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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第6章 精霊の森へ、編
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第185話 農民、強行軍の合間に一休みする

「よし、そろそろ休憩にするか」


 あの向こうに見える木陰まで行くぞ、とカミュが俺たちの方を振り返る。

 その言葉で、一緒にいた同行者のほとんどが、ホッと安堵の息を吐いた。

 今、俺たちがいるのは、『イーストリーフ平原』から東に、山ふたつ越えたところにある見通しのいい平野部だ。

 その中央をまっすぐ東へと巡礼路が伸びている場所で、開けている場所だな。

 今のところ、見える範囲にモンスターがいないようなので、ここを休憩ポイントとすることに決めたようだ。

 ちなみに『精霊の森』へ向かうルートとしては、この午前中の今の時点で、全体の行程の半分ぐらいまでは来たらしい。

 少し飛ばしたけど、お疲れだったな、とカミュが皆にねぎらいの言葉をかけてるし。


「け……けっこう、大変ですわね」

「クエッ……!」

「大分町から離れたけど、鳥さんたち、かなり疲れてるよ?」

「私も……。もちろん、この虎さんのおかげで助かってるけど、スピードが速すぎて、乗ってるだけでも大変だわ」

「ガルッ!?」

「前に向かった時よりも、お嬢様とモミジの疲れが大きいようですね……」


 いや、かなりの強行軍だったぞ?

 それでも、俺やルーガ、俺と同じカールクンに乗っているビーナスに、白い虎の背で必死に手綱を持ってしがみついていたアスカさんなどは、まだマシな方だ。

 俺たちを乗せてくれた二羽のカールクンや、アスカさんの騎乗してる白虎、それにクレハさんたちに至っては、もう見るからに疲れてるのがわかるのだ。


 というか、カミュの騎乗している白虎だけやたら速い上にそんなに疲れてないのはどういう理屈なんだろうな?

 真っ先に休憩場所にたどり着いて、飄々としているカミュを見ていたら、少し呆れたような感じで視線を返された。


「だらしないぞ、セージュ。あんたはそんなに疲れてないだろ。カールクンに乗ってただけなんだから」

「いや、そうは言っても、背中に乗ってるだけでも大変なんだよ。俺たちとしては」


 何せ、カールクンたちって、一応手綱はあったけど、鞍がないのだ。

 ビーナスがつるで縛ってくれたから何とかなったけど、これ、普通に乗るだけでも大変だぞ?

 何せ、大型のカルガモ……向こうだったら、裸の馬とかダチョウに乗っているようなもんだから、速度が速くなると、乗りこなすのが一気に難しくなるのだ。


 これ、たぶん、『騎乗』のスキルとかあるよな?

 俺、ビーナスがいなかったら、絶対に途中で落っこちてた自信があるぞ?


「クエッ……」

「ふふん、ね、マスター? わたしが一緒で良かったでしょ?」

「ああ、本当、それに関しては、ありがとうだよ、ビーナス。あ、三号さんもあんまり落ち込まないで、俺が下手なのが悪いんだから」

「そうよね。ルーガの方がうまいんじゃないの?」


 俺がカールクン三号に謝る横で、ビーナスがそう言って、やれやれと肩をすくめた。

 そうなんだよな。

 一応、ルーガの方はルーガの方で、落ちないようにビーナスがつるで網のようなものを作って、支えみたいにしていたんだけど、それはそれとしても、手綱さばきも含めて、俺よりもずっとうまいのだ。

 むしろ手馴れているというか。


「うん。わたし、モンスターさんに乗せてもらうのって、これが初めてじゃないし」

「そうなのか? やっぱり、すごいな、山の狩人の経験値って」


 どうやらルーガはモンスターの騎乗経験もお有りのようだ。

 というか、もうルーガの『スキルなし』には騙されないぞ。

 実は、サバイバルスキルはかなりのもんだろ、ルーガってば。


 少なくとも、俺だけじゃなくて、アスカさんも、クレハさんにしても、だ。

 鞍なしで馬とかに乗った経験なんてほとんどないわけで、かなり消耗してしまったのも事実だ。

 一応、俺も知り合いの馬を飼っている農家で乗馬させてもらったことはあるけど、器具がない状態の動物に騎乗するのがこんなに難しいとは思わなかったぞ。

 やっぱり、向こうの馬って、人を乗せるのに慣れてるんだろうな。

 器具にしても、乗りやすいように進化しているわけで、それに比べるとカールクンとかはちょっと乗るのに工夫が必要なようだ。

 いや、ケイゾウさんとかヒナコさんが簡単に乗っていたけど、よく何もつかまらずに乗りこなすことができるよなあ。

 実はコッコさんってすごかったんだな。


「白虎さんたちの背中の毛が服にピタッとくっ付いてくれるから、振り落とされるって感じじゃないけど……やっぱり、この速度はちょっと怖いわね」

「いや、アスカ、これでも加減はしてるぞ? 全速力ならずっと速いからな。ただ、それだと経験がないとかなり厳しいし、そもそも、あんたらがついて来れなくなるから、少しゆっくりめに走ってるんだよ」

「……これでゆっくりめかよ?」


 体感速度的には、車で百キロ出すよりも速いぞ?

