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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第4章 畑始めました編
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第124話 農民、教会前でのぶつかり合いを見る

「わわわっ!? なんかすごいね? こういうことってよくあるの、セージュ?」

「きゅいきゅい?」

「いや、俺も今日、タウラスさんと初めて会ったんだが……」


 ほえぇ、という感じでびっくりしているルーガから、戸惑いの声があがったが、いや、俺自身も思わず、呆気にとられてしまったんだが。

 いきなり、教会の前で何やってるんだ?

 この人たちってば。


 俺たちの目の前で繰り広げられているのは、一言でいうと、物凄い激しい感じの肉弾戦だ。

 ちょっと前にタウラスさんが、俺たちから離れていったかと思うと、その直後に、タウラスさん目がけて、勢いよく突進してきた男の人がひとり。

 いや、俺もルーガも昨日会ってるな?

 肉屋に行った時、ぷちラビットの肉をミンチにしようとしていた人だ。

 確か、リクオウさんって言ったっけか?


 その、リクオウさんが全身に光をまとった状態で、タウラスさんに体当たりを決めたかと思ったら、そのまま、何やら、すごいスピードでの攻防というか、格闘戦へと移ってしまったというか。


 リクオウさんの鍛え上げられた拳が唸る!

 それを笑顔で受け止めるタウラスさん!


 うん……。

 なぜか、いきなり、教会の前が異空間になってしまったぞ?

 舞台はないけど、何となく天下一を決める大会か何かが始まったような、そんな印象を受けるのだ。

 というか、ふたりとも良い身体してるよなあ。

 こっちの世界って、鋼の肉体同士で殴り合うと衝撃波が出るんだな?

 どこか現実逃避っぽく、そんなことを考えてしまう。

 まあ、ふたりの身体がかすかに光っているから、これも『身体強化』とかそっちのおかげでもあるんだろうけど。


 いや、そもそも、この状況は何なんだよ?


「あー、でも、神父さん強いね」

「そうだな。ほとんど攻撃しないのに、リクオウさんの攻撃を受けきってるもんな」


 見た目の動きはリクオウさんの方が派手だ。

 というか、殴る蹴る体当たり、そっち系の打撃はことごとく、タウラスさんの両腕でいなされているし、組み技とかを狙おうとしても、それに気付いたタウラスさんに距離を取られてしまうようだし。

 両手を組み合った状態での力比べでも、少しリクオウさんの方が分が悪いみたいだな。

 いや、それはあくまでも外野の意見だけど。

 実際、俺よりも一回りも二回りも大きな身体の人が、あれだけのスピードで殴りかかって来るかと思うと、ほんと恐ろしいものがあるし。

 少なくとも、俺なんて眼じゃないほどには『身体強化』を使えているし、その攻撃の多彩さとか、技のレパートリーを見る限りは、ちょっと素人って感じじゃないよなあ。

 その辺は、十兵衛さんに近い気がする。

 タックルひとつ取ってみても、むしろよくタウラスさんが笑顔で対応できていると驚くほどだし。


 そう。

 いや、リクオウさんもすごいのだ。

 すごいんだけども、だ。

 その上を、あの神父さんが行っているというか。

 リクオウさんは、テスターだってことは昨日確認済みだし、前々から『けいじばん』とかにも書き込みがあったから、俺もその名前ぐらいは知っていたけど、タウラスさんは、たぶん、こっちの中の人だよな?

 うん。

 さすがは、対魔族の組織の一員。

 というか、カミュといい、タウラスさんといい、教会の人間って誰も彼もこんなに強いのかね?

 さっきの話の流れで、乳製品のためなら教会に所属してもいいかな、って考えていたんだが、それはもうちょっと様子を見た方がいいのかもしれない。

 何となく、お勤めの中に、地獄の戦闘修行とか混ざってそうだし。


「はっはっは、一昨日よりも、昨日よりもいいがな、まだまだだな、リクオウよ」

「ふむ、ダメか」


 おっ?

 とりあえず、ふたりの格闘戦が終わったようだな。

 リクオウさんが、『闘気』……じゃなくて、『身体強化』を収めて全身の力を緩めたのがわかる。

 それに伴って、表情もどこか笑っているような怒っているような鬼の表情から、笑顔が似合うおじさんという雰囲気へと変化した。

 というか、昨日俺たちが会った時の、人の良さそうな感じの顔な。

 ほんと、戦っている時の殺気をまき散らしているのと比べると別人だよな。

 普段はにこにこしているけど、戦闘狂(バトルジャンキー)というか。

 何で、十兵衛さんといい、その手の人ってこんな感じなんだよ。


「はっはっは、まだ甘いな。やはり、スキルが上乗せされた状態に、うまく馴染めていないようだな」

「む、確かにな。どうもうまく動けんのだ」


 いやいや、傍から見たら、かなり鋭い動きでしたよ?

