第127話 農民、牧草栽培のクエストを受ける
『クエスト【栽培系クエスト:ホルスンのエサ作り】が発生しました』
カミュとの同意が成されたのと同時に、例のポーンが鳴り響いた。
今回のクエストでは、ホルスンが喜ぶ食べ物だったら、何を作ってもいいらしいな。
ということは、普通の野菜とかでもいいってことか。
まあ、それはそれとして、一応、カミュから、教会で与えている飼料の種を分けてもらえることになった。
【素材アイテム:素材】ヴォークス草の種
草食系モンスターが喜んで食べるヴォークス草の種。
その土地の栄養分によって、様々な育ち方をする不思議な草でもある。
成長したヴォークス草は栄養価が高いため、モンスターの食事としても、それなりにはおすすめ。
へえ、草食系モンスターのエサになる草か。
ということは、もしかして、なっちゃんとかも食べられるのかな?
一応、草を食べるモンスターだし。
「教会では、この草も育ててるのか?」
「いや、さっきも言ったが、空いた土地を遊ばせとくのもなんだから、植えてるだけだな。別に、ホルスンの場合、けっこう雑食というか、悪食だからな、その辺に生えてる草でも食べるし」
「うむ。乳の味には多少影響もするがな。バターやチーズなどの加工品などになると、それなりの品質になるからな。そもそも、ホルスンを専門に育てようと思ったら、今のこの町の教会では人手が足りんのよ」
「まあな。元々、派遣された数が少ないからな。その辺は仕方ないさ」
「はっはっは、だからこそ、冒険者で手が空いている者がいたら、助力を仰いだりもしておるのだよ。皆、嫌とは言わんしな」
「……まあ、程ほどにしとけよ、タウラス? 治療とか、『死に戻り』とかを盾にとれば、そりゃあ、嫌って言わないだろうがな。そういうのって、色々と溜め込むことになるからな」
「わかっとる。わしも、そのぐらいの空気は読めるわい」
「どうだかなあ……」
やれやれ、という感じで肩をすくめるカミュ。
まあ、テツロウさんも言ってたよな。
ここの神父さん、というかタウラスさんって、意外と人使いが荒いって。
ただ、このオレストの町の教会が人手不足だってのは間違いないらしい。
そもそも、神父さんがタウラスさんで、その補佐のような感じのシスターが数名で、それだけなのだとか。
カミュは、巡礼シスターとしてあっちこっちに行く役割なので、この町の所属ってわけじゃないみたいだし。
うーん。
けっこう、いそがしいみたいだな、教会の人たちって。
なので、俺の方で、少しずつでもホルスンの面倒も見てくれるとありがたい、って言われてしまった。
「まあ、セージュも畑を始めたばかりって聞いたからな。そっちが軌道に乗るまでは、あんまり色々と頼むつもりもないが、そういう話があったってことだけは覚えておいてくれよな」
「ああ、わかったよ。ラルフリーダさんからも、畑でモンスターを育てても構わないって言われてるしな」
一応、野菜とか芋を作るだけじゃなくて、酪農利用も可、ってことだ。
まず、最初の畑作業を成功させることが肝心だけどな。
そうしないと、のちのち土地を広げてもいいって話も、あっさりと頓挫しちゃうし。
乳製品は欲しいけど、まずはできることからコツコツと、だ。
「ふうん、セージュくんって、そういう風に話を進めていくのね」
「うむ、テツロウの言った通りだな。興味深い」
「うん、一緒にいると面白いよ」
おや?
その場にいたアスカさんとリクオウさんから頷かれてしまったぞ?
