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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第6章 精霊の森へ、編
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第183話 農民、町の外でビーナスたちと合流する

「遅いわよ、マスター!」

「クエッ!」

「ごめんごめん、ビーナス。もしかして、けっこう待ったか?」

「んー、まあ、そうでもないけど」


 そうでもないんかい。

 オレストの町の門をあっさりと通過すると、ちょっと町から離れた場所で、ビーナスたちが待っていてくれた。

 ビーナスを背中に乗せたカールクン3号と、少し積み荷を多めに持ってくれているカールクン4号だな。

 ビーナスの話だと、ラルフリーダさんの家の側から繋がっている別ルートを使って、ちょっと前に町の外へとやってきていたのだそうだ。

 今のところ、俺たちが来るまでは、他の住人とかの姿はなかったとのこと。


 というか、カミュたちが白い大型の虎を二頭連れていたんだけど、それでも普通に門は通り抜けできるんだな?

 どうやら、教会の『白虎隊』ってのは割と有名らしい。

 教会の支部が存在する町だったら、簡単な手続きだけで、門を通過できるって話みたいだしな。


「ビーナス、例の『球』はどうした?」

「ほら、ここよ」

「あっ、なるほど、服と同じように鉢の部分もつるで編み込んであるんだな」

「そうよ、土の中にラルさまからもらった『球』も入ってるわ」


 カールクンの背中に横座りをしていたビーナスの、その下半身というか、俺たち人間で言うところの膝下辺りのところから、緑色のつるで編んだ鉢植えのような状態になっているのが見える。

 そこにビーナスの植物の足、それに接する形で『豊穣球』、そして、その外側をビーナス畑の土でくるんでいるんだな。

 なので、一番外側もつるの鉢でがっちりと護っているような状態だ。

 うん。

 これなら、移動しても大丈夫そうだな。


「そちらがセージュ君が話していたビーナスさんね?」

「はい。魔樹種のマンドラゴラのビーナスです。あ、そうだ、ビーナス、こちらが今回の旅で同行する、シスターのアスカさんとカミュだよ」

「ああ。巡礼シスターのカミュだ。よろしくな」

「ええ。こっちもマスターから聞いてるわ。よろしく。でも、あんまり足手まといにならないように気を付けて。そういうのはマスターだけで十分だから」

「……何だか、俺、ひどい言われ様だな」


 単にお互いを紹介しただけなのに、いきなり貶されてるのな。

 相変わらず、マスターとしての評価が低いなあ、俺って。

 そんな感じで、ちょっと生意気な対応になったビーナスだけど、それを聞いても、むしろカミュとかは機嫌良さそうに笑っているな。

 特に怒るとかはなさそうだ。


「はは、尻に敷かれてるのな、セージュ。まあ、そのぐらい気が強い方がいいか。ただ、即死系のスキル持ちか。ラルのやつが注意するのもわからないでもないな」

「これでも大人しくしてるのよ? マンドラゴラとしては不本意極まりないけど、ラルさまの言うことだから、従ってるのよ」


 マスターとは違うわ、とビーナス。

 いや、一言多いっての。

 ただ、カミュの言葉に対して答えつつ、どこか不満そうな表情を浮かべて。


「ねえ、カミュ。その目で見るのやめてくれる? 何となくだけど不快だわ」

「あー、悪い悪い。これも教会に属する者の癖みたいなものでな。もう、終わったから勘弁してくれ」


 今なら大丈夫だろ? とカミュが頭を下げる。

 うん?

 目、か?

 今、カミュがビーナスに対して何かをしたってことか?


「そうね。さっきまでの不快感はないわね。今のはマスターに免じて許してあげるけど、次はないと思いなさい。わたし、そういうのには敏感だから、何かされたならわかるんだから」

「のようだな。あたしとしてもお節介のつもりだったんだが、余計だったようだな」

「ビーナス、それにカミュも。今、何があったんだ?」


 二人だけが分かり合っていて、他のメンバーが完全に置いてけぼりになってるぞ?

