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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第4章 畑始めました編
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第146話 農民、施設の食堂で談笑する

「あぁ、そういうことなら俺もあったぜ、セージュの坊主」

「そうだったんですか?」


 所変わって、施設の食堂だ。

 今日はもう現実の方でまったりとしようと思っていたら、食堂で十兵衛さんやカオルさんたちと出くわしたのだった。

 十兵衛さんの方も、倍速機能とかを使って、今日の分のログイン限界まで到達していたらしくて、どこかやりきった感じの笑顔を浮かべていた。


 そして、さっきの話だな。

 俺が向こうで疲労困憊でダウンして、強制的にログアウトさせられた件について、十兵衛さんたちに話していると、十兵衛さんは十兵衛さんでそういう経験があったらしくて、頷き返してくれたのだ。


「まあな。昨日、こっちに戻ってきた時がそんな感じだったなあ。その時に、ここの職員から注意もされたぞ」


 何でも、十兵衛さんってば、昨日は北の森の中で戦いっぱなしだったのだそうだ。

 『久々に延々と組手やった感じで楽しかったぜ』って、不敵な笑みを浮かべている辺り、相変わらずの、十兵衛さんの戦闘狂っぷりを感じるよなあ。

 一応、さっき、チドリーさんからも聞いていたけど、十兵衛さんが例の『鳥モン千羽大行進』をきっちりと退けたのも昨日の夜中から今朝にかけてだったらしいし。


 メールでも言ってたけど、北の森の中をモンスターを倒しながら進んでいたら、途中でいきなり、変な熊みたいな人と出くわしたのだとか。


「『資格なき者は退くがいい』とかぬかしやがるからよ。俺もちょっとカチンと来てな。何だ、手前、森の中歩き回るためにいちいち資格とか必要なのかよって、食って掛かったら、いきなり襲い掛かって来やがるしよ。まあ、そいつも中々楽しめる感じだったからな。最初はむかついてたんだが、途中から楽しくなってきちまってな」

「あら、十兵衛さん。個人の山でしたら許可は必要ですわ。資格というのはそのことではないのかしら?」

「ああ、そういうもんなのか? カオルさんよ。だがよぅ、俺にしてみりゃあ、山だの森だのってのは自然のもんだと思ってるしなあ。それを堂々と人間様の持ち物ってぬかすなんざ、おこがましいとは思わねえのかねぇ?」


 まあ、その辺は知ったこっちゃねえな、と十兵衛さんが笑う。

 それを聞いて、困った人ねえ、という感じでカオルさんも苦笑してるし。

 何だかんだで十兵衛さんって我が道を行く人だもんな。

 手前勝手な理由で邪魔するやつは容赦しねえぞ、って雰囲気からは、多少の剣呑さは感じるぞ?

 ダメだ、この人。

 思ってた以上に、暴れん坊だったな。


 それはそれとして。

 たぶん、十兵衛さんが言う、その熊の人がその森の区画の管理者の人だろうな。

 その辺は、ラルフリーダさんやチドリーさんたちの会話にも出てきたし。

 ちなみに、その熊さんの見た目を、遭遇した十兵衛さんが語るには、だ。


「お前ぇ、どこの遊園地から出てきたんだよ? って感じの熊だったぞ。ほら、一時流行ってたゆるキャラか? そんな感じの風貌してるくせに、俺には資格とか問うのかよ、って思っちまってなあ。はは、まったく、変な熊だったぜ。いや、まあ、戦う相手としては、かなり面白かったけどな。もっとも、途中で邪魔が入っちまったから、また今度仕切り直しだがなあ」

「あ、そういえば、十兵衛さんメールでもそんな話してましたね?」

「ああ。その熊……確かマーク・トウェルヴとか名乗ってたな。そいつと戦ってたらよ、いきなりでっけえ樹に人がくっついてるみてぇなやつが襲って来やがってな。ほら、セージュの坊主と出会った時のでけぇ蛇、あれとどっこいどっこいの大きさのやつだ。まあ、俺としちゃあ、生きた樹が襲いかかってくるなんざ、初めての経験だったんで、少しばかり驚いていたんだが、俺以上に、その熊のやつがびっくりしててな」


 その時のことを思い出すようにして、十兵衛さんが続ける。


「なんか、俺のことよりも、そっちの樹が現れたのがまずかったらしくてな。で、そっちとの戦闘に集中し始めたからよぅ、後はその場の成り行きだな。いつの間にか、俺も熊と一緒に、そのばけもんと戦う羽目になってな。はは、まあ、その変な樹みたいなばけもんも強かったから、それはそれで楽しめたがな」


 なるほど。

 そういう流れだったのか。

 いや、十兵衛さんからのメールだけじゃ、情報不足で何がどうなっていたのか、さっぱりわからなかったっての。

 ただ、今の俺だと、ラルフリーダさんたちから別方向でも情報も得ているので、その樹の化け物ってのが何者で、どういう理由で、そんなカオスな状態になったのかは何となくわかる。

 たぶん、その樹のモンスターが、チドリーさんが語っていたドリアードのことなのだろう。

 正直、その話をしている十兵衛さんはすごく生き生きとしているんだけど、ラルフリーダさんの本気を目の当たりにした俺にしてみると、森の中でドリアードと戦うってこと自体がかなり大変なことだって実感があるんだけどなあ。