というか、ルーガもそっちに混ざってるのかよ。
「そう……ですかね? 俺、別に、自分がやれる範囲で適当に動いてるだけなんですけど」
別に、面白い行動を心掛けてるわけじゃないぞ。
どっちかと言えば、ごく普通の行動をしているだけなのに、変なことに巻き込まれて、色々と翻弄されている、というか。
とは言え、そっちでの恩恵もないわけじゃないから、そういう意味では、手に入ったものに関しては、全力で有効活用しようとは思ってるけどな。
使えるものは何でも使うの精神だ。
「いや、今日日のゲームというものは、一部の検証組や攻略組を除けば、事前情報を片手にプレイする者がほとんどだからな。そういう意味で楽しんでいる、と俺の眼にはそう映っただけだ」
「あ、リクオウさん、ゲームとかお詳しいんですか?」
見た感じは、あんまりゲームとかやらなそうな印象だったから、てっきり、十兵衛さんたちと同じで、頼まれてテスターをやってるとばかり思っていたんだが。
話を聞いている限り、そうでもなさそうだな。
「いや、うむ、なに……人並みにはな。俺も、一応はゲーム世代だからな」
あ、ちょっと照れくさそうにしてるな。
まあ、体育会系の人がゲーム好きってのは、あんまり知られたくないのかもな。
別にそういう時代でもないと思うけど。
「はは、セージュの場合、妙なことに巻き込まれてるからなあ。しかも、それなりの形でトラブルを跳ね除けてるし。傍から見てる分には面白いよな」
「てか、そもそも、カミュが事の発端のような気がするんだが……」
他人事みたいに言ってるけど、一番最初のラースボアとの戦闘は、間違いなくカミュが原因だろうに。
「ふふん、あんまりそういうことを気にすんな。疲れるだけだぞ。まあ、そんなことはどうでもいいか。さっさと『身体強化』の付与を済ませるぞ。ルーガとなっちゃんは、あたしの側まで、ちょっと来てくれ」
「うん、わかったよ」
「きゅい――!」
あ、ようやくそっちの話に戻ったか。
とりあえず、乳製品とハチミツの話も落ち着いたし、これでふたりの『身体強化』付与が終われば、ひと段落だな。
「じゃあ、行くぞ……『身体強化』付与!」
カミュがそういうと、ふたりの身体が光に包まれる。
「えっ!?」
あれっ!?
光に包まれる――――かと思ったら、ルーガの身体へと飛んだはずの光がそのまま弾かれて消えてしまったぞ?
一方のなっちゃんの方は、問題なく、なっちゃんの身体へと吸収されたけど。
えーと?
これって、どういうことだ?
「なあ、カミュ……これって、どうなったんだ?」
「いや、ちょっと待て。見てみるから――――あー、ダメか。付与失敗だな」
そう言って、カミュがルーガを見ながら、眉根を寄せる。
付与失敗か。
そういうこともあるんだな?
一応、ふたりに許可をとって、ステータスを確認してみると。
名前:ルーガ
年齢:14
種族:人間種
職業:狩人
レベル:23
スキル:《なし》
名前:なっちゃん
年齢:3
種族:花虫種(ナルシスビートル)
職業:セージュのお友達
レベル:11
スキル:『飛行』『栽培』『突進』『土魔法』『養分変換』『身体強化』『子育て』
あー、やっぱりダメか。
なっちゃんはちゃんと『身体強化』のスキルが加わっているけど、ルーガに関しては、スキルなしのままだな。
一応、レベルは前よりもひとつあがってるけど。
もしかして、『身体強化』の適性がなかったのか?
「カミュ、この手の失敗ってよくあることなのか?」
「いや……ぶっちゃけ、完全付与による失敗ってのは、ほとんどないぞ。この場合、属性魔法とかと違って、『身体強化』の魔法付与だからな。生きている以上は、それが苦手ってケースはまずあり得ないんだ」
そう言いながらも、カミュも少し驚いてはいるようだ。
事前の説明だと、もうちょっと気軽に付与できるスキルだ、って話だったしな。
これはこれで、カミュにとっては想定外だったらしい。
念のため、その後も何度か試してみたけど、結局、ルーガは『身体強化』を覚えられなかった。
「うーん、ちょっと残念かな」
「すまない、ルーガ。期待を持たせるようなことをさせてしまったな」
初めてのスキルにドキドキしていたらしく、少ししょんぼりしているルーガに対して、頭を下げて謝るカミュ。
「そうだな……このままだと、あたしとしても申し訳が立たないしな。代わりと言っちゃあなんだが、後でこの埋め合わせは必ずさせてもらうぞ」
だから、少し待っててくれ、とカミュ。
その言葉に、ルーガも頷き返して。
「うん、ありがとう、カミュ。大丈夫、わたしにとっては、今の状態が当たり前だから」
「ふむ、何だか微妙な空気になってしまったがな。せっかくだから、ホルスンの乳でも飲んでいくか? 普段は奉仕と引き換えでないとダメなのだが、まあ、こういう時ぐらいは振舞うぞ」
「ほんと?」
「ああ、ここにいる全員な。だから、ルーガよ。あまり気に病むな。お前は『身体強化』を授かることはできないかも知れんが、それとは別の才能が必ずあるだろうからな。腐らずに励むといいぞ」
「うん、わかった」
お乳を飲んで、元気出す、とルーガが微笑して。
その流れのまま、俺たちは教会の奥で、牛乳を飲ませてもらうのだった。




