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第103話 農民、監督クエストを達成する

「お、セージュにルーガ、あとなっちゃんも。どうだった? 町の中は色々と巡れたのか?」

「はい。たぶん、一通りは行けたと思いますよ」

「うん。お店にも色々とあるんだね。楽しかったよ」

「きゅい♪」

「はは、そうかそうか」


 冒険者ギルドへと戻ると、例によってグリゴレさんが出迎えてくれた。

 すっかり夕暮れということもあってか、この時間帯だと、ギルドを訪れる人は比較的少なくなるようだな。

 テスターっぽい人たちはちらほらと見かけるけど、この町に住んでいるって感じの人たちはギルド職員以外はほとんど見かけないし。


 ともあれ。

 オレストの町のお店巡りに関しては、これで終了したかな。

 俺がそんなことを考えていると、頭の中に、ぽーんという音が響いて。



『あなたの監督対象者が以下のクエストを達成しました』

『監督対象:ルーガ』

『クエスト【日常系クエスト:町での生活講座・実践編】を達成しました』


『クエスト【ギルド依頼クエスト:ルーガの監督】を達成しました』

『注意:監督対象者がひとつのクエストを達成しましたので、監督者としての任務は終了することもできます』

『引き続き、監督を続けますか?』

『はい/いいえ』



 おっ、今日巡った場所だけでクエストが達成になったんだな?

 それで、ギルドから依頼された分のクエストも達成、と。

 そっちの説明文によると、これで監督を終了することも、引き続き、ルーガに付き合う形でそのまま監督を行なうこともできるってことらしい。


 うん。

 しばらくは、ルーガと一緒に行動する予定だったから、監督を続けても、特に問題はないよな。

 それほど迷うこともなく、『はい』を選択する。



『クエスト【ギルド依頼クエスト:続・ルーガの監督】が発生しました』

『注意:こちらは引き継ぎ型のクエストになります。監督対象者がクエストを達成するごとに報酬を得られますが、初期のクエストとは異なり、金銭での報酬は微々たるものとなります。冒険者ギルドへの貢献度のみの報酬ということでご理解ください』



 あー、なるほど。

 最初に受け取った監督官のクエストには、きちんと報酬が出るけど、ここから先は『クエストを達成しました』って評価だけの報酬になるってことか。

 というか、ルーガの付き添いだけでも、きちんとお金の報酬が出るんだな?

 さっきは詳細までは確認してなかったけど、そういうことらしい。

 まあ、そりゃそうか。

 そうでもなければ、それなりの冒険者が監督官を引き受けることもないだろうしなあ。

 借金を抱えているとか、強制クエストとして、とかなら別だろうけど。


「グリゴレさん、今のクエストにも報酬ってあるんですね?」

「もちろんだ。セージュには監督官としての報酬が、ルーガには町での暮らしを学んだことへの報酬が、それぞれ出るぞ」


 じゃあ、ついてきてくれ、とグリゴレさんが笑う。

 やっぱり、これもギルドの応接室で、ってことらしい。

 ただ、グリゴレさんの話だと、普通の新米冒険者の場合は、そのまま受付で報酬を渡したり、簡単な説明を行なったりもするそうだ。

 俺たちの場合、俺の分の別の報酬の話もあるから、そっちとの兼ね合いで、他の人たちがいる前では、あまり話したくないのだとか。


 要するに、畑に関することとか。


 そういうわけで、グリゴレさんの後について応接室へと入る。

 何だか、毎日のように来ているせいか、むしろこっちの応接室の方が、俺にとっては馴染みがあるというか、グリゴレさんとは他の職員さんとは、ほとんど話とかもできていないというか。

 受付嬢の人とか、グリゴレさんのお手伝いの男の人とかとは、軽くあいさつぐらいはするけど、何かもう、俺の担当がグリゴレさんに固定されているせいか、『ちょっと待ってくださいね、呼んできますから』って感じの対応をされてしまうのだ。

 もちろん、だからどうしたって話でもないけど。


「それじゃあ、まずはルーガからだな。こっちがお前の分のギルドカードな。そして、こっちが貸し出すアイテム袋だ」

「うん、ありがとう、グリゴレさん。でも、わたし、アイテム袋は持ってるよ?」

「あれっ? そうなのか? ルーガ」


 思わず、そう尋ねてしまった。

 ルーガって、自分のアイテム袋を持ってたのか?


