第131話 農民、鳥モンスター群と戦う
名前:ハミングバード(統制下状態)
年齢:5
種族:風鳥種(モンスター)
職業:
レベル:◆◆
スキル:『◆◆◆』『◆◆』『◆◆』『◆◆◆』『◆◆』『◆◆◆◆◆◆』
名前:ガーネットクロウ(統制下状態)
年齢:6
種族:火鴉種(モンスター)
職業:
レベル:◆◆
スキル:『◆◆◆』『◆◆』『◆◆◆』『◆◆◆』『◆◆』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆◆◆』
名前:バルバル鳥(統制下状態)
年齢:4
種族:土鳥種(モンスター)
職業:
レベル:◆◆
スキル:『土魔法』『◆◆』『◆◆』『◆◆◆』『◆◆』『◆◆◆◆◆』
名前:ウェットウッディー(統制下状態)
年齢:7
種族:啄水鳥種(モンスター)
職業:
レベル:◆◆
スキル:『◆◆◆』『◆◆』『◆◆◆』『◆◆◆』『◆◆』『◆◆◆◆』『◆◆◆◆◆』
「うわっ!? 何か、いっぱいいるな!?」
「落ち着いて、マスター! まだ、いっぺんには来ないみたいだから、近づいてくるのをどんどんやっつけるのよ!」
「わかった!」
俺にとっては、初めての乱戦という感じだな、これ。
とにかく、鳥モンスターの種類が多いのだ。
とりあえず、俺の『鑑定眼』でチェックする限りだと、大きめのモンスターが今調べた、四種類の鳥モンスターで、それ以外の、小鳥とかに関しては、ルーガの矢で一撃で落とすことができたりしているようだ。
だから、そっちは省く。
いや、正確に言うと、数が多くて、『鑑定眼』が小さい鳥に関しては、作用しにくいのだ。
飛んでいるスピードもけっこう速いので、能力をゆっくり使っている暇がないというか。
少なくとも、小鳥たちに関しては、それほど脅威ではなさそうだ。
どうやら、危険なやつとそうでないやつが混ざっているようで、近づいてきたところに、俺の振り回していた鎌がヒットして、そのまま、倒してしまったのもいるし。
だから、警戒すべきは、少し離れたところで様子を見たり、たまに一撃のために近づいて、魔法を放って、離脱していくやつらだな。
たぶん、ステータスから推測するに、ハミングバードが風属性、ガーネットクロウが火属性、バルバル鳥が土属性で、ウェットウッディーが水属性の鳥なのだろう。
というか、まともな属性魔法を使って来るモンスターと遭遇するのって、これが初めてのような気がする。
一応、ビーナスの場合、ほとんど『音魔法』ばっかりで、『土魔法』に関しては全然使ってこなかったしな。
今も、上空から、遠距離で魔法が飛んでくるのを、ビーナスの指示に合わせて、俺となっちゃんで防いでいる状態だ。
てか、危なかった。
畑仕事で疲れていた分を、少しでも『大地の恵み亭』の新メニューで回復させていなかったら、あっさり枯渇してたぞ?
一応、ビーナスの苔にも、多少は魔素回復効果があるらしいので、そっちを噛みながら、騙し騙しで戦っているようなもんだし。
「ビーナス! さっきの苔の実みたいなのはいつ使うんだ!?」
「まだね。おそらく、まだ様子見なんじゃない? 何だか嫌な予感がするもの」
ビーナスの野生の勘はそれなりに頼りになるからな。
俺としては、それを信じるまでだ。
ただ、さっき鑑定をして気になったことがひとつ。
ほとんどの鳥モンスターに、特殊効果のようなものが出ていたのだ。
いや、バッドステータスか?
そもそも、『統制下状態』ってのは何だよ?
そんなステータス情報、他のゲームでも聞いたことがないぞ?
「ルーガ! ビーナス! 『統制下状態』って聞いたことあるか!?」
「ないわよ! あっ! マスター、そっちの左っ!」
「わたしもないよ!」
ビーナスの返事を聞きながら、そのまま、左側から迫って来たバルバル鳥――――茶色い羽根をしたコンドルみたいなやつに、鎌のスイングで一撃する。
「GYUAっ――!?」
「うわっ!? 土壁っ!?」
いや、一撃があたるタイミングで、バルバル鳥が『土魔法』を使ったらしい。
一応、鎌でそのまま貫通させることはできたけど、軌道がずれた!
傷こそ与えたものの、そのまま上空へと逃げられてしまった。
「てか、何なんだよ!? 随分と、敵のレベルがあがってないか!?」
少なくとも、この町の周囲に出てくるモンスターの強さじゃないぞ!?
そもそも、複数の鳥モンスターが連携を組んで攻撃してくるなんて、『けいじばん』でも聞いたことがないっての!
