閑話:開発者への取材メモ1
《『PUO』への取材について》
《その問い合わせと返答》
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『――――このゲームを作ろうと考えた経緯についてお答え頂けますか?』
『うーん、その辺は成り行きとしか言えないね』
『――――成り行き、ですか?』
『うん、そう。元々そういう要望がとあるところであって、それを再現するのに適した能力を持っていたから、僕に話がやってきたんだよ。そうだね、"白羽の矢が立った"ってやつじゃないの?』
『――――ゲーム作りの才能ですか? Nさん、貴方はどこかのメーカーで他のゲームを作った経験がお有りですか?』
『あ、その質問には答えられない、かな。守秘義務ってやつ。僕がどういうところで、どんなことに関わって来たかはコメントできないよ。そういう取り決めじゃなかったかな? この取材に関しても、ね』
『――――失礼致しました。そのように『SZプロジェクト』からも注意事項がありましたね。では、お答えいただける範囲内で、このゲームを作ろうとした経緯についてお教え頂けませんか?』
『経緯と言ってもねえ……必要だったから、で、僕は僕で面白そうだと思ったから、話に乗ったってだけでね。あくまでも仲介役というスタンスだからね』
『――――仲介役、ですか? このゲームのマスターが貴方であるというお話でしたが?』
『あー、言い方が悪かったかな? ゲームのマスタリング――――だっけ? それについては、僕がほぼ担当していると言ってもいいよ。あ、そうそう、技術関係については、そっちも守秘義務ってやつで解答できないからね。その辺はよろしく』
『――――質問を変えます。貴方はゲームクリエイター、ですか?』
『創造者、ね。うん、いい言葉だね。そういう側面も持っているよ、とだけは答えさせてもらうね。ごめんね、君も興味深いという意味で、テスターに選ばれたみたいだけど、そうなると、僕と君も一応、関係があるってことだからねえ。あんまり、こういう外側で、情報を教えるわけには行かないんだよ』
『――――つまり、クリエイターではない、と?』
『お? 今の僕の言葉だけでそれが読み取れた? うん、そう。少なくとも、ゲーム作りの専門家じゃあないねえ。ただし、仮想現実って意味なら、そっちに関してはプロ――――だったね? そう考えてもらっても構わないよ』
『――――バーチャルリアリティを生み出す専門家、ということですか?』
『まあね。何せ、僕にはそれしか取り柄がないからね。ふふ、僕も仲間うちでは一番身体が弱いってのが有名でね。最弱――みそっかすみたいなもんだけど、だからこそ、この分野では負けるつもりはないね』
『――――なるほど、身体が弱かったからこそ、今の技術職へとたどり着いたということですか』
『うん。たまたまそうだったってことだろうね。逆に言えば、資質がそっちにしか向いてなかった。いや、だからこそ、能力の向上に努めて、あちこちから情報を収集することを怠らなかったからこそ、の今だろうね』
『――――努力家だったのですね』
『そんなのは皆も同じことだと思うけどね。そういう意味では、こっちの世界って、そこそこ平等だと思うよ、ほんと。絶対的な資質の差ってのがないから。ほとんどが努力でどうにかできることばかりだし。だから、僕はこっちの現実は嫌いじゃないよ』
『――――現実を愛するからこそ、このゲームを作ろうと思ったのですか?』
『あー、そういう考え方もあるかな? できることなら、こっちの現実をもっともっと反映させられることを願っているよ』
『――――そのためのβテストですか?』
『どうだろうね? それ自体は目的じゃなくて結果に過ぎないし。そもそも、このβテストって選択をしたのは僕じゃなくて……おっと、これ以上はしゃべり過ぎになっちゃうね、ごめんね』
『――――βテストに関することは言えない、と?』
『うん。そっちはそれこそ、スノーの管轄……あ、今は雪乃って名乗ってるんだっけ? だから、機会があるのなら、そっちに直接聞いてみた方がいい。というか、大丈夫? 結構なところに踏み込んでいるのかもしれないけど、自覚はあるのかな?』
『――――結構なところ、ですか?』
『そう。ぶっちゃけ、ある程度は把握している僕ですら、彼女たちの目的については推測することしかできないもの。知らなくてもいいことを知ってしまったら、ちょっと困ったことになるかも知れないよ?』
『――――それは、脅し、ですか?』
