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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第6章 精霊の森へ、編
222/494

第205話 農民、夜遅くに『村』へとたどり着く

「えーと……?」

「何やってるのー、アルル?」

「……見ればわかるでしょ? お母さんから罰を受けてるの」


 猛スピードで突っ走って行ったウルルちゃんの後を、必死でついて行くと、ようやく、とある家のような場所の前へと到着した。

 いや、『村』っていうから、せめて、家が数軒ずつはまとまっているのかと思ったのだが、本当にこの大きめの建物の周りには、他の建物がまったく存在しないのな。

 これが『館』か。

 というか、暗がりの中でその建物を見て、少し驚いた。

 それはレンガ作りのちょっとしたお城のような大きさの建物だったのだ。

 オレストの町でも、ほとんどが平屋建てで、教会ぐらいは大きめの作りになっていたけど、まさか、こんな山奥の、しかもウルルちゃんの話だと、できてからそれほど経っていないはずの『村』にこれだけの規模の建物が建てられているとは思わなかったのだ。


 というか、レンガか。

 石を加工した部分もあるけど、間違いなくレンガも使われている作りだ。

 つまり、『精霊の森』にはレンガ作りの技術がある、ってことだ。


 と、ここまでは建物を見た驚きについて語ったのだけど、それ以上に、何というか、突っ込むのに困る光景が、建物の側に広がっていた。


 ウルルちゃんとそっくりというか、瓜二つの姿をした女の子が、『館』の建物の側にある大きな樹に縛られていたのだ。

 いや、縛られただけなら、確かに本人が言っているように罰だろうけど。


 それ以上に目を引いたのが、彼女の頭だな。

 頭から樹が生えているのだ。

 それも彼女の身長と同じぐらいの大きさの樹が。


 いや、縛られているものもおかしいぞ?

 これって、ビーナスが使っている、つるみたいなものだよな?

 つまり、縛られている樹、というよりも、その大きな樹がそのままつるを伸ばして巻き付いているということだ。

 これって、樹のモンスターか?

 そう思って、樹だけでも『鑑定』しようと思ったのだが。



『鑑定が失敗しました』

『ターゲットの存在が希薄なため、今のレベルでは鑑定できません』



 あ、これって、モミジちゃん相手の時と同じ状態だな。

 ということは、この樹に見えるのも精霊さんってことか?

