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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第7章 精霊の森と……編
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第221話 農民、突然の警報に驚く

「来たわね。ウルル、アルル、『共鳴』を使いなさい」

「うんっ! ウルルたちいつもやってるもんねっ!」

「シモーヌにも聞こえるようにね」

「お姉ちゃんたち、頑張って!」

「ええ。今日は、ここにいる他の人たちにも聞かせてあげなさい」


 フローラさんの指示に、ウルルちゃんとアルルちゃんが立ち位置を変える。

 俺たちを挟み込むような場所へと左右に広がって、両手を広げるように構えた。

 それを見たカミュが何が気付いたように頷く。


「そうか。『遠話』の内容を外に発することができるのか」

「うんー! ウルルたち双子だからねー。『精霊同調』や『精霊遠話』だったら、『共鳴』を使って、外側に聞こえるようにもできるんだよー」

「本当は、シモーヌのために身につけた能力だけどね」


 カミュの言葉に、ふたりが笑う。

 要はスピーカーみたいな能力ってことか?

 『遠話』ってのは、遠くにいる相手と連絡が取れるようになる能力らしいな。

 たぶん、俺たちが使える『フレンド通信』みたいなものだろう。

 あれは、距離制限があったけどな。


 そして、ウルルちゃんたちはふたりが受け取った『遠話』に関しては、外側にも聞こえるように音を発することができるらしい。


 と、そうこうしていると、その伝達とやらが聞こえてきた。


『はいはーい。こちらトワ・テラルラライト。今から緊急時の伝達を始めまーす。伝達元は『六区』統括、グリード・リリングレイドと『五区』統括、オットー・トトシヴァルグです。まず、伝達事項第一点。現在、ここ『精霊の森』の西側の結界の一部が破られました。グリード他数名が対処に当たっています。敵性生物の侵入者ですが、危険な能力を持っているようですので、決して興味本位で近づかないように! 伝達事項第二点。この伝達を確認後、ただちに避難行動へと移ってください。移動のためのルートは問いません。では、総員退避っ!』


 真っ赤に染まった空の下で、伝達放送のような音が響く。

 これが『遠話』を聞こえるようにしたってことか。

 それにしても、だ。

 どうやら、俺たちとは別に、新たな『侵入者』がいたらしい。

 しかも、結界を強引に破る形で。


「どうするんだ、フローラ? あたしらも避難すればいいのか?」

「もう少し待って。私宛で個別連絡も来ているの。ウルル、アルル、『共鳴』をこっちに合わせて」

「うんー、わかった」

「これでいいわよ、お母さん」

「ええ。ありがと。ここから、会話になるわよ」


 そう言って、フローラさんが耳に手を当てて。


『ここからは個別連絡でーす。宛て、フローラ・ルルラルージュ。現場のグリード・リリングレイドより連絡が入っていますので、そのまま接続しますね』

「わかったわ、トワ。あなたは詳しい話は聞いてるの?」

『トワは伝達係というだけですから。詳細は直接グリード・リリングレイドに確認してくださーい』


 トワという人の少し高めの声が響く。

 どうやら、この警報の伝達係らしい。

 連絡の仲介などもできるということは、そっち系の能力者かもしれないな。


『聞こえるか、フローラ?』

「ええ。それで、どういうことなの? あなたの話だと、結界が破られる可能性もあるとは聞いていたけど、総員退避って、ちょっと規模が違うわよ?」

『悪い。俺も想定外だった。まさか『流血王の鎧』とはな――――いいぞ、オットー! そのまま、穴を維持しろ! 無理に結界を塞ごうとするな! 注意すべきは武器の動きだぞ!――――ああ、悪いな。こっちも想像以上にまずい状況なんだ』

「戦闘中ね?」

『ああ。相手がまずい。最悪、結界で阻めない可能性がある。ひとまず、非常時のルートに関しては、オットーがゲートを開き済みだ。『三区』より奥へとその辺にいる連中を避難させろ。『村』のやつらも含めてな。限定は解除した』

「わかったわ」


 聞こえてくるのは男の低い声だ。

 声色は落ち着ているが、時折、何かの命令のようなものが混じっているので、こちらを心配させないようにしているだけだろう。

 この人はグリードさん、か?

 どうやら、その『敵』と戦闘中らしい。


『避難が終わり次第、フローラ、お前も『四区』に戻って指揮を取れ。俺たちの方は、引き続き、外敵の排除を行なう』

「わかったわ」

『あと、それとだ。お前と一緒に『お客人』がいるな?』

「ええ。今もこの伝達を聞いてもらっているわ」

『よし。それなら好都合だ――――あんたたちに頼みがある。現状、『精霊の森』が危機を迎えている。もし、我々と敵対する意志がなければ、手を貸してもらいたい』

「ちょっと、グリード!? どういうことよ!?」

『言葉通りだ、フローラ。いいか? 『四区』及び『一区』統括、フローラ・ルルラルージュよ。お前、限定的とはいえ、滞在許可を出したのだろ?』

「……そうだけど」

『であるならば、我々が助けを求めることは何らおかしなことではないだろう?』


 勘違いするな、と『声』が続けて。


『お前は『外』の者に借りをつくることを良しとしていないのだろ? だが、さっきも言ったが、状況はあまり芳しくないんだ。躊躇すれば、『森』が滅ぶぞ』

「……それ程に?」

『そうだ。フローラ、お前は知らないかもしれんがな、あの『鎧』はまずい。いや、ただの『鎧』系のモンスターならば俺もここまで焦ってはいない。今、オットーのやつが必死に対応しているが、いつまでもつかわからんぞ』

