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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第5章 鍛冶と畑とドワーフと精霊と、編
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第150話 農民、畑に向かう途中でメールを確認する

「よしっ! 後は干しておけば大丈夫だな」

「うん、びっくりするほどきれいになったね」

「きゅい――――♪」


 あの後、お湯になった『湧水』を使って、衣類などを洗濯したところ、ルーガが言うように、本当にびっくりするほどきれいに洗えたのだ。

 お湯にした効果もあるのかね?

 というか、なんだ、この『湧水』。

 見た目は普通の水と変わらないのに、驚くほどあっという間に汚れが落ちたぞ?


 ついでに革鎧とかの装備品もしぼった布で拭いてみたら、そっちはそっちで一瞬できれいになったし。

 一応、サティ婆さんの話だと、汚れを分解する効能がすごい水、ってことらしいけど、どう考えても、この水おかしいぞ?

 下手に飲んだりしたら危ない成分とか含まれてないだろうな?


「ふふ、一応、飲み水としても使えるんだよ。理屈としては小精霊への影響が強い水ってところかね。後は、粘り気とかそういうものに作用する効果もあるみたいだから、それで汚れが落ちるんだよ」

「お婆ちゃん、その小精霊って雑菌のことだにゃ?」

「あー、そういえば、カミュもそんなことを言ってましたね」

「その『雑菌』ってのは極小の生き物って意味かい? ちょっと共通言語だとわかりづらい表現だねえ。まあ、そうだね。基本的にはそれで正しいよ」


 イメージとしては、この『小精霊』って単語が向こうで言うところの菌類とか微生物みたいな意味で使われているらしい。

 ただ、極小の生き物だけじゃなくて、指向性のある魔素とか、現象系の魔法生物の場合もそういう言葉を使うって、サティ婆さんが教えてくれた。


「精霊種の本体も、どちらかと言えば『現象』に近いからねえ。だから、精霊の本体を構成しているものも『小精霊』って呼んだりするんだよ」


 へえ、精霊種ってそういう種族なのか?

 というか、サティ婆さん、色々と詳しいよな。

 精霊種のことも知ってるのか。


 なので、精霊種の場合、『人化』と呼ばれる、人型へと変化するスキルを持たない場合は、はっきりとした実体を保てないのだそうだ。

 だからこそ、もし仮に精霊種と遭遇したとしても、それが精霊種だとは気付けずに、ただの自然現象だと勘違いしてしまうケースもあるらしいな。


「『精霊の森』以外には、精霊種っていないんじゃないんですか?」

「はぐれの精霊系統のモンスターは他の場所でも見かけるねえ。ただ、本当に意味で話が通じる精霊のほとんどは『精霊の森』で静かに暮らしているって思った方がいいよ」

「なるほどにゃ。モンスターにも精霊さんがいるのかにゃ」

「サティ婆さん、ノームの場合はどっちになるんですか?」

「ノームはエレメンタルモンスターと違って、成長することで『人化』できるようになる種族だねえ。本体の姿見は個体によって異なるから、判別については難しいだろうけどね。もっとも、精霊種の場合、どの属性の精霊でも、それが精霊であることを判別するのは容易ではないよ。それこそ、同じ精霊種でもなければね」


 本気で隠れられたら、見つけるのが至難の業だからねえ、とサティ婆さんが苦笑する。

 なるほどな。

 本体の場合、気配が希薄になることもできるので、その場合は『鑑定眼』とかも一切効かなくなるのだそうだ。

 やっぱり、正攻法で精霊と出会うのは難しそうだ。


 ともあれ。

 洗濯の方もひと段落したので、精霊に関する話を聞いた後で、サティ婆さんとヴェルフェンさんにお礼を言って。

 俺とルーガとなっちゃんは畑の方へと向かうことにした。





「セージュ、歩きながら、よそ見してると危ないよ?」

「あ、ごめんごめん。ちょっと朝起きてバタバタしてたから、メールチェックを忘れてたからな。今慌ててやってるんだよ」


 けっこう、このメールのやり取りも大事だしな。

 一緒にいるルーガやなっちゃんとは、直接話せばいいけど、他の迷い人(プレイヤー)さんたちって、やっぱり、自分たちのやるべきことを頑張ってるから、こうやって、時々情報をやり取りするのが無難なんだよな。

 例の『フレンド通信』も、相手が戦闘中とか、けっこう切羽詰まった時でも繋がってしまったりするので、色々試したけど、あんまり評判がよくなかったんだよな。

 もちろん、緊急性の高い情報とかは別だけど、実も蓋もない話、秘密にしないといけない内容とか以外だったら、俺たちって全員がテスターだから、ほとんどの内容については、共有する方向で問題ないのだ。


 だから、テツロウさんとかは早々に『けいじばん』で緊急案件のスレッドとかも立てて、そっちに重要なことは書き込むようにしているし、比較的『けいじばん』をよく使う組の方が、その方向性に固まったから、他のテスターさんとかも右へならえをしてるし。

