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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第7章 精霊の森と……編
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第216話 農民、合流する

「そうか。やっぱり、あいつらとは別行動か」

「ええ、そういうことよ、カミュ。クレハさんとモミジちゃんはこの『村』で暮らすための特訓で、ツクヨミさんについては、グレーゾーンだったみたいだけど、結局、モミジちゃんのお目付け役でもあるからってことで、何とか同行を認められたようね」


 アスカさんと合流して、間もなく。

 俺たちはお互いの状況についての情報交換を始めた。

 というか、カミュたちとの話もアスカさんと合流するまでは棚上げされていたんだよな。

 なので、改めて、詳しい話を聞くことができた。


 まず、アスカさん側の話だな。

 昨日、俺たちとはぐれた後、結局、そのまま先へと進むと、少し歩いたところであっさりと、この『村』のはずれへとたどり着くことができたのだそうだ。

 それを聞くと、変なところに飛ばされた俺たちやカミュたちとは違って、問題なく正規のルートでたどり着くことができたって感じだろうか。

 まあ、クレハさんたちにはモミジちゃんがいたしな。

 精霊を連れているってのは、『森』に入る条件のひとつだったんだろう。


 いや、ちょっと待てよ?

 だったら、最初の時にダメだったのは何でだ?


「それはたぶん、『精霊の森』の西側だったからだろ。あっちは何重にも結界が張られているから、あたしが案内する時も迂回したんだよ」


 たぶん、いずれかの結界にはじかれる条件に引っかかったんだろ、とカミュ。

 そういえば、来るときの途中に言ってたもんな。

 『無限迷宮』のひとつが近くにあるから、って。

 今度はきちんと入り口から入って、精霊を連れていたから条件をクリアってところだろうか。

 まあ、それはそれで、一緒にいた俺たちが弾かれた理由も謎なんだが。


「一応、そっちもある程度は推測できるぞ」

「本当か、カミュ?」

「ああ。クレハとツクヨミ、それとモミジはパーティーを組んでいただろ? だから、それ以外の者は弾かれたってことだろ」

「えっ? それだと、アスカさんはどうなんだ?」

「だから、それが『添乗員』の効果なんじゃないのか?」

「あっ!? 職業か!」

「……そういえば、この職業、ずっと謎のままだったのよね」


 カミュに指摘されて、そういえばと、アスカさんの職業を思い出す。

 アスカさんって、テスターの中でもめずらしく三つの職業を持っているんだよな。

 『魔術師』と『添乗員』と『シスター』。

 職業が三つ、ってのは多い方になるはずだ。

 一応、俺も『農民』と『鍛冶職人見習い』のふたつになったから、条件次第でもっと増やせるかもしれないとは思うけどな。


 さておき。

 その『添乗員』の効果ってのは、謎だったんだよな。

 いや、俺の『農民』もよくわからないんだけど。

 もしかすると、職業の『農民』のおかげで、スキルの『緑の手』が手に入ったのかも知れないし、そうじゃなくて、種族スキルのせいかもしれないし。

 凡例が少なすぎて、条件がよくわからないのだ、この手のスキルは。


 『添乗員』もユニークに近いから、確か『けいじばん』でも詳細な情報は不明のままだったはずだしな。


「つまり、この『添乗員』の場合、他のパーティーに添乗することができるってことかしらね?」

「かもな。あたしも初見の職業だから、どういう風に成長していくのかは知らないけどな。同行者に何らかの影響を与える、ってのは間違いないだろうな」


 なるほどな。

 この『PUO』の場合、パーティー単位で経験値とかもやり取りするみたいだし、もしかすると、そっちでのメリットもあるのかもしれないな。


 というか、だ。


「もうちょっと早く気付いてれば、みんなでパーティーを組んでいたら、こんな面倒な状況にはならなかったんじゃないのか?」

「今更だぞ、セージュ。そういうのは今になって言っても仕方ないことだ。もう終わったことだしな。はは、次に似たようなことがあったら、気を付けるんだな」

「ああ、わかったよ」


 思った以上に、パーティーを組むことが重要だ、ってことだな。


「パーティー……」

「うん? どうかしたか、ルーガ?」

「うん、ちょっと考え事をしてただけ。気にしないで、セージュ」

「そうか? まあ、それならいいけど」


 何でもない、という風に首を振るルーガ。

 あ、そういえば、ルーガとも離れ離れになっちゃったしな。

 あれ?

 でも、俺たちパーティーは組んだままだったよな?

