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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第6章 精霊の森へ、編
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第201話 農民、長期戦に苦しむ

「ぽよぽよっ――――!」

「あー、もう! しぶといわねっ!」


 戦闘が始まってから、かなりの時間が経過した。

 いや、ぶっちゃけ、このおばけみかんことレランジュマスターって、攻撃のパターンとかも単調だし、どこか間が抜けているところもあるので、レベル差の割にはそこまでピンチに追い込まれたりはしないんだが。


 とにかく、体力を削れないのだ。


 タフというよりも、こっちが攻撃して身体と同化した『小精霊』を解き放ったとしても、次から次へと、周囲の樹からそれを補充してしまうのだ。

 回復、というよりも、そもそも、レランジュマスターの本体にはダメージを与えていないのか?


 まずいな。

 このままだとキリがないぞ?

 というか、もうすでに、日が落ちてしまっていて、例の光を放つカンテラを使っての戦闘になっているしな。

 俺は一応、低レベルではあるけど『暗視』持ちだし、囮役としては、俺がカンテラを使いつつ、レランジュマスターの身体に光を当てて、その位置を示すというやり方自体は問題がないんだが。

 正直なところ、千日手のような状態になっているのは否めないよな。


 こっちはこっちで、ビーナスの『苔』のおかげで、ゆっくりと魔力を補っているのでお互い様なんだが、このままだと体力的にまずい気がする。

 前にも起こった、強制ログアウトがいつ作動するとも限らないしな。


「いっくよー! 『水槍(ウォーターランス)』投擲ー!」

「ぽよよっ――――!?」


 ウルルちゃんが水魔法で生み出した槍を放った。

 それを食らって、レランジュマスターの身体から光が飛び散って、またひとまわりだけ身体が小さくなる。

 だが、それだけだ。


「ぽよっ――――!」


 すぐに、近くにある樹を食べて、元の大きさまで戻ってしまう。

 てか、まさか、このおばけみかんがこの手のモンスターだったとは。


 ビーナスみたいな『即死系』の攻撃をしてくるモンスターとはまったく別の意味だけど、かなり危険なモンスターだぞ?

 というか、よりによって、このクエストにこの手のモンスターが絡んでくるのかよ。


 これを倒さないと『村』には行けないのに、討伐困難なのが相手って。

 完全に嫌がらせだよな、このクエスト。

 誰の妨害かは知らないが、随分と底意地が悪いというか。


「ぽよっ――――!」


 実際、戦闘中にも関わらず、どこかほんわかしてしまうような相手ってのもどうなんだ、とは思うが、攻撃自体はけっこうやばいんだよな。

 例の果汁攻撃でもマントの表面が溶けそうになったし、果汁の速度によっては、水の弾丸のような感じで傷になったりもするのだ。

 

 なので、『ぽよぽよ』という鳴き声とどこか愛嬌のある動き以外は、やっぱり、こっちを殺しに来ている仕様ではあるんだよな。

 だからこそ、タチが悪いんだが。

 少なくとも、ウルルちゃんのサポートがなければ、かなり危険な状態になったこともあったし。


「あー! まったく! さすがは『試練系』のクエストだな!」


 鳥モンたちの『波状攻撃』の時にも、エンドレスな感じに恐怖したけどさ。

 あの時は、助っ人が来てくれたからなあ。

 今回の場合は、ちょっとお手上げの感じが強い。

 鳥モンと言えば、よく十兵衛さんはひとりで延々と戦い続けられたよな。

 俺だったら、途中のどこかで心が折れていた気がするぞ?

