いだので小休止という感じだけど、またすぐにこっちに向かってやってくるだろうというのが、グリードさんの見立てだそうだ。


 というか、だ。

 ここで話を聞いて、ようやく合点がいった。

 例の『鎧』のモンスターにターゲットされてしまったのはクレハさんとツクヨミさん、モミジちゃんの三人だったんだな?

 それだったら、俺たちも手伝うのは当然のことだろうし。

 ただ、話を聞いていると、これって、前にビーナスがルーガにかけた『マーキング』に近いような気がした。

 呪いが残っている限り、延々と追ってこられる、ってやつな。


 あ、待てよ?


「あの、グリードさん、その『印』って解呪みたいな手段で解けないですかね?」


 ビーナスが前にやっていたことを思い出す。

 似たようなことができれば、わざわざ戦う必要がなさそうだぞ?

 俺はそう思ったんだが。


「あー、セージュ。悪くない考えだが、たぶん、それだと『鎧』が自主的に解除してくれないと難しいと思うぞ? ビーナスのも、本人というか同種だから『マーキング』を解除できたんだろうしな」

「やっぱり、ダメか?」

「いや……面白いとは思うぞ、『お客人』。えーと……名前は?」

「あ、セージュです。セージュ・ブルーフォレストと言います」

「そうか。セージュ。試す価値はあると思うぞ。その『マーキング』とやらを使える供はどこにいるんだ?」

「すみません、今はフローラさんと一緒に『村』の避難を手伝っているところです」


 こういう時に限って、一緒にいないんだよな。

 一応、避難が終わったら合流することになっていると伝える。


「そうか……『遠話』! ――――おい、オットー、聞こえるか?」

『聞こえてるけど、何さ、グリード!? 今ちょっと、結界対応が大変で手一杯なんだけど!?』

「わかってるさ。無理をさせて悪いな。だが、この場所だとお前経由でないと、『遠話』が届かないんだよ。残りの半分以上の結界のラインを下げたからな」


 もうここは『精霊の森』の中と認識されない、とグリードさん。

 えっ!? そうだったのか!?

 どうやら、俺たちがいる場所は、外側の結界と内側の結界の間らしい。

 で、その外側の結界は申し訳程度にして、中の護りを固めたので、もう既に『森』の外側へと変化しているのだとか。

 グリードさんの『遠話』も森の中限定の能力ってことか?


 そう俺が驚いている間にも、グリードさんがビーナスの件をその『遠話』の相手へと伝えて。


「――――ということだ。それをフローラに伝達してくれ。試せることは試しておきたいからな」

『了解。へぇ、それにしても、面白い発想だよねー。よく、ここまで追い詰められている状態で思いつくね?』

「だな。俺もそう思う。おかげで少し頭が冷えた。オットーが稼いでくれた時間を有意義に使うことにするさ」

『うんうん、たぶん、同じ手は通用しないかも、だよ。少しずつだけど、対応が正確になってきてる。グリードもあんまり無理しないでよね。というか、死んじゃ嫌だからね?』

「わかってる。無駄死にはしないさ。いいから、用件だけ頼む」


 どうやら、『遠話』が終わったらしく、グリードさんがこちらに向き直って。


「よし、伝えたぞ。後は合流してからだな」

「ありがとうございます、グリードさん」

「いや、なに、気にするな。それよりも……だな。どうして、お前たちも一緒に来てるんだ?」


 どこか呆れたような、それでいて咎めるような口調でグリードさんが、ウルルちゃんたちの方を見る。

 一方のウルルちゃんたちもその視線に真っ向から反発して。


「ええっ!? だって、『森』が危ないんでしょ!? そりゃあ、ウルルたちもお手伝いに来るよー、グリードおじさん」

「そうね。それに、私も返さないといけないものがあるし。それ以外の気持ちはウルルと一緒よ?」

「あのなあ、遊びに来てるんじゃないんだぞ? シモーヌまで一緒か?」

「うん、わたしもお姉ちゃんたちと一緒!」

「そもそも、三人そろえば怖いものなしって言ったの、おじさんじゃないのー!」

「そうよ! シモーヌを仲間外れにしないでよっ!」

「……わかったわかった。だが、お前ら、必ず避けろよ? とにかく注意すべきは、武器による攻撃だ。今は剣だからまだ楽だな。あの剣に固執してくれれば助かるんだが……投げナイフとか、弓でも能力は発動するからな」

「げっ!? そうなのか!?」

「おっ? かの、カミュ殿が知らなかったのか? まあ、仕方ないか。俺みたいに長命種じゃないしな」

「ああ、そうだ。別にあたしも当時のことを知ってるわけじゃないからな。あの頃も生きてるあんたらの方が、そういうのは詳しいだろ」


 そう言って、カミュが苦笑する。

 てか、グリードさんもかなりの長生きってことか?

 

「くだんの王が、単独での『一万人殺し』をやってのけたのも投げナイフとかの多投だぞ? 俺も離れた場所で見てたが、あれはえげつないぞ。大軍勢の密集隊形の中に、かわしきれない角度で貫通する投げナイフ、ってな。どうやら、離れすぎると能力が無効になるらしいが、それでも目に見える範囲だったら飛び続けたからな」


 ひどい能力だ、とグリードさんが肩をすくめる。

 ……というか、聞けば聞くほど、何だよそのスキル。

 手から離れた武器でも、一定距離は発動したまま、って。

 どんなチートだよ?


「……よく巻き込まれなかったな?」

「さすがに上空には飛んで来なかったしな。まだ、ゲルドニアの飛竜部隊とかも機能していなかった頃の話だ。ある意味わかりやすい(いくさ)が多かったしな」

「なるほど、確かに『流血王』だな」


 伝承よりも実物の方が数段ひどい、とカミュが嘆息して。

 グリードさんも頷く。

 少なくとも、雑談をしてられる余裕はそれほどない、と。


「で、対策はどうするんだ?」

「ひとまず、結界に穴開けた状態で維持して、武器だけ素通りさせて、隙を見て、鎧の方の小精霊を打ち砕く、って戦法でやってたんだよ。クレハたちには遠距離から『火魔法』で援護射撃と攪乱をしてもらってな」

「ええ、まだまだ行けますわよ」

「――――――――!」


 額に汗を流しながらも、眼には力のあるクレハさんだ。

 ただ、既に疲れているようにも見える。

 クレハさんたちも、自分たちが原因だから必死なのだろう。

 それに俺たちも、せっかく、縁ができたのに『精霊の森』が滅んでもらっては困るので、当然、全力で戦うぞ。


 そんなこんなで。

 嵐の前の静けさのような時間は過ぎて行くのだった。

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