「うん、お爺ちゃんからもらったの。残りの矢も入ってるし、狩りをした後の獲物とかも入れて持ち帰るのに必要だったから」


 だから、借り物だったら、別にいらないよ、とルーガ。

 あ、そういえば、そうか。

 ルーガも弓は失ったけど、矢のストックは残っているって言ってたもんな。

 よくよく考えれば、アイテム袋を持ってないと、ほとんど手ぶらで持ち運べないよな。


「なるほどな。ルーガ、手持ちのアイテム袋を見せてもらってもいいか?」

「うん、これだよ」


 そう言って、ルーガが少し古びた感じの布の袋を服の内側から取り出した。

 その袋には、俺が持っているアイテム袋とは違って、刺繍のようなものが施されてして、ちょっと遠目で見ると、蜘蛛のような、虫のような絵柄がデフォルメされた感じになっているようにも見える。

 いや、点線状だから、そういう風にたまたま見えているだけで、どちらかと言えば、さっきキャサリンさんの道具屋で見かけた、魔道具売り場の壁に描かれていた紋様のようにも見えなくもない。

 古びてはいるが、どこか不思議な印象を受ける袋だな。

 グリゴレさんも、少しだけ首を捻るような仕草を見せて。


「やっぱり、この辺りの魔女の作品じゃなさそうだな。素材の品質も高そうだし、俺もそっちは素人だからよくわからんが、それなりの出来のもののようだな。ああ、すまない。ありがとうな、ルーガ」

「うん、問題ないよ」


 笑顔で頭を下げるグリゴレさんから、袋を受け取るルーガ。


「まあ、アイテム袋なりを持って飛ばされてくる迷い人ってのはめずらしいからな。俺も、普通は着の身着のままって聞いてたから、ルーガはちょっと変わったタイプの迷い人には感じたな」

「ふーん? わたしはよくわからないけど」


 きょとんとした感じで、受け取ったアイテム袋をまた服の中へと仕舞い込むルーガ。

 あ、そういえば、俺も自分のアイテム袋を買ってきたんだよな。


「グリゴレさん。ルーガが報酬とか受け取っている間に、ちょっと俺はアイテムの整理をしていてもいいですか? 今さっき、アイテム袋を購入してきましたので、ギルドからお借りしていた分は返却できそうなんですよ」

「ああ。大丈夫だぞ。こっちはこっちで話を進めておくから、そっちのテーブルなり、床なりを使ってくれ」


 グリゴレさんの許可が出たので、アイテムの整理を始める。

 まあ、と言っても、ラースボア素材の多くは引き取ってもらえたから、ちょっと前よりは余裕がある量なんだけどな。

 そんなことを考えながら、アイテムを整理していく。


 あ、ぷちラビットの肉とか、そろそろ食べないとまずいよなあ。

 今日、サティ婆さんの家に戻ったら、この肉を焼いてみようか。

 血の素材は、サティ婆さんと相談だな。

 あと、金属系の素材とか、魔晶石はそのまま移し替えて、今日採れた分の植物系の素材もそのまま、新しい袋へと入れ替えていく。


 あれ?

 そういえば、まだ鑑定していない素材もあったんだな?

 平原の地下にあった通路で採取した何だかよくわからなかった素材だ。

 あの時は、真っ暗でステータスも読めなかったし、その後は悠長に確認してる場合でもなかったので、すっかり頭から抜け落ちていたよな。

 どれどれ?



【素材アイテム:素材/食材】リムヴァ草

 森の奥や洞窟の奥など、光があまり差し込まない場所にて生える草。そのため、条件が整わないとほとんどが枯れてしまう。月明かりの下では花を咲かせることもあるため、別名『月光草』と呼ばれることもある。

 食材として用いることも可能。採れてからそれほど時間が経っていないため新鮮。



 へえ!

 これ、サティ婆さんの希望素材のひとつだったのか!

 てか、説明文を読む限りは、このリムヴァ草って、かなり発見するのが難しくないか?

 そもそも、あの地下通路って本来は入れない場所って、ラルフリーダさんも言っていたから、たぶん、別の場所にも生えてはいるんだろうけど、条件がほとんど光が差さない場所って。

 ダンジョンの奥とか森の奥とか、か?

 いや、そんな場所、イーストリーフ平原にあったのか?

 もちろん、全域を歩き回ったわけじゃないけど、もうちょっと先の方に行けば、そういうところもあったのかも知れないな。

 サティ婆さんから説明を受けた場所が、あの平原だったってことはそういうことだろうし。


 ともあれ、これで必要素材のうち、『ルロンチッカ草』と『ナルシスの花』、『リムヴァ草』はゲットしたってことか。

 数がいっぱいあるのは『ルロンチッカ草』だけだけど、『ナルシスの花』に関しては、今もなっちゃんの背中ですくすくと育ってる感じだし、そっちは、もしかすると、今後もどうにかなるかも知れないよな。


 後は、ビーナスが生やした苔も周辺の土と一緒に、新しい袋へと移し替えていく。

 この辺の土も、一時はビーナスの支配空間になったので、そっちの影響を受けているらしいのだ。

 ってことは、普通の土とは少し違うわけで、案外、畑で使ったりすると面白いことになるんじゃないか、って思ってな。

 まあ、色々選択肢があるのはいいことだよ、うん。


 横でルーガが報酬と冒険者としてのクエストについて、説明を受けているのを見ながら、俺も、引き続きアイテム袋の整理を続けるのだった。

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