第138話 農民、鳥モンたちの協力を得る
とりあえず、少しばかり、その後も『けいじばん』でやり取りして。
土木系のクエストについては、冒険者ギルドと商業ギルドに助力を仰ぐように、色々と助言を受けることができた。
もちろん、自分で一から家を建てる、って選択肢もあるだろうけど、さすがにそっちの話となると、大工さんとかの知識がないとどうしようもないだろうしなあ。
あと、根本的な問題として、家を建てるための建材とか。
一応、そっちに関しては、ラルフリーダさんも手伝ってくれるそうだ。
あくまでも、俺が、いや、俺たちが、そのコッコたちのために家を建てるってことに意義があるので、裏方としてのサポートぐらいはする、ってことらしい。
俺が『けいじばん』で相談している間に、ラルフリーダさんやチドリーさんたちの間で、一通りの物事についてはまとまったみたいだし。
すぐさま、チドリーさんの指示で、部下の鳥モンたちがあっちこっちへと散らばって飛んで行ってしまった。
この場に残っているのは、チドリーさん直轄の一群だけ、ということらしい。
「セージュ、貴公、畑、派遣、指示した」
「ありがとうございます、チドリーさん」
どうやら、チドリーさんの『統制』って、少し離れた鳥たちにも伝達できるらしくて、もうすでに、畑に向かうように指示してくれたそうだ。
うん。
見た目はちっちゃいハチドリさんみたいだけど、手際もいいし、かなり頼りになるよな、チドリーさんって。
伊達にリーダーをやってるわけじゃないよな。
もっとも、鳥言語の翻訳が単語ぶつ切りになっているせいで、言葉の細かいニュアンスとかが伝わりにくいんだけど。
ラルフリーダさんによれば、モンスターによって、使っている言語が異なるらしくて、特に、鳥モンや虫モンは、独自言語を使っているせいで、なかなか翻訳するのには骨が折れるのだそうだ。
ビーナスが使っていた、純粋な『モンスター言語』とはちょっと違うって。
「そうね、マスター。わたしの場合、叫びに意味を乗せる感じだったの。そうすれば、今しゃべってる言葉みたいな無駄はないし、何より楽なのよ」
だから、マスターも早く『モンスター言語』を使えるようになりなさい、ってビーナスに言われてしまった。
ビーナスにとっては、やたらと話す分量が多い『共通言語』は不便にしか思えないそうだ。
「ふふ、もしかすると、モンスター言語の方が、言葉としては進化しているのかもしれませんね」
そう言って、ラルフリーダさんが微笑む。
モンスター系の種族も言葉がわからないわけではないそうだ。
種によっては、きちんと理路整然とした考え方もできるし、いざ、共通言語に翻訳した場合も、普通に人間同士がしゃべっているのと変わらない会話が成立する存在も多いのだとか。
そういう意味では、単なる動物の一種、って認識とは大分違うようだな。
少なくとも、言葉はさておき、チドリーさんもきちんとした思考で行動ができているしな。
「ふふ、チドリーたちの場合は、お婆様の影響もあると思いますがね。『グリーンリーフ』に住んでいる生きとし生ける者は、みんなお婆様の家族ですから」
「…………そう。食物連鎖はあるけど、家族」
おい。
良いことを言ったラルフリーダさんの後に、ノーヴェルさんが実も蓋もない説明が追加されちゃったぞ?
家族ではあるけど、生物的な営みは行なう、と。
その辺は自然の摂理ってやつだろうけど。
家族を食べたりするのも、『グリーンリーフ』では肯定されている、って。
「その頂点であり、底辺が私たちドリアードですね。ほんのちょっとだけ、皆さんから元気を分けて頂いて、その代わりに暮らしやすい環境をご提供するというわけです」
ですから、頂点と底辺です、とラルフリーダさんが笑う。
さっきのエナジードレインみたいな能力はあるけど、あくまでも自分たちを中心とした生態系を整えることに喜びを感じる種族、ってことらしい。
「…………だからこそ、外敵には容赦しない。少なくとも、レーゼ様のおかげで長い間、『森』を侵略しようとする相手はいない」
「私たちが護るべき場所は、"ここ"ですから。『グリーンリーフ』として、領域を拡大するつもりはありません。ですから、もし、それらを侵害された場合は、全力で抵抗いたします」
なるほど。
我々は『森』があればそれでいい。
だから、決して、その『森』を侵さないで、と。
それが、数百年に渡って、『グリーンリーフ』が積み重ねてきたものだと。
少なくとも、周辺各国が『森』の存在を恐れて、手を出さない事情、というのが何となく理解できた。
『森』の中でドリアードを敵に回すことの意味。
それを過去の経験から、十分にわきまえている、ということだろう。
そう言えば、カミュからも再三注意はされていたしな。
神聖教会も、それなりに『グリーンリーフ』には気を遣っているってことか。
それはそれとして。
とりあえず、鳥モンたちを巡るトラブルに関しては、ひと段落したので、俺たちも元の畑の方へと戻ることにした。
本当は、ラルフリーダさんから荷物を受け取ったあと、ビーナスのところに顔を出すだけのつもりが、けっこう長居しちゃったしな。
「まったく……またリフォームのし直しじゃない」
そう、ビーナスが文句を言いながら、戦闘で少し荒れてしまった周囲の土地を、せっせと整え始めていた。
今回の戦闘で、せっかく育ってきていた苔もダメにしてしまったので、また一から育て直しだと愚痴っているな。
なので、今回の原因でもある、チドリーさんたち鳥モンの『一群』もビーナスの畑リフォームを手伝ってくれることになったそうだ。
そう、ラルフリーダさんが許可を出した。
それで、すっかり機嫌が良くなったのか、ビーナスはビーナスで、嬉々として、鳥モンたちに指示を出しているし。
ふうん?
さっきも思ったけど、ビーナスって、誰かに指示を出したりするのが得意みたいだな?
ちょっと感心してしまう。
「ふふ、それはそうですよ、セージュさん。魔樹種の場合、本体が移動できないケースも多いのです。ですから、自分の眷属を使うことに関しては、それ相応に得意なのですよ」
なるほど。
そういう意味では指揮官に向いてるってことか。
俺もビーナスの一兵卒として頑張ったしなあ。
いや、そういう意味では植物系の種族って、奥が深いなあ。
「じゃあ、俺たちも畑の作業に戻りますね」
「ええ。色々とお疲れ様でした。よろしければ、こちらをどうぞ」
そう言って、帰り際にラルフリーダさんが飲ませてくれたのは、例の特製ドリンクだった。
何気に、今の戦闘でボロボロになっていたので、かなり助かった。
体力と魔力に関しては、ラルフリーダさんの能力で、領域内にいる生き物には、少しだけ還元することができるらしくて、それでちょっとは回復していたんだけどな。
チドリーさんたち鳥モンが、すぐに飛べるようになったのもそのおかげだし。
ただ、傷を癒すことはできないらしくて、それで、代わりにこの特製ドリンクというわけだな。
やっぱり、今の俺だと鑑定できないけど、これもたぶん、サティ婆さんの傷薬とかに近いのだろう。
それと比べても、効果がありそうだけど。
そんなこんなで、俺とルーガとなっちゃんはドリンクを飲み干して。
そのまま、奮闘しているビーナスと言葉を交わしてから、ラルフリーダさんの家を後にするのだった。




