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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第6章 精霊の森へ、編
225/494

第208話 農民、果物料理を食べる

「あっ! 美味しいです、このスープ。さわやかな風味がしますね」

「きゅい――――♪」

「クエッ♪」

「ふふ、気に入ってくれて嬉しいわ。ちょうど、レランジュの実があったから、それを使ってみたの」


 フローラさんによって、俺たちに提供されたのは甘酸っぱいスープだった。

 原料はみかんがモンスター化する前の状態の『レランジュの実』と食べられる精霊樹の樹液などを使っているのだとか。

 フローラさんやウルルちゃんによると、基本、精霊種って、『人化』状態でも果物とかしか食べないらしくて、一応、『外』の人間種の料理をまねてはいるものの、肉料理とか魚料理のようなものはあんまりないのだそうだ。


「もちろん、食べられないわけじゃないけどねー。どっちかと言えば、甘いものの方が好きかなー、本体への吸収率が違うからねー」


 なるほどな。

 吸収率っていうのはよくわからないけど、『人化』状態で食べたものの種類によって、本体に取り込みやすいものとそうでないものに分かれるらしい。

 その辺りは、精霊さんが単純に栄養素を求めているわけでもない、ってことみたいだけど。


 もう一口、出された甘いスープを口へと運ぶ。

 みかんを仲間にした後で、レランジュの実を食べるのって、何気にちょっと微妙な感じもしたけど、それはそれとして美味しくはあった。

 疲れた身体にはちょうどいい甘さというか。

 別に、オレンジジュースを温めました、って感じじゃなくて、不思議と乳製品のまろやかさが生きたような感じになっているしな。

 そっちは、精霊樹の樹液なのだそうだ。


「そうね。モンスターのお乳に近いかしら。そういう樹液を出す樹もあるのよ。普段は私たちもあんまり口にすることはないけど、精霊種の味覚にも合って、それでシモーヌみたいな人間種でも取り込みやすいものだから、ちょっと工夫したって感じかしら」

「へえ、乳のような樹液ですか」


 それを聞いた時は少し驚いてしまった。

 だったら、それを使えば、ホルスンの乳の代わりにもなるよな。

 確かにこのスープ、乳製品っぽい風味はあるけど、何の乳かって聞かれると、何だろう? という感じで微妙に普通の牛乳とも違う味がするんだよな。

 ただ、それが果物の甘さに合っているのだ。


「美味しいよねー、このスープ。お母さんの得意料理だもん。ビーナスたちも飲めば良かったのにねー」

「まあ、仕方ないよな。今はもうちょっと地面の上で休んでないとしんどいって言ってたし、そっちの回復が優先だろ」


 ちなみに、ビーナスとみかんは食堂にやってきていないのだ。


『今、治癒中だからちょっと待って。この状態で地面のないところに行くのは辛いのよ。マスターたちだけで行ってきなさい。わたしはここにいるから』

『ぽよっ――――!』


 ということらしい。

 確かにこの『館』って、ラルフリーダさんの家と違って、明らかに人工的な作りって感じの建物だしな。

 そういう意味ではビーナスが中に入るのは少しずつ消耗してしまうのだろう。

 一応、スープをこっちに持ってくるかも聞いてみたんだが、その代わりに『水をちょうだい』ってことで、ウルルちゃんが『水魔法』で降らせた狭い範囲の雨を浴びて、ちょっとご機嫌そうになっていたな。


 というか、ウルルちゃんって、自分の意志で雨を降らせることもできるのか。

 さすがはウンディーネというか。

 すぐ泣いて、周囲の空気を不安定にする以外は、やっぱりすごい種族ではあるよな。


 そして、みかんも『レランジュの実のスープ』より、ビーナスが生やした『苔』の方が嬉しいらしくて、例によって、ビーナスの太ももに乗ったまま、『苔』を飲み込んでは身体へと吸収していた。

 相変わらず、食べる、というか、飲む瞬間、身体がぐにゃっと捻るようになるのがすごいよな。

 ほんと、果物のモンスターというより、スライムっぽい感じだし。

 結構な不思議生物だよな、みかんも。

 もし、みかんがレランジュの実を食べたら、共食いになるのか?

