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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第6章 精霊の森へ、編
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第191話 農民、深い森の中で現状把握に努める

「ここ、どの辺なんだろうな?――――うわっ!?」

「さっきの場所からはそれほどは離れていないわ、マスター。でも――――って!? ……何なのかしらね、この風?」

「クエッ!?」

「きゅい――――!?」


 ビーナスと話をしている間にも、延々と強い風が吹き荒れているのだ。

 とにかく、現状について振り返ってみる。


 今、俺たちがいるのは深い森の中だ。

 そして、俺の他に一緒にいるのは、騎乗中のカールクン三号、後ろにしがみついていたビーナス。そして、あの後で慌ててもぞもぞと服の中から飛び出してきたなっちゃんの計4人……まあ、厳密に言えば、俺以外は人じゃないけど。

 というか、俺も人間種じゃないんだよな?

 まあ、今はそんなことはどうでもいいけどさ。

 ただ、なっちゃんもいてくれたのは、ちょっと嬉しい。

 こう見えて、けっこう頼りになるからな、なっちゃんも。

 ムードメーカーというか、マスコット的にも、だ。


「きゅい――――?」

「あ、ごめんごめん、今、それどころじゃなかったよな」


 さて、話を戻そう。

 周りに生えている木々の多くは、数十メートルから数百メートルぐらいの高さがあって、それが四方に生い茂っているせいで、真上を向いても、枝や葉っぱだらけで、まったく空などが見えない状態になっているな。

 何となく、『真っ暗森』って言葉が似合う感じの場所だ。


 ただ、異常とも言えるのが、その周囲の木々の状態だ。

 これだけ大木が密集しているにも関わらず、強風が吹き荒れている理由。

 それは、それらの大木がまるでダンスをするかのように、常にゆらゆらと揺れているからなのだ。

 一応、恐る恐る近くの樹に触れてみたのだが、感触だけなら、しっかりと硬さと重量感を携えている巨木の触り心地ではあった。


 にも関わらず、ゆらゆらと揺れる樹。


 ずっと見ていると、何となく気分がふわふわとおかしくなっていくような光景だ。

 もちろん、それ以上に、風の勢いがすごいせいで、じっと見ていることもままならないんだがな。

 巨木が風よけの役に立っていないというか。


「……これって、この辺りの木々もモンスターってオチじゃないよな?」


 動きがアニメとか絵本とかで出てくるようなメルヘンな感じの木々みたいだし。

 むしろ、ビーナスのような魔樹って言われた方が納得できるというか。

 だが、そんな俺の言葉に、ビーナスが首を横に振って。


「違うわ、マスター。この辺の樹はモンスターじゃないわ。もちろん、『擬態系』の能力に長けていれば別だけど、少なくとも、個々の意思みたいなものは感じられないもの。というか、マスター。確か、マスターって、『鑑定』のスキルを持ってたんじゃなかったの?」

「あ、そっか。動揺して忘れてた」


 『鑑定眼』を使ったら調べられるでしょ? というビーナスの言葉に慌てて、『鑑定眼』のスキルを行使してみる。

 いや、ビーナスがそんな俺に対して、呆れ顔を浮かべているけど、さすがに今の状況だと瞬時に冷静になるのって難しいっての。

 よくよく考えたら、俺って、『精霊の森』の周辺の地理に関してはさっぱりなんだし。


 そもそも、今回は悪い意味でカミュに頼り過ぎたよな。

 当然、こういう事態に陥る可能性については、前もって考慮しておかなくてはいけなかったんだし。

 『精霊の森』に関する、オレストの町で得られる情報を考えれば、十分、遭難することとかも考えられただろう。

 あー、本気でへこむわー。


 よし!

 反省はここで終わり!

 今、ぐちぐちと後悔していても何にもならないからな。

 現状をどうにか切り抜けて、もう一度、カミュたちとの合流を目指すぞ!


 ちなみに、『鑑定眼』のスキルでは、周囲の木々からの反応は見られなかった。

 少なくとも、モンスターは混じっていないようだ。


 ……って、あれ?