『いや、僕からの忠告。さっきも言ったけど、僕にとっては、君も興味深い相手のひとりだから、そのぐらいの親切心からの言葉を伝えてもいいんじゃないか、ってね。ま、僕は自分で言うのもあれだけど、かなりの気まぐれだから、そもそも、あんまり気にしなくてもいいけどね』
『――――ご忠告感謝します。ところで、今後の『PUO』の展開について、現時点で開示できる情報などはお有りでしょうか?』
『さあねえ、はっきりとは決まっていないんじゃない? そもそも、このゲームをゲームとして、発売する気があるのかどうか。たぶん、そこが問題なんじゃないの?』
『――――どういうことですか?』
『他ならぬ、僕を招集したクライアントが、最初から発売する気がないんじゃないか、って話さ。ま、詳しい事情は僕も知らないけどね』
『――――この『PUO』を発売しない、ということですか? ではなぜ、ここまで緻密な開発を? そもそも、βテストは何のために行なっているのです?』
『詳しい事情は知らないけどね。そっちで予算を出してくれている人って、別にゲームがやりたいわけじゃないんでしょ? 要は別の自分に生まれ変われるための受け皿が必要、ってだけの話でさ。だったら、このゲーム自体、希望者以外には解放する必要がないんだよ。要は、この状態が維持されることが目的なんだから』
『――――なるほど。クローズドのまま世界を続けていく、ということですか』
『たぶんね。あるいは、さっきの君の質問に答えるのならば、βテストを行なうこと自体が目的だったって可能性もあるんじゃないのかな?』
『――――つまり、βテスト以上のことは必要ない、と?』
『推測だけどね。言っておくけど、僕の言葉が全部嘘って可能性もあるからね。何せ、こうやって、顔や身分を隠した状態でしか、話をしていないわけだしね。ふふ、僕は本当にエヌという存在なのかな?』
『――――それはそれで、面白い記事になりますよ』
『ふうん? ふふ、まあ、君のその考え方は嫌いじゃないからね。それじゃあ、特別にひとつだけ、今のテストプレイに関する情報を教えてあげようかな』
『――――ひとつ、ですか? では、『狂化』モンスターとはどういう存在なのかを教えて頂けますか?』
『おっ! いいところを突いて来たねえ。いや、嫌なところを突いて来たと言ってもいいけど。あれはね、僕にとってはイレギュラーのひとつなんだよ。というか既に、あっちこっちで対処しないといけないレベルまで問題が深刻化しているのは事実かな。あ、ごめんごめん、これだと答えになってないよね? あれね、簡単に言うと、ラスボスの召喚にミスった余波みたいなもんだよ。だからこそ、面倒くさいんだけどね』
『――――ラスボス、ですか?』
『うん、ゲームである以上は、終わりが必要、なんだってね? だから、そういう意味で特別な存在を召喚しようとしたんだけど、それについては、僕の力不足もあってね、不完全な状態になっちゃったんだよねえ。まあ、これはこれで面白いから、このまま行くけどね』
『――――つまり、ラスボスに関するプログラムのエラーということでしょうか?』
『エラーでもバグでもないね。だからこそ厄介なんだけど。とりあえず、僕の分身というか、子供たちでもある子たちが育ってきてくれてるから、案外すんなりと事が進むかもしれないかな? はは、未来に関しては誰にもわからないな』
『――――私の勉強不足でしょうか、おっしゃることがよくわかりませんね』
『はは、ごめんね、抽象的な表現で。でもまあ、このぐらいが守秘義務に引っかからない部分だからねえ』
『――――わかりました。では最後にふたつだけ質問をよろしいでしょうか?』
『はい、どうぞ』
『――――貴方は異世界の存在を信じますか?』
『もちろん。では次の質問どうぞ』
『――――『PUO』は貴方にとって、どのような存在ですか?』
『自分の作った世界であり、現実の雛型だね。どこの現実かについては答えないでおこうかな。それが答えだからね。はい、これでおしまい』
『――――本日はお時間ありがとうございました』
『いえいえ。それじゃあ、ゲームの方も楽しんで行ってね』
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クラウドさん関連の閑話をふたつ挟ませて頂きました。
これで五章終了です。
中途半端ですが、一日が終わるところで切らないと当分切り場所がなかったため、このような形となりました。
まあ、章分けしてますが、話としてはほとんど連続して続いておりますので、その辺はご愛嬌ということでお願いします。