 普通に、例の『領域系』のスキルを使われたら、打つ手なしだし。


 でも、そっちの熊さん……十兵衛さんの話だと、ちょっとゆるキャラ風味の風貌をしているマークさんか? その人がそれなりに強かったらしくて、十兵衛さんとも共闘した結果、何とかかんとか、その樹のモンスターを倒すことができたのだそうだ。


「で、その熊も毒気が抜けたような感じになったんでな。色々あって、そのまま、意気投合してな」


 後はそのまま、森の見回りを手伝ってくれって話なったのだとか。

 十兵衛さんも、元々森の奥に進めるだけ進むつもりだったみたいで、その申し出に応じる形で、森の散策へと移ったらしいな。


「あらあら、毎日が充実してますわね、十兵衛さんったら。話を聞いている限りですと、とても楽しそうですもの」

「まあ、退屈はしねえなあ」


 うん、そうだろうなあ。

 というか、確か、テツロウさんも北の森のモンスターにはかなり苦戦してたと思うんだけど、十兵衛さんは普通に単独で切り抜けてるんだよな?

 この人のプレイヤースキルって、どうなってるんだろうな。

 俺も、ラースボアと単独でやりあってたりとか、カミュと戦ってる姿は見たけど、ほんと、回避能力が半端じゃないよなあ。

 俺も、土魔法とか少しずつ使えるようになってきてるけど、同じことをやってみろって言われたら無理としか言いようがないし。


 もしかすると、この町の強いNPCと肩を並べるぐらいの力はあるんじゃないか?

 そう考えると恐ろしい人ではあるよな。

 さすが侍というか。


「かと思えば、森の見回りを始めて早々に、鳥の集団みたいなのが襲って来るしな。いや、テツロウの坊主から聞いてはいたが、随分と好戦的な森だよなぁ」

「話を聞いている限りですと、十兵衛さん向きの森ですよね?」

「はは、まあな。多少、呆れもしたが、面白ぇとも思ったぜ? おかげで大分、あっちの身体に馴染んできたというかな。思い通りに身体がついていくようになってきたから、これからが本番だぜ」


 なんと。

 今までは、十兵衛さん的にはまだ肩慣らしだったらしい。

 本当にすごいなあ、十兵衛さんってば。

 あの鳥モンの大襲撃ですら笑い話で済ませるあたり、本当にこっちの人間か、って思うし。


 ただ、笑ってこそはいるし、『死に戻り』こそなかったけど、さすがの十兵衛さんでも、そのドリアードから、見回りの間のモンスター戦、引き続いて、延々と鳥モンの襲撃相手に戦い続けたことで、身体の限界に達してしまったのだとか。

 さっきの俺と同じような感じで、気が付けば、こっちに意識が戻ってきていたとのこと。


「ああ、また死んだか? とも思ったがそうじゃないらしいしな。いや、ゲームの中でも意識を失ったりもするんだな。まあ、その辺はもうちょっと鍛えないとな。あれだけビリビリした雰囲気だったら、前の俺だったら、気を失うなんざあり得なかったしな」


 まだそういう意味じゃあ調子が戻ってねえな、と十兵衛さんが苦笑する。

 敵だらけの状況で気を失うなんて情けねえ、って。


 いやいや。

 どこか自嘲的な笑みでそうおっしゃいますけど、その感覚自体がすごいって。

 十兵衛さんの場合、疲れすぎないように気を付けよう、じゃないんだな?

 その辺は、俺の感覚とは大分違ったようだ。

 うん。

 俺も十兵衛さんを見習わないといけないよな。


「まあ、幸いというか、例の熊が俺の身体を護ってくれてたらしくてな。『十分、資格があることは示してもらった』ってな。まあ、何のことかはよくわからねえが、助けてもらったのは有難えしなあ。それで、今日のところは熊のやつの見回りを手伝ってたってわけさ」

「そうだったんですね。あ、そういえば、十兵衛さん」

「何だ?」

「倒したモンスターの中に食材になりそうなモンスターっていました? そっちの方はどうなってます?」


 そもそも、十兵衛さんが北の森に行く前に『大地の恵み亭』でその手の話もしてたもんな。

 だから、俺も聞いてみたんだけど。


「あ、悪い悪い。すっかり忘れてたぜ。はは、すまねえな、セージュの坊主。俺、戦うのが楽しくなっちまって、その手の話はそっちのけだったな」


 まあ、そうだろうなあ。

 話を聞いていて、薄々そんな感じもしたけど。

 結局、倒した後の素材とかも放ったらかしになってるらしい。

 森の中の野草とかに関しても、そもそも十兵衛さん『鑑定眼』を持ってないから、どういう種類のものかの判別ができないみたいだし。


「明日、中に入った時は気を付けるぜ。あー、今考えるともったいねえなあ。肉とか食えそうなものもあったのなあ。たぶん、あれだな。俺の場合、あの中だと腹が空かねえから、そっちに対する意識が薄いんだろうなあ」


 なるほどな。

 その十兵衛さんの言葉に納得する。

 エルフって、基本的に食べ物を必要としないみたいだしなあ。

 その辺の感覚はラルフリーダさんとかと似ているのだろう。

 リディアさんが『悲しい種族』って呼んでいたことを何となく思い出す。


 そんなこんなで、夕食を取りながら、十兵衛さんたちと談笑して。

 カオルさんからも仕立て屋さんでの近況などを聞きつつ。

 そのまま、テスター四日目の夜は更けていくのだった。

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