第186話 農民、ここまでの行程を振り返る
とりあえず、休憩兼食事中なので、その間にここまでの経緯について、だ。
同行者全員と合流したあの後、先導するカミュについていく形で、俺たちはどんどんと東へ向かって進んでいった。
途中途中でカミュが横道に逸れる感じで、おすすめの絶景スポットに案内したりもしてくれたので、最短距離というわけには行かなかったけど、まあ、それは仕方ないだろうな。
元々、観光目的のアスカさんの旅について行っているだけなので、その辺りは、同行しているクレハさんやツクヨミさんも納得してくれたし。
というか、カミュが絶景と言うだけあって、そのおすすめスポットは景色の良いところばかりではあった。
――――景色は、な。
純粋に心が洗われるような風景だけ楽しめると良いんだけど、問題はそこが町の外にあるというわけで。
のんびりしていると、いつの間にか辺りにモンスターが近づいてきて、遭遇しそうになったりとかにも注意が必要なので、実は油断できないんだよなあ。
まあ、グチはさておき。
まず、『イーストリーフ平原』からそのまま、オレストの町を流れる川に沿って、少し……いや、けっこう上流へと進んだ場所に、最初の絶景ポイントがあった。
『ここから見える大きな滝が、セントリーフの滝だ』
『うわっ、随分と落差がある滝だな?』
『川沿いに来たはずなのに、大分、川が下の方に見えるわね』
『キラキラして綺麗だね』
『まあな。『魔境』の中を循環する水源のひとつだな。ここのポイントは滝と並ぶ形で向こう側に『千年樹』も一緒に見えるところだ。天気によっては、滝に虹がかかることもあるから、そういうタイミングを狙えば、より綺麗な光景に出会えるだろうさ』
あたしもこういうのは嫌いじゃない、とカミュが笑っていた。
カミュによると、その『セントリーフの滝』にはいくつかの段階があって、その時案内された場所から見えるのは、一番下の滝なのだそうだ。
そこは『迷いの森』の東側を流れているとのこと。
そう言えば、『グリーンリーフ』の奥に進むにつれて、標高が少しずつ高くなっているように感じたけど、一応はそういう感覚で間違いないそうだ。
もちろん、途中に窪地になっているところもあるし、『千年樹』が生えている中央付近も山頂というわけではないみたいだけどな。
山と崖が交互に連なっている地形が、森林として飲み込まれたような、そんな感じになっているらしい。
そして、その真ん中で、天を貫くように立っているのが『千年樹』、と。
遠くからでもその存在感はすごくて、やっぱり、旅の時には目印のような役割も担っているそうだ。
この辺りのランドマークって感じだろうな。
そんな『千年樹』が生えている森の奥へと続く川の、その奥の方に見える大きな滝。
それが『セントリーフの滝』だ。
幅広ではないけど、落差が大きい滝だな。
もっとも、奥の方にそびえ立つ『千年樹』は遠くにあるのに、さらに高いけど。
滝の周囲には色とりどりの鳥モンが飛び回り、影のようにしか見えないけど、何やら大型のモンスターの姿も遠くから確認できた。
……うん。
やっぱり絶景ではあるけど、ここも『魔境』なんだなあ、と実感させられる光景ではあったなあ。
距離的には大分離れているけど、たぶん、近づいたら、俺とかが最初の頃遭遇した、ラースボアクラスのモンスターだろう。
『魔境』の奥に足を踏み入れると、その手の大型モンスターもごろごろ生息しているってことか?
さすがは『魔境』って呼ばれるだけのことはある。
ラルフリーダさんと知り合った後でも、やっぱり、それなりに怖い場所という印象に変わりはないなあ。
おまけに今は、その領主さまでも予測できない状態みたいだし。
うん。
無理に『グリーンリーフ』の中の精霊種を目指さなくて良かったかも、と改めて、心の中でほっと安堵する。
『まあ、川の向こうまで行かなけりゃ、襲い掛かってはこないさ。はは、だが、あっちの鳥系モンスターは来るかも知れないからな。気付かれる前にとっとと逃げるか』
カミュのその言葉で、慌ててその場から立ち去る俺たち。
で、そのまま、次のポイントへと向かったってわけだ。
◆◆◆◆
「そういえば、あの時の影みたいな巨大なモンスターは何だったんだ?」
「あれは、『迷いの森』にかかってる迷彩だろ? あの森は森の外側からだと全容がわからないようになってるからな。中に入ってのお楽しみってやつだ」
へえ、そうなのか?
