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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第4章 畑始めました編
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第111話 農民、緑の手について聞く

「セージュ、お水が空になったよ」

「わかった、ちょっと待ってな」


 せっせとビーナスの本体と苔、それぞれに水遣りをやっていたルーガが、魔道具の青いジョウロを持ってやってきたので、俺はそれに自分の魔力を使う。

 そうすると、からっぽだったジョウロの中にゆっくりと水が溜まっていくのだ。

 この、水の魔道具はそういう風に使うものらしいな。

 水を生み出す時には魔力を使うけど、溜まった水に関しては、誰が使っても問題ないようなのだ。


 なので、俺が水を生み出して、それを使ってルーガが水遣りをする、というルーティーンができあがっていた。

 一応、ルーガ自身は魔法は上手に使えなくても、身体には魔力が流れてはいるらしくて、ちょびっとずつではあるけど、自分の魔力でジョウロを使うこともできなくはなかったんだけど、全然水が溜まらなくて、効率も悪いので、結局この方法になったというか。

 ルーガの消耗もあるようで、やはり、スキルの補助なしでの魔力のコントロールってのはそれなりに難しいというのに気付かされた。


 もちろん、アイテムとして使うと、魔石を消耗して水を出すこともできるんだけど、注意書きにあったように、使いすぎると魔石が砕けてしまるかも、ってのはやっぱり、ちょっとおっかないのだ。

 それなりに購入するのにお金もかかったし。

 そういうわけで、最初のうちは無難な使い方をしているというか。


 まあ、ルーガも自分のお仕事ということで一生懸命だし、特に問題はないか。


 あ、そうだ。


「なあ、ビーナス、この水で大丈夫か? 一応、魔道具で作りだした水なんだけど」

「ええ。普通の雨水とか、地下水とかとはちょっと違う感じだけど、むしろ美味しいから、嬉しいわよ」

「美味しいのか?」


 あれ?

 やっぱり、普通の水とは少し違うのか?

 品質に関しては、道具屋で売っていた魔道具でもあるので、変な水を生み出したりとかしないだろうし、念のため、俺も一口飲んでみたんだが、こっちの世界で飲める普通の水って感じの味だったと思うんだが。

 まあ、冷蔵庫で冷やしたミネラルウォーターって感じじゃないから、それなりにはぬるいけど、味としては、実家の方の水とそんなに変わらないと言うか。

 だから、普通の水だと思っていたんだが。

 ビーナスにとっては、美味しく感じる水らしい。


「そうよ。何となく、『治癒』も使いやすくなってるし、わたしの身体にも染み渡る感じで、元気になっていくみたいだもの」

「へえ、そういうものか?」


 ビーナスが『元気』ってことは、魔素とかも含まれているのか?

 まあ、魔法で生み出した水だしなあ。

 あれ? でも、サティ婆さんの話だと、水魔法で水を生成した場合、周囲の水を移動させるのと違って、不純物がほとんど混ざらないって聞いてたんだけど。

 どっちかって言うと、蒸留水に近いイメージだよな。

 魔道具の場合は、そういうのとは、ちょっと毛色が違うのか?

 相変わらず、魔素というか、魔法的な要因が絡んでくるとよくわからないんだよなあ。

 向こうには魔法とか存在しなかったし。


 というか。

 それはそれとして、ビーナスに突っ込んでおきたいことがひとつ。


「なあ……いつまで俺は苔を撫でてればいいんだ?」

「あ、マスター、そのぐらいでいいわ。やり過ぎるとかえって逆効果だから」


 ふふ、ありがと、とビーナスが笑顔で言うので、苔を撫でるのをやめる。

 ルーガやなっちゃんに協力してもらって、俺が魔道具の使い方を色々とチェックしていると、ビーナスがいきなり、地面を撫でろとか言い出したのだ。

 まあ、地面というか、正確には生え始めの苔な。


 一瞬、何のこっちゃ? とか思ったけど、どうやら、俺のスキルと関係があるらしいのだ。

 今まで、棚上げになっていた『緑の手(微)』のスキル。

 あれって、ほんのわずかだけど、植物とかそっち系を元気にさせる力があるみたいなのだ。

 まあ、ビーナスの態度とかから、薄々感じてはいたけど、問題は俺自身が、スキルを使っているのか使っていないのか、まったくわからないことにあったんだけどな。

 他の魔法とかだと、何というか、明らかに魔力の流れというか、身体の消耗みたいなものを感じることができるのだが、この『緑の手』に関しては、本当に、使っているって感覚がないのだ。


 いや、特別な効果がある感じも、正直ないんだけどな。

 傍から見ると、地面をさすっている絵って、かなり微妙な感じもするし。


 とりあえず、言われるがままにやっては見たものの、本当に実感がわかないので、俺何やってるんだろ? という感じの自問自答しか生まれてこないし。

 せめて、苔が目に見える感じで育ってくれれば、納得もできるんだが、そういう感じの能力でもないようだし。


 そんなことを考えながら、じっと手を見る。


 いや、どう見ても普通の手だぞ?