 乗り物の中じゃないのにそんなスピードって、何気にバイクで限界速度に挑んでいるような怖さがあるっての。

 アスカさんが怖いって言っているのも頷けるのだ。

 少なくとも、俺は風を切って走ることが快感にはつながらなかったな。

 カールクンに指示出しつつ、カミュに置いていかれないように必死だったし。

 その辺は、この不良シスターも容赦ないよな。

 習うより慣れろ、って感じで。

 相変わらずのスパルタだよ。


「まあ、そうは言っても、だらだらしても仕方ないしな。それに、このぐらいの速さだと、モンスターと遭遇しても戦闘にならないんだよ」

「いや、それはありがたいけどさ」


 確かにカミュが言う通り、ここまでほとんど戦闘らしい戦闘はなかったんだよな。

 白虎さんにカールクン、それにモミジちゃんの速度で走っていると、他のモンスターがあんまり追ってこないのだ。

 いや、それだけ速かったってことだけど。


「ですが、こうやって示されますと、限界を超えることもできますのね。ここまで、モミジが速く走れるとは思いませんでしたわ」

「後は、乗ってる側の問題もあるな。負担の大きい乗り方をしてると乗せてる方もすぐに疲れてくるからな。アスカの場合、途中で何度か速度を落とそうとしたりしたろ。『白虎隊』の場合、乗り手の指示に従順だから、そういう余計な意志を伝えると、疲れやすくなるんだ。まあ、こればっかりは慣れるしかないがな」

「ごめんなさい。これからは気を付けるわ。白虎さんも、ごめんなさいね」

「ガルッ♪」

「クレハもな。精霊術師にしては、依代として不十分だからな。もうちょっときっちりパスを繋げられるようにしないと、無駄が多くなるんだよ」

「そう、なんですのね? 依代、ですの?」

「ああ。あたしも専門家じゃないから、細かい部分は教えられないがな。もし『森』へ入ることができたら、詳しいやつに聞いてみな。今の状態だと、術師としても不完全な状態だからな。だから、まだ職業に『精霊術師』がないんだろ」


 あたしに教えられるのはここまでだ、とカミュが苦笑する。

 ふうん?

 やっぱり、カミュって、色々なことに詳しいよな。

 どうやら、クレハさんって、その『精霊術師』の資質持ちってことらしい。

 たぶん、それが『精霊憑き』ってことなんだろうけど。


 それはそれとして、クレハさんの場合、モミジちゃんを実体化するだけでもそれなりにエネルギーみたいなものを消耗するらしく、その分でかなり疲れが見えるぞ。

 この休憩のうちに食事などで栄養を補給した方がいいだろう。

 すでにこの休憩が始まってから、騎乗してきたモンスターたちには、食料とか水を食べてもらっているしな。

 カールクンはアルガス芋を食べてるし、白虎たちはぷちラビットの生肉が好きなようで、それを食べているな。

 モミジちゃんは食べられるものがないので、クレハさんが同化した状態で食事をとるしかないようだ。


 あ、そうだ。


「なあ、ビーナス」

「何、マスター?」

「俺が持っている分の苔、クレハさんたちに渡してもいいか?」

「ああ、そういうこと? 別にいいわよ。マスターにあげた分は、マスターの好きに使っていいわ」

「じゃあ、遠慮なく――――クレハさん、これをどうぞ。ビーナスが生やしてくれた苔です。味はいまひとつですけど、噛んでいると体力とか魔力の消耗が少し抑えられるみたいなんですよ」

「ちょっとマスター、味はいまひとつは余計よ!」

「あ、ごめんごめん」


 ぷりぷりと怒るビーナスに、素直に謝る。

 ただ、事実は事実だぞ?

 そのまま口に含むと、やっぱり苔を食べてるって感じだし。


「……貴重な品ということですよね? 頂いてもよろしいのですか?」

「ええ。俺が見た感じ、かなりお疲れですよね? このままですと『精霊の森』までもたないかもしれませんし」


 何せ、カミュの強行軍だからな。

 使える手は何でも使って、回復を目指した方がいい。

 もちろん、必要だったら、俺が作ってきた傷薬とかも提供する用意はあるしな。

 俺がそう言って進めると、クレハさんも頷いて。


「頂きますわ。これ以上、皆さんの足手まといなるわけには参りませんから」

「――――――――!」


 俺から受け取った『苔』をクレハさんが口にすると、横にいたモミジちゃんにも反応があった。

 今は同化している状態じゃないんだけど、それでもクレハさんが何かを食べると、一緒に回復したりもするようだな。

 これが、さっきカミュが言っていた『パス』ってやつか?

 俺がその光景を見ながら、そんなことを考えていると。


「マスター、わたしもお腹が空いたわ。いつものジョウロでお水をちょうだい」

「ああ、わかった」

「セージュ、わたしもごはん食べていい?」

「きゅい――――?」

「わかったわかった、ちょっと待ってくれ。今、取り出すから」

「ふふ、何だか、セージュ君ってお母さんみたいね」

「おーい、セージュ母さん。あたしにもくれ」

「カミュまで、あんまりからかうなよな……わかったっての」


 そんなこんなで、苦笑しつつ。

 持ってきた食料をみんなに配っていく俺なのだった。

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