第212話 農民、召喚師と情報交換をする
「へえ! ということはセージュ、『精霊の森』に入れたんだね!?」
「まあな。まだ完全には信用されてないみたいだけどな」
「それでもすごいよ。わたしがいるところだと、精霊さんの情報を集めても、見つかったら即攻撃されるとか、憑りつかれてそのまま殺されるとか、どっちかって言えば、精霊さんというよりも邪霊って感じの情報ばっかりだったんだもの」
「あー、そっか。アーガスは人間種が主体の国だったな」
「うん。人間種相手だと、精霊さんって呪いを振りまくような存在なんだって。実際、下手に手を出して、大きな町ひとつがその呪いで壊滅したらしいし」
「マジか」
「うん! だから、セージュの話を聞いてびっくりだよ。あー、良かった。ほんわかした精霊さんもちゃんといるんだね!」
すごいすごい! と少し興奮気味にラウラが笑う。
どうやら、アーガスでは精霊種の扱いはそんなイメージらしい。
まあ、その辺は過去に色々あったからだろうな。
カミュもアーガス王国については、あんまり良い印象を持っていなかったし。
一方で、その姿を見ながら、俺は俺でラウラから教えてもらったアーガス王国関連の情報について、驚きっぱなしだったんだが。
いや、ふわっとはカミュなどからアーガス王国の現状について話を聞いてはいたつもりだったんだが、ラウラの話はその情報に輪をかけてひどいものだったからだ。
とりあえず、お互いの共有した情報について整理してみよう。
俺から伝えたのは、まず、スキルに関して俺が知っていることについてだ。
『解体』や『採取』に関する部分は『けいじばん』のスキル関連のスレッドでも考察が出ていたし、ラウラも把握していたので、それに補足を入れる感じで、後は『調合』と『鍛冶』についても教えられる範囲で伝えておいた。
もちろん、『鍛冶』についてはペルーラさんに怒られない範囲を想定した上で、だけどな。
たぶん、『ドワーフ鍛冶』に関してはちょっとしたことでもまずそうだったので、町の鍛冶屋さんに頼めば弟子入りも可能ってことなどぐらいになっちゃったけど。
そして、俺のスキルの話でラウラが喜んだのは、テイム関連のこと、だな。
俺が虫モンのなっちゃんと、魔樹のビーナスを連れているのを伝えると、もの凄い勢いで話に食いつかれたのだ。
なぜかと言うと。
「そりゃそうだよ! だって、わたし召喚師だもの! モンスターを仲間にする方法には興味深々だよっ!」
というわけだ。
実際、初日の時点では確かラウラも召喚師の『見習い』だったはずだが、もうすでにその見習いは解除されていて、今も三体のモンスターを連れているのだそうだ。
それを聞いて、俺は俺で驚いたし。
何せ、ラウラの召喚獣は、ラウラの意志で、召喚獣の待機空間から出し入れしたりするのも可能なのだそうだ。
つまり、町の中では目立ちすぎないように、待機空間に待たせておくことも自由自在、と。
その辺がテイムモンスターと召喚師の召喚獣との違いのようだな。
何せ、ラウラのスキルの中には『空間魔法』ってのも存在するらしいし。
確か、それって、アイテム袋の構造にも使われている魔法だよな?