 『人化』状態のウルルちゃんにも『鑑定眼』が機能しなかったから、俺の今の『鑑定眼』では精霊種に関しては、まったく『鑑定』ができないってことのようだ。


「もしかして、『遠話』が全然通じなかったのも、これが原因ー?」

「……ええ。お母さんに能力を封じられちゃったから」


 どうりで結界を抜けた後も『遠話』がつながらないと思ったよー、とウルルちゃん。

 どうやら、戦闘が終わった後は、何度かこのアルルちゃん宛てに『遠話』とやらを試していたらしいな。

 結局、まったく通じなかったらしくて、それで少し心配はしていたそうだ。


「まあ、ある意味無事で良かったよー」


 そう言って笑顔を浮かべるウルルちゃん。

 ちょっと前までは、置いていかれたことを怒ってたみたいだけど、そういうのはすっかり忘れてしまったようだ。

 まあ、よくわからないけど、罰を受けているみたいだし、目の前の光景を見たら、それなりに許せちゃうのかも知れないけどな。


「ぽよっ! ぽよっ!」


 で、問題はこっちだな。

 ビーナスの太ももの上で、みかんがやっぱり怒ってるな。

 まあ、それでも、ビーナスの側にくっ付いたままだし、俺たちが遭遇した最初の頃ほどは怒り心頭って感じではないみたいだけど。


「みかんも、一応は役割を果たせたから、ってことじゃないの、マスター?」

「ぽよっ!」


 何となく、言いたいことが理解できたビーナスがみかんの言葉を通訳する。

 そう言いながら、ビーナスがみかんの頭……いや、頭でいいのかは知らないけど、上の部分をなでると、ちょっとだけ、興奮が収まったようにも見える。


 ただ、それを見て、アルルちゃんも何となく状況がわかったらしく。


「……ごめんなさい。シモーヌが死ぬかと思って、それ以外のことは考えられなかったの」

「ぽよっ!」

「だから、ウルルも置いて行っちゃうんだよー! 頭に血が上り過ぎっ!」

「……あんたもおんなじだったじゃないの!」

「そりゃそうだよ! だって、シモーヌが……あれっ? そういえば、アルル、シモーヌはどうなったの?」

「ああ、そっちは安心しなさい。持ち帰った実を食べさせたら、症状が一気に改善したから……ただ、おかげで、わたしが今罰を受けてるんだけど」

「それって、お母さんがー?」

「ええ。責任を持って、奪った分の小精霊を元に戻しなさい、って」

「ふうん? じゃあ、お母さんはもう家に帰って来たのー?」

「いると思うわよ? ……じゃあ、わたしは罰に戻るわよ? 罰に集中しないと、消耗がひどくって……」


 そう言って、会話が終わったと言わんばかりに、眼を閉じて、苦しそうに身体に力を入れるアルルちゃん。

 というか、俺たちの存在には気にも留めてなかったよな?

 まだ何だかんだで、みかんも怒ってるし、自己紹介とかは後にした方が良さそうだ。


 もう一度、アルルちゃんの方を見ると、身体が少し光って、頭から生えている樹が少し大きくなったような気がした。

 もしかして、これが罰、ってことか?

 樹に縛られていること、じゃなくて、頭から生えている樹を大きくするのが、今の彼女に課せられた罰、か。


 やっぱり、みかんから『黄金実』をもらうのには色々と決まりがあったってことか。

 さもなければ、例のぽーんで警告されないよな。


「それじゃあ、アルルは放っておいて、先にお母さんのところに行こっかー」

「放っておいてもいいんだな?」

「うんー、お母さんが言ったんだったらしょうがないよー」

「ねえ……ウルル、わたしはこの辺りで待っててもいい?」

「ぽよっ――――!?」


 そう言って、ビーナスがカールクン三号さんの背中から地面へと降り立った。

 やっぱり、疲れがひどいようだな。


「うんー、地面じゃないとダメなんだよねー?」

「ええ、そうよ……ふぅ、ちょっと楽になったわね。この辺は『元気の素』もそれなりだし、『治癒』も使えそうね」

「それじゃあ、ビーナスは待ってて。ウルルはセージュを連れてくからー。あ、みかんもここに残る?」

「ぽよっ♪」


 残るらしい。

 カールクン三号さんもさすがに家の中まで入るのはまずそうなので、ここで一緒に待っていてもらうことにした。

 いや、別に、こっちの世界だと大型の鳥モンでも家に入っても問題ないのかもしれないけどさ。

 その辺は、俺もよくわからない。

 ウルルちゃんも、精霊さんだけあって、その辺のことはあんまり詳しくないみたいだしなあ。

 ただ、ビーナスのことも心配だったので、そっちを見守ってもらう意味で、一緒に待機していもらうことになった。

 『任せろー』って感じの返事ももらったしな。


 そういうわけで、高さ的には優に向こうの三階建て以上はある建物の、これまた大きな正面の扉の前に立つ俺たち。

 よし、と気合いを入れる俺の横でウルルちゃんが慌てて。


「あ、セージュ。そっちじゃないよー。こっちこっちー」

「えっ!?」


 ウルルちゃんが指差した方を見ると、木でできた扉がある小さめな裏口のようなところが見えた。


「あ、ここから入るんじゃないのか?」

「この時間だと、そっちの扉はうるさいからねー。というか、あんまりその扉使わないよ? 大きいから開け閉めが大変なんだもの」

「えっ……? じゃあ、何で、こんな扉にしたんだよ?」

「ウルルも知らないよー。元にした建物がそうだったんじゃないの? ほんと、何でこんな大きな扉にしたんだろうねー?」


 無駄だよねー、とウルルちゃんが苦笑する。

 あー、やっぱり、住人もそう思うのか。

 たぶん、これ、元にした建物がこっちの世界の城郭とか砦だろ?

 扉が大きいのも、騎士団とかそっちが出入りするからのような気がするし。


 そもそも、精霊さんの多くは本体だと空を飛べるらしく、出入りする時も、二階からだったりとかするらしい。


 ……いよいよ、門構えを立派にする必要がないよな。

 もしかすると、外敵対策かも知れないけどさ。


「はいはーい、こっちからウルルたちの家にごあんなーいだよー」

「ああ、よろしく頼むよ」

「きゅい――――♪」


 そんなこんなで、俺となっちゃんとウルルちゃん。

 その三人で、勝手口から『館』の中へと足を踏み入れるのだった。

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