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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第5章 鍛冶と畑とドワーフと精霊と、編
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第158話 農民、大地の恵み亭でごはんを食べる

「ふうん? ということは、ファン君たちもまだペルーラさんの工房には行っていなかったってこと?」

「はい。これから向かいますから、一緒に行きましょうよ、セージュさん」


 目の前に並べられた料理を食べながら、俺とファン君が話をする。

 今、俺がいるのは『大地の恵み亭』だ。

 さっき、ラルフリーダさんの家で軽く衝撃を食らった後、結局のところ、同席していたクリシュナさんには、お手柔らかに、ってことで、延々と威圧されるのだけはご勘弁頂いた。

 その後でふたりと少し話をしてから、こっちの町の方へと戻って来たんだけど。

 時間的に、そろそろお昼に近づいていたので、ペルーラさんの工房に行く前に、まず腹ごしらえをしておこうと、このお店に顔を出したところ、なぜか、ばったりとファン君たちと遭遇したのだ。

 そして、今、一緒のテーブルを囲んでいる、と。


 この場にいるのは俺とルーガとなっちゃん、それにファン君とヨシノさん、あと、少し離れた隣のテーブルに座って、テーブルいっぱいに用意された料理を食べ続けるリディアさんだな。

 一応、このお店自慢の新メニューとして、俺たちも試食した『アルガス芋のいももち』、『ノーマルボアの蒲焼バター風味』、それと『ぷちラビットの串焼き』に『ぷちラビットのブイヨンスープ』、以上のセットメニューが売り出され始めたらしいのだ。

 『いももち』が主食で、汁物が『ブイヨンスープ』、それプラス、『蛇の蒲焼』か『うさぎ肉の串焼き』がセットで、1,000Nとのこと。

 単品だと、それぞれが500Nするから、セットメニューの方がお得な価格設定になっているみたいだな。


 もっとも、セットの汁物などは単品で買うよりもちょっと少なめになってるみたいだけどな。

 それでも、お客さんの多くは、この新しいセットメニューを頼んでいくので、評判は上々であるらしい。

 今日は、俺とルーガとなっちゃんも席が空くまで、少し並んで待ったけど、お店で食べない人とかは、持ち帰りとして、そのセットメニューを買って行ったみたいだし。


 で、問題のリディアさんなんだが。

 この人、ひとつのテーブルを占拠して、そこに何人前かもわからないぐらいの量の料理を並べては、端の方から黙々とゆっくり味わって食べていたのだ。

 何となく、そこだけ異空間の感じがしたぞ?

 次々と運ばれてくる料理――――寸胴まではいかないけど、それなりの大きさの鍋も複数あって、これ全部が『うさぎのブイヨンスープ』で、他にも、単品で『ノーマルボアの丸焼き』とか特別メニューらしきものも頼んでいたらしく、空になったお皿とかも少しずつ山になってきている有り様だ。

 ここだけ、ひとり大食い番組やってるみたいだよなあ。


 こんなペースで大丈夫なのかと思っていたんだけど、ジェムニーさんとかドランさんに言わせると、その辺は計算済みで料理を用意していたらしいのだ。


『昨日のうちから、予約ってことで、前金をもらってたからねー。だから、リディアさんの分は別枠で確保しておいたよ? 他に真似する人とかいなさそうだしねー』

『まあ、仕込みが大変な料理については、ちょっと勘弁してもらってはいるし、蛇の丸焼きとかで、量は誤魔化させてもらってはいるがな。こっちとしても、他の客の迷惑にならない範囲だったら、たくさん食べてもらうのは大歓迎だぞ』


 そういうわけらしい。

 それなりにお店の儲けにも貢献してくれているから、店主としてもそんなに文句はないそうだ。

 前金で払ってもらったおかげで、それを使って素材とかもたくさん購入できたらしいしな。

 一応、昨日までで、俺たちみたいな迷い人(プレイヤー)が狩ってきたモンスター食材が町の消費量よりも大分多めに出回っているらしくて、在庫がダブつく前に消費できて、それはそれで助かるって話だそうだ。

 確保しておいても、鮮度の問題もあるから、って。


 なるほどなあ。

 干し肉とかにすれば、保存食にはできるけど、やっぱり、どうしても味とかに影響してしまうので、そこは美味しいうちに食材を食べてもらいたい、って本音もあるらしいな。

 商業ギルド側の視点だと、その方が高く売れる、ってことでもあるらしいし。


 それが理由かはさておき。

 リディアさんが食べている料理って、新メニューも混じってはいるけど、ぷちラビットの丸焼きとか、蛇肉を使った料理が多いよなあ。

 一応、試作したものの、味がイマイチだった、蛇肉のソーセージみたいなのも出されているみたいだし。

 ちょっと前に、リクオウさんとかが肉屋で作っていたミンチ肉を、蛇の皮で腸詰風に代用して作ってみたらしいけど、ユミナさん的には味に納得がいかないので、ちょっと商品化には様子を見ていたそうなのだ。

 でも、たまたま、その現場に遭遇したリディアさんによって、『ちょっと食べてみたい』って話になったらしく、結局、お試しメニューの一環として、今日の料理として供されたようだな。


 ユミナさん談では、やっぱり、ソーセージには腸を使った方がいいってことみたいだけど。

 さすがにノーマルボアの皮だと、薄皮を使っても硬くて、そのままだと食べるのが大変だし、何よりあんまり美味しくない、って。

 魚肉ソーセージを外側の容器と一緒に食べるイメージかね?