 今も、ビーナスたちやウルルちゃんが一緒だから、諦める気がないってだけで、クエストがらみじゃなかったら、一度撤退して、一からやり直すぐらいはしていただろう。


 ただ、この『PUO』の場合、だ。

 ここに至るまでのクレハさんやカミュの話。

 それによって生まれた、新たな疑問。

 もしかして、このクエストって、失敗したらやり直しが効かないんじゃないか? って意味での不安だな。


 カミュに『中の人』がいる可能性は否定できないので、かなり深い部分での内情について把握していることも、まだ、納得できなくもない――――が。

 それでも、いくつかの不自然な点が残るのだ。


 本当に、このゲームの中って、架空の世界なのか、って。

 AIでの人格再現とは別の要素が混じっているんじゃないか、って。

 そう、思えなくもないのだ。


 だからこそ、だ。


 この状況で逃げるという選択肢は存在しない。

 まあ、『死に戻る』か、途中で疲労限界による強制ログアウトか、ってことにはなるかもしれないけど、自分から逃げるっていうのは選べないよな。


 一応、被弾覚悟で近づいて、ペルーラさん作の鎌で直接攻撃もしてみたけど、結局、ビーナスやウルルちゃんによる魔法攻撃と同じような結果に終わった。

 本体……というか、急所がどこにあるのかわからないのだ。

 いや、そもそも、本体があるのかどうか。

 身体の小精霊を全部削って、ようやく攻撃可能になるとか、そんな感じなのかもしれないな。


 あ、そうだ。


「ウルルちゃん、結局、こいつが何で怒っているのかわかったか?」

「えーとねー、細かい部分は読み取れないよー? でも、さっきより『怒り』よりも『哀願』みたいなのが強くなった気がするかなー」

「えっ? 『哀願』?」


 ウルルちゃんにそう言われて、俺も再度、『鑑定眼』を使ってみた。



名前:レランジュマスター《悲哀状態》《怒状態》

年齢:◆

種族:霊実種(モンスター)

職業:『レランジュの園』番人

レベル:◆◆◆

スキル:『浮遊』『体当たり』『回転』『果汁乱舞』『強酸の汁』『水魔法』『ジューシージュース』『樹霊吸収』『栽培』



 あっ、本当だ。

 『憤怒』だったのが『怒』になっていて、新しく『悲哀』ってのが追加されてるな。

 というか、『悲哀』ってバッドステータスなのか?


「もしかして、このレランジュマスターって、戦いたくないのか?」

「ぽよっ――――!」

「うーん……怒ってるっていうよりも、『返してよぅ』って感じかなー? たぶん、アルルが何かを持って行っちゃったんだと思うけど……今、区画の間の結界が閉じてるせいで、ウルルとの繋がりも切れちゃってるの」


 ほんとはね、『遠話』で言葉を交わすことぐらいはできるんだけどー、とちょっと申し訳なさそうにウルルちゃんが謝ってくる。


 ふーむ。

 つまり、目の前のおばけみかんは何かに対して必死ってことか?

 と、ビーナスたちと一緒にいたなっちゃんが、こっちの方へと飛んできた。


「きゅいきゅい――――!」

「えっ? なっちゃん、何か気付いた?」

「きゅい♪」


 俺の問いになっちゃんが頷いて、しきりに自分の背中の方を示してきた。

 うん?

 なっちゃんの背中って、新しい草の芽が出てきているだけだけど……。


 背中……?

 ――――あっ! そうか!


「もしかして、目の前のこいつも、あの時のなっちゃんと同じような状態ってことか?」

「きゅい――――♪」


 そうだよ、という風に頷くなっちゃん。

 あ、そういえば、レランジュマスターも『栽培』のスキルを持ってるのか。

 ってことは、なっちゃんやビーナス同様に、自分の子供とか眷属とかを育てたりできるって可能性が高い。


「ウルルちゃん、この森に生えている『レランジュの実』と『村』の側で生える実は効果が違うんだったな?」

「うんー。『村』の側のは、ただの美味しいだけの実だよー」

「となると、ハチミツとローヤルゼリーみたいな違いの可能性もあるな……特別な食料、あるいは、特別な実、か」


 何となく、理屈は通る気がするな。

 それに、さっきから、俺たちに比べるとあまり攻撃に参加していないはずのウルルちゃんが比較的狙われていたのも気になっていたんだよなあ。


「やっぱり、アルルのせいかなー?」

「だとしても、今のままだとその『結界』を越えられないんだから、それを返すってのは難しいだろ。何とか別の手を考えないとな」

「きゅいきゅい――――!」

「え? なっちゃん? あ!? 水か!?」

「きゅい――――♪」

「えー? 水をどうするのー?」


 なっちゃんに示されたアイデア。

 そこから、慌てて、所持品の中の『お腹が膨れる水』を取り出して。


「ウルルちゃん、これの中身を『水魔法』で飛ばすことってできるか?」

「うん、その水なら大丈夫かなー。ちゃんと水って感じることができるからー」

「よし――――おーい、ビーナス!」

「何、マスター? もうちょっと離れた方がいい?」

「いや、そうじゃなくて、ここに来るまでに育ててた『苔』があったろ? 確か、あの『苔』、『木属性』特化とかになってなかったか?」

「えっ? ええ、それならあるわよ?」


 それをどうするの? というビーナスに頷いて。

 よし。

 これなら、うまく行くかも知れないな。


 そう考えて、自分の手を握り締める俺なのだった。

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