 それでも、リクオウさん的には、まだ満足ができないらしい。

 というか、だ。

 スキルが上乗せされると、うまく動けなくなるのか?

 あー、そういえば、俺も、最初にカミュに『身体強化』をかけられた時はそんな感じだったなあ。

 何というか、身体の中から力が溢れ出てくるんだけど、それを乗りこなせないというか。

 暴れ馬に乗った状態でロデオしているような、そんな感じだろうか。


「いっそのこと、慣れるまではスキルを封印するのも手だぞ? 少しずつ封印を解いて、身体を慣らしていくやり方だな」


 そう言って、タウラスさんが笑って。


「いくら、元の経験があっても、迷い人(プレイヤー)の場合は、レベルが1からやり直しになることもあるようだしな。経験は生きるし、感覚も残る。だが、レベルの変化と、それによるスキルの補助だな。そっちに身体がついていかないことも多いのだ。リクオウよ、お前の場合は、強いがゆえに、その能力に振り回されている状態だな」

「なるほど……うむ、勉強になるな、タウラス殿」


 その言葉に、改めて、リクオウさんが一礼する。

 あ、やっぱり、いきなり勝手に襲い掛かったってわけじゃないのか。

 どうやら、事前に組手の許可をもらっていたらしい。

 だから、タウラスさんも俺たちに離れていろ、って言ったんだろうな。

 案外、これも修行系のクエストのひとつなのかもしれない。


「はっはっは、わしも先が楽しみな者の相手はうれしいのよ。昔の血が騒ぐわ」

「いや、騒ぐなよ、タウラス」


 と、上機嫌で呵々と笑うタウラスさんに、どこか呆れたような感じの声がかけられた。

 あ、カミュだ。

 声のした方を振り返ると、こっちへ向かって歩いてくるカミュと、そして、あれ? シスター姿をした、アスカさん、か?

 そのふたりの姿が確認できた。

 へえ、新しいシスターさんって、アスカさんのことだったのか。

 それは知らなかったなあ。


「おお、シスターカミュ、それにシスターアスカ、帰ったか」

「いや、帰ったか、じゃねえよ。なに、教会の前で暴れてんだ。しかも、教会にやってきた客の前で」

「うん? シスターカミュよ、お前さんも不信心なことは散々やっておるだろ?」

「そりゃあ、あたしだって、教会とか神とかクソみたいに思ってるがな。そういうことじゃなくてだな、町の中で暴れるな、って言ってるんだよ」


 あっちこっちから苦情が来るだろ、とカミュが嘆息する。

 相談を受ける教会が、それでどうすんだ、って。


「すまない。俺がタウラス殿に頼んだことだ。次からは気を付ける」

「あー、いいんだいいんだ、あんたは気にするな。どうせ、この格闘狂いが自分から言い出したんだろうしな。迷い人(プレイヤー)なのに、こいつのストレス発散に巻き込んじまったんだから、むしろこっちが謝らないといけないことだ」


 そう、笑顔でカミュがリクオウさんに言う。

 何でも、タウラスさんって、その手のことに前科があるのだそうだ。

 常在戦場。

 隙あらば、かかってくるがいい。

 もし、わしに一撃を通せたら、色々と格闘について教えてやろう。

 とか何とか。


「あたしは慣れてるからいいが、他のシスターがびびるだろうが」

「はっはっは、安心せい。わしもいい年だ」

「嘘つけ。てか、やめるつもりないな、この親父」


 やれやれ、と嘆息するカミュ。

 そんな彼女に、思い出したように、タウラスさんが声をかけて。


「ああ、そうだ、シスターカミュ。お前さんにお客さんが来ているぞ。話を聞いてやってくれ」

「うん……? ああ、やっぱりセージュか。それにそっちは確か……」

「はじめまして、ルーガだよ、じゃなかった……ルーガです」

「きゅい――♪」

「色々あって、俺とパーティーを組んでいるルーガとなっちゃんだよ。カミュとは会ったことがなかったから、あいさつがてら教会に連れてきたんだ」

「ああ、なるほどなるほど……そういうことなら、ちょっと待ってな。いくらあたしでもいっぺんにあれもこれもできないからな」


 こっちのアスカの件が終わったら、相手してやるよ、と口元に笑みを浮かべるカミュ。

 うん。

 久しぶりに会ったけど、カミュの雰囲気って変わらないな。

 一応、好き勝手言ってるようで、どこかホッとする雰囲気を持っているのだ。

 その辺は、さすがは教会のシスターだよな。


 とりあえず、俺たちも簡単にアスカさんとのあいさつを済ませて。

 そのまま、カミュたちの仕事が終わるのを待たせてもらうことになった。

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