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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第7章 精霊の森と……編
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第213話 農民、精霊の『村』からゲームを再開する

「セージュ、良かった、無事だったんだね」

「いや、それはこっちのセリフだぞ、ルーガ」

「はは、何はともあれ、合流できて良かったよな。あたしも一安心だよ」


 テスター七日目は、『精霊の森』からのスタートとなった。

 今、俺の前にいるのはカールクン四号さんに乗ったルーガと、白虎に乗ったカミュだ。

 一応、ここまでの流れを説明すると、だ。


 あの後、少しばかり、『施設』の食堂でラウラと話をした後、もう日付が変わったから、そのまま再ログインするというラウラと別れた。

 そして、自分の居室で軽く睡眠をとって、また夜が明けないうちに『PUO』の世界へと戻って来たわけなのだが。


 俺が向こうに帰っている間にも、話に進展があったらしく、『館』の中に用意された来客用の寝室で目を覚ました俺を待っていたのは、ウルルちゃんたちのお母さんでもあるフローラさんだった。


 何でも、夜中のうちに、カミュやルーガが『村』へとやってきたのだとか。

 一応、侵入者扱いされて、『精霊の森』に棲む精霊さんたちとも共生関係にあるモンスターたちに襲われたりもしたらしいが、そこはそこ、カミュが一緒にいたからなあ。

 何とか、襲撃を切り抜けて、それで滞在許可まではもぎ取ったのだとか。

 そういう意味では、ルーガがカミュと一緒で助かったというか。


『私の方にも通達が来たわ。昨日は夜遅かったから、氷の『館』の方で休んでもらったみたいね。夜が明けたら、この『館』までやってくるそうよ』


 そう、フローラさんが教えてくれた。

 どうやら、この『村』って、それぞれの属性に沿った『館』があるらしいな。

 クレハさんたちが泊めてもらったのが『火の館』で、カミュたちが泊めてもらったのが『氷の館』だ。

 ちなみに、俺たちが泊まったここの『館』が何なのか聞いてみると。


『ここは人の『館』よ。私たちが『人化』したまま生活を送るための場所ね。なるべく、本体の姿には戻らないように、『人化』状態のままの方が過ごしやすいように作られているの』


 フローラさんやウルルちゃんたちが寝泊まりしているのが、この『人の館』、と。

 『人』っていうのは属性ではないけど、一応、この『館』は『村』の中でも特殊な場所として作られているそうだ。


 ちなみに、『館』同士の距離は、前にウルルちゃんも言っていたように、かなり距離が離れているらしく、それなりの移動手段がなければ、片道で半日近くかかるらしい。

 もっとも、カミュやルーガがここにいることからわかるけど、『白虎隊』やカールクンの足なら、小一時間で到着できるとのこと。

 とはいえ、ひとつの『村』として考えた場合、過疎もいいところだけどな。

 もうちょっと密集した場所に『館』を建てればよかったのに、とは思う。


「後はクレハさんたちだな」

「あ、そうそう、セージュ君、伝えるのを忘れていたけど、そのクレハちゃんとツクヨミ君とモミジちゃんね、ちょっとした特訓があるから、この『館』には来ないわよ」

「えっ!? そうなんですか?」


 ありゃ。

 その二人と一頭は別行動ってことか。


「てか、セージュ。元々、そういう約束だったんだろ? たぶん、モミジが『外』の精霊種だってことと関係があるんだろうがな」

「あー、そういえばそうか」


 よくよく考えれば、この『村』に来ることができた時点で、クレハさんたちにとっては目的達成だものな。

 一緒に行動するのはここまで、ってことか。


「そうね。一応、決意については聞いたけど。どうしてもこの『村』に住みたいってことだったから、そのためにも色々とやってもらわないといけないことがあるの」

「なるほど」

「あとな、セージュ。あたしらも今日中にここから離れないといけないからな。それを条件に、この『村』に入れてもらったんだ」

「うん、大きな蛙さんがそう言ってたよ」

「大きな蛙さん?」


 なんだそりゃ?

 さすがに今のルーガたちの説明だけだと意味がわからないぞ?

 なので、横にいたフローラさんに教えてもらったのだが。

 何でも、カミュとルーガは結局、長期滞在の許可を取ることができなかったのだそうだ。

 もっとも、この場合は許可を得るのが本当に難しかったかららしいけど。


「これについては、最初に注意したろ? あたしが一緒だと面倒なことになるかもって。まあ、これでもマシな方だろうが、悪いな。少しばかり迷惑をかけたかもしれない」


 そう言って、すまなそうに頭を下げるカミュ。


「いや、ちょっと待てよ、カミュ。そもそも、カミュがいなかったら、ここまでたどり着いていないんだから、それだけでも十分すぎるぞ? 大体、クレハさんたちはさておき、俺たちは長居するつもりはなかったんだから、そこまで問題でもないだろ」

「はは、そう言ってくれるのは嬉しいがな。たぶん、セージュたちだけだったら、あっさりと許可が下りたはずだぞ?」

「そういえば、セージュ君たちは最初から『精霊樹の森』に飛ばされたのよね? うーん……やっぱり、オットーが言っているように何かしらの『証』を持っていないとおかしいのよね」

「えーと……どういうことですか?」


 カミュの言葉もそうだが、フローラさんが言っていることも謎なんだが。

 別に俺、『精霊の森』に入るための許可証みたいなものは持ってないぞ?

 特殊なアイテムって言ったら、ミスリルぐらいか?

 魔晶石はペルーラさんのところに置いてきているし、もし『お腹が膨れる水』がそうなら、クレハさんたちも同じ場所に飛ばされただろうし。


 あ、待てよ?