 その辺は謎だ。


「はい、セージュ。こっちは焼いたレランジュの実だよー。そのまま、皮ごと食べられるからねー」

「ありがとう、ウルルちゃん」


 俺やなっちゃんが果物のスープを味わっていると、ウルルちゃんが追加で新しい料理を持ってきてくれた。

 いや、見た目は焼き色のついたみかんなんだけど。

 どうやら、『精霊の森』では果物を焼いたりするのも料理法のひとつらしい。


 どれどれ?

 手のひらサイズの小さめの『焼きレランジュの実』を手に取って、そのままかじりついてみる。


「――――おっ!? 焼くと面白い食感になるんだな?」


 皮の部分がカリッとした感じになって、噛んだ瞬間に中の果汁が染み出してくるというか。

 味については、焼いたことで甘みと酸味が抑えられているのか?

 中の身は白いんだけど、ふるふるとした食感になっていて、まるでじっくりと煮込んだ豚バラ肉でも食べているような不思議な食感になっているし。

 いや、味は果物の甘味が強いけど。


 こんな食べ物初めて食べたぞ?

 何というか、味は果物っぽいのに、肉々しいものを口にしているかのような。

 そう考えると、皮のカリッとした食感も何となく鳥皮とかを焼いたものに近いような気もするし。


 うわ、変な果物。

 いや、もちろん、味は美味しいけど。

 食べ慣れていないせいか、美味しいというよりも驚きの方が先に来てしまうよな。

 何となく、『施設』の食堂で出された真新しいフレンチとかに近い気がする。

 ただ、みかんを焼いただけの料理のはずなのに。


「『レランジュの実』って、何か変わってるな」

「うんー、そうだねー。生の時と焼いた時で、全然違うもんねー」

「その辺は元々がモンスターだからでしょうね。『村』の側で栽培している樹は、モンスター化しないように、私たちが改良したものだから」

「あ、そうなんですか?」


 へえ、品種改良か?

 フローラさんの話だと、食材としても栄養価が高いので、それでそういう風にしたらしい。

 いや、サラッと言っているけど、これってすごいことだよな?

 こっちの世界でもそういうことをやっている人がいるってことか。


「元がモンスター素材だけあって、普通の果物よりも動物系統に近いのよね。最初、果物ばかりシモーヌに食べさせたら、身体壊しちゃったから、なるべく『外』のモンスターのお肉に近いものを探したら、こうなったの。今では、ウルルたちにとっても好物になったみたいだけどね」

「うんー! 美味しいよねー、レランジュの実」


 あー、なるほど。

 それで、肉々しいのか、この実。

 一応、『精霊の森』の中にも獣系のモンスターは生息しているらしいけど、その多くは精霊がらみの種なので、普通のお肉とはちょっと毛色が違うのだそうだ。

 その中では、この『レランジュの実』が比較的、『外』のモンスターのお肉に近い食感と栄養が得られるということで、この『村』の準主食に選ばれたらしい。

 もちろん、主食は果物な。


 何となく、向こうで言う、みかん鯖とかみたいなフルーツ魚に近いか?

 レランジュの実、って。

 いや、こっちは正真正銘、樹になるみたいだけどさ。

 ただ、みかんがモンスターとして生きているのを目の当たりにすると、果物とモンスターのハーフって感じがしないでもないけど。


 改めて、焼きレランジュをもう一口かじって。


 うん。

 そう考えると果物の風味をしたお肉だよな。

 認識を切り替えると、普通に食べられるようになったぞ。

 よく、噛んでいると口の中で溶ける、って表現があるけど、これもまんま、噛んでいるうちに口の中で旨みのある果汁と化すのだ。

 その、溶けていく感じがとても心地よくて、美味しい。

 香りもさわやかだしな。


「きゅい――――♪」

「クエッ――――♪」


 なっちゃんとカールクン三号さんも嬉しそうに焼きみかんを食べているのを見ながら、俺も残っている料理を美味しく頂いて。


 そんなこんなでテスター六日目の夜は更けていくのであった。

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