 変な力が垂れ流しになっているとは、微塵にも感じないなあ。

 うーん。

 ある意味、こういう能力が一番困るよな。

 当の本人が無自覚のまま、使ってるんだか使ってないんだか、どういうきっかけで発動するのか、消耗とかはどうなってるのか、副作用はないのか。

 その手のことが全然わからないのだ。

 何というか、扱いに困るぞ。


 ビーナスが言うように、本当に植物にとってプラスになるのなら、確かに便利な能力だろうけどさ、『(微)』って表現からも、まだまだ能力としては不十分というか、未熟な感じもするのだ。


 あ、そうそう、今の俺のステータスを見てみるか。



名前:セージュ・ブルーフォレスト

年齢:16

種族:地の民(土竜種)

職業:農民

レベル:14

スキル:『土の基礎魔法Lv.15』『農具Lv.1』『爪技Lv.11』『解体Lv.9』『身体強化Lv.9』『土中呼吸(加護)』『鑑定眼(植物)Lv.8』『鑑定眼(モンスター)Lv.8』『緑の手(微)Lv.3』『暗視Lv.4』『土属性成長補正』『自動翻訳』


『土の基礎魔法Lv.15』――魔技『アースバインド』

             魔技『岩砕き(ストーンブレイク)



 ビーナスと戦ったけど、別に討伐したわけじゃないので、身体のレベルはそれほどあがっていないよな。

 よくよく考えれば、ほとんど攻撃してないし、その場合はほとんど経験値が入らないって、前にカミュも言ってたしな。

 ただ、『土魔法』とかは、かなり乱発したので、それなりにあがってるな。

 身体のレベルを追い抜いちゃったし。


 そういう意味では、やっぱり、『緑の手』のあがり具合はゆっくりのようだ。

 もうすでに、後から取得した『暗視』の方がレベルが高いし。


 だから、やっぱり、パッシブというか、常時発動しっぱなしのスキルではないようだ。

 もしそうであれば、もうちょっとレベルがあがっているだろう。


「なあ、ビーナス」

「何、マスター?」

「俺が苔をなでると、ちょっとは違うものなのか?」

「そうね。このくらいで止めておけば、いいと思うわ。ほんのちょっと、わたしでもようやく感じ取れるぐらいだけど、生き生きしてるのがわかるから」

「そうなのか?」


 全然、違いがわからないんだが。

 あと、このくらいで止めておいた方がいい、ってのも気になるぞ。


「あ、そうだ。それなら、この手でビーナスの触れてもいいか?」

「ダメっ! いい!? マスター! そういうことは不用意にしないで! また、変な感じになったり、気持ち悪くなったりしたらどうするの!?」


 少し前までご機嫌だったのに、ものすごい勢いで怒られた。

 どうやら、今の俺の状態だと、どういう風に能力が作用するかわからないようなのだ。

 ビーナスから聞かされて驚いたのだが、例の『虚弱』のバッドステータスも、俺の『緑の手』が原因である可能性があるらしいのだ。

 えーと……?

 植物にとって、必ずしもプラスってわけじゃない能力ってことか?

 思った以上に、使い勝手が悪いような気がするぞ。


「それじゃあなんで、苔を撫でさせたんだ?」

「わたしが気付いたら止められるからよ。わたしもマスターみたいな変な存在とは初めて会ったから、もうちょっとチェックが必要なの」


 それが済むまでは、わたしに触れないで、とビーナス。

 まあ、本人が嫌がってるなら、そういうことはしないぞ、俺も。


「わかった。心配しなくても、嫌がってるなら、無理にはするつもりもないしな」

「………………」


 うん?

 言われた通りに、頷いたら、ビーナスにムスッとされた。

 いや、だから、結局、俺はどうしたらいいんだよ?


「ビーナス、水遣り終わったよ。これでいいの?」

「ええ、もう水は十分ね。ルーガ、ありがと」


 水遣りをやっていたルーガに対して、笑顔に戻るビーナス。

 何となく、ビーナスの方が見た目から、お姉さんぽくなっているというか。

 でも、確かビーナスって、五歳ぐらいだよな?

 ステータスだとそうなってるし。

 俺がそんなことを考えていると。


「きゅいきゅい?」

「あっ、なっちゃん! そうだ、ビーナス、いつまで光を使ってればいいんだ?」

「そうね。そろそろ、夜明けだから、もう大丈夫よ」

「そっか、じゃあ、なっちゃん、こっちおいで」

「きゅい♪」


 俺の言葉に、なっちゃんが手元までゆっくり降りてきたので、その『土の手』から白いカンテラを受け取って、光の発動を止める。


「ありがとうな、なっちゃん」

「きゅい――♪」


 褒めて褒めて! という感じで、なっちゃんが頭を突き出してきたので、反射的に頭をなでてしまった。

 あ、もしかして、なっちゃんにもちょっとは悪影響があるのかな?

 一応、半分は花みたいだし。


 そんなことを考えて、俺は加減しつつ、なっちゃんの頭をなでるのだった。


 ……とりあえず、何か言いたげにこっちを見つめているビーナスは見なかったことにして。

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