少なくとも、俺が出会ったテスターの中で、その『空間魔法』のスキルを持っている人は他にいないはずだ。
これもラウラが『ギフト』で得た能力だから、おそらく、普通にスキルポイントを使うやり方では獲れなかっただろう。
さもなければ、『空間魔法』なんて、いかにも便利そうな響きのスキルを他の人が狙わないはずがないし。
さておき。
話を戻すと、そのテイムモンスターについての話と、『精霊の森』に関する話だけでも十分に対価になるとラウラは満足してくれた。
一応、『魔境』に関する話とか、ラルフリーダさん関連のこととかも残しておいたんだが、よくよく考えれば、アーガスシティにいるラウラにとって、慌てて収集する必要がある情報ではないんだよなあ。
そっちについては、じきに『けいじばん』でも公開されるだろうし、それよりもスキルの秘密とか、テイムに関する条件とかの方が興味がある、と。
まあ、『精霊の森』の情報なんて、最新情報だろうから、それで十分だという説もあるよな。
ぶっちゃけ、実は『精霊の森』関連のクエストについては、別に情報制限がかかっていなかったりするし。
例のポーンでも、秘密系っぽい注意もなかったので、これ実は誰かに話しても問題ないんだよな。
もっとも、明日以降の展開次第ではどうなるかわからないけど。
ある意味、今がチャンスだから、ラウラに伝えたってのもあるのだ。
「それにしても……アーガス王国ってのはそんなに治安が悪いのか?」
「うん、ほんとびっくりだよ。今、わたしもとあるギルドに入っているんだけど、これも裏稼業系のギルドだもん。暗殺者ギルドや盗賊ギルドを始め、人身売買、諜報屋、詐欺師、その他諸々……要は犯罪者ギルドのオンパレードって感じ? ただ、それらのギルドが別々の元締めになっていて、裏にはお貴族様も付いていて、その裏同士でいがみ合っているから、その辺はまだ救いがあるかな?」
「……どこに救いがあるんだよ?」
「だって、ひとつの大きいところがすべての力を握っちゃったら、目も当てられないよ? マフィアってのは地域ごとに地盤があって、お互いけん制し合っているからバランスが取れているんだよ。裏に通じている貴族同士がいがみ合っていることも含めてね。これでもし、一枚岩になって、権力と通じてみなよ。ほとんど独裁国家のシステムと変わらなくなるんだからねっ!」
今なら、まだまだ付け入る隙があるんだよ、とラウラが微笑する。
おい、ちょっと待て。
何気にラウラって、かなり面倒なクエストに巻き込まれていないか?
聞けば聞くほど、頭が痛くなってくるのが、そのアーガス王国の実情だ。
というか、ユウから騎士団がらみの話を障りだけ聞いた時も似たようなことを思ったんだが、ラウラはラウラで、ひとりだけ別のゲームをやってないか?
とある裏稼業ギルドの一員となって、治安最悪の腐敗した国の中で、夜中に暗躍して、敵対している闇ギルドとの抗争に勝利していく。
それが勝利条件ってことらしいし。
おい、運営。
これ、どこのヤクザ映画だよ?
というか、ラウラの場合、帰国子女だから、マフィアの抗争って感じになってるみたいだけど。
「だからね、わたしも召喚獣たちがいなかったら大変だったよ? ゲームとはいえ、対人戦闘の方が多いしね。たぶん、他のテスターさんたちより、そっちに関しては上手くなったんじゃないかな?」
「そっか」
うまく言葉を返せずに、ただそう頷くことしかできないよな。
そういえば、俺も『PUO』の中では対人戦闘はほとんどやったことがないな。
カミュと十兵衛さんのバトルは目の前で見ていたけど。
たぶん、今の俺だと、あのふたりのどっちと戦っても『死に戻る』羽目になるだろうし。
ただ、ラウラの話を聞く限り、だ。
ゲームを進めて行くと、対人戦闘が必要になってくることもあるってことだろう。
散々ツッコミを入れたけど、運営がスタート地点のひとつとして、アーガスシティを用意したってことは、そういうことだろうし。
それにしても、だ。
「ラウラってさ……」
「え? 何?」
「もしかして、別のゲームとかでPK系のプレイとかしてたりするのか?」
「うーん、どっちかと言えば、その逆かな? PK狩りプレイはやってたよ。やっぱり、そういうのって許せなかったしね」
あ、なるほどな。
嫌な予感がして、一応聞いてみたけど、割と納得がいく返事が返って来たな。
いわゆるPKKってやつか。
要は、犯罪者プレイヤー殺し……賞金首ハンターみたいなものだろう。
「案外、だからこそ、ラウラはアーガス王国がスタート地点になったのかもな」
「そうかもね。一応、現実でも銃は使えるし。あ、もちろん、日本じゃ無理だよ? 持ってるだけで処罰されちゃうから」
そう言いながら、ラウラが口元に笑みだけ浮かべて、手で銃を撃つようなジェスチャーをする。
……うん。
やっぱり、銃社会の経験者は一味違うわ。
ひとまず物騒な話は明後日の方向に置いといて。
目の前の料理を冷めないうちに食べつつ、もうしばらくの間、情報交換を続ける俺たちなのだった。




