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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第4章 畑始めました編
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第119話 農民、ジェムニーの話に驚く

「あれっ? 行列がないぞ?」


 そろそろお昼時にかかるので、ごはんを食べに『大地の恵み亭』へとやってきたのだけれども、昨日の喧騒とは打って変わって、元通りのお店というか、俺がカミュに連れられてやってきた時と、そうは変わらない感じのごく普通の繁盛店のレベルに収まる程度には、お客さんの量が落ち着いていたのだ。


 おやおや?

 もしかして、今日はスープの販売をやめたのか?

 昨日の状態を目にしていた者としては、何というか、狐につままれた感じの印象しか受けないんだが。


「あっ、セージュたちだ。いらっしゃーい」

「あ、ジェムニーさん」


 今日も今日とて、お店でお仕事をしているジェムニーさんに声をかけられた。

 うん?

 あ、扉を入ったところに大きな寸胴が置かれていて、どうやら、その横でジェムニーさんが接客対応をしていたようなのだ。


 寸胴の前には、こんな張り紙がされていた。


『ぷちラビットのスープをご希望の方はこちらへ。お持ち帰りのみのメニューです。カップサイズ一杯500N、お鍋サイズ一杯2,000N。鍋、カップともに自分で用意するのも可。その場合、100N引き』


「あー、なるほど。スープがお持ち帰り限定メニューになったんですか」

「うん、そうだよー。『お腹が膨れる水』とおんなじ感じだねー。それで、わたしがスープ担当で動けば、何とか、大行列は避けられるようになったって感じかな? 昨日もスープだけが目当てだって、お客さんも多かったしね」


 びっくりした? とジェムニーさんが笑う。

 うん、とてもびっくりしたな。

 昨日の勢いを考えると、今日は行列のできる店に並ぶ感じになりそうだと思ってたし。

 ごはんにたどり着くまで、一時間とかかかったりしてな。

 そうして、ナラビニストとか、変な職業とかも生まれたりするのだ。

 特殊スキルは『暇つぶし』とか、『待ち時間の加速』とかな。

 補正で、忍耐力とか耐久値があがりそうだ。


「やっぱりねー、昨日のスープには町中びっくりだったみたいで、ちょっとした騒ぎになっちゃったからね。商業ギルドの方から、対応に困るから、もう少し何とかしてくれって言われて、それで、今日の感じになったってわけ」

「そうなんですね。あ、スープの容器って、使い捨てみたいな感じなんですね」


 よくよく容器を見ると、どう見ても、向こうのスープ専門店とかで使っている感じの、耐熱性の容器が並べられていた。

 鍋サイズも、形は両手鍋だけど、使い捨て耐熱容器だし。

 いや、どう見ても、これって……。


「あの、ジェムニーさん、これってもしかして……」

「うん、セージュのご想像の通りだよ。魔素を加工して作った優れものだよー。ふふ、粘性種の裏技を使っても似たようなことはできるけどね。これの場合、中身がなくなったら、自動的に自然に帰るように調整してるから、その点で便利なんだよー」

「あ、やっぱりこれも?」

「そうだよー。容器の再利用はできません。ご了承ください。というかね、ほんとは迷い人(プレイヤー)向けのサービスのはずだったんだけどね、あのペットボトルも。なのに、セージュもそうなんだけど、これ購入した迷い人(プレイヤー)さんたちが、こっちの人にも飲ませたりしちゃったからね」


 そのおかげで、認識されちゃったんだよ、とジェムニーさんが苦笑する。

 うん?

 何だか、すごく気になることを言ってるよな?

 今のジェムニーさんってば。


 もしかして、俺がなっちゃんとか、ルーガに『お腹が膨れる水』とか飲ませたのって、あんまり良くなかったのか?

 そう、尋ねると。


「ううん。そんなことはないよ。この間、セージュたちが『けいじばん』のことをリディアさんたちに教えたのとおんなじだねー。『その分、世界が広がる』ってね。エヌさまがかけた、微調整のための暗示が解けるから、その分だけ、世界がちょっとずつフリーダムになっていくんだよ」

「そうだったんですか?」


 えーと?

 微調整のための暗示?

 もしかして、カミュとかみたいにある程度裏事情を知っているキャラ以外は、俺たちがやってきたことによる違和感とか、意図的に(・・・・)気付かないように、プログラムされているのか?

 それらは、俺たちの行動次第で、少しずつ解放されていく、と。

 そういうことだろうか?


