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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第5章 鍛冶と畑とドワーフと精霊と、編
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第178話 農民、領主に確認しに行く

「はい。それでしたら許可致しますよ」

「ありがとうございます、ラルフリーダさん」


 所変わって、またラルフリーダさんの『木のおうち』までやってきた。

 そこで、ケイゾウさんの部隊の中で、走るのが得意な鳥モンさんと一緒に、しばらく町の外へと行きたい旨を伝えると、すんなりとラルフリーダさんから許可が下りた。


 そもそも、ラルフリーダさんにとって、まだチドリーさんたちの『一群』って、本当に要の任務をお願いしてあるわけではないので、そこまでスケジュールを厳しく制限する必要はないのだそうだ。

 どちらかと言えば、護衛をしてくれているクリシュナさんたちの方が、ラルフリーダさんからすれば、無くてはならない存在ってところだろう。


「ですが、そちらは問題ありませんが、セージュさんは『精霊の森』に向かうのですよね? どのぐらいの間、この町を離れるご予定ですか?」

「それについては同行者の人次第ですけど、俺やルーガについては、行って帰って来る感じになると思いますよ」


 ラルフリーダさんからの質問に、そう答える。

 一応、ここに来る前に、これまでの流れとして、クレハさんたちとも連絡を取り合ってはみたのだ。

 それによると、クレハさんとツクヨミさんは、高速での移動手段を持っているらしいのだ。

 その手段を使って、半日ほどで『精霊の森』までたどり着いたとは言っていた。

 なので、ふたりに関しては、カミュからの条件を満たしているんだよな。

 教会での話を伝えたところ、何とかついて行けるって言ってたし。

 どうやら、まだ能力に秘密があるようだな。


 ただ、そのやり取りで、もしクレハさんたちが『精霊の森』に入ることができたなら、しばらくはそっちで生活したいって言っていたので、あくまでも今回の旅に関しては、片道のみで考えているんだろう。

 その辺は、俺たちとは少し違うよな。

 うーん。

 何で、他の迷い人(プレイヤー)さんたちと距離を取りたいのかね?

 このゲームの背景について、何か知っているようだったし、そっち関連の理由でもあるのか?

 今、考えてもわかるわけがないんだが。


「『走り鳥部隊』でしたら、『精霊の森』までそれほどはかかりませんか?」

「そうですね。私の知る限りですと、そのぐらいの距離でしたら、一日かからないと思いますよ」


 もっとも、何も起こらなければの話ですが、とラルフリーダさんが苦笑する。

 まあ、それもそうか。

 変なことに巻き込まれたりしたら、その限りじゃないってわけだろう。


「セージュさんは、『引力』に恵まれておられるようですから、道中で何か起こるかもしれませんね」

「いや、そういうこと言わないでくださいよ、ラルフリーダさん」


 本当に何か起こりかねないだろ。

 というか、ゲームである以上、町と重要地点の間を移動する際に、その手のクエストみたいなものが仕込まれているかも知れないしな。

 どうも、『PUO』の場合、自由度が高いのでその辺が忘れがちになるけど、ゲームだったら、あちこちにイベントスイッチを設置してあるのが普通だろ?

 新しいエリアに入るためには、フィールドボスを倒してください、とか。


 そういうイベントに関しては、あんまり遭遇してないもんな。

 いや?

 例の『狂化』モンスターって、そっち系か?

 ゲーム内の物語的には、『グリーンリーフ』の異変って感じになってるけど、これって実は最初からイベントとして仕込まれてる可能性もあるよなあ。

 そっちの方がゲームっぽくはあるし。


 それはさておき。

 ラルフリーダさんからの情報によると、『走り鳥部隊』の中でも、カールクンに乗っていけば、かなり移動時間の短縮になるそうだ。


「持久力はそこそこですので、途中でごはんや水分を補給する必要はありますがね」

「あ、ということは、その分の食料とかも多めに持っていく必要があるってことですね?」


 なるほど。

 移動速度が速い分、消耗もそれなりってことらしい。

 ゆっくりなら、そこまで疲れないので大丈夫だけど、全速力って話になると、通常の食料の倍ぐらいは用意しないといけない、と。

 いや、そもそも、普通の量がどのぐらいかもわからないんだけどな。

 そっちは、ベニマルくんに確認しておこう。


 そうそう。

 さっき、カミュにも旅のための買い出しとかについても話を聞いていたんだよな。

 店が閉まる前に、色々と買っておかないといけないものもあるのだ。

 やっぱり、何の準備もなしに、旅に出るようなことはできないって言ってたし。


 カミュみたいに、短時間で長距離を移動できるならいざ知らず、普通の旅人とか行商人の場合、きっちりと装備を固めるのが基本なのだとか。


『普通なら野営の支度とかも必要だろ? あたしはいらないけど。だから、荷物もそれなりになるし、アイテム袋を使えない荷物が増えると、結果として規模が大きくなるから、移動の速度も遅くなるのさ』


