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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第7章 精霊の森と……編
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第220話 農民、ノームと精霊術師と出会う

「あー、良かったー。アルルー、元気になったんだねー」

「ええ、シモーヌのおかげよ。心配かけたわね、ウルル」

「アルルお姉ちゃん、元気になりました!」

「ぽよっ!」


 俺たちが再び『人の館』へと戻ると、フローラさんを始め、何人かの人が出迎えてくれた。

 今、ウルルちゃんと話をしているのが、アルルちゃんとシモーヌちゃんだな?

 茶髪のツインテールのような髪型をした、髪の色や瞳の色、着ている服の色以外はウルルちゃんとうりふたつの女の子がアルルちゃん。

 前にも聞いたけど、精霊種で俺たちがコッコさんの『家』作りのために探していたノームでもある。

 見た目の年齢は俺より少し年下ぐらいに見えるよな。

 ルーガと比べても、少し幼い感じだし、外見だけならそのぐらいの歳に見える。


 そして、そんなアルルちゃんの後ろに隠れるような素振りを見せつつ、俺たちの方をちらちらと見ているのがシモーヌちゃんだ。

 少し赤みがかかった茶色い髪をしたポニーテールの子。

 というか、ウルルちゃんの『妹』で人間種、って聞いていたけど、だとすれば、かなり幼いという印象を受けた。

 たぶん、ファン君とかと同世代ぐらいか?

 こっちも改めて、あいさつをしようとしたんだけど、それに気付くとアルルちゃんの背中に隠れてしまった。

 うーむ。

 どうも、人見知りな感じが強そうな子だな。

 もっとも、ウルルちゃんみたいな方がめずらしいのかも知れないけど。

 そんなふたりの後ろで、フローラさんがにこにこしながら見つめているし。


「ねえねえ、アルルー。何で、頭にみかんを乗せてるのー?」

「ぽよっ♪」

「ああ、これ? 昨日のお詫びの続きよ。ずっと飛んでると疲れるんですって」


 そうなのだ。

 ウルルちゃんも不思議そうにしてたけど、俺たちも出会った瞬間からびっくりはしていたんだよな。

 なぜか、アルルちゃんの頭の上にみかんが鎮座していたのだ。

 声のトーンから言うと、中々ご機嫌みたいだけど、まあ、ちっちゃい女の子の頭の上にバスケットボールぐらいのみかんが乗っている光景ってのは、かなり違和感ありありだぞ?


 詳しい話を聞いてみると、大分大きくなって来たみかんにビーナスがずっと持っているとしんどいって言い出したのだとか。

 みかんはみかんで、ビーナスが辛そうにしているのは嫌だからってわけで、色々あって、今の形で落ち着いたのだとか。


 一見するとかなり重そうに見えるけど、意外と精霊種って力持ちなのかね?

 その辺はよくわからないけど。


「ウルルもね。ごめん。わたしが置いて行っちゃったせいで、大変なことになっちゃって」

「うんー。いいよ、アルル。シモーヌも元気になったしねー」

「アルル、他にも謝らないといけない人たちがいるでしょ?」


 フローラさんの言葉にアルルちゃんが頷いて、俺たちの方へと向き直る。


「ごめんなさい。ごめいわくをおかけしました。それとウルルを助けてくれてありがとうございました」


 そう言って、深々と頭を下げるアルルちゃん。

 『ぽよっ!?』という声と共に、乗っていたみかんが落っこちそうになって、慌ててしがみついてるけどな。

 というか、みかんって、どこの力を使って、しがみついているんだろうな?

 本当、レランジュボールって、スライムっぽい感じがするぞ?


 それはそれとして、俺たちもアルルちゃんの謝罪を受け入れる。

 もうすでにビーナスとみかんには謝って許してもらっているそうだ。

 俺とカールクン三号さんも、あっさりと許すことにした。

 むしろ、結果的にあのトラブルのおかげで、すんなり『精霊の森』へと受け入れてもらえた部分もあったから、俺的にはプラスの方が多いのだ。

 ウルルちゃんと仲良くなって、みかんを仲間にして、結果的に貴重な素材である『レランジュの実』もゲットできたしな。

 うん。

 いいことずくめだ。

 一歩間違えば、死に戻っていたかも知れないけど、そっちはあんまり気にしないことにする。


「別に気にしないでいいよ、アルルちゃん。人助けが目的だったわけだし、結果的に俺たちも生きてるからな。あんまり気にしないで」

「ありがとう、セージュ」

「ふふ、良かったわね、アルル。それと、言葉遣いが不十分よ? 『人の館』でそれについても『共通言語』を教える時に伝えたわよね?」

「えっ? でも、お母さん、年下の場合はそのままの呼び方でいいんじゃないの?」

「うんうん、アルルの言う通りだよー」

「違うわよ、あなたたち。本当の年じゃなくて、外見年齢で判断しなさいって言ったでしょ? セージュ君の場合もそうだけど、あなたたちの場合、ほとんどの相手より幼く見えるから、そっちに合わせないとおかしなことになるの」

