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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第4章 畑始めました編
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第116話 農民、畑作業をはじめる

「よーし、色々と必要なものを購入して。やってきました、畑まで」

「おー!」

「きゅい――♪」


 とりあえず、ノリで畑を前にして拳を突き上げてみたら、ルーガとなっちゃんもそれに付き合ってくれた。

 まあ、何をするにしても、士気を高めるのは大事だよ、うん。


 というわけで、俺たちは昨日から管理を任された畑までやってきた。

 冒険者ギルドから出たあと、キャサリンさんのお店に寄って、頼んでおいた農具をチェックして、昨日買った木のくわとは別に、今日店頭まで用意してくれていた、木でできたすきとスコップを購入した。

 後は、三つ又の槍の先を曲げたような形をした農具をひとつ購入した。

 目にした時、一瞬、なんだこりゃ? と思ったけど、よくよくキャサリンさんから話を聞いてみると、この木でできたトライデントもどきが、芋掘り用の農具なのだそうだ。

 


【武器アイテム?:槍?】芋掘りトライデント(木製)

 木でできた三つ又槍の先端を曲げて作られた特殊なトライデント。

 アルガス芋を収穫する際には、あまり芋を傷つけずに掘り起こすことができるので、なかなか便利。武器を改造して作られたものだが、武器として使うのはおすすめしない。



 こんな感じのアイテムのようだ。

 他の、くわとかすきが、日用品の分類だったのに、この芋掘りトライデントは、中途半端に武器アイテムのカテゴリーに含まれるようだ。

 というか、項目のところにはてなマークがついているあたり、運営も『これ、武器か?』っていう風に悩んでいるのを感じさせるよな。

 キャサリンさんも、普通の木でできているので、武器としてはあまり向いておりません、って言っていたな。

 その分、軽いので、普通に槍を振り回すよりも簡単に扱えるって言ってたし。

 一応、ルーガの腕力でも使用可能だったし。

 まあ、こう見えて、ルーガも弓を引いたりできるわけだし、それなりの力はあるんだろうけどな。

 そうでなければ、狩人(ハンター)なんて務まらないだろうし。


 ともあれ、『農具』って分類はないみたいだな。

 どのアイテムも、日用品か武器に分類されるようだ。

 それは、その後に寄ったオーギュストさんの武器屋で買った鉄製の鎌からも言えるんだけど。

 先日はばたばたして見落としてたけど、鎌は売ってたんだよな。

 オーギュストさんも、農具って感覚じゃなかったみたいで、気付いてなかったようだけど、一応は、俺の感覚だと、鎌も立派な農具だし。

 なので、即購入した。

 要は、『武器だけど農具にも使える』とか、『日用品だけど、農具としても使える』って感じの道具ばかりってことらしい。


 だったら、『農具』ってスキルは何なんだとは思ったが。

 もしかして、アイテム系の『鑑定眼』でより詳しく調べると、隠し要素として『農具』の項目とかもあるのかね?

 その辺は、謎だけど。

 案外、俺が農具として作れば、そういう表記になるのかもしれないけど。


 というか、鎌を買ったのはいいが、そこは対モンスターの武器らしく、俺が想像していたのよりもずっと刃渡りが大きい鎌になってしまったけどな。

 さすがに、デスサイズって感じの死神の鎌ほどじゃないけど、それでも畑作業にはちょっと大きすぎるというか。

 そもそも、鎌って武器として邪魔。

 刃が曲線を描いているので、携行する時の取り扱いに困るのだ。

 これさ、武器として使っている人ってどうやってるんだろうな?

 鞘があるわけじゃないから、油断していると変なところを斬りそうだし、鞘があったらあったで、いざって時には出し辛いだろうし。


 こういうのって、VRMMOで実際に持ってみて気付くことだよな。

 どう考えても、携帯するっていうより、普段はアイテム袋に収納しておいて、危ないかな、と思った時だけ手に持つみたいなことしないと、自分の顔とか斬ることになりかねないというか。

 まあ、槍にしてもそうか。

 昨日、エルフのフィルさんは手に持ってたけど、あの槍って、ある程度伸縮自在だったしな。ラルフリーダさんの家に入ろうとすると、長さが短くなってびっくりしたし。

 たぶん、魔道具だと思うけど、ああいう形状の変えられる武器なら便利だろうけどな。

 普通の鉄でしっかり作られた鎌とか槍って、基本はアイテム袋で持ち運ぶって感じなのかもしれない。

 まあ、町の人だと、鎧とかの武装はしていても、武器は持ってない人とかも見受けられたから、案外、武器に関しては、剣とかも含めて、アイテム袋にしまっておいたりするのが主流なのかもしれないな。

 俺たち迷い人(プレイヤー)は割と、手の届くところに武器を携帯しているケースが多いけど。


 さておき。

 畑を目の前にして、これからやることを考える。


「とりあえず、どうしたもんかね」

「セージュの好きにしたらいいんじゃないの? わたし、畑のこととか知らないよ?」

「きゅい♪」


 まあ、それもそうか。

 一応、アルガス芋とオルタン菜については、冒険者ギルドで栽培法については聞いてあるんだけど、それだけだと面白くないから、色々と試してみたいというか。


 とはいえ、何はなくとも、土の状態のチェックからだな。

 一応、この畑も、昨日まではアルガス芋の栽培とかに使っていたんだろ?