 そんなことをカミュも言っていた。

 なので、騎乗用のモンスターを手懐けたりとか、移動に使う魔道具などを所持するのが、旅する者の重要な準備とのこと。

 そうでなければ、町や村の近くを行ったり来たりするのが関の山、って。


 ちなみに、カミュの場合は問答無用で何でもかんでもアイテム袋に突っ込んで、物が劣化する前に目的地に到着するのを目指すのだそうだ。

 おすすめはしないけど、そういうやり方もあるとは言っていた。

 薬や食料の品質劣化は割と早いので、かなり難しい方法ではあるらしいな。


「ところで、セージュさん。ビーナスさんはどうなさるのでしょうか?」

「あ、はい。たぶん、連れて行くことになると思います」


 というか、ビーナスに関しては、この家に入る前にも会ってきたんだが、『精霊の森』への旅行の話をした途端、『行く!』って言ってたから、むしろ、ここに残していった方が問題になりそうなのだ。

 というか、ビーナスの方が、むしろ俺たちよりも精霊種と縁があるので、同行してくれるなら願ったり叶ったりではあるんだよな。

 そう、ラルフリーダさんに伝えると。


「わかりました。それでしたら、セージュさんにこちらをお渡ししておきますね」

「え……っと? これは?」


 そう言ってラルフリーダさんから手渡されたのは、茶色い石のような物だ。

 比較的まんまるで、球体に近いけど、完全な丸というわけじゃないな。

 大きさはちょうど、俺の手のひらに収まるぐらいだ。

 念のため、『鑑定眼』を使って見たけど、俺の『鑑定眼』だと、どういうものかまでは読み取ることができなかった。

 いや、まあ、アイテム関連は持ってないから、仕方ないんだけど。


「はい。こちらは、この家の周辺の『豊穣土』から作りました『豊穣球』です。見た目はただの石に見えますが、私たちのような植物系の、特に、植物の特性が強い種族にとっては効果の高い道具になります」


 よろしいですか? とラルフリーダさんが続けて。


「ビーナスさんは魔樹ですので、移動に関しての制約があります。セージュさんもご存知かと思いますが、地面から離れている状態が続きますと消耗します。下手をしますと、死に至りますね」

「はい、それは何となく知ってます」


 というか、その特性のおかげで、『狂化』していたビーナスを大人しくさせることができたんだしな。

 あ、そっか。

 となると、一緒に旅するのって、実はけっこう難しいのか?


「ええ。魔樹にとって、植物系の種族にとって、それだけ大地というのは大切なものなのです。ですから、大地からの力を得られない。得にくい状況が続いた場合に備えて、この道具が重要になってきます。こちらの『豊穣球』は所持することで、大地に接しているのと同様の効果が得られます。ですから、ビーナスさんが移動する際には、こちらを持って行ってもらうようにしてください」


 その方が安全ですから、とラルフリーダさんが微笑む。

 へえ、それはありがたいな。

 一応、こっちは、先日の鳥モンとの戦闘でのお詫びも兼ねて、ってことらしい。

 もうすでに、ビーナスの畑も広くしてもらっているし、畑仕事にも人材を借りているので、十分過ぎる気もしたけど、その辺は気にせず、ありがたく受け取っておくことにした。

 少なくとも、ビーナスが同行するのには必要なアイテムだろうしな。


 そもそも、その『豊穣土』ってのがどういうものなのかは、さっぱりだけどな。

 響きからすると、肥沃な大地とか、その土壌って感じもするけど、でもそれだったら、この町の場合、ラルフリーダさんが管理しているんだから、どこもそういう感じになる気もするし。

 たぶん、この家の周辺とか、複雑な条件でもあるのだろうな。


 あ、待てよ?


「ラルフリーダさん、この『豊穣球』って、土魔法を鍛えて行けば、作れるようになったりとかしますか?」

「どうでしょうね? できるかもしれませんし、できないかもしれません。私は種族特性としての方法しか知りませんので、それ以外のやり方についてはわかりませんね」


 もしかしたら可能かも知れませんよ? とラルフリーダさんが微笑む。

 あー、やっぱり、ドリアード特有の能力か。

 ちょっぴり残念に思いつつ、この茶色い『球』を触っていると。


「あれ? これって、感触が石とは少し違うんですね?」

「ふふ、面白いですよね。最初は硬いんですけど、力を込めると柔らかくなるでしょう?」

「ええ、触り心地がいいですよ」

「あ、セージュ、わたしも」

「きゅい――?」

「ああ、ほら、ルーガたちも触ってみなよ」


 興味を持ったルーガにも、この『球』を渡してみた。

 ほんと、ラルフリーダさんが言う通り、最初に持った時は硬くて、普通の石や鉱石のように思ったんだけど、少し強めに握りしめると、突然、とあるタイミングで、ぐにゃっと柔らかくなるんだよな。

 イメージとしては、低反発のクッションとかに近いのか?

 まあ、あれよりも最初の感触は、『石!』って感じだけどさ。


「うわあ、ふにふにして面白い」

「きゅい――♪」


 ルーガがふにふにと握っている横から、なっちゃんはなっちゃんで、体当たりをしては、ぽわんという感じで跳ね返されているし。

 へえ、ちょっと面白い素材だよな。

 これは、ビーナスに渡してしまうけど、別のことでも何か使えそうな気がするぞ?


 そんなことを考える俺なのだった。

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