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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第4章 畑始めました編
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第142話 農民、土木クエストの相談をする

「ふむ……なるほど、そういうお話でしたか」

「ええ、ですから、家を建てる必要があるそうです」


 ひとまず、どこまで話をしていいのか、俺もよくわからなかったので、最初に行なったのは、お互いの情報の共有についてだった。

 というか、領主関連――――ラルフリーダさんについての情報をどこまで話していいかの確認だな。


 もちろん、カガチさんも商人さんだから、腹芸とかは得意なのかも知れないけど、少なくとも、こちらが伏せていた部分の内容についても、『ああ、それはコッコのことですね』とか、『ドリアードとしての制約がある以上は仕方ないでしょうね』などと、先に内容を答えてくれたので、さすがにこれがブラフとも思えなかったので、間違いなく、『森』に関しての話は、俺よりも詳しいと感じられた。


 さすがは商業ギルドの実務のトップというべきか。

 なので、クエストに至るまでの話はある程度伏せたままで、クエストに関する部分については正直に相談させてもらった。

 ちなみに、伏せた箇所はビーナス関連とかだな。

 あっちの情報は、そもそもラルフリーダさんですら、初めて知ったようなものだし、横でルーガが黙っていてくれて助かっている感じだし。


「では、商業ギルドとして、助力できるかどうかについてですね。まず、大前提として、今、オレストの町では大工や石工が不足している、という点を踏まえたうえで、お話します」


 そうカガチさんが頷いて。


「今は他の土木系のクエストが並行して動いていますが、それを差し引いても、そもそも家を建てることができる職人の数はそれほど多くありません。ですから、専門の職人を中心に、加工に関するスキル持ちを動員する形でクエストを行なって、それでどうにか一軒一軒、家を建てるのが普通のやり方です」


 なるほど。

 要するに、そもそも家を建てるプロってのがほとんどいない、と。

 そして、今、その職人さんは先にやる仕事があるため、すぐに、こっちの方の家作りには対応できない、というわけらしい。


「今、宿屋さんを建てているんですよね?」

「はい。本来でしたら、そちらが第一優先でしたが、今は同時に町の南側の落盤もどうにかしないといけませんから。すぐに職人と話をつけるのは難しいですね」


 うーん。

 まあ、仕方ないよな。

 俺たち迷い人(プレイヤー)のための受け入れ施設の建設と、道の修復だものな。

 さすがに、今の状況で個人的な都合で家を建ててくれ、って頼むのは申し訳ないものな。


「あと、今のセージュさんたちでしたら、条件を満たしておりますのでお伝えしますが、『木工』のスキル持ちの多くはエルフなのです。つまり、町長の関係者の方々ですね。数名は冒険者ギルド主催の遠征に同行していますし、フィル殿は今、町から離れているそうです。アリエッタ嬢に至っては、どこにいるのかわかりませんし……」


 まったく困ったものです、とカガチさんが眉根を寄せる。

 アリエッタさんのことを話した途端、すごく渋い顔になったというか。

 色々と溜まっているものがあるようだ。


 ただ、この町で家を建てるのであれば、エルフの協力が不可欠、ということらしい。

 そもそも建材を用意するために、森の樹を切って来るのにも、そちら側の許可とか、色々と必要になるそうだし。


 あれ? 待てよ?

 建材に関しては、ラルフリーダさんからも協力してもらえる、って話だったが。


「おや? そうでしたか? となりますと、少し状況は変わってきますかね。ちなみに、セージュさん、そちらの町長の協力とは、作業も、ですか? それとも、許可だけですか?」

「たぶん、許可だけだと思います。作業に関しては、俺が建てないと意味がない、という風には言われましたし」


 まだ、コッコさんたちと会ったことがないから、どういう風になるのかよくわからないんだよな。

 少なくとも、俺とルーガとなっちゃんはできる限り、家を建てる作業に参加するってことで決まっちゃったみたいだし。


 だからこそ、家をどうやって建てたらいいのかが知りたかったのだ。

 手が足りないのも事実なので、『けいじばん』で相談した通り、商業ギルドへもやってきたけど、そもそも、どうやって、家を建てるのが、このオレストの町では普通なのかがわからないと、やりようがないってことで。


「なるほど、人手の相談だけではなかったのですね? そういうことでしたら、商業ギルドにも工程の手順表がありますので、そちらをお譲りすることは可能ですよ?」

「えっ!? 本当ですか!?」

「はい。ただし、それなりにお金を頂戴することになりますが」


 あ、うん、まあ、そうだよな。

 というか、当たり前の話だよな、うん。

 商業ギルドに何か物を頼むというのは、そういうことだって。

 結局のところ、ギルドの所属になったところで、無償での協力なんてありえないよなあ。何せ、商人の組織なんだから。


 ふと、嫌な予感がして、ひとつ尋ねる。


「……あの、もしかして、この相談もお金を取られるんですか?」

「ふふ、まあ、今日のところは無料で結構ですよ。少なくとも、セージュさんは町長とも繋がりがあるようですし、そこまでがめつくは対応いたしません」


 先行投資の一環とさせて頂きます、とカガチさん。

 ……ってか、その口元だけの微笑が怖いわ!

