第153話 農民、畑で鳥モンに喜ばれる
『それにしても、こんなに僕らがもらってもいいんすか?』
「コケッ?」
「もちろん。というか、ケイゾウさんの『一群』のみんなには、この畑での面倒な部分の仕事を手伝ってもらっているんだから当然だよ?」
今日のうちに収穫できたアルガス芋、ルロンチッカ草については、鳥モンのみんなに手伝ってもらったおかげで、想定していたよりもずっと早く収穫し終えることができたのだ。
そのおかげで、アルガス芋の作付けとか、オルタン菜の植え替えなども余った時間でスムーズに進めることができたし、こちらとしても万々歳の結果なんだよな。
だから、最初の取り決めとして、手伝ってくれた鳥モンのみんなには、収穫した作物の六分の一を報酬として渡すことになったのだ。
何で六分の一かと言うと、だ。
まず、収穫した作物の用途を大きく三つに分けたからだ。
一つ目の分類は、次の植え付け用のもの。
アルガス芋だったら、今日の収穫の三分の一を植え付け用の種芋にして、そのまま畑へと植えてしまう。
種が必要な野菜や野草の場合は、そちらを目的とした栽培を行なう、ってのが今後の農業計画になるだろうな。
たぶん、オルタン菜にしても、葉っぱが美味しい時期と、種ができる時期は大分ずれてくるだろうから、そっちを目的としたものを計算していくという感じになる。
二つ目は、販売用。
これは単純で、冒険者ギルドや商業ギルドがらみのお店、後はドランさんとも約束した通り、『大地の恵み亭』に卸したり、とかな。
全体の三分の一を販売分として確保する、と。
三つ目が、自分たちの食べる分だな。
これに関しては、その収穫物を作るのを手伝ってくれたみんなで、きっちり山分けするという風にしておいた。
なので、今日のところは、俺たちと鳥モンたちで半分半分として、結果的に鳥モンたちの取り分が、全体の六分の一になる、というわけだ。
後は、細かい部分だと、種を冒険者ギルドへと売ったりとか、自分たちの食べる分を一部、研究用に回したりとか、そういうのも考えてるけど、基本的にはこのスタンスで行こうかな、って思っている。
販売分で利益が出るようになってきたら、一部を還元するか、あるいは農作業で使えそうな便利グッズとかを集めたり、手伝ってくれるみんなが喜ぶことに使えるといいと思う。
こういうのを福利厚生って言うんだろ?
正直、俺も親父どのがざっくりと言っていたことを聞き流していただけだから、あんまり詳しくは知らないんだけど、要は従業員のモチベーションをあげることに、お金を使うのはアリだってことだと思ってる。
まあ、うまく行かなくても、後で考えればいいだろう。
俺は学生で素人だけど、テスターとして参加している他の人たちの多くは社会人とかだからな。
困った時は相談できる人が多いってことだし。
とりあえずは、無い知恵をしぼって頑張るぞ!
そもそも、畑の作物が収穫できるサイクルが普通よりも短いのはわかったけど、どの辺りが限度なのかまではわからないしな。
『魔境』効果とか、ラルフリーダさんの能力だけで、永続的に無茶な植え付けが続けられるのか、それともやっぱり、どこかで連作障害みたいなものは起きるのか、その辺はまだまだわからないし。
これはスキルとは少し違うけど、カミュが言っていたようにどこかに『穴』があるかも知れないしな。
オレストの町ではそこまで農業に特化した人もいなかったし、畑作業のクエストも不定期でも、それなりの量の芋は確保できていたこともあって、限界ってやつがわからないみたいだしな。
あんまり無茶なことをして、ラルフリーダさんが痩せてきたりしても困るし。
もしそんなことになったら、ノーヴェルさんに怒られるっての。
ただ、まあ。
冒険者ギルドで買ってきた種芋の十倍以上の収穫量があったのは間違いないので、この調子で増やしていけるなら、倍々ゲームも夢じゃないんだよな。
少なくとも、六分の一の報酬でベニマルくんたちが驚く程度の量にはなっているのは間違いないし。
これだけ貰えるなら、手伝いたいっていう鳥モンも増えるかも、って。
