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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第5章 鍛冶と畑とドワーフと精霊と、編
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閑話:東京の施設にて、夕食を囲んでのとある会話

《都内某所、『施設』東京支部、食堂にて》


「へえ! ユウってば、随分とクエストを進めたんだな?」

「ああ。俺が騎士団で新兵として働いていたら、何の因果か、王妃さまに目を付けられてな。何だか知らないが、やたらと難易度の高そうなクエストに次から次へと放り込まれてしまったんだよ」


 俺と、俺と同室だった貴族出身の騎士見習いもな、とユウ君が肩をすくめる。

 どうやら、面倒なイベントが連なっているらしいな。

 だが、オレストの町以外の情報を得る機会は少ないので、こういう話を聞くことができるのはありがたい。


 今、俺たちがいるのは、東京の『施設』の食堂の一角だ。

 そこで、夕食を取りつつ、今日までにゲーム内で起こったことなどについて、情報交換をしているのだ。

 この場にいるのは、俺――クラウドこと黒崎正人と、ユウ君こと三上(みかみ)祐輔(ゆうすけ)君、それにテツロウ君こと柳川(やながわ)哲郎(てつろう)君、以上三人だ。

 共通点としては、ゲームが好きというところだろうか。

 俺は社会人で、テツロウ君は大学生、ユウ君に至っては高校生なので、それこそ、ゲームを通じての経験以外は、それほど接点がない三人だろう。


 ただし、俺はゲーム雑誌の編集者として、以前から何度かふたりとはコンタクトを取って、取材をしたことがあるので、お互い面識もあるし、現実の方でも連絡先を交換してしている間柄ではある。


 ゲーム内の容姿とまったく変わらない容姿で笑っているのがテツロウ君だ。

 少しツンツンと尖らせた茶髪が印象的で、その辺にいる軽めの学生のように見えて、実は芯があるタイプだ。

 冗談ばかり口にしている時は軽薄な印象も受けるだろうが、こう見えて、テツロウ君も真面目な方向へと舵を取れば、かなり信頼が置けるの性格の持ち主なのだ。

 真っ先に声をあげるタイプのリーダー的存在、だな。

 ただ、失敗もやらかすことが多いので、どちらかと言えば、下から憎まれ口を叩かれつつも、その愛嬌で支えてもらっている性格と付け加えるべきか。

 実際、ゲームでの指揮能力や、戦闘中の視野の広さには目を瞠るものがある。数々のゲーマーを過去に見続けてきた俺の中でも、相当の実力者いう位置づけの存在だ。

 ゲームに関しては、彼の意見はかなり参考になる。


 そして、同じくユウ君も、ゲーマーとして抜きんでた才能の持ち主だ。

 見た目は、黒髪に学生服で、どちらかといえば、大人しくて真面目そうな優等生タイプのようにも見えるのだが、そのゲームスタイルは、大人しさなどとはまったく真逆のプレイをするのだから、大したものだ。

 よりリスクの高い方へ、より危険な選択肢を選んで、それらをギリギリのところでクリアしていく、そのプレイスタイルは、見る者を魅了する。

 事実、ユウ君が優勝した際の大会の動画の再生回数は、本職の動画職人でも敵わないほどの数字を叩き出したりもしているしな。

 広告収入などでも、それなりに稼いでいるであろうという噂は耳にすることもあるが、それについては、彼の生い立ちから考えると仕方ないことだとも思う。

 詳しくは語れないが、以前の取材で俺はその話もユウ君本人から聞かされていたため、彼がお金を稼ぐということをきちんと計算して、ゲームをしていることもわかってしまうのだ。

 表面上はクールな少年だが、どこか世間に対して冷めている見方があったり、言動が大人びているのも当然のことなのかも知れない。


 だからこそ、だ。


 俺は確かにゲーム専門誌の編集者だ。

 ゲームに関しては、プレイもそれなりに実力があるという自負もあるし、それ以外の業界内の事情などにも通じているので、この『PUO』のβテスターとして白羽の矢が立った、というのもわからないでもないのだ。