 ということは、何だかんだ言っても疲れた土になってると思うのだ。

 まあ、ゲーム内だから、日付を跨いだら、自動的に回復してるとかもあるかもしれないけど、何にせよ、状態のチェックはしないとな。


「それじゃあ、まずは、畑の土の状態をチェックしてみるな」


 今の俺の場合、色々と便利な武器があるし。

 元々、農作業については、向こうでも経験があるし、加えて、ここの中だと俺が『土の民』の種族だからなのか、それとも職業が『農民』だからなのかは知らないが、地面に触れるだけで、触れた周囲の土の状態とかが何となくわかるのだ。


 地下通路の時は、通路全体というか、地面の下なら全体的に肌感覚が強化されている状態だったので、それと比べると少し落ちるけど、それでも十分すごい能力だろう。


「ねえ、セージュ、わたしたちにできることってある?」

「きゅい――?」

「そうだな……ルーガは農具を使って、適当な間隔で畑に穴を掘ってもらってもいいか? なっちゃんも『土魔法』を使えたよな? あんまり疲れすぎない範囲で、適当に穴を掘ってくれないか?」

「うん、わかった」

「きゅい♪」


 ふたりには畑のあちこちに穴を掘ってもらうことにした。

 やっぱり、上から手で触れるだけだと、一定以上の深さまではわからないみたいだし、土がどんな感じの層になっているかのチェックも兼ねて、だ。

 俺も、自分の土魔法で、穴を掘ったりするつもりだし。


「それじゃあ、作業を始めよう」

「おー!」

「きゅい――♪」





 作業開始から、一時間ぐらい。

 ようやく、一通り、畑全体の土の状態をチェックすることができた。


「うん、お水おいしいね」

「きゅい♪」


 思ったよりも時間がかかったので、今は休憩がてら『お腹が膨れる水』を飲んでいる。

 というか、ちょっと予想外だったのは、穴を掘っていたら、普通にちっちゃい系の虫モンスターとかも現れたことだ。

 いや、ここ、町の中じゃないのかよ?

 もちろん、イーストリーフ平原で見かけたような感じで、あんまり危険な虫はいなかったけど、ちょっとびっくりした。

 ルーガが穴を掘っている途中で、虫モンに攻撃しちゃったらしく、『うわわっ!?』っていう悲鳴が聞こえた後で、ちょっとした戦闘みたいな感じにもなっちゃったし。


 ……てか、農業ってけっこう危険なんだな。

 まさか、町中の畑で戦う羽目になるとは思わなかったぞ。

 まあ、手のひらサイズの虫だから、『えいっ!』って感じで一ひねりなんだが。

 今まで、外で穴掘りしてた時にも、そういう感じの遭遇はほとんどなかったから、少しびっくりした。

 確かにこれだったら、農業が今ひとつ人気がないのも頷けるよな。

 きっちり、冒険者向けのクエストになっているのも納得だ。

 なぜか、子供とかが受けられなくなっている理由がよくわかったよ。


 逆に、なっちゃんが土魔法で穴を掘った時も、虫モンと遭遇したんだけど、なっちゃんがその虫モンに話しかけたら、納得したように、畑になっていない北の荒地の方へと移って行ってしまった。

 虫モン同士の説得みたいなこともできるんだな?

 やっぱり、なっちゃんってすごいなあ。


 その後は、間違って、虫モンを掘り当ててしまっても、後の対応については、なっちゃんにお任せしてみた。

 問答無用でかかってくるやつもいたけど、その場合も、なっちゃんが土の平手ではたくと、すごすごと引き下がって、荒地の方に移動してくれたし。

 うん、実はなっちゃん強いなあ。

 何だかんだで、昨日もぷちラビットも倒していたし、どうやら、身体のレベルとかもあがってるみたいだし。

 俺と最初に会った時はレベル6だったのに、いつの間にかレベル11まで上昇していた。

 たぶん、ぷちラビットの分の経験とかもあるんだろうけど、正直、どのタイミングで? って感じだよ。

 細かくチェックしていたわけじゃないので、どこでレベルがあがったのか不明だけど、むしろ、これなら、最初のレベル6が低すぎる気がする。

 俺と会うまでは、あんまり他のモンスターと戦ったりしなかったのかな?

 まあ、あの平原だと、ほんわかした雰囲気だったし、そんな感じなのかもしれない。


 ともあれ。

 そんなこんなで土の状態のチェックは完了した。

 結論としては。


「うん、全体的に良い土だと思うぞ。これなら、肥料とかなしでも大丈夫そうだな」

「なっちゃんも、そうだ、って言ってるよ」

「きゃいきゅい♪」


 あ、やっぱり、なっちゃんも何となくわかるんだな?

 土の中の適度な湿り気もあるし、土自体も団粒構造になってるんだよな。

 要は、さっきの虫モンじゃないけど、土の中の生き物が生き生きとしている土ってことだ。

 正直、昨日も芋を収穫したって聞いた後だと、ちょっと信じられないよ。

 まあ、作物を植える側としてはありがたいけどな。

 その辺は、ゲームの都合ってことで納得しておこう。

 さすがに、実際の農業とおんなじだけ時間がかかるってなると、テスター期間だけじゃ絶対に間に合わないしな。


 よし、悩みのはやめやめ。


「じゃあ、休憩が終わったら、芋とかを植えていこうか」

「うん、頑張るよ」

「きゅい――♪」


 幸いというか、一から耕したりする手間とかは省けるみたいだし。

 まあ、そりゃそうだよな。

 そうでなければ、農作業の素人である冒険者の人がクエストをやるのなんて、できないだろうし。

 というか、種芋の芽出しとかしなくてもいいんだな?

 このアルガス芋、俺が知ってる芋のどれかに作り方が似てるといいんだが。

 その辺は、色々と植え方を試してみないと何とも言えないけど。

 ま、農業に失敗はつきものだし、試行錯誤あるのみだな。


 うん、何だか楽しくなってきたぞ。

 そんなことを考えながら。

 畑を見ながら、俺は持っていたペットボトルの水を飲み干すのだった。

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