第151話 農民、コッコさんたちと出会う
『あ、セージュさん、ルーガさん、なっちゃんさん、待ってたっすよ』
「コケッ!」
「コケッ、コッコッコ♪」
「KUAっ!」
「おはようございます。あの、ベニマルくん、もしかしてこちらの方々が?」
『はい、そうっす。ケイゾウさんを部隊長とする、走り鳥部隊の皆さんっす。それに僕ら飛行鳥部隊を加えて、この一群になるっす』
畑に到着すると、昨日も手伝ってくれたベニマルくんたち、飛んでいる小鳥さんたちの群れに加えて、ちょっとばかり目立つ感じの鳥モン集団が加わっていた。
というか、畑自体にも色々と突っ込むところがあるんだけどな。
まず、ベニマルくんから、ケイゾウさんと紹介されたコッコさんだな。
大きさはバスケットボールよりも少し大きいぐらいの大きさだ。
そして、やっぱり、予想通りというか、紅いトサカと白い羽根、どこからどう見ても、ニワトリの親戚って感じの姿をしているんだけど、だ。
そのケイゾウさん、何か、他にもいるコッコさんたちと比べると、一羽だけどう見ても人目をひくような容姿をしていたのだ。
まず、顔が凛々しいというか、濃ゆい。
他のコッコさんたちが、ほのぼの鳥モンの雰囲気全開だとすると、ケイゾウさん一羽だけ、渋めの俳優さんっぽいというか、眼光が鋭くて、眉毛みたいな模様か? それが太くて、何というか、『俺の後ろに立つんじゃねえ』的な風格というか。
いや、確かにかっこいいんだけどさ。
一羽だけ、イケメン鶏、略してイケドリみたいな感じで。
一方の、他にも数羽いるコッコさんたちはと言えば、向こうのニワトリを真ん丸く太らせた感じの風貌で、さっき言った例えで言うなら、本当にボールみたいな感じの丸さで、とっても愛くるしい見た目をしているのだ。
もちろん、ケイゾウさん以外は、眼も優しそうで、どこか穏やかな印象を受ける感じだし。
うーん。
両者は本当におんなじ種族なのかね?
どう見ても、ケイゾウさんだけ、別の鳥モンって感じにしか見えないぞ?
でも、配色とか、細かいパーツは一緒だし。
どちらもオレストコッコって種類で間違いないそうだ。
「――――コケッ!」
うわ、やっぱり凛々しい。
声もちょっと低音で渋みがある感じだしな。
今のはたぶん、ケイゾウさんが『よろしくな』って感じで言ったんだろうけど、何だろうな、この変な格好よさは。
確かに、この闘鶏チックな雰囲気は、この『一群』の部隊長にふさわしいかも、だ。
「きゅい――――!」
「――――コケッ!」
そうして、何かが伝わり合ったのか、同時に頷くなっちゃんとケイゾウさん。
いや、そもそも、なっちゃんって子供産んだんだから、母親だよな?
なぜか、一羽と一匹で分かり合っちゃってるし。
そういえば、なっちゃんもこの畑では、他の虫モンに対して、厳しく接してたし、そういう意味で相通じるものがあるのかもしれない。
いや、正直、よくわかんないけど。
俺、鳥言語も虫言葉もわからないし。
ただ、雰囲気だけは伝わって来るというか。
まあ、いいや。
話を戻そう。
『で、こっちがヒナコさんっす。ケイゾウさんの奥さんでもあるっすよ』
「ピヨコ!」
「あ、はい、よろしくお願いします。セージュです」
ベニマルくんに紹介された、そのコッコさんが両手の羽根を前で合わせて、ペコリとお辞儀したので思わず、こっちも返してしまった。
おー、すごいな。
見た目はまん丸くて可愛いニワトリなのに、どこか儀礼的な雰囲気を感じるぞ?
うーん、コッコさんたちって芸達者だなあ。
そういう意味ではものすごく器用な感じがする。
どっちかと言えば、人間っぽいというか。
ヒナコさんはケイゾウさんと比べると一回り小さくて、他のコッコさんたちと同じ姿をしているんだけど、他のコッコさんと比べるとどこかお上品な感じがするな。
これが、副隊長さんか。
そんな感じで、コッコさんひとりひとりに挨拶して、お次はコッコさん以外の鳥モンたちだ。さっきから気にはなっていた、というか。
向こうでいうところの馬ぐらいはある大きさの足が立派な鳥モンに、俺たちと同じぐらいの身長で緑色の羽根を持つ鳥モン、それとコッコさんよりちょっとだけ大きい種類のもいるな。
ベニマルくんの話だと、それぞれがカールクン、ケンケン、オレストドードーっていう種類にあたるのだそうだ。
まあ、俺が見た感じだと、カールクンが大きめのカルガモっぽい感じで、ケンケンが向こうでいうところのキジだな。オレストドードーはよくわからないけど、走るのが早い鳥モンってことで間違いないらしい。
『カールクンは、騎乗型の種族っすね。ドリアードさんたちや、他の人型の種族さんたちを乗せて走ったりもするっす。森の人たちにとっては、移動の要っす』
「あ、そうなんだね?」
へえ、なるほど。
ということは、カールクンはこっちの世界での馬とかにあたるってことか?
