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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第6章 精霊の森へ、編
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第193話 シスターと狩人少女、モンスターに追われる

《一方その頃》

《同時刻、セージュたちから少し離れた場所》



「走れるか!? ルーガ! 四号!」

「クエッ――――!」

「うん、大丈夫、ってこの子も言ってるよ!」


 セージュたちが謎の人影を目指して進んでいる頃、風の強い草原地帯へと飛ばされたカミュとルーガ、それにカールクン四号は必死にモンスターから逃げていた。


 追って来るのは、大型のリックベアと呼ばれるモンスターだ。

 見た目は熊。

 ただし、全身は淡く光る緑色の毛に包まれている、普通の地形ではまずお目にかかることができない、めずらしいタイプのモンスターだった。


「……ったく、さすがは『精霊の森』周辺だな。いきなり、『憑依系』特化のモンスターのお出ましかよ。ルーガ、四号、気を付けろよ。こいつ、体毛を羽根化して、風に乗って移動してくるからな」

「普通に足で走るのも速いのに、大変だね」

「クエッ!」

「まあ、仕方ない。今のままだと、こっちの方が速いからな。仲間を呼びやがった。いいか、ルーガ。リックベアはエレメンタルモンスターを憑依させることで、憑依した属性の精霊の力を得るタイプのモンスターだ。今は淡い緑色だから、風属性だな。おまけに地形効果も圧倒的に風寄りだから、このままだと逃げきれない可能性が高いぞ」

「じゃあ、どうするの?」

「どこかで迎え撃つ必要があるってこった。まあ、あたしもすんなりと行くとは思わなかったしな。仕方ない」


 どこか達観した口調で、白虎を制御しつつも苦笑するカミュ。

 そんな彼女の言葉に、ルーガも自分たちを追いかけてくるモンスターの方へと振り返った。



名前:リックベア

年齢:15

種族:憑熊種(モンスター)

職業:『一区』トラップゾーン徘徊

レベル:◆◆◆

スキル:『◆◆◆◆』『◆◆◆◆◆◆』『爪技』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆』『◆◆』《『浮遊』『滑空』『風魔法』『耐嵐』『救援の叫び』》



名前:シルフィールフェザー《憑依状態》

年齢:3

種族:はぐれ精霊種『類型・羽型』(モンスター)

職業:『一区』トラップゾーン徘徊

レベル:35

スキル:『精霊化』『憑依』『浮遊』『滑空』『風魔法』『耐嵐』『救援の叫び』



「シルフィールフェザー……?」

「おっ? ルーガもわかるのか? そっちはリックベアに憑いている方のモンスターだな。はぐれ精霊種……まあ、要は、エレメンタルモンスターの一種だな。本体は、羽根の形をしているから、『類型』が羽型だ」

「じゃあ、そっちも『精霊の森』の住人ってこと?」

「一応は住人だが、まあ、そっちは気にしなくてもいいぞ。種族名の『はぐれ』ってのは、モンスター側って意味だからな。はぐれモンスターは、モンスターの中でも話が通じないタイプの分類になる。闘争本能が強いんだ。さすがに倒しても、他の精霊から文句は言われないだろうな」