 あー、そうか。

 気軽に商業ギルドを頼るのは止めておこう、後が怖すぎる。

 でも、俺もすでにギルドの所属員か。そうかそうか。

 うん。

 もうちょっと、気を引き締めることにしよう。


「冗談ですよ。緊張感を緩めるための小粋な商人冗句です」

「いや……かなり本気だったような……いえ、いいです。それよりも、そちらの手順表の写しというのは、おいくらですか?」

「いくつか種類がありますよ。もちろん、中身につきましては、お金を頂くまではお見せすることができませんが」


 そう言って、複数の建築手順表をカガチさんが持ってきてくれた。

 それと対応する形で、カガチさんが値段を教えてくれたのだが、うーん、やっぱり、結構高いな。

 こういうのって、技術に関することだから、それも当然だろうけど、大体が数十万から数百万Nとなっているのだ。

 ひどいのになると、一千万を超えるものもあるし。

 いや、これ、さすがに最初の町でやるクエストに必要なものじゃないだろ。


 そりゃあ、一応、俺でも手が届くものもあるけどさ。

 購入前に詳しい中身が見れないのが一番きつい。

 さすがに一か八かで買うようなものじゃないぞ?


 それぞれ、必要なスキルとかが表記はされているか?

 でも、それだけじゃあ、どういう建物の手順表なのかわからないしなあ。

 さあ、どうしたものか。


「ねえ、セージュ、こっちの随分と安いよ?」

「えっ? そんなのあったか?」


 ルーガが指差したものをよく見ると、50,000Nという値段の手順表があった。

 あれ? これ、カガチさんが説明してくれたか?

 そう思って、カガチさんの方を見ると、少し苦笑しているようで。


「そちらは少々難しいと思いますよ? この町ではまず条件を満たせないということで、値段がつかなかったものですから」

「そうなんですか?」

「はい。必要スキルが『土魔法』、ここまでは良いですよね? 問題は次です」

「えーと……? 必要種族『ノーム』、ですか? あの、カガチさん、こちらは?」

「精霊種のノームです。土の精霊ですよ。こちらの手順表は、そのノームの助力が必須となる作り方が描かれているものです。おそらく、『精霊の森』の周辺に住まれていた方からの情報だと思いますが、匿名情報ということもありまして、内容の保証もできません。ですから、このお値段です」


 安いのには理由があります、とカガチさん。

 手順表としては商業ギルドで所持しているが、そもそも試すこともできないので、正しいのかでたらめなのかもわからないのだそうだ。


「精霊種って、『グリーンリーフ』には存在しないんですか?」

「そうですね……さすがに私も森に関するすべてを把握しているわけではありませんので、わからないとしか言えません」


 ということは、可能性はゼロじゃないってことか。

 まあ、それだったら、この値段だしなあ。


「では、こちらを買ってもいいですか?」

「はい、構いませんよ。ですが、お急ぎということではなかったのですか?」

「そもそも、コッコさんたちと会ってみないとその辺もわからないんですよ。もしかすると、少しぐらいでしたら待ってもらえるかもしれませんし」


 そうなったなら、宿屋建設のクエストの後でお願いしてもいいしな。

 さすがに情報不足のままで、ぽんと百万Nは出せないし。

 そういうわけで、カガチさんに五万Nを支払って、この手順表を受け取る。


「はい。毎度ありがとうございます。では、セージュさん、ひとつだけお願いです」

「何ですか?」

「もし、こちらの手順表をお試しになって、上手くいった場合は、そちらの情報をお持ちいただければ、こちらで買い取らせて頂きますのでよろしくお願いいたします」

「あ、はい。要するに、裏を取るってことですね?」

「ええ。そうすれば、こちらも立派な商品になりますのでね」


 どうぞよろしくお願いします、と商業スマイルを浮かべるカガチさん。

 たぶん、俺から買い取った後は、相応の値段を付けるんだろうなあ。

 その抜け目なさに苦笑しつつ、わざわざ相談に乗ってくれたことにお礼を言って。

 俺たちは、そのまま、商業ギルドを後にした。

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