 あんまり、蛇皮は料理には使えないってのは間違いないらしいけどな。

 もっとも、当のリディアさんは、皮ごとむしゃむしゃと食べてるけどさ。

 あれでお腹でも壊さないといいけど。


『後は、調味料と鮮度の問題もありますね』


 やっぱり、一番の問題は調味料不足らしい。

 そもそも、腸詰系の料理が美味しいのって、きちんとスパイスなりハーブなりを効かせるからなのであって、純粋の肉の旨みだけで作るのは、それなりに無理があるようだ。

 あと、同じく大きな問題が鮮度を保つための設備の問題だ。

 挽き肉などを扱う場合、普通の塊肉よりも常温での劣化が早いので、この町の設備ではどうしても鮮度が厳しくなってしまうらしい。

 一応、ロッテーシャさんのお肉屋では、小精霊が増えすぎないように処理する工程が混じっているらしいけど、それでも冷蔵庫がない環境ってのは、料理をするうえで、想像以上のネックとしてのしかかってくるのだとか。


 そういう意味では、向こうの日本の台所って至れり尽くせりの環境だったってことだろうなあ。

 ユミナさんも、『冷蔵庫がないところに合わせた調理は大変です』って言ってたし。

 今は試行錯誤の真っ最中って感じらしい。


 確かにな。

 ジビエ料理の基本というか、臭みを残さない処理方法って、低温での作業が前提にあるからなあ。

 だからこそ、こっちの肉料理って、臭みが強いんだろうしな。

 風味が独特な部分があるから、テスターの中には、未だに『ぷちラビットのブイヨンスープ』以外の肉料理は避けているって人もいるみたいだし。


 あ、そういえば、例の『ヴィーネの泉』の『湧水』。

 あれって、確か小精霊の増殖とかを抑える効果があるんだよな?

 うまく料理とかに使えないもんかね?

 一応、サティ婆さんも飲料水としても使えるとは言ってたもんな。


 …………いや。

 冷静に考えると、雑菌をきれいにしてくれる『謎の水』を料理に使うのって、ちょっと怖すぎるよな。

 こっちの身体はあくまでもゲーム内の肉体だけど、それでも、向こうの感覚からすると、消毒液でも入ってるんじゃないか、って思うし。

 それを口から食べるのは、俺でも抵抗があるかなあ。

 うん。

 この案は却下で。


 まあ、何にせよ、黙々と食べ進めているリディアさんを見ていると、どこかすがすがしさを感じてしまうのが不思議だ。

 何となく、見入ってしまうよなあ。

 向こうでも、すごい大食い挑戦とかやってると、自然と人が集まってきたりとかしてたし、そういう傾向って、ゲームの中でもあるんだろうな。

 俺たち以外は、決して、その側に近づこうとはしないんだけど、店にいる他のお客さんたちも遠巻きにその姿を見つめているし。


 いや、リディアさんの食べる姿はこのぐらいでいいや。

 ちょっと話を戻そう。


 幸いというか、この町の住人さんとか、他のお客さんもファン君たちの側にはあんまり近づこうとしなかったので、そのまま、相席にさせてもらって、料理に夢中のリディアさんだけ放っておいて、ファン君たちと話をしているわけだな。

 今朝読んだメールの内容からして、ファン君たちは、真っ先にペルーラさんの工房に向かったものだと思っていたので、まだと聞いて少し驚いた。


 何でも、ファン君の話だと、ペルーラさんとは別に、もうひとり、アルミナの関係者の人がこの町へと向かっているらしくて、その人の到着を待っていたのだそうだ。

 そっちは初耳だな?


「その関係者の人って、アルミナから来るドワーフさんってこと?」

「あ、ペルーラ師匠の話ですと、ドワーフさんではあるようですが、アルミナからではないみたいです。この町まで人を派遣するとなると、アルミナ峡谷からは、さすがに数日はかかるそうですよ?」

「へえ、そうなんだ?」


 だから、もう少しこの町から近くにいた、別のドワーフに白羽の矢が立ったらしい。

 えーと?

 結局のところ、ペルーラさんだけじゃダメってことか?

 まあ、ファン君たちも詳しい話は聞いてないみたいなので、それ以上はよくわからないみたいだけど。


 何にせよ、俺たちも鍛冶工房には、午後からお邪魔しようと思っていたから、そういう意味ではタイミングが良かったよな。

 これで、食事が終わってから、ファン君たちと一緒に行けば、ちょうどいい時間になるだろうし。


 そんなことを考えながら。

 俺たちは、談笑しつつ、食事を続けるのだった。

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