「……植物の方の『鑑定眼』にも反応がないのか?」

「そうなの、マスター?」

「クエッ?」

「きゅい――――?」

「ああ……どういう樹なのかも鑑定できないな。素材として使えるものはない、ってことか?」

「マスター、ちょっと、わたしの苔を『鑑定』してみて」

「わかった」


 ビーナスに言われて、今のビーナスの足元に新しく生えてきた『苔』に対して、『鑑定眼』を使ってみた。

 何でも、例の『豊穣球』の周辺だと、眷属を生やすことができたらしくて、それで移動中もこっそりと増やしていたのだそうだ。

 うん。

 そういうところはちゃっかりしてるよな。

 最初に遭遇したイメージと違って、どうやらビーナスって、かなり色々と先のことを考えて行動しているみたいなんだよな。

 そりゃあ、俺みたいなうっかり者は、マスターとして頼りにされないよなあ。

 むしろ、ビーナスのそういうところはこっちも学ばないといけないよな、うん。



【素材アイテム:素材】マンドラゴラの苔(木属性特化)

 ウェメン・マンドラゴラの能力で成長させた苔。眷属の一種で、これが生えている地面はマンドラゴラへの養分の供給源となる。

 ドリアード由来の栄養源を元としているため、やや通常とは異なる成長をしている模様。



「あ、これは『鑑定』できたぞ」

「ふうん、てことは、能力自体が封じられているってわけじゃないのね?」


 俺の言葉にビーナスがゆっくりと頷く。

 さっきの転移が罠だとしたら、何らかの悪影響を受けている可能性が高いので、それについて疑ったのだそうだ。


 確かにな。

 カミュも『精霊の森』の結界のことを『転移罠』って言っていたしな。

 念のため、俺とビーナス、それになっちゃんの能力も含めて、一通りのスキルに関してはチェックしてみたが、特に封印されている能力はないみたいだ。

 それについては、ホッと一安心だよ。


「クエッ!」


 ただ、カールクンの能力については、確認できなかったのだ。

 理由は単純で、だ。



名前:カールクン三号

年齢:22

種族:走鴨種(カールクン)

職業:グリーンリーフの運び屋

レベル:◆◆

スキル:『◆◆◆◆』『◆◆◆◆◆◆』『◆◆』『◆◆◆』『嘴術』『◆◆◆』『土魔法』『◆◆◆』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆』



 俺の『鑑定眼』だと、レベルとスキルがわからなかったのだ。

 というか、三号の年齢が22歳だ、ってことにもびっくりだけどな。

 俺より、年上なんだな?

 ただ、かなりレベルが高いようではあるな。

 確か、俺の身体のレベルと離れすぎている場合、それらに関しては『鑑定眼』でも読めなくなるって話だから、二桁後半ぐらいのレベルはあるのかも知れない。


「へえ、すごかったんだな、三号さんって」

「クエッ♪」


 ちょっと照れながらも誇らしげに胸を張る、カールクン三号。

 一応、黒塗りになっていないスキルがふたつだけ確認できるな。

 『土魔法』は、たぶん、俺の『鑑定眼』だと、それを持っている場合は無条件で看破できるようだな。

 今までも、敵対した『狂化』モンスターもそういう傾向があったし。


 ただ、それともうひとつ、『嘴術』っていうスキルも読めたのだ。

 これって、カールクンの大きなくちばしを使った攻撃スキルってことだろ?

 でも、何で、これだけ?

 その辺はまだ『鑑定眼』の法則性がよくわからないよな。


 ともあれ、だ。


「三号さん、もし差し支えがなかったら、その『嘴術』を使ってもらってもいいかい?」

「クエッ?」

「あ、そっか。言葉が通じないんだよな」


 畑にいる時はベニマル君がいたので通訳してもらえたけど、俺たちが話している言葉の細かいニュアンスに関しては通じていないようだ。

 さっきみたいに、こっちが褒めている、とかぐらいの感情については、表情とかで何となくは伝わっているみたいだけど。


 でも、困ったな。

 そうなると、結局、能力チェックは難しそうだなあ。

 と、俺が困った表情を浮かべていると。


「きゅいきゅいきゅいきゅい――――!」

「クエッ? クエックエッ!」

「きゅい――――♪」


 なっちゃんが何かを三号さんに伝えた、その直後。

 俺たちを乗せたままで、三号さんが、近くの巨木へと近づいたかと思うと。


「クエッ――――――!」

「わわわっ!?」


 辺りに響いたのは、ダダダダダッという打突音だった。

 首をしならせるようにしたかと思うと、眼にもとまらぬ速度で、その大きなくちばしで樹の幹を連続で打ち付ける三号さん。

 まるで、きつつきのくちばし連打みたいな速さだぞ?


 ちょっと……いや、かなりびっくりした。

 今は首のところに捕まってなかったから良かったけど、持ったままだったら、確実に振り落とされていたぞ?

 これが三号さんの『嘴術』か。


 うわあ、巨木の中心に大きなくぼみができちゃったぞ?

 さっき触った時はかなり硬そうな樹だったのに、あっという間だなあ。


 というか、だ。

 なっちゃんって、鳥系モンスターの言葉がわかるのか?


「きゅい――――♪」

「クエッ――――♪」


 どうやら、そのようだな。

 感心したように見つめる俺とビーナスの視線に対して。

 誇らしげに胸を張る、一羽と一匹なのだった。

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