 めずらしいアイテムって言ったら、用途不明のものがあったよな。

 でも、あれ、貴重な水ってだけだったような気がするけど。

 それなら、『ヴィーネの泉』の『湧水』だって、この辺だったらめずらしい水になる気がするぞ?


 まあ、他に思いつかないので、サティ婆さんからもらった水を取り出してみる。


「――――おっ!? セージュ、もしかして、それ、婆さんからもらったか?」

「ああ。でも、これビーナスの『苔』のお礼に、だぞ? 薬師たるもの水が重要だからって、それでくれた物なんだが」


 カミュがどこか楽しそうに笑って。

 俺がサティ婆さんからもらった『深淵の水』をまじまじと見つめた。


 ――――って!?

 真剣な表情で、この水を見つめているのはカミュだけじゃなくて。

 側にいたフローラさんも、ちょっと離れたところでレランジュの実を食べていたウルルちゃんも、辺りをふわふわと飛んでいた精霊さんたちからも、だ。

 それらの視線が、俺の持っている『水』へと注がれる。


 おい、ちょっと待て。

 これがもしかして、キーアイテムなのか?

 というか、サティ婆さんって本当に何者なんだよ?

 俺がそんなことを考えていると、フローラさんがふぅ、と嘆息して。


「……セージュ君、この『水』どこで手に入れたの? 事と次第によっては尋問しないといけなくなるんだけど」

「すごいねー、セージュ。それって、『三区』の『深淵の水』だよねー? あそこ、ウルルも何度も挑戦してるんだけど、全然水を汲みに行けないんだよー」

「へっ!? 『三区』?」

「そうだよー。『三区』は他の区画と違って、全部が水の中に沈んでいるからねー。ウルルみたいに水系統の術がかなり得意じゃないと入ることすらできないところだもん。というかねー、ウルルもまだ修行中なんだよー」

「ウルル……あなたまた余計な情報を……そういえば、昨日は教育についてお話ししてなかったわね?」

「うわわっ!? お母さんっ!? 顔が怖いよっ!?」


 慌てて、フローラさんの側から逃げるように立ち去るウルルちゃん。

 というか、今のウルルちゃんの話って、余計な話だったのか。

 逆に言えば、その『三区』の情報が正しいってことでもあるのだろうけど。


 いや、俺も他人事じゃないよな。

 今、フローラさん、『尋問』って言ったか?

 もの凄く不穏当な空気が漂っている気がするぞ?


「えーと、フローラさん、その『三区』って……」

「――――詳しく知りたいのかしら?」

「いえっ!? 大丈夫です!」


 怖っ!?

 にっこりと笑っているけど、どす黒いオーラのようなものを感じるぞ?

 近くにいるだけで寒気がするような気というか。

 うん。

 やっぱり、フローラさんは只者ではなさそうだ。

 ダメ元で聞いてみようと思ったけど、やっぱりそれはダメなようだ。

 ほんと、触らぬ神に祟りなし、だ。


 しばらく、氷の笑顔を浮かべていたフローラさんだったが、ふぅ、とため息をついて、その途端に変な緊張感が弛緩する。


「ふぅ……尋問は冗談だけど、笑えないことには変わりないわ。『深淵の水』は『精霊の森』の中でも深くて暗いところまで行かないと手に入らないものだもの。セージュ君はウルルが水の精霊だってことは知ってるわね?」

「はい。ウンディーネ、ですよね」

「ええ。そのウルルでも潜ってたどり着けないのが、その『深淵』なの。絶対条件は『水中呼吸』ができること。それに加えて、身体能力の強化、一定レベル以上の『泳術』。その他にも超えないといけない壁がいくつもある難所なのよ」


 それだけ、この『水』を入手するのは難しい、とフローラさんが苦笑する。

 貴重な水とかそういうレベルではない、と。


「ただ、ウルルがあっさりとセージュ君に懐いた理由はわかったわ。この子、人懐っこいけど、初対面の相手にはかなり警戒心が強いはずだもの。どこからか、セージュ君が持っている『水』の匂いを感じていたのね」

「そうだったんですか?」


 あれ、それはちょっと意外だ。

 そもそも、会った時って、ウルルちゃん、真っ先にビーナスに抱き付いてなかったか?


「セージュ君、真面目に答えてもらえるかしら? この水をくれた相手は誰?」

「えーと……サティ婆さんって、お婆さんです」

「そういえば、昨日もお婆さんって言っていたわね? その人はどういう人なの?」

「どういうって言われましても……」

「オレストの町で隠居しているやつだ。サティ婆さんって愛称だがな、真名はサティト・ルルフレインだよ」

「――――っ!? それは本当なの!? カミュちゃん!?」

「まあな。あんたらがどこまで気付いているかは知らないが、この辺はエヌが仕組んだことだろうな」

「――――エヌ、ということは『原初の竜』の、あの(・・)、ってことかしら?」

「そのエヌだ。てか、そうそう、あんなのが他にもわんさかいてたまるか。ったく、あいつら、どいつもこいつも常軌を逸してるからなあ」


 まったく種族のカテゴリーとしておかしいだろ、とカミュがシニカルな笑みを浮かべる。


 えーと?

 何か、俺と関係ないところで話が進んでないか?

 困惑しつつ、俺が周りを見渡すと、カミュとフローラさん以外の全員が俺と同じような微妙な表情をしているし。

 みんな、『何が起こってるの?』という感じだよな。


 うん、まったく同感だよ。

 というか、サティ婆さんのフルネームなんて初めて知ったぞ?

 そんな感じで全員が困惑した雰囲気のまま、もう少しこの話は続く。

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