 それは、目の前のふたりも同様だな。

 ゲーマーとして、今の日本国内なら、十本、いや五本の指に入るかもしれない、若きカリスマとも言えるふたり。

 SZ社は、このふたりにもテスターとして参加を望んで、そして登用に成功した、というのもよくわかる。


 だが。

 だからこそ、このゲームが、それだけでは済まされない『何か』を隠し持っているのではないかという疑惑も感じてしまうのだ。

 俺とテツロウ君は、幸いというか、他のテスターのほとんどが本拠地として構えている、オレストの町からのスタートとなったので、その地の利を生かして、他のテスターたちと接触を図り、その上で、リアルに関する情報についても色々と調べてきた。

 

 その結果は驚くべきというか、あるいは予想通りというべきか、どちらともつかないものとなったのだ。

 

 問題となったのは、彼らテスターの職業だ。

 それぞれが、何らかの形で手に職を持っており、それがなるべく被らないように様々な職種、業種に関して分散されている。

 端的に言えば、それがこの調査でわかったことだった。


 そのことを知って、テツロウ君などは、純粋に驚いたり喜んだりしていたが、俺にとっては、それ以上に不自然な点があることに気付いた。


 実は、ゲームそのものに興味を持っていたテスターがそれほど多くなかった、ということだ。


 元々、この『PUO』については、開発した部署からして謎に包まれていた、曰くつきのゲームだ。

 何せ、今、俺たちがテストプレイとはいえ、ここまでの完成度で作品世界が作り上げられているにも関わらず、この途中での事前情報がまったくのぼってこなかったこと、そもそも、その『SZ社』と呼ばれる会社に関しても、ゲーム業界に精通している、うちの編集長や、会社の取締役ですら初耳だったほどだ。

 それが、なぜか、うちの編集部――企業も、その一系列として名を連ねる、出版グループの別会社の方から、突然、存在をリークされたのだ。


 詳しい詳細については、政治力がかかることがあるので、そちらを調べることはしないことという『制約』付きで、だ。

 いや、確かにこのゲームは驚くべき技術で生み出されたものではあるが、それでも、これは『ゲーム』なのだ。

 にもかかわらず、この物々しさは一体何なのだ? と。


『黒さん、この件、編集部(うち)からの代表は君に任せるわ。だから、思うところがあれば、好きに動いてくれていい。責任は僕が取るから』


 そう言ってくれた編集長の言葉と、それを発した時に、いつものニヤニヤ笑いがあったからこそ、俺はこのネタに飛びついた。

 普段の業務に関しても、編集長(ボス)ともうひとりの副編に任せることで、この少し長めの出向も成立できたわけだしな。

 少なくとも、俺だけではなく、編集長もどこか怪しいことに気付いていたのだろう。


『面白ければこそ、ゲームってやつは輝く』

『ゲームは遊びだ。遊びだからこそ、全力で楽しめ』


 それこそがうちの雑誌が掲げるものだ。

 少なくとも、この『PUO』はゲームとして、十分に面白い。

 だからこそ、その背景についても、慎重に調べる必要があるのだ。

 政治力とやらで、せっかくの良作が汚されるようなことは、一ゲーム好きとしては悲しむべきことでしかないのだから。


 そんなことを考えていたからだろう。

 ふたりの会話はいつの間にか、別の話へと進んでいた。


「身体のレベルか? それだったら、今は53だな」

「はっ!? 何だよ、それ!? さすがに高過ぎじゃね!?」


 テツロウ君があり得ない、と言わんばかりに大声で叫ぶ。

 いや、今のユウ君の言葉には俺も少し驚いた。

 レベル53か。

 延々と連続する特殊なクエストをこなしているとは聞いていたが、まさか、そこまで俺たちとレベル差があるとは思わなかったのだ。


「ユウ君のいる辺りのモンスターは、最初から強いのかい?」

「いえ、レジーナガーデン……あ、レジーナ王国の王都ですね、その周辺のところはそうでもないですよ、クラウドさん。それ以前に、円状に配置された騎士団の詰所の内側にはモンスター自体が出現しませんし」

「マジで!? モンスター出ないのか!?」

「ああ。悪いな、テツロウ。それにクラウドさんもすみません。実は、俺がいます、レジーナ王国の情報については、かなり『けいじばん』でも制限されているらしいんです」


 吹き込んだほとんどのコメントが削除されましたから、とユウ君。

 どうやら、彼も『けいじばん』に自分の状況に関して伝えて、様々な可能性について、相談したかったのだそうだ。

 だが、それはナビさんによって、ことごとく削除されてしまったとのこと。

 だからこそ、『施設』で誰かと遭遇できるタイミングを待っていたのだそうだ。


「おい、ユウ。だったら、こっちでもメモ書きぐらいは残しておけば良かっただろ? さすがに飯を食いに出てくるぐらいはしただろうに」

「――――いや。俺が今食ってる飯は、こっちでは四日ぶりだ」

「……え!?」


 さすがに、今のユウ君の言葉は聞き捨てならないぞ?

