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第106話 農民、夕食を食べる

「ふむふむ、ということは、ルーガにゃんはこっちの世界の迷い人なのかにゃあ?」

「たぶん。でも、わたしも迷い人ってのがよくわからないけど」

「そうだねえ。あたしらが使う場合、『どこか別の場所からやってきた者』ってのが、迷い人だね。だから、どこから来たかはあんまり問題じゃないんだよ。隣の国から飛ばされてきても、迷い人は迷い人だからねえ」

「なるほど、そうなんですね、サティトさん。勉強になります」


 所変わって、サティ婆さんの家だ。

 畑での話を終えて、俺とルーガとなっちゃんはまたサティ婆さんの家まで戻って来たんだけど、帰って来た時にはもうすでに、夕食の準備が整っていたので、そのまま、ごはんということになったのだ。


 というか、昨日に比べるとサティ婆さんの家に居候する人数が増えていた。

 いや、もちろん、ルーガとなっちゃんが増えたのは当然なんだが、それとは別に、俺とハヤベルさんの他に、ふたりばかり、テスターさんの居候が増えていたというか。

 ひとりはルーガに興味津々で、色々と話しかけている女の人だ。

 しゃべり方に特徴があるというか、まあ、見た目からして、猫系統の獣人さんといった雰囲気なので、そっちにキャラ作りを合わせているんだろうな、って感じの女性がヴェルフェンさん。

 ちゃんと猫耳と尻尾もあるし、肌の一部にもふわふわした感じの獣毛が生えているので、やや獣系が強めの獣人さんって感じかな。

 年齢はたぶん、俺よりも少し上ぐらいかな?

 まあ、ほとんどの人が高校生よりは上だろうから、基本的に、ゲーム好きな若い大人世代のテスターさんが多いんだろうけどな。


「でも、わたしも色んな人に会えてうれしいよ。わたしが住んでた山だと、人型の人ってあんまり多くなかったし」


 ほとんどがモンスターの知り合いばっかり、とルーガが言うと、横でヴェルフェンさんも驚いて。


「そうなのにゃ? にゃあも一応はモンスター系なんだけどにゃあ。人型のモンスターって少ないのかにゃ?」

「どうなんだろ? お爺ちゃんの知り合いには何人かいたけど」


 よくわからない、とスープを飲みながらルーガが首を捻る。

 とりあえず、ルーガが住んでいたところは友好的なモンスターが割と多くて、そっちの仲良しとかは多いみたいだけど、人間種みたいなタイプの種族はそんなに多くはなかった土地のようだ。

 ルーガのお爺ちゃんは人型で間違いないみたいだけど。


 というか、ヴェルフェンさんが気になることを言ったぞ?


「あれ? ヴェルフェンさんって、猫の獣人さんじゃないんですか?」


 見た目から、てっきりそうだと思ってたぞ?

 そもそも、モンスター系統の種族って、俺の場合、選択肢にすら出なかったからなあ。

 そう、尋ねると、ヴェルフェンさんが頷いて。


「そうだにゃ。にゃあは獣人とはちょっと違うのにゃ。何でか知らにゃいけど、ギフトを選んだら、こうなってたんだにゃ」


 魔猫種の『泳師(スイマー)』だにゃ、とヴェルフェンさん。

 おっと? どっちもあんまり聞き慣れない単語が飛び出してきたぞ?


「魔猫種ってことは、魔族関係ってことですか?」

「うーん、にゃあもよくわかっていないのにゃ。たぶん、セージュにゃんの『土の民』とおんなじで詳しい説明がないのにゃ。にゃはは、だからあんまり気にしても仕方ないのにゃ。にゃあは、猫が大好きだから、たぶん、そうなったんだと思うのにゃ」


 向こうでは猫の漫画を描いてるのにゃ、とヴェルフェンさんが笑う。

 なるほど。

 まあ、詳しいことがわからない以上は気にしても仕方ないもんな。

 というか、それよりも、ヴェルフェンさんが、漫画家さんだったってことの方が驚きなんだが。

 クラウドさんが雑誌編集さんだったし、そっちのクリエイター系の職業の人とかもテスターには多いのかも知れないな。


 と、ルーガが不思議そうな顔をして。


「ねえ、ヴェルフェン、『泳師(スイマー)』って何?」

「にゃあも知らないけど文字通り、泳ぐのが得意な職業ってことじゃないのかにゃあ。一応、『泳ぎ』のスキルも持ってるのにゃ」

「え、猫なのに、泳ぐのが得意なんですか?」


 ちょっとびっくりしたように、ハヤベルさんが尋ねる。


「その辺は、猫にも色々あるってことなんじゃないのかにゃ? まあ、水が苦手なのよりはよっぽどいいのにゃ」

「まあ、それもそうですよね」


 そう頷きながら、俺は十兵衛さんのことを思い出す。

 エルフなのに、魔法よりも接近戦が得意な十兵衛さん。

 よくよく考えたら、テスターがなっているキャラなんて、その手の当たり前とは真逆に行っていてもおかしくはないだろう。

 やっぱり、当たり前じゃつまらないって感覚の人も多いだろうし。


 そんなことをヴェルフェンさんと話していたのだが、同じテーブルにいるのに、会話とか目の前のスープとかそっちのけで、なっちゃんのことを猫可愛がりしている人がひとり。

 ヴェルフェンさんとは別に、新しく今日からここの居候に加わったテスターさん。


「なっちゃん、スープ美味しい?」

「きゅい――♪」


 出会った時からずっと、なっちゃんのことに興味深々なのが、ダークネルさんだ。

 確かになっちゃんって、虫系モンスターの中でも、ちょっと見た目が人形っぽいというか、デフォルメっぽくなってるので、俺もかわいいとは思っていたんだが、同世代の女の人でも可愛く感じたりするんだな? とは思った。