『僕らはラルさまの命でお手伝いをしてるっすから、本当は報酬とか考えなくてもいいんすよ? あくまで、これは部下としての信頼回復のためのお仕事っすから』
「――――コケッ!」
「でもね、ベニマルくん、ケイゾウさん。そうは言っても、やっぱり、仕事を頼む以上は報酬ってのは重要なんだよ。同じ作業をしてても、気分の乗りが違うからね」
嫌々作業するか、やる気を出して作業するか。
それだけ比べても、成果は全然違う、ってのが親父どのの言い分だったな。
まあ、俺も含めて、人間ってのは現金なもので、自分にとって嬉しいものを目の前にぶら下げられると、やる気が全然違ってくるものだし。
いや、ここで手伝ってくれているのは鳥だけど。
ただ、きちんとした思考があるのなら、鳥モン相手でも通用するだろ、これ。
仕事をしてもらう。
より良い仕事をしてもらうためには、個々のやる気を引き出すのが一番だって。
もっとも、それが一番難しいらしいけどな。
ゲームを餌に家の手伝いをさせられていた俺は、結果、ゲーム好きになっちゃって、この有り様だし。
なかなか、経営者の思い通りには行かないもんだって。
「コケッ!」
『セージュさんがそう言うなら、ありがたく頂くっすよ」
「KURURURU!」
『あっ? そうっすね。一応、聞いてみるっす』
「どうしたの、ベニマルくん?」
話の途中で、周りにいた他の鳥モンからベニマルくんに何か相談のようなものがあったみたいだな。
俺は鳥言語がわからないから、ベニマルくんに通訳してもらわないとどうしようもないし。
『えーとっすね、セージュさん。報酬がそういうことなら、自分たちの好きなものを育ててもらえないか、って言ってるんすよ、こいつら』
「えっ? 好きなもの?」
「コケッ!」
『そうっす。『グリーンリーフ』に自然に生えてる実とか、野草っすね。この町の中だと、魔素が薄いっすから、全部が全部育つかどうかはわからないっすけど』
あ、なるほど。
ベニマルくんの話だと、やっぱり、鳥モンそれぞれで、多少は味の好みなどが分かれるのだそうだ。
アルガス芋も大体みんな食べられるけど、もし畑で増やしてくれるなら、そっちを報酬にしてくれた方が嬉しい、って話らしい。
あれ?
これって、もしかして、町の周辺では入手できない新しい食材を得るチャンスなんじゃないか?
もちろん、野生種なので、畑で育てたこととかはないらしいし、ベニマルくんの話でもあったように、この畑の場合、魔素が薄いから条件が合わない作物は育てられないかも知れないけど、森の奥の方に生えているものってのは興味があるな。
「ベニマルくん、それだったら、種とか増やすための実とかを持ってきてもらえる? せっかく畑を借りられたわけだし、試せるものは色々と試してみたいんだよね」
『了解っす。そういうことなら、順番を決めて、少しずつ取って来るように指示するっすね。僕らも畑の仕事ってやったことがなかったっすから、調子に乗らないで、頑張らないといけないっすから』
それもそうか。
結局、状況を見つつ、そっちの方向でも少しずつ試すものを増やしていく、ってことで話が決まった。
鳥モンたちは、好きな食べ物が増やせる。
俺は畑で作れる作物が増える。
うん、どっちにとっても得な話だよな。
『でも、自分たちで植物を育てるって面白いっすね。森の方だと、自然ににょきにょき生えてくるのが当たり前っすから、増やすって発想はなかったっすね』
「要は、それで困らなかったってことだよね?」
『まあ、そうっすね。でも、増える方がうれしいっすよ?』
そう言って、ベニマルくんが笑う。
なるほどなあ。
やっぱり、農業って、毎日がサバイバルな状況を脱しようって思わないと生まれにくいものなのかも知れないなあ。
それが当たり前の環境だと気付かないというか。
後は、向こうで人間が農業を生み出したのって、種族として強さに特化していなかった、ってのも理由のひとつかもしれない。
強ければ、自然相手でも食べ物を得られるから。
だからこその知恵、か。
一次産業が生まれるのにも理由があるんだな。
農業って奥が深いというか。
ベニマルくんたち鳥モンさんと話すことで、向こうの実家にいる時とは別の意味で感じるものがあった、と。
そう思った。