ごはんを食べながら、あの時の話をカミュから聞く。
どうやら、『グリーンリーフ』に関しては、権限が必要な場所ほど、外からはわかりにくくなっているようだ。
遠くから魔法とかを使って、のぞき込んだりできないように、それなりの処置を施されているってことだろう。
その割には、『千年樹』に関しては、外からでもはっきりと見えるけど、あの樹はやっぱり、森全体の象徴でもあるから、ってことらしい。
あ、ちなみに今俺たちが食べているごはんは、オレストの町でも携帯食としてはおなじみの干し芋と、少し寝かせたぷちラビットの肉を塩振って焼いただけのものだな。
それと『お腹の膨れる水』だ。
実際、この魔法水、飲むと空腹とのどの渇きを一度に満たすことができて便利なのだ。一応、飲み過ぎ注意だけど。
普通の水よりも高いし。
「セージュは、『迷いの森』までは入ってもいいんだろ?」
「え? そうなの、セージュ君?」
「足を踏み入れてもいい、って許可だけですよ。モンスターは普通に襲って来るから、そっちは自分で何とかしろって言われましたよ」
一瞬、言葉に困ったけど、そういえば、アスカさんもラルフリーダさんとは会っているわけなので、このぐらいなら問題ないと考えて、質問に答えた。
ただ、これだと結局、条件は他の人と変わらないんだよな。
鳥モンたちが襲ってこなくなるってぐらいでさ。
いやまあ、それはそれで大きな差なのかも知れないけど。
「クエッ!」
「少なくとも試練は越えたってことだろ。だから、こいつらもセージュについてきてくれてるわけだしな」
「『試練』、ね? ふふ、私もこれから話せないことが増えそうだけど、セージュ君も『けいじばん』で言えないことが多そうね」
「そもそも、ラルフリーダさんの情報自体の取り扱いが難しいですからね」
アスカさんの言葉に苦笑する。
その視線からは、まだ情報を隠してるでしょ? という感じの問いかけも含んでいる気がするし。
ただ、『秘密系』の情報をどこまで出すべきかについては、他のテスターさんもみんな苦労はしているんだろうな。
協力してもらいたいし、『けいじばん』に吹き込みたいのは山々だけど、それでクエストが失敗するかもと思うと、どうしても二の足を踏んでしまうのだ。
そっちに関しては、少しずつチェックしていくしかないだろう。
アルガス芋の干し芋を食べながら、そんなことを考える。
あ、干し芋、意外と美味いな。
ほんのりとした甘みがあるのだ。
旅のお供に干し芋。
意外と悪くないのかもしれない。
◆◆◆◆
『この辺は、もうちょっと暖かくなったら、花がいっぱいになるぞ』
『セントリーフの滝』を見た後で、次に向かったのは『イーストリーフ平原』から東に山ひとつ越えた場所だった。
そこは、植物系モンスターの群生地らしい。
見た感じ、今はまだ草ばかりの状態だけど、もうちょっと成長してくると、鮮やかな色の花々が見られるようになる、と
というか、目の前の草の多くがモンスターってことか?
ビーナスとかとは違って、見た目は本当に普通の植物と変わらないと思った。
というか、カミュに言わせると、植物系のモンスターって擬態が得意なやつが多いらしいのだ。
要は、半分、人型のビーナスみたいな方が珍しいのだろう。
というか、だ。
何気に山を越えるのが、けっこう大変だったんだが。
山道だと、モンスターに騎乗していても、振動も大きくなるし、道もちょっと狭くなるので、周辺にいるモンスターを避けるのにかなり苦労もしたし。
まあ、白虎もカールクンもモンスターを避けるためのルート取りとかは上手なので、ある程度はお任せで何とかなったけどな。
その分、乗っている側のことを考慮してくれなくなるようで、ロデオみたいな感じになってしまうのだ。
けっこう、お尻が痛いです。
『走り鳥部隊』の鳥モンだけあって、カールクンの身体って、しっかりと筋肉質でできているんだよなあ。
下半身とか触らせてもらったけど、あっちのお相撲さんの筋肉みたいな張りがあったし。
ただ、その分、背中も硬くて座り心地はあんまりなんだよな。
もし今後も頼るのなら、鞍みたいなものは必要だろう。
その辺は、革職人と相談案件だ。
さておき。
植物系モンスターが群生地ということは、だ。
きれいで牧歌的な風景だけじゃなくて、だ。
『いきなり襲い掛かってくることはないが、少し離れたところから見るようにな』
『え? 何でだ?』
『油断してると、静かに花粉を飛ばしてくるぞ』
カミュによると、前にビーナスが作った苔の弾みたいな効果がある花粉を飛ばして来たり、虫モンが喜ぶような香りがする花粉を放ってくるモンスターもいるらしく、気付かないうちに、身動きが取れない状態にされることもあるそうだ。
『おい、随分と物騒な花畑だな』
『でも、見た目は綺麗だぞ。あたしも花でいっぱいの時にここを通るのは嫌いじゃないんだ。そのまま、横を通り過ぎる分には別に悪くないだろ』
『……まあ、そうかしらね』
この辺りから、ちょっとカミュのオススメスポットってやつに疑問を持ち出してはきたんだよな。
ちょっと俺たち迷い人の感覚とは違うというか。
いや、そもそも、モンスターが生息している世界で、観光ってのは難しいのかもしれない、と俺とかがが思い始めたと言うべきか。
やっぱり、場所によって穏やかな場所もあるみたいだけど、さっきの花粉攻撃みたいな事前情報が足りてないと、死に戻りしかねないというか。
だからこそ、ってアスカさんもやる気になったようではあるけど。
そういえば、お仕事でこっちに来てるんだもんな。
今は、問題点を洗い出して、実現可能な形を考えるって言ってたし。
うん。
やっぱり、お仕事って甘くないよな。
俺はしみじみとそう思ったのだった。
旅行ダイジェスト風味です。
途中の行程は、モンスターを回避する形で割と猛スピードで移動してますので、このような感じになりました。
掲示板回、他視点含みですが、200話を越えてきました。
これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。