「――――おい、ちょっと待て!? フローラ、あたしの声を届かせることはできるか!?」

「それは無理ね。私が代わりに伝えるわ」

「なら、その『遠話』の相手に確認してくれ。さっき、『流血王の鎧』とか言ったな?」


 焦燥を強めた口調で、カミュがふたりの会話に割り込んだ。

 普段のカミュとは全然違う、かなり切迫した言葉。

 それをフローラさんがそのまま伝える。


『ああ、そうだ。『外』の者でも存在を知っている者がいたか』

「当たり前だ。だが、ただの『鎧』なんだろ? 別に本人のアンデッドという訳じゃないんだろ?」

『今は『鎧』だけだな。だが、『森』の結界がバターのように斬られた。あれは本物と変わらない可能性がある』

「うげっ!?」


 思わず、カミュが呻いて。


「これもエヌの仕業か!? だとしたら、あの馬鹿、今度会ったら、本気でぶん殴ってやる!」

「あの、カミュちゃん、その『流血王の鎧』はそこまで危険なの?」

「今、グリードも言ってたろ? 下手をすれば、『精霊の森』が滅ぶ。いや……放っておけば、中央大陸そのものもな。もっとも、あたしは知識として知ってるってだけだ。さすがにそんな古くから生きてないしな。だが、伝承が事実だとすれば、さすがにシャレにならないぞ」

『魔法も結界も通用しない。俺らにできるのは回避ばっかりだ』

「なあ、カミュ、その『鎧』って、そんなにやばいのか?」


 鎧のモンスターと聞くと、クレハさんたちが『死に戻り』にあった相手を思い出すんだが。

 というか、同一のモンスターの可能性があるよな?

 そう、俺が尋ねると、カミュも頷いて。


「だろうな。ただ、あたしは高レベルの『死の鎧(リビングデッド)』ぐらいに思っていたんだよ。その場合、鎧の素材とか強度の問題になってくるんだが、今回の場合は使い手だったやつがやばいんだ」

「『流血王』、か?」

「ああ。てか、本物なら、悠長なことをやってる時間が惜しい――――フローラ、相手に伝えてくれ。あたしらに手伝えることがあれば協力する、ってな」

「わかったわ」


 カミュの言葉をそのままフローラさんが伝えて。


『助かる。俺の権限で転移陣の使用を許可する。急いで合流してくれ』

「グリード、あなた今どこにいるの?」

『『一区』の最西端だ。外側の結界がまとめて四つ貫かれた』

「……わかったわ」

『念のためだが、フローラ、お前はこっちには来るな。後方を担当してくれ。最悪、『外』に逃げることも躊躇するなよ』

「了解。カミュちゃんたちを送ったら、私は『四区』に向かうわ」


 そこで通信は終了した。

 そのまま、カミュが俺たちの方を振り返ると。


「そういうわけだ。悪いがセージュたちにも手伝ってもらうぞ」

「それはいいけど、ルーガやビーナスたちは避難させてくれよ?」

「セージュ!? わたしも戦えるよ!?」

「話を聞いている限り、かなり危険なんだろ? だったら、『死に戻り』が可能な俺たちだけで行った方がいいだろ」


 ルーガやビーナス、それにウルルちゃんたちもだな。

 アスカさんや俺は『死に戻り』ができる迷い人(プレイヤー)だからな。

 だったら、ここはできる者だけで行った方がいい。


 そう、思っていたんだが。

 カミュが首を横に振った。


「いや、非常時だから教えておくぞ。てか、エヌのやつ、こんなふざけたのを意図して放置してるなら、あたしにも考えがある。いいか、セージュ、アスカ、他言無用だ。エヌの管理している場所に限り、『死に戻り』はそこの住人に対しても適用できる」

「あっ!? そうなのか? ってことはカミュも?」

「ああ、できる。もっとも、試したくもないがな」


 渋い顔をしながら、カミュが頷く。

 へえ、そうだったのか。

 だったら、条件が変わるな。


「じゃあ、ルーガも行くか」

「うん!」


 真剣な表情のルーガに、他の面々を見ても、この場から逃げようっていう人はいないようだな。

 フローラさんは『精霊の森』の後方支援に移行するから、それ以外は、だけど。


 そして、そのまま俺たちは『鎧』が暴れている『森』の最西端へと向かうのだった。

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