そう思っている間にも、上空から火の玉が降って来たので、そっちは『土魔法』を使って、盾を作って防ぐ。
いや、これ、なっちゃんが使っているのを真似たんだけど、なかなか使い勝手がいいぞ。
何だかんだで、俺の『土魔法』のレベルもあがっているようで、『アースバインド』を応用させて使えるようになってきたのだ。
その結果、いつの間にか追加で魔技を習得していた。
『土盾』と『土壁』の二種類な。
「きゅい――――!」
そういえば、なっちゃんのステータスからは、『土魔法』のレベルに関しては読み取れなかったんだけど、どうやら、俺よりも『土魔法』のレベルは高いようだ。
いや、高いという確信はないけど、少なくとも、使い方に関しては、俺よりもずっと慣れているというか。
そもそも、なっちゃんって、人間の手を土で生み出せるんだものな。
それに比べれば、盾とか壁とかの方が簡単かもしれないし。
「ルーガ! 矢の方は残ってるか!?」
「まだ、あと二十本ぐらい! それで打ち止めになったら、石を飛ばすよ!」
叫びながら、ルーガがつがえていた矢を射る。
上空を飛んでいたガーネットクロウ――――紅い羽根をしたでっかいカラスのうち、一羽に直撃して、そのまま、モンスターが落ちていくのが見えた。
正直、かなり助かる。
さっきも、火の球を撃ってきたのが、そのガーネットクロウだしな。
どうやら、大きな身体だけに、羽ばたくのを封じられると飛べなくなるらしいな。
もっとも、ハミングバードやバルバル鳥に関しては、羽根にケガを負っても、なぜかふわふわと浮いたままになっている個体もあるので、必ずしもそういうわけじゃないようだ。
もしかすると、スキルの一種か?
妖精種には『浮遊』の種族スキルがあったみたいだし、それ以外にも飛行系のスキルが存在しているのかもしれない。
さておき。
俺が思っていた以上に、ルーガは戦力になっていた。
スキルがなくても、ちゃんと弓矢ってのは使いこなせるんだな?
上空で、けっこう離れた場所を飛んでいる鳥に、きっちりと当てることができるってのはすごい技術だし。
確かにこれなら、冒険者ギルドでも、それなりに自信がある、みたいなことを言っていたのも頷ける。
何せ、今の状態だと、遠距離で攻撃できるのはルーガだけだからな。
俺となっちゃんは、どっちかと言えば、ビーナスとルーガを攻撃から護るのに必死だし、鳥が近くまで降りてこないことにはどうしようもないしな。
ビーナスはビーナスで、スキルが全解放だったら、もうちょっと色々とやりようがあったけど、今の状態だと遠距離攻撃ができないので、やきもきしてるしな。
移動もゆっくりでほとんど動けないし。
ただ、だからこそ、全体を見ながら、こっちへの指示に集中できるってことでもある。
不意の攻撃とか、背後から魔法などは、すべて、ビーナスからの警告で、何とか対処できている状態だ。
ある程度、一対一のモンスター戦に慣れている俺にとっては、全方位からの攻撃への判断が遅れてしまうのだ。
だから、かなりそれに救われているな。
正直、戦争系ゲームの勘を取り戻していない、ってのもあるんだけどな。
いや、そもそも、ここまで対空戦特化みたいなステージって、そんなになかったし。
そんなもの、上から攻撃の方が絶対に有利に決まってるし。
いや、今戦ってるモンスターもAIの一種なんだよな?
何だよ、この状況は。
『統制下状態』って言葉がよくわかるぞ。
まるで、多数の鳥モンスターがひとつの意志を持ったかのように、きっちりと連携をとってくるのだ。
見た目は鳥だけど、まるで指揮官に率いられた軍隊であるかのようだ。
「うわ、でも、どうしようかしら、マスター。全然、数が減らせないから、ちょっとこのままだとまずい気がするわ」
「まったくだな。数の暴力もいいところだ。町の中なのに敵が多すぎだぞ!?」
「…………まったく、愚痴が多い」
「――――えっ!?」
背後から聞こえたのは、咎めるような声。
そして、次の瞬間。
「GYUAっ――!?」
「GYAGYAっ――!?」
少し離れた場所から様子をうかがっていた大型の鳥が、地面へと叩き落されて、あっさりと戦線を離脱する。
そして、その横に立っていたのは――――。
「ノーヴェルさん!?」
「…………お嬢様の命で来た。こっちはいいから、反対側に集中」
えっ!? 意外。
助けに来てくれたのか?
俺が驚いていると、もの凄くイライラした表情で。
「…………聞こえなかった? 呆けてる暇なんてない。お嬢様が来るまで凌いで。ヒッチコックリーダーの波状攻撃はこんなもんじゃないから」
本番が来る、とノーヴェルさんが言ったかと思うと、そのまま、その姿が消える。
――――と、次の瞬間には、近くにあった木を駆け昇って、上空を飛んでいる鳥の集団へと飛びかかる姿が見えた。
うわ、すごいな、ノーヴェルさん。
そして、その言葉を反芻する。
どうやら、ラルフリーダさんも助けに来てくれるようだ。
よし。
だったら、勝利条件が見えてきたな。
その、ラルフリーダさんがやってくるまで、この鳥モンスターたちの攻撃を防ぎきる。
そうと決まれば、だ。
「ルーガ、ビーナス、なっちゃん。このまま、粘るぞ! どうにか、生き残る道が見えてきたようだしな!」
「うん、頑張る!」
「そうね。どうやら、クリシュナさんも、あっちの方を襲ってる鳥たちを倒したみたいだし。こっちに向かってるわ」
「きゅい――♪」
わずかに見えてきた希望に向かって。
俺たちは必死に抵抗を続けるのだった。