 一応、ビーナスの表情を見ると、口調ほどは怒ってはなさそうなので、そこまで険悪なわけでもなさそうだけど、旅が始まる前から不穏な空気になっても困るのだ。


「そうね。マスターの『鑑定』があったでしょ? あれよりも身体の中までのぞかれたような感覚よ。悪意はなかったから、この程度で済ませたけど。少し困っているようにも感じたから、何か目的があったんでしょ?」

「まあな。ここだけの話、今の神聖教会の基準だと、即死系のスキルを持ってるってだけで、『危険生物指定』の対象になっちまうんだよ。今はラルが封印してるから、グレーゾーンだが、このままだと封印しっぱなしか、あるいは、『危険生物指定』で確定だろ? それで何かいい方法がないかと思って、色々と見てたんだよ」


 まあ、余計なお世話だったようだがな、とカミュが苦笑する。

 どうやら、カミュはカミュなりの優しさで、こっそり『鑑定眼』のようなスキルを使ったらしいな。

 もし可能なら、ビーナスのスキルの封印を解除しても、教会から狙われないように手を打つ方法を考えるって、言ってくれてるし。

 だが、当のビーナスはと言えば、無理してまでラルフリーダさんがかけた封印を解くつもりはないようだ。


「ええ。ラルさまに迷惑がかかることはしたくないもの」

「だが、封印したままだと調子が戻らないんじゃないのか?」

「それはカミュの言う通りだけど、でも、わたし、この辺のことってあまりよくわからないのよね。その、教会? それがどういうところなのかも知らないし。だったら、調子はよくなくても、今はラルさまに従うことにしたの」

「ふうん、それはそれで殊勝なことだな。なら、基本は封印を解かないようにな。あるいは、あたしら教会の人間に気付かれないように、こっそりと封印を解くように、な」

「ええ、そうするわ」

「いや、それで良いのかよ?」


 お互いわかったような表情で頷くふたりに突っ込みを入れる。

 というか、カミュはカミュで教会の人間はそういうことを言っていいのかよ?


「まったく、マスターってば頭が固いわね。本当に危機が迫ってたら、のんきなこと言ってられないじゃないの」

「そうだぞ、セージュ。建前ってのは大事だがな。綺麗ごとだけで済まないことの方が、世の中多いんだよ。てか、あたしは不良シスターだけど、教会の上層部には、ほんっとうに頭が固い連中が多いからな。そういうやつらには気を付けろよ? この手の話は、例え冗談ですら通じないからな」


 あー、面倒くせえ、とカミュが嘆息する。

 ビーナスはビーナスで、出来の悪い息子を見る母親みたいな視線を浴びせてくるし。


 というか、揉めかけてたんじゃないのか?

 何で、ふたりがかりで、俺が呆れられないといけないんだろ?

 こっちの世界の住人の感覚だと、こういうのが普通なのかね?

 たまに、向こうの常識だと、判断に難しい時があるよな。

 ビーナスの話だと、相手の感情の向きを把握することで、何が言いたいかを何となく悟ることがポイントだってことらしいけど。


 あ、そういえば、リディアさんも悪意がどうとか言ってたっけ。

 いや、だから、その手のとんでも能力を基準にされると、持たざる者は大変なんだってば。


 というか、だ。


「ビーナス、もしかして、その封印って解こうと思えば解けるのか?」

「そんなわけないじゃない。ラルさまの封印よ?」

「へ? だったら、こっそり解けないだろ?」

「そこはそこ、よ。だったら、マスターもいい方法を考えてよね。期待してるわよ」

「いや、無茶言うなよ!?」


 にっこりと曇りのない笑みを浮かべるビーナスに対して、突っ込みを入れる俺。

 こういう時だけ、すごくいい笑顔なんだから。

 まったくもう。


「あらあら、セージュ君、色々と大変ね」

「……わかってくれますか、アスカさん」

「でも、セージュって、いつもこんな感じだよね?」

「きゅい――――♪」

「クエッ♪」


 あー、常識人のアスカさんの言葉が染みるなあ。

 というか、ルーガとなっちゃんもそこで頷かれると少しガックリなんだが。


 そんなこんなで、肩を落とす俺を放ったまま。

 俺たちは町の東にある、クレハさんたちとの合流地点を目指すのだった。

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