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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第6章 精霊の森へ、編
224/494

第207話 農民、たくさんの精霊に驚く

「――――えっ!?」


 不意に、暗がりのままの状態であった玄関部分に複数の光源がともって明るくなった。

 空中に浮いた光そのものが揺れながら瞬いているのだ。

 そして、驚いて俺が周囲を見回していると、いつからそこに存在していたのか、複数の気配が浮かび上がった。

 フローラさんとウルルちゃんの周囲を取り巻くように空中を飛び回ったり、床の上を走り回ったり、玄関の天井部分に逆さまのまま立って、こちらを興味深そうに見つめているような生き物たち。


 これは、精霊さんたち、か?


 フローラさんとウルルちゃんは人型の姿であるため、うっかりそういうものだと思っていたんだが、この『館』の中には、人型ではない精霊さんたちもいっぱいいたらしい。

 瞬くように発光する火の玉のような存在や、炎の鹿の姿をとっていたモミジちゃんのように、獣や小動物を模したような姿をしている存在、明らかに大きさが小さい小人さんのような存在など、それぞれの姿かたちは大分異なるようだけど、たぶん、これらはみんな精霊種に属するのだろう。

 彼らが好奇心を持って、俺となっちゃんの方も見つめている、というか。

 見慣れない姿をしているのは、モンスターをもとにした子か?

 まあ、色とりどりできれいではあるんだが。


 いつの間に取り囲まれていたのかは、まったく気付けなかったぞ?

 そういえば、前にサティ婆さんもそんなことを言っていたか?

 精霊種の本体が本気で隠れる気になれば、同じ精霊種以外からは気付くのが困難になるとか何とか。


「すごい……ですね」

「ええ。私がセージュ君たちのことを客人として認めたからよ。この『村』に住んでいる時点で、そこまで『外』に対する偏見を持っている子は少ないけど、それでもやっぱり、普通の精霊()たちにとっては、『外』って未知の領域なのよ」


 だから、必要以上に警戒したり怖がったりするの、とフローラさんが苦笑する。

 どうやら、『村』に近づいている時点で、俺たちの存在については気付かれていたらしい。

 いや、フローラさんってば、最初に会った時は、そんなことは微塵にも感じさせていなかったけど、それも含めて、俺となっちゃんの反応を試していたのだそうだ。

 一応、精霊さんたちは人間種に対しては『敵対』が基本らしいけど、俺の場合、『土の民』ということで、それで少し普通の人間よりもハードルが下がっていたのだそうだ。


 それは知らなかったな。

 俺たち迷い人(プレイヤー)にとっては、どっちも似たような存在だけど、精霊さんたちからしてみれば、それだけでも大分違う、と。

 どうやら、種族のおかげでちょっとだけファーストコンタクトの難易度が下がっていたらしい。

 何だかんだで、この『土の民』という種族には助けられている気がするぞ?


 それに加えて、俺がウルルちゃんと楽しそうに話をしているのとか、ビーナスやなっちゃんのようなモンスターを連れていること、レランジュボールと化したみかんを味方に加えたことなどからも、一定の評価は下されていたらしい。


 『これなら大丈夫そうだ』って。


 そのせいで、今まで姿を隠していた精霊さんたちも、こうやって顔見せをしてくれたのだとか。

 ウルルちゃんの頭の上とかにも緑色をした子リスのような精霊さんが飛び乗って来たし、飛び回っている火の玉みたいな話を聞きたそうにしていたらしく、その子たちにウルルちゃんからも、俺たちと会ったこれまでのことを話したりしているし。


「『レランジュの実』って、モンスターになったりもするんだねー、って。さっき初めて知ったよー」


 そんなことをウルルちゃんが笑いながら説明している。

 それを横で見ていたフローラさんが苦笑しつつ。


「だから境界にあるレランジュの樹の周辺には近づかないように、って言っていたのよね。特にこの時期は繁殖期というか、引継ぎの時期だから、それを邪魔すると私たち相手でも攻撃してきたりもするの」

「そのことはフローラさんはご存知だったんですね?」

「もちろんそうよ。こんなことになるのなら、ウルルたちにも詳しく教えておいた方が良かったわ。ふぅ……まさか、私たちが立入禁止区域に張っている結界を無理やり突破できるまで、成長しているとは思わなかったから」


 それはちょっと予想外だったのよね、とフローラさん。

 あ、ということは俺たちが飛ばされた区画って、普通はウルルちゃんたちでも入れなかったってわけか?


「ふふ、それだけ、ウルルたちにとって、シモーヌが大切な存在になったってことよね。さっき、アルルにも言ったけど、このぐらいの病気じゃ人間は死なないわよ?」

「だってー! 本当に苦しそうだったんだよっ、お母さん! ウルルたちと違って、人間はあっさり死んだりするって言ったのはお母さんじゃないのー!」

「あっさり死ぬことがあるのも事実よ? それに寿命も私たちよりもずっと短いしね。だから、その時が来たら覚悟しなさいよって言ったのよ。別に、病気になったらすぐ死ぬなんて、一言も言ってないじゃないの」

「そんなのわかんないよー!」


 そう言って、ぷりぷりと怒るウルルちゃん。

 あれ? かなり怒ってるけど、ここだと雨とか降ったりしないんだな?

 もしかして、フローラさんがいるから、か?