そういえば、オレストの町周辺で馬とかは見かけないもんな。
別の国だと、騎士団とかがあったので、何か乗るものがあるに違いないとは思っていたけど、要するにカールクンみたいに、騎乗型のモンスターもいるってことか。
少なくとも、『魔境』では、なくてはならない『足』ってことらしい。
というか、俺やルーガもクリシュナさんの背中に乗せてもらったことがあるから、別にその手の種族って、カールクンたちだけじゃないのかもしれないけどな。
とりあえず、カールクンの背中にヒナコさんがちょこんと座っていた理由はわかった気がする。
一応、この『一群』にとって長距離の輸送部隊がカールクンたちってことらしい。
そんなこんなで、ひとしきりあいさつを済ませて、だ。
さあ、畑の様子へと戻ってみよう。
「それにしても、ベニマルくん。昨日今日で育ち過ぎじゃない?」
『そうっすか? まあ、ラルさまが直で管理している土地っすからねえ。成長速度に関しては、ラルさまのやりたい放題っすよ』
いちいち気にしちゃいけないっす、とベニマルくんが笑う。
うん、まあ、そうなんだろうけど。
一応、向こうでも農園をやってる者としては、この芋畑の収穫直前までの成長っぷりが、たった一日二日のことってなると、さすがに釈然としないものがあるんだよな。
いや、もちろん、嬉しいよ?
嬉しいけどさ。
このペースで作物が収穫できたら、世界が食べ物であふれかえるぞ?
何というか、ドリアードって恐ろしい種族だよなあ。
それができるにもかかわらず、そもそもドリアードさんたちは、別に食事が必要なわけじゃないし。
それに、この成長がうまくいったのも、ベニマルくんたちが手伝ってくれたおかげだしなあ。
本来だったら、襲い掛かってくる虫モンをどんどん退けないといけないはずが、ベニマルくんたちの交渉とかのおかげで、その辺もスムーズに進んでしまったし。
とりあえず、野菜を食べないんだったら地中にいても構わないってことで、今も地面の下でまったりしている虫モンたちもいるらしいし。
「まあ、せっかくだから、植え方によって、成長の違いがあるかどうかはチェックしてみるかな」
そんなこんなで、俺たちは畑のチェックと、作物の収穫作業へと取りかかった。
そうして、一時間が経過した。
ケイゾウさんの指揮の元、鳥モンさんたちも手伝ってくれたおかげで、区画一杯に生い茂っていたアルガス芋はすべて、収穫することができた。
いや、想像していたよりもずっと早かったな。
それと言うのも、ケイゾウさんたちが、とあるひとつの『土魔法』の魔技を覚えていたおかげなんだけど。
――――魔技『土耕』。
『アースバインド』が穴を掘る魔技だとすれば、こっちは土を耕したり、状態を撹拌させたりするのに特化した使い方って感じだな。
俺も目にした瞬間、これが話には聞いていた畑を耕す魔法か、って思ったし。
実際にその魔技にチャレンジしてみて、これの使い方って、随分と精密なコントロールが必要だと言うことがよくわかった。
簡単に説明すると。
『一、地面の状態を把握』。
『二、土の粒の大きさを把握』。
『三、大きいのと小さいの、それぞれの粒の大きさで土を分離する』。
以上の三工程が基本の使い方だそうだ。
その辺はベニマルくんの通訳でケイゾウさんから教えてもらった。
これに加えて、畑を耕すために。
『四、分離した土を撹拌する』。
この工程を加えることで『土耕』が完成する、と。
一から四まで行なうことで、農具などを使って耕すのと同じようにできるってわけだ。
そして、この魔技は芋の収穫にも応用できた。
ポイントは『土の粒の大きさによって分離できる』ってところだな。
これ、範囲内の地中だったら、大きめの石とかも分離するのに使えるわけで。
それは別に石でなくても使えるということで。
「いや、ほんと、疲れるけど『土魔法』って便利だな」
「きゅい――――♪」
悪戦苦闘しつつも、俺となっちゃんもケイゾウさんたちの使い方を真似することで、『土耕』を覚えることができたのだ。
嬉しい誤算というか、そのおかげで、俺も少しずつではあるけど、魔法の流れに関するコントロールってのがつかめそうになってきたしなあ。
芋の大きさって、それぞれで違うので、俺も感覚をフル稼働させてようやく、芋を分離できるようになったのだ。
その副産物だな。
今だったら、『アースバインド』の時に穴を掘る大きさとかも少しなら調節できそうな気がするし。
最初の魔法の基準値をいじれるようになってきた、というか。
たぶん、これがこっちの世界で魔法を使うってことの第一歩なんだろうな。
この調子で、スキルの補助に頼らなくても、魔法が使えるように頑張ろうっと。
今はバテバテだから、一休みするけどな。
何はともあれ、初めての芋の収穫に満足する俺たちなのだった。