 少しずつではあるけど、『けいじばん』にこっちの人の発言も増えてきたし。

 サティ婆さんとかも、発言こそしないけど、『けいじばん』を見たりしている、って言っていたしな。


「ふふ。いいことだよ? もちろん、よくないことでもあるけどねー」

「え……? どういうことです?」

「うーん? エヌさまは喜んでるかなー。エヌさま、予定調和とかあんまり好きじゃないから。だから、世界が広がることは喜んでいるよ? でも、その分、エヌさまの負担も増えるからねー。イレギュラーなことが増えすぎると、そっちへの対処が間に合わなくなるかもしれないから。わたしたち、ナビもね。そうなったら、そっちに対するセーフティーネットが届かなくなるかもしれないよ?」


 自由ってのはそういうことだよ、とジェムニーさんが含み笑いをする。

 あー、なるほど。

 要するに、運営にとっても想定外の事態が増える、ってことか。

 もしそうなった場合、クリア不可能なイベントもでてくるかも、と。

 そういうことらしい。


 ただ、その話を聞いている限りだと、ひとりのゲーム好きとしてはわくわくするというか、とても面白く感じるんだけどな。

 イレギュラーが増える、ってことは、要は本来不可能だったことも可能になるかも知れないってことだろうしな。


「ねえねえ、セージュとジェムニーが話してることがよくわからないよ? それって、どういうことなの?」

「きゅい――?」

「あー、ごめんごめん、ルーガ。それになっちゃんも。これって、セージュたちみたいな『迷い人(プレイヤー)』なら一発で通じるんだけどね。ルーガの場合、転移系の迷い人だから、ちょっと難しかったかな? なっちゃんはそもそも、この辺に住んでたしね」


 簡単に説明するとね、とジェムニーさんが言葉を続ける。


「色々と頑張ると面白いことになるって話ね。美味しいものが食べられるようになったり、遠くの町まで行けるようになったり、とか。もしかすると、転移なしで、セージュがルーガの故郷までたどり着けたりとか、ね」


 だから、頑張ってねー、とジェムニーさんが笑う。

 いや、ちょっと待て。

 今のジェムニーさんの言葉にはかなり重要な話があったよな?


「え、俺がルーガの故郷まで行くことができるんですか?」

「それはセージュ次第だよ。逆は難しいと思うけど、そっちは不可能じゃないと思うよ? でも、ごめんね。これ以上は、情報制限に引っかかるかなー。昨日も、ちょっとわたし怒られちゃったばかりだし」


 失敗失敗、とジェムニーさんが、えへへと苦笑する。

 ただ、思った以上に面白い話が聞けたよな。

 ルーガを俺たちのところに連れていくのが無理ってのは、何となくわかる。

 俺たちの住んでいるところって、このゲームの中にないからな。


 だけど。


 ジェムニーさんがそう言ったってことは、ルーガの故郷は、この世界のどこかに必ずあるってことだよな。

 しかも、たどり着くことが不可能じゃない場所に、だ。


 だったら。


「そういうことでしたら、俺はルーガの故郷の『山』を目指すことにします。ルーガのお爺さんに会ってみたいですし」

「えっ!? ほんと、セージュ?」

「ああ。これも何かの縁だろ。てか、俺とか何をしようかって目的がまだなかったからな。ルーガの故郷探しを第一に持ってくるのは、俺にとってもちょうどいいんだよ」


 魔王を倒す、とかよりもよっぽど落ち着いているしな。

 迷子を家まで届けるクエストって感じだな。

 俺がそう思っていると、例のぽーんという音が鳴って。



『クエスト【日常系クエスト:迷子(ルーガ)を家まで届ける】が発生しました』

『注意:こちらはイレギュラークエストになります。あなたが思うがままに行動してください』



 いや、おい、ちょっと待て。

 明らかにタイミングが良すぎるだろ。


「……ジェムニーさん」

「うん? どうしたの、セージュ?」

「いや、あの、エヌさんって、絶対に今、ここを見てますよね?」

「まあ、そりゃあねえ。エヌさまは、いつでもどこでも(・・・・・・・・)見てるよー。すべてを同時に見るぐらいはできるから、ここの管理ができているんだから」

「えっ!? そうなんですか!?」


 半分、冗談のつもりで言ったら、少し予想外の言葉が返って来た。

 てっきり、俺の行動を見られている、と思っていたんだが。

 そうじゃないのか?

 いや、運営関係の話を、ナビさんが真実として語っている保証もないから、嘘である可能性もあるんだが。

 そう、俺が考えていると。


「ねえ、セージュ、それよりもごはんを食べに来たんじゃないの? スープを買って帰るならこっち。中で普通のメニューを食べて行くなら、空いてる席に座ってね。もちろん、中で食べて、帰り際にスープを買って行ってもいいよ」

「あ、はい、すみません。じゃあ、中に入って食べようか。ルーガとなっちゃんの分は俺が出すから。今日も朝から手伝ってくれたしな」

「やったー、ごはん」

「きゅい――♪」


 もう、お腹ペコペコだよ、という感じのふたりに苦笑しつつ。

 俺たちは、誘導されるがままに、席の方へと向かうのだった。

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