 というか、だ、とカミュがルーガの方へと振り返って。


「ルーガ、あんた確か『スキルなし』じゃなかったのか? どうした? もしかして、あいつらのステータスが見えているのか?」

「うん。リックベアのスキルの一部は見えないけど」

「ってことは、シルフィールフェザーの方は全部見えるってことか?」

「うん。『名前、シルフィールフェザー。年齢、3歳。種族、はぐれ精霊種、類型が羽型で、モンスター分類。職業が――――」


 そのまま、最後までステータスを読み上げるルーガに対して、カミュが苦笑を深めて。


「ああ、そのぐらいでいいぞ。なるほど、間違いなく、『鑑定眼』が作用しているな。ちなみに、リックベアのスキルで見えているのは何だ?」

「『爪技』と『浮遊』『滑空』『風魔法』『耐嵐』『救援の叫び』。この六種類は見えているよ――――わっ、ととっ!」

「あー、気を付けろよ? 今のは『風魔法』の魔技の一種で『風刃』だな。さすがにこの速度だと、乱発は難しいみたいだがな。きっちり避けろよ、四号」

「クエッ――――!」


 まだ大分距離は離れているが、魔法が届くぐらいまでは近づいている。

 その状況に気付いて、カミュが嘆息する。


「仕方ない。そろそろ、もう少し行った場所で止まるぞ。あと、ルーガ、あんた、リックベアの『爪技』に関しては読み取れたんだな?」

「え? うん、そうだけど?」

「『身体強化』の方は読めなかったんだな?」

「うん、たぶん、黒いままだよ」

「なるほどな……『爪技』が読めるってことは…………だろうな。よし! そういうことなら、ルーガ、今のうちに、あたしと『パーティー』を組むぞ」

「えっ? うん、わかった」


 カミュに促されるままに、ステータス画面でパーティー申請を受け入れるルーガ。

 その姿を確認したうえで、カミュが頷いて。


「よし。じゃあ、ひとつだけ確認な。ルーガ、右手を上にかざして、『聖術』って言ってみな」

「手をかざして……? わかった、行くよ――――『聖術』!」


 ルーガが『その言葉』を口にした途端。

 彼女の手のひらから、白い光が発せられて。

 そのまま、光の線となって、天空へと突き抜けた。


「わわっ!?」

「やっぱりな。てか、今、一瞬だけだが、見えた(・・・)ぞ。まあ、理屈はわかった。それが『スキルなし』の正体か」

「え……? どういうことなの?」

「まあ、その話は後だ。とりあえず、今の状態なら『聖術』の『光閃』が使えるってことだから、それなら、ルーガひとりでも倒せるだろ、あれ」


 そう言いながら、後ろを追って来るリックベアの方を指さすカミュ。

 一方のルーガは、カミュの言葉に目を丸くして。


「えっ!? カミュは手伝ってくれないの?」

「てか、もう手伝ってる状態だっての。はは、心配するなって。レベル35ぐらいだったら、精霊の中でも弱い方だからな。何とかなるって」

「……わたしのレベル、それよりも低いよ?」

「『狩人(ハンター)』としてはかなりの腕前だと聞いたぞ? まあ、緊張せずに、さっきの『光閃』を、弓で矢を射るのと同じような要領で、的を狙えばいいのさ」

「あ、弓矢と同じでいいの?」


 だったらやってみる、とルーガが真剣な表情で頷く。

 強い風の吹き荒れる場所。

 魔法ですら風によって揺らぐ大平原にも関わらず、ルーガは淡々と騎乗したままの状態で、後方のモンスターの方へと振り返る。


 このぐらいの風、『山』ではもっとひどい場所もあった、と。

 落ち着いた態度のまま、狙いを定めるルーガには、どこか芯の強さのようなものを感じる。


 と、そんなルーガをどこか楽しそうに見ていたカミュだったが。

 ふと、何かを思い出したかのように尋ねる。


「そうだ、ルーガ。今の状態であたしのステータスは見たか?」

「あ、ごめん、少し見えちゃった。でも、ほとんどは《鑑定不能》で読めなかったよ?」


 既にリックベアの方に集中しているルーガは、カミュの方は見ずに、ただ、横の方に言葉だけを返す。


「ああ、それならいいんだ。あたしの場合、自分でもステータスが読めないように隠匿してるからな。今のルーガ(・・・・・)でも読めないってこった」

「……? 意味がよくわからないよ?」

「ああ。それが本当だと信じるぜ」

「…………うん?」


 よくわからない、ともう一度、首を傾げるルーガにカミュは笑って。


「まあ、今は後ろを追っかけてくるやつに集中しろ。まずは、『憑いている』のを引っぺがして、機動力が落ちたところで、残ってる熊野郎を叩くからな」

「うん、わかった」


 熊に関してはあたしもやる、とのカミュの言葉に頷いて。


「――――『聖術』!」


 ルーガはモンスターに向かって手をかざして光線を放つのだった。



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