 それで、ルーガも不思議そうにしていたのかもしれない。

 パーティーを組んでいても、この手のトラップの場合、バラバラに飛ばされることもあるのだろう。


「続けるわね。『村』に着いたのはいいんだけど、そこで出会った人たちに、他にも一緒に来た人がいるって言った途端に怪しまれてしまったの」


 それで軽く軟禁状態になったのよね、とアスカさんが苦笑する。

 結局、俺たちとカミュたちも滞在許可を得て、それで対応が大分穏やかなものになったのだそうだ。

 それにしても、軟禁か。

 やっぱり、警告されている場所に行こうとすると、それなりのことに巻き込まれる可能性があるってことか。


「軟禁と言っても、お食事も頂けたし、その後で一緒にいた人たちとも雑談することができたから、そこまで緊張を強いられたわけじゃないけどね」

「ふーん? 対応したのって、誰かなー? お母さん?」

「ええと、そのお母さんというのはどなたかしら? というか、あなたもこの『村』の住んでいる人よね?」

「あっ、ごめんごめんー。わたしはウルルだよ。で、ウルルたちのお母さんはフローラだよっ!」

「あの、アスカさん、ウルルちゃんは俺たちが森の中で知り合った精霊さんです。水の精霊でウンディーネさんだそうです。それで、そのお母さんがこの『村』でもそれなりの権限を持っているお偉いさんみたいです」

「うん、そうだよー。お母さん、『四区』の担当なんだよっ! 今は配置換えで『一区』兼任になってるけどねー」

「え……『四区』? 『一区』?」

「あ、そうだったのか?」


 困惑しているアスカさんに『精霊の森』について、俺が知っている分の概要を説明しながら、俺は俺で、ウルルちゃんの言葉に内心で少し驚く。

 ウルルちゃん自身も言っていたから、元々『四区』に住んでいたってのは知っていたけど、フローラさんって、そこの担当ってことは、もしかして責任者か?

 そして、『一区』兼任ってことは、つまり……。


 というか、だ。


「ウルルちゃん、それって、俺たちが聞いていいことなのか? 何か、またフローラさんに怒られそうな情報なんけど」

「えっ? でも、お母さんのこと自慢なんだし、別に悪いことじゃないよね?」

「まあ、俺たちとしてはありがたいけどな」


 昨日から、ウルルちゃんと話していて思うんだけど、この子、考えることに裏表がほとんどないんだよな。

 喜怒哀楽もはっきりしているし、どっちかって言うと腹芸とか苦手そうだし。

 たぶん、その辺の情報って、フローラさんが隠していた部分だと思うんだけど、そういうのもあんまり気にしないで教えてくれるしな。

 純真でまっすぐというか。

 それはそれで好ましいけど、誰かに騙されたりしないか、ちょっと心配にもなるな。

 何となく、フローラさんの気持ちがわかるような。


「そうだったのね……でも、そのフローラさんって人は私も知らなかったわ。私たちの相手をしてくれたのは、エドガーさんとレイオノーラさんたちよ」

「あっ! エドガーさんだったんだー!」

「ウルルちゃん、そのエドガーさんってどんな人?」

「うんー、『外』からやって来た人で、ウルルに『裁縫』を教えてくれる先生だよー」

「あら、裁縫師だったの? それは知らなかったわ。エドガーさん、職人の見習いみたいな仕事だとしか教えてくれなかったのよね」

「というか、シモーヌちゃんの他にも、『外』出身の人も住んでいるんだな?」


 その点はちょっとびっくりした。

 何せ、けっこう、外からの出入りには厳しいと思ったしな。

 俺たちも今日中に出て行ってくれ、って感じだし、でもずっと滞在を許されている人もいるってことか。

 まあ、クレハさんたちもそうか?


 アスカさんの話だと、そのエドガーさんは若い男の人だそうだ。

 アスカさんで若いってことは、二十代ってとこか?

 見た目はがっしりしていて、イメージとしてはあんまり『裁縫』とかはするような感じじゃないみたいらしいけど。

 あ、そういえば、ウルルちゃんに教えてもらったスキルの中に『裁縫』もあったもんな。

 精霊さんにしては、ちょっと変わったスキルかな? ぐらいに思っていたんだが、由来はやっぱり、職人さんがらみだったようだ。

 てか、もう既にスキルを持っているってのもすごいよな、ウルルちゃんも。

 その割には、着ている服は羽衣みたいな衣装なんだけどな。

 いや、サラサラしてそうだし、着心地は良さそうに見えるか。

 あ、そういえば、雨の中でも、そこまでしっとりしてなかったぞ、この服。

 案外、けっこうな優れものなのかもしれない。


 さておき。

 アスカさんたちは、その後でそれぞれログアウトして、今朝になって、別行動をとることになって、今に至るというわけだな。


「私たちは滞在が今日までなのよね? だったら、この『村』を少しだけでも見学させてもらいたいわね」

「うんー。お母さんからも案内するように言われてるよー」


 この後、あちこち巡るからねー、と楽しそうに笑うウルルちゃん。

 その姿を見ながら、ほんわかしつつ。

 出発前にもう少しだけ話を続ける俺たちなのだった。

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