 俺の場合もフレンドコードを交換した多くが、『けいじばん』活用組なので、結局、それほど頻繁には『通信』が飛んで来なくはなったしな。


 とは言え、全員が全員ってわけじゃなくて、十兵衛さんやファン君たちは『けいじばん』にほとんど吹き込んだりしないって決めているようだけどな。

 十兵衛さんの場合、あんまり『けいじばん』に関心がないみたいだし、ファン君たちの場合、積極的には素性をばらしたくはないそうだ。

 まあ、確かに小学生のテスターで芸能人だしなあ。

 その辺は、色々と事情があるみたいだし、仕方ないか。


 というわけで、前日の情報がまとまってやってくる、朝のメールチェックって割と重要なんだよな。

 これの場合、俺たち迷い人(プレイヤー)の他に、このゲームのNPCからのメールとかもあったりするし、そういう意味ではかなり有効なのだ。


 今日の場合、十兵衛さんとカオルさんは、昨日、施設の食堂で色々話したので、それ以上のことは特になかったな。

 一応、カオルさんが仕立ての親方さんと一緒に、素材を取りに町の外へ行ってみる、って話はあったらしく、初めての外なので少し心配だって言ってたな。

 それで今日は十兵衛さんも一緒についていくことになったらしいし。

 というか、服の素材って、確か『迷いの森』に行かないといけないんじゃなかったか?

 キャサリンさんがそんなことを言ってたような気がするんだけど。

 まあ色々と大変そうだけど、カオルさんには頑張ってもらいたいところだ。

 何だかんだで衣服を作れる職人さんって重要だしなあ。


 テツロウさんはリクオウさんたちと一緒に、教会のタウラス神父の修行を受けることにしたようだな。

 北の『森』の鳥モンたちに勝つためにも、格闘の方も磨かないといけない、って思ったらしい。

 まあ、確かにあの乱戦具合だと、いよいよとなったら殴ったり蹴ったりした方が効果がありそうだもんな。

 話を聞く限りだと、俺たちが昨日戦っていないような、大型の鳥モンも北の『森』の方にはいて、『森』を護っているみたいだし。


 クラウドさんは、新しく秘密系のクエストを見つけたそうだ。

 そういえば、クラウドさんって、いつもどの辺りで活動しているのか詳しく聞いてなかったけど、オレストの町の任務みたいなことをしていたらしい。

 確か、職業が盗賊(シーフ)だったもんな。

 そっち絡みのクエストとかもあるようだな。


 アスカさんは、今日は旅のための準備をして、明日からカミュと一緒に旅行に行くそうだ。

 そういえば、カミュの移動手段ってどうなってるんだ?

 前に俺が受けた『身体強化』での高速移動とかかね?

 だとすれば、一緒に旅行するとなると、かなりハードな気もするぞ。

 それとも、何か乗り物でもあるのかね?

 詳しくは、教会がらみの話になるので、その辺はまだわからないらしい。


 あっ! 

 ペルーラさんから、進展があったってメールも来てるな。

 ということは、アルミナとのやり取りがひと段落したってことか?

 どうやら、ファン君たちの方にも連絡が行っていたらしくて、今日のうちにペルーラさんの工房へと向かうって話になったみたいだな。

 えーと。

 十兵衛さんは、カオルさんとの素材集めが終わってから、か。

 となると、俺も畑の方とかが終わってから、それに合わせて行くことにしよう。

 これで、『鍛冶』の修行も始まるな。

 一応、ルーガとなっちゃんのことについても、ペルーラさんに確認する。

 『仕方ないなあ』という文面であったけど、何とか許可してくれたぞ。

 よしよし、いい感じだな。


 後は、他にも知り合った人たちへのやり取りをしていたんだが。

 その中の一通に、ちょっと変わったメールが混じっていることに気付いた。


「あれ? 何だ、このメール。差出人が誰かわからないぞ?」


 どれどれ?

 件名は『精霊種について』、だな。

 そして、メールの本文の方では簡潔ながら、『けいじばん』での俺の話を目にしたことや、それについてお話ししたいことがある旨、書かれていた。

 なぜ、差出人を不明にしたかの理由についても、だ。


「えーと……? 『この件について、メールがあったことも含めて秘密にしてほしい』か」


 なるほど。

 一応、俺が話を聞く意志がある場合は、他に誰も連れずに、この場所まで来てほしい、という内容も記されていた。時間に関しては、俺の都合のいい時間で、か。

 そういえば、『けいじばん』でユウのやつも言ってたものな。

 それだけ、精霊種に関する情報を扱うのは、制約があるってことか?

 少なくとも、この町にいる迷い人(プレイヤー)で精霊がらみの情報を持っている人がいるかもしれないってことはわかった。


 というか、メールを非通知で送れるなんて初めて知ったぞ?

 そんな機能もあったんだな?


 俺はそのメールを見て、少しだけ考えて。

 この謎のメールを出した相手に会うことにした。

 時間は、夕方でいいか。

 それまでに他の用事を終わらせられるといいんだけどな。


 そんなことを思いながら、俺はそのメールに返信して。

 そのまま予定通り、畑の方へと向かうのだった。

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