 まあ、それはそれとして。

 フローラさんの話だと、精霊種の場合、本体である限りは病気とかにかかることは皆無なのだそうだ。

 長命種で、かつ病気知らずの種族なので、熱でうなされているシモーヌちゃんの姿を見て、そのまま死んじゃうんじゃないかって、アルルちゃんとウルルちゃんのふたりがパニックを起こしたらしい。

 もっとも、フローラさんもその時には別の場所にいたので、その話はレランジュの樹の『黄金実』を持って帰って来たアルルちゃんを問いただして発覚したことらしいけど。


「まあ、誰かのために必死になるのは悪い傾向じゃないけど、まだまだこの子たちぐらいだと、精神的に未熟なのよね。興奮すると視野が狭くなるというか、周りが見えなくなるというか。だから、『精霊の森』が『外』との繋がりを閉ざしたってのもあるのよ。悲劇は繰り返す可能性が高いから」


 情が深い、ってのはそういうことよ、とフローラさんが苦笑する。

 それこそ、他の何もかもを犠牲にしても構わない、と思いつめるぐらいには、と。


「どうせ、『外』の種族にとっては、精霊種は便利な特性持ちぐらいにしか思われていないでしょうしね。この状態で交流を持ったところでお互いが不幸にしかならないわ。私たちが外界との繋がりを絶っているのもそういうわけなの」


 もちろん『外』の人の全員がそうだって言うつもりもないけどね、とフローラさん。

 なるほどな。

 たぶん、悲劇ってことは過去に色々とあったのだろう。

 一応、そういう意味では、フローラさんの考え方は『外』に対しても中立的なようにも感じられるけど、年嵩の精霊さんたちにとっては、未だに『外』の世界というのは鬼門のような存在であることには変わりないのだとか。

 俺たちのように、ある程度気に入った相手をたまに受け入れるぐらいはするけど、それ以上は反対する精霊さんの意向なども踏まえて、『森』の封鎖を解放するつもりは一切ないらしい。


 あ、そうだ。

 俺たちはウルルちゃんやみかんの件で滞在を許されたからいいとして。

 他のみんなはどうなったんだ?

 そのことについて、フローラさんに尋ねてみることにした。


「あの、フローラさん、今の話の後で聞きにくいことなんですけど、俺たちの他にも一緒にやってきた人たちもいるんですけど、それについて何かご存知ですか?」

「ああ、そうね……ふぅ、さっきも話すべきか迷ったんだけどね。私が聞いている限りでは、他に四名ほど、この『村』で保護しているわ。今は火属性の『館』で休んでもらっているところね」

「あっ、そうなんですね?」


 四名ということは、ひとりははぐれたままってことか?

 それはそれで心配だけど、安否の情報が少し増えたことはありがたいな。

 何せ、この『精霊の森』に入った後って、メール機能も『フレンド通信』も一切機能しなくなってしまったからなあ。

 たぶん、それも『森』の結界とかが影響しているんだろうな。

 意外と頼りにならないよな、この手のステータスの便利機能って。

 本当に、いざっていう時には使えないというか。


「ええ。『外』出身の精霊種を連れていたのには驚いたわ。そっちはてっきりグリードが把握していると思ったから。まったく未知の精霊()ってのはめずらしかったしね」


 だから、滞在については認めたわ、とフローラさん。

 あ、モミジちゃんはいるのか。

 というか、だからこそすんなり『村』に入れたってことだよな。


 たぶん、飛ばされた感じからすると、俺たちより先に飛ばされたカミュたち、そして俺たち、その後を歩いていたクレハさんたち、という感じか?

 いや、四名が誰なのかは不明だけどさ。

 そう考えると、まだはぐれているのって、カミュか、ルーガか?

 あー、ルーガは心配だな。

 カミュの場合、ひとりではぐれていても何か、殺しても死ななそうな感じもするけど、ルーガの場合、ちょっと不安ではあるんだよな。

 もっとも、『山』で生きてきたわけだし、下手をすると俺なんかよりもずっとサバイバルスキルを持っているから、心配するのもおこがましいのかも知れないけどさ。

 それでも、ルーガの場合、俺が初めて会った時の死を覚悟した儚げな笑顔が頭をよぎってしまうのだ。


 ……たぶん、少なからず俺がルーガのことを意識しているからだろうけど。


 芯は強そうなんだけど、どこか小動物っぽい弱さも持っているというか。

 うん?

 そう考えると、俺ってルーガのことをペット扱いしてるか?

 いやいや、そんな。


「うんー? セージュ、なに変な顔してるのー?」

「何でもない」


 不思議そうな表情でこっちを見ているウルルちゃんの声で我に返る。

 何となく、このまま考えていると頭が痛くなりそうだったし。


「そうね。セージュ君たちも何か食べる? こんな時間だし、大したものは出せないけど、連れている子たちも一緒にどうぞ。食堂に案内するわ」


 滞在を認めたからには、部屋も用意するわよ、とフローラさん。

 あ、それはありがたいな。

 なので、お言葉に甘えておく。


「ありがとうございます、フローラさん」

「ふふ、まだ使っていない部屋もいっぱいあるしね。気にしなくていいわよ? ウルルたちを助けてくれたお礼でもあるし、ね」


 そんなフローラさんの言葉に改めてお礼を言って。

 俺たちは少し遅めの夕食をとることになった。

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