 四日ぶりとはどういうことだ?


「例の特殊な連続クエストです。あれのおかげでここまでログアウトができなくなりました」

「ちょい待ち。おい、ユウ。それはさすがに問題じゃね?」

「いや、正確に言うと、ログアウトはできるんだが、それをやると最初からやり直しになるクエストだったんだよ。だから、だな」


 そう言って、ユウ君もため息をついた。

 彼も途中で中断を考えたらしいのだが、そこはゲーマーとしての意地というか、プライドというか、負けん気で最後まで終わらせてから、現実(こっち)へと戻って来たのだそうだ。

 それを聞いて、テツロウ君の機嫌も急変したようで、納得の表情を浮かべて。


「何だ、そういうことかよ。それなら、俺も挑戦したかもな」

「いや、テツロウの場合、割と冷静だから、あっさりギブアップしたと思うぞ?」

「って、俺、利口か!? まあ、さすがに丸四日かあ。不眠不休でゲームやる覚悟はないな。てか、家だったら、途中で妹にぶっ飛ばされて、本体破損だな」

「だろ?」


 そう言って、一瞬、ふたりが顔を見合わせたかと思うと、同時に笑みを浮かべた。

 何だかんだ言って、このふたり仲がいいな、と思う。

 ユウ君も普段は礼儀正しい少年なのだが、テツロウ君相手だと、言葉を崩しているようだしな。

 ああ、そういえば、例のセージュ君とも知り合いという話だったな。

 セージュ君については、俺もこのゲームで出会うまで、まったく話を聞いたことがなかったので、普通のゲーム好きだったのだろう。

 だが、ユウ君に言わせると、一緒にゲームするのが楽しい存在だったそうだ。

 それに関しては何となくわかる気がする。

 行動が普通のプレイヤーと同じように見えて、どこかずれているのだ。

 それも良い意味で。

 もっとも、本人が意識して、ニッチ狙いのわけではないところがポイントだな。


「それにしても、話を聞く限りだと、随分と無茶な設定だね、そのクエストは」

「ええ。一応、同室のNPCの話だと、それが『レジーナの王妃に見初められる』ということらしいです。ゲームの中の世界では、そういう設定があるようですね」


 なるほど。

 ユウ君の情報によると、レジーナ王国の、その王妃様に気に入られるか、愛されたりした相手は、ことごとく難易度の高いクエストを連続でたたきつけられてしまうそうだ。

 むしろいじめかというレベルで。

 彼がいる騎士団でも、その話はもはや伝説になっているらしく、最初に王妃の寵愛を受けた時は、同期の騎士見習いからはやっかみの感情ばかりを浴びせられていたらしいが、その後、上司などから事情を聞かされた後は、どこか生暖かい視線で見守られるようになったとか、更にクエストをこなし続けるふたりを見て、最終的には見習いの間では、敬意のような態度で接せられるようになったそうだ。


「詳しいことは、秘密系のクエストですので、こちらでもお伝えできませんが」


 そう言って、ユウ君が頭を下げる。

 そうなのだ。

 例の『秘密系』のクエストは、こちらの現実でも情報漏洩すれば失敗扱いとなることがあって、現に、何人かからはそういう報告があがったりもしていたのだ。

 おそらく、このテストプレイが『施設』内からしかつながっていないことを利用して、こちらでの言動についてもゲーム内に反映しているのだろう。


 ……この辺りについても、少しやり過ぎだと思うのだが。


 あるいは、この『施設』内では、情報のやり取りがチェックされているのか?

 いくつかの疑問が浮かんでは消えて行く。

 そんな俺の頭の中で、目の前のふたりからも意見を聞いてみたいという欲求が膨らんでいくのだった。


 ――――今はリスクが高いのでやらないが、な。

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