 てっきり、虫だからって理由で避けられるかと思ったら、意外とそうでもないのだ。

 まあ、ある意味一安心ではあるんだが。


 ダークネルさんは、人間種の魔法職だな。

 見た目も、ギルドで借りた魔術師のローブみたいな服を着てるし、いかにもな魔法使いって感じだしな。

 何でも、名前の通り、闇系統の魔法が得意で、そっちの方を鍛えているのだそうだ。

 サティ婆さんのところに弟子入りに来たのも、魔法系の回復アイテムを作れないか、ってことが理由なのだとか。

 一応、傷薬とかは売ってなくもないし、教会でも癒しは受けられるけど、魔力を回復するための効率の良い手段ってのは、まだ見つかっていないらしく、だったら、作れるようになっちゃおう、ってことらしい。

 ヴェルフェンさんが、何となく面白そうだから、って理由で弟子入りしたのに比べると、ずっと理由がきちんとしてるよな。

 一応、年齢的には俺とおんなじぐらいじゃないかと思うけど、詳しいことは内緒だって断られてしまった。

 どうやら、学校にも行かず、お仕事をしているらしくてリアルのことについては、『万が一、お姉さんとかお母さんに知られるとまずいから』ってことで伏せられてしまった。

 まあ、もっとも、どこからログインしているかは教えてくれたけど。

 関西の辺りの、とある『施設』からやって来ているとのこと。

 残念ながら、詳しくは教えてもらえなかったけど、アスカさんとも知り合いらしくて、そっち経由で俺のことを聞いていたそうだ。 


 というか。

 なっちゃんって普通にスープとかも飲めるんだな。

 このサティ婆さんのお手製スープ、それなりに熱いんだけど、それをおさじですくってもらったものを嬉しそうに飲んでいるのだ。

 『ルロンチッカ草』みたいな草とかだけじゃなくて、こういう食事でも問題なさそうで、ちょっと嬉しい。


「はああ、なっちゃんかわいい。……でも、ずるいなあ、セージュ君。私もなっちゃんみたいな手のひらサイズの可愛いテイムモンスターが欲しいよぉ」


 でも、私、テイム系のスキルとか持ってないし、とダークネルさん。

 あれ?

 でも、俺もそっち系統のスキルは持ってないはずだぞ?


「あれ? でも、ダークネルさん。俺もテイムとか、そっち系のスキルは持ってませんよ?」

「そうなの?」

「はい。たぶん、他のスキルでも同じことが言えると思うんですけど、スキルがないからって、できないってわけじゃないと思いますよ」


 実際、俺も『採取』はなくても素材を集めることはできるし、サティ婆さんの話だと、簡易調合はできなくても、『調合』自体はスキルがなくても、手順を踏めば問題なく薬を作れるみたいだしな。

 スキルによる補正を考えなければ、行動自体は可能ってことだと思うのだ。

 もっとも、テイムの場合、成功率とかの影響するのかも知れないけどな。


 少なくとも、なっちゃんもダークネルさんにはすっかり懐いているから、そういう意味では友好的なモンスターと仲良くなるのは可能だと思う。

 たぶん、スキルを持っていると、友好的じゃないモンスターでもテイム可能、とかそんな違いがあるんじゃないのかな?

 そう、ダークネルさんに伝える。


「うん、ありがとう、セージュ君。そういうことなら、私も素材集めの途中で、そっちもチャレンジしてみる」

「あー、そういえば、セージュや、今日は色々といそがしかったようだけど、素材の方はどうだったんだい?」

「あ、はい、サティ婆さん。それなりには集まりましたよ」

「おや、そうなのかい? ふふ、あたしが出したクエストはそれなりに難しい素材が多かったんだけどねえ。後で見せておくれ」

「わかりました」


 うん。

 元々、食後に素材を確認してもらう予定だったもんな。

 ただ、一部の素材はサティ婆さん以外に見せても大丈夫か、微妙なものもあるんだけどな。

 ビーナスの苔とか、その周囲の土とか。

 うーん……まあ、素材だけなら、情報漏洩にならないか。

 要は、どこで採ったとかの詳細に触れなければ、あんまり関係ない気もするし。

 そもそも、同じ、『薬師』の弟子なんだし、ルーガ以外の他の三人に隠すのもなんだしなあ。


 というか、サティ婆さんのクエストって、やっぱり難易度が高かったのか。

 もちろん、ルロンチッカ草は普通に生えているので、達成自体はそれほど難しくはなかったらしいけど、他の素材はそれなりに入手難度が高いものばかりだったらしい。

 サティ婆さんも、俺がなっちゃんをつれているのを見て、感心してたぐらいだしな。

 少なくとも、『ナルシスの花』をゲットしたのはもうすでに気付いているはずだ。


 ちょっと食後が楽しみだな。

 そんなこんなで、和やかな雰囲気での食事を続ける俺たちなのだった。

大分サティ婆さんの家がにぎやかになってきました。

順調に、『薬師』の弟子が増えてきています。


※すみません、最新話と辻褄が合わなくなってしまったため、一部修正しました(2017/10/19)。

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