「そうなの?」

「エドガーさんは先生だから、さん付けしているけどねー」

「ふぅ……だから、あなたたちは『外』に出せないのよ」


 今のままだと危なっかしいから、とフローラさんが嘆息する。

 というか、出せない理由は言葉遣いだけじゃなさそうだけどな。


「えーとえーと、セージュはセージュじゃダメなんだよねー? ルーガはウルルたちとおんなじぐらいだから、大丈夫だよねー? あれぇ? カミュはー?」

「あたしは基本敬語嫌いだから、いらないぞ? フローラ、その教え方はあんまりよくないぞ? 国によって大分方針が違うからな。ウルルたちぐらいだったら、やたらと丁寧よりも子供らしくていいってとこもあるし、逆にもっと小さくても上下関係が絶対って国もあるしな」


 その場合は、ガキでも使用人みたいに滅茶苦茶言葉が綺麗だからな、とカミュが苦笑する。


「あれ、気持ち悪いんだよなあ。少なくとも、あたしは嫌いだな。ガキどもなんて、口が悪いぐらいでちょうどいいっての」

「むー、難しいよー」

「うん、わたしもよくわからなくて困ってるよ?」


 ウルルちゃんに、ルーガはルーガで同意してるし。

 まあ、それを言ってしまうと、俺もよくわからないんだよな、こっちの基準って。

 そもそも、一口に『子供』って認識もカミュの話だと国によって違ったりするらしいし。貧しい地方とかだと、ファン君ぐらいでも労働力扱いなので、一人前までは行かなくても、半人前としての扱いにはなるらしいし。

 あと、貴族とかの階級問題も、向こうの日本で普通に暮らしている俺たちにとっては、縁がないので、それこそ、漫画とか小説とかゲームとか映画とかの話になるんだよな。理解はできるけど、ピンと来ないというか。

 平安貴族とか、明治時代の貴族制とかも、ちょっとイメージと違う感じだし。


 あ、そうだ。

 その話も良いけど、それよりもアルルちゃんに聞いておかないことがあるよな。


「別に俺も呼び捨てでいいよ。それよりもアルルちゃん、ちょっとだけ俺たちの相談に乗ってもらえないかな? 昨日フローラさんには話したけど、ちょっと保留になったままだったしな」

「えっ? 相談……? うん、わたしはいいよ? 迷惑もかけたし」


 そう言って、少し戸惑いながら、フローラさんの方を確認するアルルちゃん。

 やっぱり、自分はいいけど……という感じだな。

 と、フローラさんも頷いて。


「話を聞くだけ聞いてみなさい、アルル。昨日の段階では、私もちょっと難しいと思っていたけど、少し風向きが変わって来たから」

「あ、そうなんですか?」


 フローラさんの言葉に、むしろ俺の方が驚く。

 昨日、色々と話した感じだと、ウルルちゃんやアルルちゃんを『森』から出すのは現時点では厳しいってことになっていたはずだ。

 一応、保留にはなっていたけど、実質、無理筋だと思っていたんだが。


「ええ。偶然、『森』に戻ってきていたから、グリードにも確認を取ってみたの。それでもう少し詳しい話もできたから」

「その、グリードさんというのは?」

「私たちの中でもかなりの変わり者になるわ。この『村』を作ろうって言い出したのもグリードだし、『外』から都合のいい人材を集めてきたのもそうだしね」


 へえ、そうなのか?

 そのグリードさんという人が『トヴィテスの村』を作るために尽力した精霊(ひと)らしい。

 何でも、比較的、『外』に自由に行き来している方なのだとか。


「うんうんー。『外』のお話はグリードおじさんに聞かせてもらうのが多いよー」

「その分、お母さんの負担が大きくなってるわよ?」

「グリードおじさん、優しいから」


 なるほど。

 どうやら、ウルルちゃんたちにとっても優しいおじさんって感じの人らしい。

 それなら、アルルちゃんへの相談も上手くいくかもな。


 そう、俺が思ったその時だった。


 ――――突然、辺りをつんざくような大音量で、金属同士が削り合っている時のような不快で甲高い音が響き渡った。


「――――えっ!? これは!?」

「この音は!?」

「ああっ! お母さんっ!? これって避難訓練のやつだよねっ!?」

「違うわ、ウルル。これって、やっぱり……ふぅ、まずいことになったわね」

「フローラ、これは何だ?」


 どうやら、状況を把握しているのはフローラさんだけと見て、カミュが何が起こっているのかを尋ねる。

 それにフローラさんも頷いて。


「表を見て。空が赤くなってるでしょ?」

「あっ、ほんとだー! すごい真っ赤だよっ!?」

「で、何が起きてる?」

「外側の結界の一部が破られた警報よ。少し待って。精霊種には『遠話』による伝達があるはずだから」


 そう言って、耳を澄ませるような仕草をするフローラさん。

 俺たちはそれをただ見つめることしかできなかった。

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